アリシア「おーっと! なのは選手痛恨のミス! 指定アタックでの盤面制圧がアッサリと阻まれる!」
フェイト「なのは……。だからあれだけ知らないカードが出てきた時にはテキストを確認するように言ったのに……」
アリシア「セフィロ・アリエス……やっぱりあのスピリットは厄介ですね。エリダヌス・ドラゴンも残ってしまい、なのは選手ピンチです!」
フェイト「がんばって、なのは……!」
アリシア(だからさあ。解説がひいき目で試合見ちゃダメだってば!)
◇◇◇◇◇
「メインステップ。白羊樹神をレベル1にダウン。続いて『ダンデラビット』を召喚」
緑のシンボルが現れ砕け、出てきたのは謎の植物の中にいる人参を加えたウサギ。キョロキョロと顔を動かすしぐさは、実に可愛らしい。
ダンデラビットは系統「遊精」を持つスピリット。セフィロ・アリエスの効果では疲労しない。
「召喚時効果。ボイドからコアを1個ずつ、リザーブとこのスピリット以外の『星魂』スピリット―――『エリダヌス・ドラゴン』の上に置き、そのままエリダヌス・ドラゴンをレベル2に上げます」
再び、エリダヌス・ドラゴンのレベル2と光り輝く大銀河の2枚が揃う。
そして、シュテルが手札から1枚のカードを取り出す。たったそれだけの動作に、彼女の盤面の2枚のカードが反応する。光り輝く大銀河が光を放ち、エリダヌス・ドラゴンが疲労する。
「黄道12宮より来たれ、13番目の闇よ。神に屠られし背徳の力。『蛇皇神帝アスクレピオーズ』をノーコストで召喚」
シュテルが掲げたカードから、数匹のヘビが放たれる。そのヘビが空中を進み、その中心に紫の竜巻が起こる。その中にもまた数匹のヘビが存在し、それらが地面に辿りついた時、そこに「蛇使い座」が刻まれる。刻まれた星座が闇の光を放ち、その光が晴れた時、そこにはスピリット―――アスクレピオーズが出現していた。
「蛇皇神帝の召喚時効果。『星魂』スピリット―――ダンデラビットを破壊して、デッキからカードを3枚ドローする」
疲労状態で召喚されたアスクレピオーズが、その杖の下端でダンデラビットを押しつぶし破壊する。しそてアスクレピオーズの力で宙に浮いたデッキトップの3枚を、シュテルは掴んだ。
その3枚を確認する。
(……『光導』スピリットは引きませんでしたか。いや、それどころか少し引きが事故気味ですね)
顔には出さないが、気分的には苦虫を噛み潰したときのそれだった。
(まあ良いでしょう。結局引かなければ3ターン引きが弱かったわけですし。……今、私ができることを尽くしましょう)
「エリダヌスをレベル1に下げ、金牛龍神をレベル3にアップ。アタックステップ。金牛龍神、激突しなさい」
主の命を受け、地を駆け出す。
ドラゴニック・タウラスのアタック時効果【激突】―――それは、相手のブロックを強制する。
今、なのはのフィールドには3体のスピリットがいるが、その内の2体―――イグア・バギーとライジング・アポロドラゴンは疲労状態。つまりこの場合、ブロックするのは、唯一回復状態であるスピリット。
「戦竜エルギニアスでブロック!」
その言葉を受けて、エルギニアスが前に出る。
「神の道を阻む愚行。その身をもって償いなさい」
ドラゴニック・タウラスが、エルギニアスとぶつかる。
その瞬間、シュテルの場の3体いる「光導」スピリット―――ドラゴニック・タウラス、セフィロ・アリエス、アスクレピオーズ―――がそれぞれ赤のシンボルを1つずつ生み出す。
「金牛龍神のアタック時効果。このスピリットに、私の『光導』スピリットの数だけ―――即ち3つ、赤のシンボルを追加する。そして、バトルする相手スピリットとのシンボル数の差分、相手ライフのコアをリザーブへ送る」
自身の効果で、ドラゴニック・タウラスのシンボルは4つに増えた。対してエルギニアスのシンボルは1つであり、その差は3つ。
「このアタックで、ライフを3つ破壊します」
生み出されたシンボルが、ドラゴニック・タウラスに吸収される。直後、ドラゴニック・タウラスが漲る力を発散するように咆哮を上げる。フィールド全体を震わせる程のその咆哮は、衝撃となってなのはに襲いかかる。その衝撃がなのはの前に展開された桃色の魔法陣に届いたとき、魔法陣が砕け、悲鳴と共になのはの5つあるライフの3つをもっていった。
そのダメージに、なのはは耐え切れずにその場に尻餅をついてしまう。
「いた! ……っ、バースト発動! 『絶攻氷盾』でライフを回復する!」
倒れながら、なのはがバースト発動を宣言する。自動で2枚目の絶攻氷盾が発動し、白い風がなのはを包む。これで、なのはの残りライフは3となる。
「続いて、コストを払ってフラッシュの効果を発揮! このバトル終了時にアタックステップを終了する! 不足分はエルギニアスから確保して消滅させる!」
「ターンエンド」
◇◇◇◇◇
レヴィ「あれ?」
ディアーチェ「ん? どうしたレヴィ」
レヴィ「もしかしてシュテルん。エリダヌスの効果を使わなきゃ勝ってたんじゃない?」
ユーリ「というと?」
レヴィ「いやさあ。アスクレを出さないでタウラスをレベル3にして、まずタウラスで2点削るでしょ? そうすれば、アリエスとウサギとエリダヌスのフルアタックで勝てたよね?」
ディアーチェ「確かにそうだが、それはヤツの伏せが絶攻氷盾ではなかった場合の話であろう。結局それでは勝てはせんぞ」
レヴィ「そうなんだけどさ。でも逆に言えば、絶攻氷盾じゃなかったら勝てたってことだよね」
ディアーチェ「お主はシュテルがこの場面でそのリスクがある賭けをすると思うか? 相手は強いがまだ初心者だ。そのデッキに絶攻氷盾が入っているということは、おそらく上級者のアドバイスを受けたのだろう。ならば複数枚入っている可能性は高い。そして、バーストはその性質上、取捨選択が難しい。我がアドバイスするならば、初心者にはあまり多くの種類のバーストはデッキに入れないように言うだろうな。おそらくシュテルもそう思ったのだろう。だからこそ伏せを絶攻氷盾と呼んだプレイングをしたのだ」
レヴィ「ほえ~。王様もシュテルんもスゴいや」
ユーリ「流石です! ディアーテェ!」
ディアーチェ(と偉そうに言ったが、そんなことをバトルフィールドで考えつくのは我では無理であろうな。あの場でそんな思考を平然とやってのけるところは、まあ流石と言ったころか)
◇◇◇◇◇
第8ターン。
「……大丈夫ですか?」
シュテルのターン終了の宣言のあと、中々起き上がらないなのはに向かって、シュテルが声をかけた。
その言葉を受けて、なのはは慌てて起き上がった。
手を盤面にかけて体重を支えながら立ち上がったなのはは、少し苦しそうにしていて、息も少しだけ乱れていた。
けれど、汗が一滴伝うその頬は―――笑っていた。
「大丈夫! ちょっと、おどろいただけだから!」
「驚いた?」
「うん! 3ダメージも受けたの初めてだから、スゴイ衝撃で、いつもより痛くて、でもね、それで―――!」
一生懸命に自分の心境を語ろうとしているなのはだが、興奮のあまり言葉数が少なくなっている。
その姿に、シュテルは思い出す。バトルフィールドでの出来事に一喜一憂する彼女を見ていると、博士の作ったここの試作品に初めて立った時のことを、思い出す。
無数のバトルをここで行ってきたからだろうか、まだ1年も経ってないのに随分と昔のことのように感じる。けれど、しっかりと覚えている。あの時の感動と興奮、そしてライフ減少の痛みによる独特の緊張感。
「―――それとねそれとね! Xレアがフィールドに出る時とかっもう」
「タカマチさん。嬉しいのは分かりますが、今はバトル中ですよ」
「あ! そ、そうだった。えっと、スタートステップ!」
いつからだろうか、この場所に、あれほどの感動を感じなくなったのは。
と、感傷にしたり始めた自分を、シュテルは頭の中から振り払う。
今はバトル中だ。関係ないことを考え、プレイに支障をきたせば相手への失礼になる。そんなことでは“あの人”には近づけない。
「ドローステップ、リフレッシュステップ」
なのはは、5枚になった手札を見る。リザーブのコアは10個、フィールドと合わせれば12個。相手の場にはセフィロ・アリエスが健在で、その他にもXレアが2体も並んでいる。
手札には、系統「遊精」を持つカードはない。つまり出すカード全ては疲労し、ライジング・アポロドラゴンは、その真価を発揮するブレイヴを実質封じられた。
このバトル、始まった時から、主導権は明らかにシュテルが握っている。それをシュテルは勿論、なのはも理解している。そして、主導権をただ奪ってもダメだ。シュテルの光導コンボが生きている限り、それはすぐに奪い返される。
なのはは、主導権を奪ったうえで、このフィールドを制圧しなければならない。
(ずっと、最初の手札からあったこのカード)
なのはの手札には今、この流れを変えるこのできるカードがある。けれどそれを使うのはずっと控えてきた。流れを変えるだけではダメだからだ。
こんな感じの状況になるのは、バトルが始まる前から予想はしていた。だからこの1枚は、このバトルの切り札に決めた。使いどころを見極め、最もシュテルに刺さる瞬間を待って。
そして。
(使うなら―――今!)
「メインステップ! ブレイヴ『騎士王蛇ペンドラゴン』を召喚!」
「……っ!」
紫シンボルが現れ砕け、蛇のような竜のような、そんな機械じみたスピリットが現れる。
そのカードの登場に、会場は少なからずの驚きを見せていた。
前のターンから、なのはのドローはブレイヴ・ドローによって固定されて、だからなのはの行動にはある程度の制限があった。それも相まって、このバトルはシュテルの独壇場のような状態になっていたのだ。
だが、その流れを一気に変えるカードの登場。そしてそれは、なのはに対しているシュテルにも衝撃を与えた。いや、もしかしたら他の誰よりもシュテルが驚愕していたかもしれない。
出たタイミングが、最悪なのだ。
「召喚時効果! セフィロ・アリエスのコアを外して、消滅させる!」
セフィロ・アリエスがフィールドから消える。さらになのはは、ペンドラゴンの効果でスピリットを消滅させたことでカードを1枚をドロー。
ペンドラゴンは疲労したが―――これで制約は無くなった。
「続いて『炎楯の守護者コロナ・ドラゴン』をレベル2で召喚! ペンドラゴンとイグア・バギーを消滅させ、そのコアでライジング・アポロドラゴンをレベル3にアップ!」
ペンドラゴンとイグア・バギーがフィールドから消え、入れ替わりにコロナ・ドラゴンが召喚され、ライジング・アポロドラゴンがLv3:11000へとレベルを上げる。
準備は、整った。
「アタックステップ! コロナ・ドラゴンレベル2の効果で、系統『星竜』をもつこのスピリットとライジング・アポロドラゴンにBP+2000!」
合計BPは、コロナ・ドラゴンがLv2:5000、ライジング・アポロドラゴンがLv3:13000.
「さらに、ライジング・アポロドラゴンの効果で、系統『星竜』を持つこの2体は、相手スピリットに指定アタックできる!」
ライジング・アポロドラゴンがその瞳を輝かせる。その翠に眼が睨む先は―――。
「ライジング・アポロドラゴン! ドラゴニック・タウラスに指定アタック!」
紅の竜は、その炎の翼をはためかせ、空へと舞い上がる。
対し、ドラゴニック・タウラスもまた、空へと上がる。
両者は数回の衝突の後に空中で取っ組み合いになり、そのまま地面へと落下。土煙が舞って、スピリットが見えなくなる。だがそれは唐突に咆哮と共に晴れる。そこにあったのは、ライジング・アポロドラゴンが今まさに消滅したドラゴニック・タウラスを踏みつけていた光景だった。
「くっ……!」
「続けて、コロナ・ドラゴンでエリダヌス・ドラゴンに指定アタック!」
コロナ・ドラゴンがその槍を持って走り出す。
迎え撃とうとするエリダヌスだが、突き出された槍に為す術なく貫かれ、破壊された。
「ターン、エンド!」
どうだ、見たか。とでも言いたそうな満面の笑みで、なのははターンを終えた。
まだシュテルの場にはアスクレピオーズが残っているし、なのはのスピリットは全て疲労している。ライフも3と安心できる数値ではない。けれど、これを見る全ての者が悟った。
なのはが完全に、流れを握った。
バトスピの真骨頂はアタックステップ中の駆け引きだと思う。