魔法少女リリカルなのはIF   作:多田 竜一

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勝つのは───私だぁ!

「ファイト!」

 ノーヴェの声がしてからほぼ同時に、アインハルトが踏み込みでその距離を詰めてきた。

 早いし、速い。

(そうくると、思ってましたよ!)

 けれど、読める。そして何より、見える。まだアインハルトの踏み込みは終わっていないが、次の一手が手に取るようにわかる。

 踏み込みがが終われば、腹部に右拳が襲ってくる。

 なら、そんなことはさせない。次のモーションに入る前に一撃を入れる。攻撃そのものではなく、攻撃しようとする意識にカウンターを当てる。

 タイミングを、いや、時間を計る。踏み込みが終わるその瞬間にカウンターを決めるため、究極の集中がリズムを超えて時を刻む。

(ここだ!)

 予備動作なし。最速最短で、まだアインハルトの踏み込みが終わっていない間に動く。踏み込みが終わった瞬間に、そこにあるであろうアインハルトの顔面に向けて、反応不可能なタイミングのカウンターを、左の拳を突き出した。

 しかし。

(かかった!)

 ヴィヴィオの拳が、真上に向かったアインハルトの右拳に弾かれた。

(あ、やば!)

 反応不可能のカウンターを弾いた。故にこれは、反応したのではない。カウンターを誘い、その起動を読み、最初からそれを弾くために腕を振るった。アインハルトの罠だ。

 これでヴィヴィオの虚を突けていれば。

(振り下ろしの断空拳……入る!)

 カウンターを弾いた右腕に、下半身から力を移動させる。この溜めに一瞬かかるが、虚を突けたなら反応はされない。

 ―――覇王 断空拳!

 虚を突けたなら、だが。

(読みは外れたけど、予想外じゃない!)

 ヴィヴィオは一切の動揺もせずに、断空拳を防ぐべく左手を引き戻す。

 左肩をめがけて、肩を脱臼させんとする威力で振り下ろされたそれを、その肩、左手、そしてセイクリッド・ディフェンダーや左半身をフルに使って受け止める。

 そして、アインハルトの右手首を掴んだ(・・・)

(なっ!)

 アインハルトは、防がれることへの覚悟はしていた。不意を突けなかったのならば当たらないのは必然の攻撃だった。しかし、それは回避でも防御でもなく、よりにもよって“捕獲”だった。

 このままではまずい。そう思った時にはヴィヴィオは既に右拳に力を込めていた。

 それを見たアインハルトの体は、頭で判断するよりも先に動いた。

 脱力した静止状態から、足先から下半身へ、下半身から上半身へ、回転の加速で拳を押し出す。

(―――!)

 瞬間、ヴィヴィオの脳裏にヴィジョンがよぎる。彼女の知識と経験が作り出す直観が、次の瞬間の未来を見た。

(そうだ、ダメだ! アインハルトさん相手に拘束は意味がない!)

 ヴィヴィオがアインハルトの手首を掴んでいた手を放して反射的に右側へ転がった。

 ―――アンチェイン・ナックル!

 直後、アインハルトの前方へ一直線に衝撃波が走る。

(かわされた……)

「うわっ!」

 衝撃波がそのまま走り観客であるルーテシアの真横を素通りしていったことになど目を向けず、横目でヴィヴィオを見た。咄嗟に転がってアンチェイン・ナックルを躱したヴィヴィオは、そこから起き上がろうとしているまさにその瞬間だった。今なら一撃はいるだろうか、と考えた途端に、アインハルトの脳裏にもまたヴィジョンがよぎる。

(ダメです、入らない!)

 ならばと、そのヴィジョンを疑うこともなく、重心を右へ―――ヴィヴィオとは真反対の方向へ傾けた。

 2人が、お互いに真逆の方向へステップしたのは、同時だった。

 着地後すぐに飛び込む気だったヴィヴィオは、しかし少々前のめりの体勢で着地するだけでそこにとどまる。アインハルトもまた、着地からそこを動かない。

 ―――絶妙な距離があいた。ジェットステップや覇王流の踏み込みを使って一瞬で移動できる範囲の、ギリギリ外側にお互いがいる。迂闊に突っ込んでも、攻撃を見てから反応するのに十分な時間は必ず生まれる距離だ。

 必然、2人の動きは止まった。お互いに微動だにせずに静寂が試合を包み、しかし彼女らの極限の集中力は落ちる様子はない。

 ホ、と。安堵のため息をついたのは、観客の方だった。

「な、なんちゅう戦いや。外から見とるのに、気を抜いたら眼が追い付かん試合なんて初めて」

「ええ、本当に。正直見守るつもりでお邪魔しましたが、とんでもない。そんな態度で見て良いものではありません」

 ジークリンデとヴィクトーリアの呟きを筆頭に、ギャラリーが全体的にざわつき始める。

 しかし、その声は当の本人たちにはまったく届いていなかった。

(……なるほど。これが扉の中の感覚ですか)

 構えを崩さずヴィヴィオから眼を離さないまま“軽く”確かめたこの力を分析する。

(ステップの移動距離、狙いとの誤差が1㎝もないですね。ヴィヴィオさんの移動距離も読み通りです)

 ここまで当たると自分でも怖くなってくる―――ということはない。当然だ。できると分かっていたからやったことなのだから、驚くことは何もない。あえて驚いたことがあるとすれば―――この状態が長く続かないことに対してだろうか。

(集中力の維持と、それについてきた思考や体の動きでかなりスタミナを持ってかれますね)

 普段は使えないほどの体力を無理矢理使っている感覚もある。おそらくスタミナ切れ等で扉から追い出されれば、立つことすらできないのは必至だ。

 切れれば負ける。勝つためには体力が切れる前に決着をつけるしかない。

 ―――という状況に、ヴィヴィオは追い込まれていた。

(先に扉を開けたのは私だし、そもそも基礎体力からアインハルトさんが上だから、あたり前といえばそうなんだけどね)

 アインハルトが守勢に回って時間稼ぎでもすれば、ヴィヴィオが先にスタミナ切れで敗北するだろう。持っている知識や技術、経験などを考慮すれば、全体的にアインハルトの方が有利だ。

(だからこそのこの均衡状態です。この状況、相手よりも先に動き出すことは、自らを不利に追い込むことと同じ。しかしヴィヴィオさんはこの硬直を続けて体力を使い切るわけにはいかない。ヴィヴィオさんは、自ら動きだすしかありません)

 ただでさえアインハルトの方が有利な状況だが、さらに彼女は試合の主導権を握った。このまま堅実にこなしていけば、アインハルトが負けることはないだろう。

(っていうのが正攻法。だけどアインハルトさんは、私のスタミナ切れなんていう、そんなつまらない勝利(・・・・・・・)は望んでない。欲しいのは“私よりも強い”ということを証明できる完全な勝利)

(それが読まれているなら、私が攻勢に出てくるのも読まれているでしょう。そして、お互いが攻勢なら重要なのは技術や経験よりも駆け引きになってくる。そして駆け引きに関してだけなら、私よりヴィヴィオさんの方が強い)

(でもアイハルトさんには、私が全く知らない覇王の記憶がある。扉を開いたなら、アイハルトさんが"使ったことがない技"もきっと使ってくる)

(けれどそれも、私自身が理論上可動な範囲のものでしかない。初見の技でも、適当な技ならヴィヴィオさんの虚は突けない)

 均衡が生んだ静寂の中、お互いに相手の次の一手を、それに対する自分の行動に対する相手の出方を、さらにその先にある全てを、読み合っていく。

 時間にしたら5秒程度。加速する彼女たちの思考は、5秒などという壁はとっくに越えていたが、しかし彼女たちはこの5秒を狂いなくとらえていた。

 これ以上、時間はかけられない。相手に考える時間を与えてはいけない。

(……まあ、なるようになるよね)

(全力を尽くした先に、答えがある)

 この戦いの理由を、すでに2人は覚えていない。ともすれば、もう2人にとっては戦い始めた理由なんていらないのかもしれない。強いては、戦うことに意味なんて必用なかった。

 これまでのことも、これからのことも、どうでもいい。

 今、この瞬間に全てを賭ける。これまでの自分もこれからの未来も、全てを賭けて、この勝利を掴み取る。それが、それこそが、高町 ヴィヴィオとアイハルト・ストラトスの生きる意味だから。

((勝つのは───私だぁ!))

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