地上を翔るもの   作:魂代艿

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 前話の片割れですなう。推敲に手間取りました。五話です。


5:「興味を抱いてなにが悪い」

「……あの、そこに立てかけてあるものって、なんですか?」

 

 すぐに立去るつもりだったのに……気がつけば私は、その立てかけてあるものについて、店主に訊ねてしまっていた。

 ……今まで気づかなかったなんて。ここまで私は緩んでいたのか。そう考えてしまうほどに、それはこの場において、異質なものだった。以前の私だったら、絶対に気がついていただろう、それ。……一度気がついてしまっては、もう目を離すことが出来ない、圧倒的存在感を放つ、それは。

 ——それは、長年旅して来た私でも見たことのない、不思議な形をした……武器(・・)だった。とても長い——しかし槍とも違う、反った刀身を先の方にうずめた、片刃の武器。

 ……いや、先の方……とは少し違うか。刃の長さは全体の半分に少し満たない程度の長さ。どちらかと言えば、槍というよりかは剣に近いような姿をしていた。とはいえ、剣というには、全体の長さに比べてもその刃は少し短いように見える。判断に困る、中々見ない長さだ。

 ……よくよく見れば、そのすぐ下には小さなガード……鍔がついている。やはりこれは剣、なのだろうか? 少し頼りないように見えるけど、一応ガードとしての役目は果たしてくれそうだ。

 残りの部分は革紐や太糸が巻き付けられ、そこを持って振り回すことができるようだった。しっかりと結びつけられているのが見て取れる。

 全体の長さは……おおよそ私の身長と同じか、それ以上。つまり1.5メートルを優に越えてそうだ。……鍔がかなり小さいのは、通常の剣とは違い中距離での戦闘を想定しているからだろうか? ……だとしても、かなり奇抜なデザインだけど……。

「……」

 ……ふむ。総合的に考えると、この剣らしきものは突くよりも切る方向へ特化した、槍? と判断すべきなのかな。とりあえず、私はそう結論づける。

 ……観察すればするほど、奇妙な部分が浮き彫りになる不思議な武器だ。これ以上見ててもきりがない。

 ……それに、おそらくこの武器の本質は、別にある。

 だって、私は知らない。ここまで色々世界を見ておきながら、その点に於いて、この武器に勝るものを、見たことが無いのだ。

 

 ——こんなに、潤沢で清浄なオーラを持つ、存在は。

 

 店主は、私の問いに対して、また困ったような表情で頬をかいた。……困らせてばかりで申し訳ないな。

 

「……ああ、それはですね。……情けないんですが、私にもわからないんですよ」

「……わからない?」

 予想外の返答に、私もまた何とも言えないような表情を浮かべてしまう。

「ええ。……刃の美しさといい、薄さといい、業物には違いないのでしょうが……なにぶん、他に見たことの無い代物でして。……武器屋へ持ちかけても買い取れないと断られてしまい、私も現状始末に困っているのですよ」

「……ほう」

 なるほど。見つけて引き取ったはいいものの、これが実際なんなのかわからないため、肝心の買い取り手がいない……と。そういうことか。

 それならこの扱いも頷ける。

 通常、ここまで清浄なオーラ……気を放つ物はどこかの神殿にでも飾られているものだ。オーラの内包量も、これまで見てきたそういう存在以上だし、通常ここにあってよい物では、ない。

 ……少なくとも今みたいに、テントの端に立てかけられるような代物では。

 ……ああ、でも、買い取り手がいないということは、この武器はずっと、ここに立てかけられたままなのか。

 こんなに美しいのに。……こんなに清らかなオーラを持っているのに。ずっとここに置いておくなんて……。

 

 ……もったいない。

 ここに武器を買いにくる人は、いないだろうし。ここ、道具屋だし。そもそも、オーラ云々の前に、こんな奇妙な武器、手に取る人間なんて早々いないし。

 …………うーん。仕方、ない。

 私は頭の中に、一つの案を浮かべる。……それは、この美しいものを、しかるべき場所へと届けるという案だ。

 ……どうせ先の見えない旅路だもの。目的が一つくらい増えたってどうってことはない。

「……あの、一度手に持ってみても?」

「……!? あ、はい、それはもちろん大丈夫ですが……」

 うろたえる店主に感謝します、と述べつつ、私はその武器に近づいて触れてみる。

 ——え? 触れんのかって? いいじゃん触るくらい。それに、天使は清浄なオーラを好むし……一応、私だって、一冒険者だし?

 

 まあ、案についてもそうだし、オーラについても気になるけど——見たことの無い武器に興味を抱いてなにが悪い!

 

「……わ、」

 ……んん、近くで見ると、よりいっそう綺麗な代物だ。これは……清浄な上に、まっすぐな青緑色……気高いオーラ。この武器の持ち主は、さぞ美しく高潔な心をお持ちだったのだろう。

 刃も滑らかで、刃こぼれ一つないくせに鋭利だ。片刃というのはあまり馴染みがないが、それを含めてあまりある完成度。

 完璧だ。

 ……しかし、その上で最も問題となるのは、重量だろう。なるだけしかるべき場所へ連れて行くつもりだけど……この武器は、ぱっと見ただけでも私と同じか、それ以上の長さがある。それ相応に重量も強くのしかかってくるだろう、

 果たしてこれを携えつつ、この先の見えない旅路を乗り越えられるだろうか。

 

 そう考えて、ひとまず立てかけられているその剣を、そっと抱えてみる。

 万が一持てなかった時の為に、慎重に。

 

「……ぃ、しょっと」

 

 ぉっ……と。危ない、危ない。予想以上の重みに一瞬腕が揺らぐものの、なんとかバランスをとることに成功する。

 ……腕にかかる重量は、予想通りと言っていいのか……いや、言えないか。……とりあえず、かなりのものだった。比較するなら、通常使われる剣の、そうだな……二、三倍くらいの重さだろうか。

 少なくとも、一般受けする武器としては失格と言える重さだろう。うん、重い。ここまでとはさすがに予想していなかった。

 私が普段使っていた剣でさえ一般に流通している剣からしてみれば重くて長い方だったのだが、これはそれを優に越える重さだ。持てなくはないものの、なんのバフも無い状態で振り回すには、少し厳しい。

 ……うーん、魔法でアシストすれば振り回せる程度にはいけるだろうか……。

 ……いや、そもそも私の筋力から考えれば、この重さくらい慣れてないとはいえそれなりに振り回せるはずなんだけど。冷静に考えるとこの状態は、おかしい。

「……うーん……」

 ……推測するに。やっぱり魔法といい、筋力といい、この世界に来てからステータスが下がっているみたいだ。土地勘も無い、魔物の強さも、この世界の人たち全体の強さも知らない。そんな中でのほぼ0からスタート。

「……たはは」

 ……困ったもんである。

 とはいえ、転職したとき、あるいは転生したときに比べれば、ステータスの下がり具合はそこまでではないようで、この調子ならレベルさえ上がればそのうち楽に取り回しがききそうだ。細かいところは後で確認しないといけないけど。

 ……そもそもこの武器とは、しかるべき場所へ移動させるまでの付き合いだ。あまり戦闘に持ち込むことは想定してないし。なんとかなるだろう。

 

 ……よし。買いだな。

 頭を回すこと約数秒、どうにかなると確信した後に、目を丸くする店主へ声をかける。

 

「これ、買い取らせていただきたいのですが……どのくらい出せばよろしいでしょうか?」

 

 どうせかなりかかるだろうし、金稼ぎついでにレベリングもしてしまおうと考えつつ訊ねれば、店主はどことなく惚けたような顔でこちら見る。

 まるで何か、得体の知れないものでもみたような顔で。

 ……あの? そう声をかければ、店主はハッとしたような表情になり、しかしその後また魂が抜けたような顔になって、ぼそりと答える。

 

「……どうせ売れませんし、先ほどお渡しした金額の半分でよろしいですよ」

「え!? 本当ですか!?」

 昼の往来に、底抜けに明るい歓声が響き渡った。

 

 

 後に、とある商人は街の住民たちへこう囁く。

 

 ——これまで誰も持ち上げることのできなかった武器を、軽々と片手で持ち上げた、少女(ばけもの)がいた——と。

 




用語説明

主人公:重いと言いつつ片手で持つことができる。場合によっちゃあ、ぶん回すことだって不可能じゃあ無い。
「ただちょっと勢いがそがれるけどね、まあ一時的に引き取っただけだし、なるだけ使わないようにするよ」
怪力。
店主「とんでもない化け物を見た」

謎の武器:片刃でとんでもなく大きい。刃の長さは中心より少し短い程度で、つまり柄の方が長い。こちらの言葉を借りるなら、『限りなく剣っぽいけど用途的には斬ることに特化した槍』。なにやら清浄なオーラを持った存在と縁がある様子。
オーラ:視覚ではとらえられない、一種の雰囲気。らしいが、天使である彼女には見えるらしい。天使的な存在は清らかなのがお好き。
神殿に飾られてそう:祀られてそう、の間違いだけど天使的には飾ってるようにしか見えないらしい。哀れ神官。
バフ:おググりよ!
少女(ばけもの):トラペッタという、序盤も序盤な街に突如彗星のごとく現れた異世界の勇者。数回カンストを経験し、数回転生もした。ステータスも元々人間でないこともあいまって、レベルさえ上げればこの世界の裏ボスでさえもワンパンで仕留められるかもしれない——そんな可能性を秘めた存在を、人はワン○ンマン予備軍と呼お察し

作者から一言:文の密度が。
 お気に入りありがとうございます。日々感謝です。

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