厄災の魔法師   作:無為の極

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第9話

 

「七草!この場を押さえろ。それ位の責務は果たせ!」

 

催涙弾が投下された瞬間、この場は一変していた。何が起こったのは分からないが、投げ込まれた物がそうである以上ここから先に何が起こるのかはこの場では蒼が一番理解している様にも見えていた。

この場で魔法を直ぐに行使できるのは生徒会役員と風紀委員のみ。他の生徒に関してはCADそのものが持ち込めない以上、それが最善の方法でもあった。そんな中でいち早く服部は投げ込まれた催涙弾を始末すべく、周囲のガスもろとも外部へと放り出していた。

 

 

「なるほどね。あいつらは陽動か。詳しい事は分からないが、その場にいるやつから吐かせるか」

 

外に出てから一度だけ講堂に目をやりなが周囲を警戒する。混沌とした校内にトラックが突っ込んでくると同時に全員が銃器を装備していた。如何に魔法科高校の生徒であったとしてもCADが無ければ一般人と大差ない。

何が目的なのかが分かればその対処のしようもあるが、今はその目的が何かを確認する必要があった。

 

 

「アヤ。どうやら校内に侵入者だ。大丈夫とは思うが万が一の際にはアレを使ってくれ。CADが使えるならそれでも構わない」

 

蒼はすぐさまアヤへと連絡をし、その後は銃器を構えた人間に一気に距離を詰めていた。何の目的かは分からないが、吐かせれば何かしらの答えが出るだろう事を予測し、まずは目の前の人間を捕獲する事を優先していた。

 

 

『来たれ炎虎』

 

模擬戦とは違い、蒼は一枚の札に火を灯すと同時に相手に向かって投げつけていた。燃え盛る炎の姿が巨大な虎へと変貌する。突如として炎の虎に襲われた相手は引鉄を引く事すら忘れそのまま虎にのしかかれれていた。

 

 

「貴様、目的は何だ?」

 

「そんな事言う訳無いだろう」

 

抑えこまれたにも関わらず、平然としているのは力量を計る事が出来ないのか、それとも単純に何も考えていないからなのか、兵士が最初から口を割るなどと考えてはいなかったが、万が一の事も考え蒼はそのまま何事も無く言葉を告げる。

 

 

「だろうな。だから今から口が割りたくなるようにしてやるよ」

 

ニヤリと笑いながらのその一言が何を意味するのかは蒼以外には分からない。しかし、のしかかられた方は何をされるのか理解したのかすぐさま口を開いていた。

 

 

「拷問は国際法で禁止されているはずだ。お前何をするつもりだ」

 

「これから死ぬ人間に拷問なんてする訳ないだろ?少しは考えろよ。それとも口を割りたくなったのか?」

 

その瞬間、炎の虎が大きく開けた咢は兵士の右足を噛みちぎっていた。今までそこに有ったはずの右足は既に膝から下が無くなっている。今何が起こったのか理解が追い付かなかったのか、これが喰われたと感じるのにタイムラグが生じていた。

 

 

「ぐぎゃあああああああ」

 

兵士の叫びが他の人間を読んだのか、すぐさま仲間と思われる人間が蒼に向かって発砲する。このままならば蒼は銃弾に倒れるのは間違いないと愉悦を浮かべ、その姿を確信した兵士はすぐさま驚愕の表情へと変貌していた。

 

 

「何だ?そんな豆鉄砲で俺をやるつもりだったのか?ならばそのまま消えろ」

 

放たれた銃弾は蒼にまで届く事無く消滅していた。これが一体何なのか銃弾を放った兵士にも理解出来ない。この状況下でこれは一体何なのかを考える余裕は無いはずだが、目の前に起きた事実は紛れもなく現実だった。

 

 

『神の御名の元にその力ここに示さん』

 

 

呟く様に出た呪文が空中に魔法陣を作り出す。兵士に向かっていくつもの黒い光の筋を残しながら五体全部を斬り裂く様に貫いて行く。CADが無ければ只の人だと考えていたはずの兵士は虎にのしかかられていた事も忘れ貫かれた仲間を呆然と見ていた。

 

 

「さあ、どうする?時間だ。もう一つ貰うぞ」

 

蒼の残忍な一言で、のしかかられた兵士の左腕を虎が当たり前の様に喰いちぎっていた。これは幻影でもなければ夢でも無い。

これが現実だと唐突に理解していた。喰われた右足と左腕からは多少の出血するはずも、炎に焼かれた状態である事からそれが止血の効果があったからなのか、自分の身体が徐々に無くなっていく存在である事の理解が漸く理解出来ていた。

拷問ではない。自分はただの餌であり、単なる処刑である事を理解させられていた。

 

 

「わ、分かった。今から言えば命は助けてくれるか?」

 

「ああ、俺は約束するよ」

 

冷酷な笑みに信用したのか、死神に魅入られたかの様に兵士は目的を話し出す。この襲撃も実際には陽動にしかすぎず、本体は図書館にある機密データの取得である事が目的だった。

 

 

「これで…助けてくれるか?」

 

「ああ、俺は助けるが、こいつががどうするかは知らんがな」

 

「話が違う!」

 

冷酷な一言がキッカケだったのか高温に包まれたは兵士は頭から一気に齧られると跡形もなく焼失していた。程なくして魔法で貫かれた兵士もまた同じ道程をたどっていた。

 

時間が来たからなのか、二体の兵士を始末した虎はゆっくりと姿がこの場から消え去り、先ほどまでの兵士の痕跡は一切残らなかった。

 

 

「達也か。こいつらは陽動だ、本体は機密データだ。すぐに行け」

 

端末から通信を開くと同時に要件だけを直ぐに伝える。通信機の向こうでもすぐに理解したのか、そのまま通信がプッツリと切れたと同時に蒼はその場から動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカ!本体はどうやら図書館らしいぞ。暴れるならここじゃなくてそっちだ」

 

「え?蒼?何で知そんな事知ってるの?」

 

少し先を走るエリカを見つけたのか、蒼が直ぐに状況を伝えるべく行先を示していた。どうやらこの襲撃に対して自分のCADを用意したのか既に右手には警棒が握られている。

エリカの戦力そのものは以前にも見たので何も問題は無い為に気にする事は無いが、問題なのは自分が開発しているCADだった。まさか襲撃されると思わなかったからなのか、簡易ロックはしたものの、あれが今の時点で世間に出ると具合が悪い。問題無いとは思うが一亥も早い回収だけは優先すべき事だと、騒乱の真逆の方向へと移動していた。

 

 

「アヤ、そっちは大丈夫か?…そうか……分かった。俺も工房へと移動する」

 

端末で連絡を取りながらも工房に辿り付くと同時にロックを解除しながら状況を確認していく。データは機密ばかりではないが、実際に工房にもいくつかの貴重なデータがある事は間違い無い。万が一の情報漏洩が無いのかを確認した頃、アヤも同じく工房へと来ていた。

 

 

「蒼は大丈夫でしたか?」

 

「大した問題は無い。これが守れれば俺は特にな。達也やエリカが図書館に向かっているから、直に収束するだろう」

 

問題が無い事を確認した蒼はCADをケースに入れ、すぐにこの場から出ていた。問題無いとは言え、万が一の可能性もある。今はこの場から撤退する事を優先していた。

 

 

「でも大丈夫なんですか?」

 

「達也がか?あいつなら問題無いだろう。多分、あいつも戦場を経験している節がある。普通はこんな状況であそこまで冷静な判断は、戦場を知らなければ出来ないからな。エリカは……まあ、大丈夫だろ」

 

達也はともかくエリカは戦場と言うよりも戦いを好んでいる可能性は否定できなかった。万が一の際には自分が治せば良いだろうと考え、それ以上の事を考えるのは無駄だとばかりに動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼の予想通りだったのか、図書館でのデータ取得は失敗に終わっていた。本来であればここで終わるはずだが、まさかの達也の提案には流石に蒼も驚いていた。

 

 

「やるのは構わないが、誰が行くんだ?」

 

否定する声を無視し、蒼はこれから遊びにでも行くかの様な口調で達也に話かけていた。今回の襲撃はどうやは反魔法団体の下部組織が関与している。となればどこかに本体があり、それを叩き潰す所までが提案されていた。

 

 

「誰じゃなくて俺一人のつもりだが」

 

そんな一言にこの場に居た数人が声を挙げていた。顔を見れば全員がやる気に満ち溢れているのか、すぐにでも攻め入る準備が出来そうな状況に、流石の蒼も苦笑していた。

 

 

「この人数なら車は無理だから、俺は勝手に行くぞ」

 

今回の襲撃した組織への攻撃には車が用意されていた。まさかこんなに膨れ上がると予想もしなかったからなのか、それとも最初からそのつもりだったのか、蒼は自主的に現地へと向かう事を伝えていた。

 

 

「蒼、どうやって行くんだ?車が無いと厳しいだろ?」

 

「レオの言いたい事は分かるが、俺は車には乗らないって言うか、既に定員オーバーだろ?だから先に行くから現地合流だな」

 

どうやって移動するのかを明かさないまま蒼は全員が死角に入った事を確認すると同時に一つの札を出す。既にそこには何らかの呪術的な物が描かれていたからなのか、札を挟みながら虚空で印を描く。大きく跳躍するとその場に固定されたかの様に空中で停止していた。

 

 

「確かあそこだったな。折角だからこいつの試運転も兼ねるか」

 

手には血塗られた様な赤いCADが握られていた。今まで校内の工房で調整していたが、ここにきて一度実地で試す事が出来ればと考えたいた事もあり、既にどうするのかを考えていた。

 

何も無い所を蹴る様なそぶりで方向性を決めると同時に一気に速度が出始める。まだこの時点では魔法師の三大難問の一つでもある飛行魔法を行使し、蒼は現地へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達也達は……ああ、あれか。それまではこっちのやりたい事だけをやるか」

 

空中で浮いたままの蒼は廃工場の中を上空から見ていた。屋根がある以上配置は分からないが、間取りを見ればどこにどう配置するかは容易に想像が出来ていた。

学校を襲った集団は一見単なるテロ組織の様にも見えるが、どこか動きの一部が洗練されている様にも見えてた。

 

恐らくは時間が足りないままに突入したからなのか、それとも元軍人を雇い入れたからなのかは分からないが、ある程度の配置はまるで教科書の通りだとも考える事が出来る。これが何も無い様な場所であればゲリラの様に隠れるが、室内である以上は配置出来る場所は限定される。佐渡以降に学んだ一つでもあった。

 

 

「貴様!どうやってここに入ったんだ。さては魔法師だな」

 

忍び込む事もなく、態と大きな音を立てて近くの窓へと侵入すると、そこには一個小隊レベルの人間が銃口を蒼に向けていた。単なるテロ組織であればこのまま殲滅でも良かったが、手に持っているのはライフルだけでは無かった。

真鍮色に輝く指輪が何であるのかを物語る。蒼の想像通りそれは軍事物質でもあるアンティナイトだった。

 

 

「魔法師ならばこれが一番だ。全員あいつに向けろ」

 

一人が号令をかけるとキャストジャミングの波が蒼に襲い掛かる。通常の魔法師はこの至近距離で浴びれば動くことすら出来ない。その瞬間に一斉に攻撃すればすぐに終わると考えていた。

 

 

「なるほど。これがアンティナイトか……そうだ。良い事を思いついた」

 

まるで意にも介さないかの様に冷酷な笑みを浮かべると、蒼は一番手前に居る人間の手を無造作に斬り裂いていた。自分の手首が血をまき散らしながら飛ぶ光景は、今何が起こっているのかを混乱させる。魔法師である以上これは絶大な効果を発揮しているはずと考えていた物が否定された瞬間だった。

 

 

「俺の、俺の手が!」

 

時間は本当に僅かな物だった。刹那に何が起こったのかを理解した瞬間、その場には言い様の無い恐怖が走り出していた。確かに魔法師である以上、アンティナイトは絶大な効果を発揮する、そう聞いていたはずだったものが違う事実だからとその場にいた全員はライフルの引鉄を引いていた。

 

 

「そんな物が俺に利くか」

 

蒼の一言が事実を物語っていた。全員が引鉄を引いた以上、その場にいる人間は確実にミンチになる。それほどの距離にも関わらず目の前の蒼にはまるで銃弾が届いてなかったのか、落ちた手からアンティナイトを取り外している。蒼の身体には傷一つ付いてなかった。

 

 

「折角だ。お前らのアンティナイトも貰うぞ」

 

何も無い空間に一度だけ蒼は指で円を描く。それが何かを発動したのか、その場に居た全員の指が切り落とされていた。既にこの場は一方的な虐殺の場である事と同時にすぐに逃走しようとするも、何故か扉は固く閉ざされたまま。

 

逃げる事すら出来ない状況でやれる事はライフルを撃ち尽くすだけだった。先ほどの続きが再び繰り返されると思われた時だった。誰かが放ったのか不明の銃弾が何かを貫いていた。

 

 

「なんだ…と」

 

蒼の白い制服に赤い染みが生まれていた。腹部に出来たそれは確実に何かが貫いた結果。今何が起きているのか僅かに混乱するも、まるで何も無かったかの様に懐からCADを取り出していた。

 

 

「気が変わった。このまま塵に還れ」

 

入り込んだ窓から空中へと出た瞬間、その場には三種類のの魔法障壁が発生していた。部屋の中の人間は全員がその障壁の内部に閉じ込められる。

その瞬間、内部の人間は全員が蒸発したかの様に一気に消滅すると同時に、周囲の気温が一気に上昇していた。

 

この場で放たれた魔法が何なのかを知るのは蒼しか居ない。それは奇しくも佐渡の戦いで蒼が揚陸艦を沈めた魔法と同じ物だった。

 

 

 

 

 

 

 

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