魔法少女リリカルなのはIF   作:多田 竜一

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憧れを追って

「ターンエンド!」

 これで、なのはのターンが終わる。

 ターン終了の宣言で。それはプレイヤーやギャラリーにフィールドを1度見直す機会を与える。

 合体ブレイヴしたライジング・アポロドラゴンを含めた3体のスピリットを従えるなのはのフィールドと、なのはによってカードが1枚も残らない焼け野原にされたシュテルのフィールド。

 この状況を見た誰しもが確信した。

 なのはが、完全に主導権を握った、と。

 合体(ブレイヴ)したライジング・アポロドラゴンの前では、もはや適当なスピリットなどいないと同等。「光導」スピリットもそれは同じ。この場に有効な「光導」スピリットが手札にないシュテルでは、もう太刀打ちなどできはしない。

 シュテルが持ち直すには、このターンで最適な「光導」スピリットを引いて、出さなければならない。

 誰しもが予測していなかったトップバトラーのピンチに、会場が騒めき、けれど静まる。

 いつしか戦っている2人のチームメートや司会解説のテスタロッサ姉妹まで、言葉を失っている。

(まあ、考えて仕方ありませんね)

「……スタートステップ」

 シュテルが、第11ターンを始める。

「……コアステップ」

 デッキトップを、眺める。そして思う。

 こんな時、“あの人”ならどう思うのだろうか。

 シュテルをバトルスピリッツへ導き、シュテルの憧れとなった“あの人”は、こんなどうしようもないピンチの時に、何を思ってカードを引くのだろうか。

 愚問だ。

 そんなこと、決まっている。“あの人”はいつも、今できる全力をただ尽くしていた。それは、闇雲に攻撃を仕掛けるという意味ではない。今だけでなく、その先のターンの事を考えた最前のプレイを全力で思考し、実行する。

(何を引こうとも、私は来たカードに応えるだけです)

 もしダメだったら。その時はその時だ。そんな事は考えない。考えても仕方ない。

 シュテルが知る“あの人”ならば、必ずそうする。

 だからこそ、シュテルもそうする。

 決して届かない“あの人”に、少しでも近づくために。

「―――ドロー、ステップ」

 シュテルのこのバトル、最も気合いの入ったドローだった。

 このカードで、このバトルの行方が決まると言っても過言ではない1枚。

 シュテルはまだ、そのカードを見ない。目を瞑り、引いたまま手を動かさない。

 会場が、騒めきすらもなくなり静まり返る。誰かの唾を呑む音すらも聞こえてくるほどの静寂の中で、シュテルは少しだけ目を開き、ドローカードを見た。

「……リフレッシュステップ」

 そのカードを見たシュテルの顔は。

 ―――笑っていた。

「メインステップ。黄道より来たれ、絶対なる水瓶座の守護神よ。『宝瓶神機アクア・エリシオン』―――レベル3で召喚」

 シュテルの背後、その空中に、14の光が輝き出す。そして、その光が線で結ばれた時、そこに水瓶座が描かれる。瞬間、描かれた星座から水が溢れ出し、かと思えばそれが渦を巻いて宙を駆ける。それが地面へ辿りついた時、水の渦を切り裂き、守護の神機がその姿を現した。

 そのスピリットの登場に、会場が沸いた。

 まさに神引き。この場に効果的で、しかもリザーブのコアをすべて使ってジャストレベル3で召喚できる「光導」スピリット。

「……! す、スゴイ。スゴイよスタークスさん!」

 運命すらも感じる程の奇跡のドローに、会場は勿論、対するなのはですらテンションが上がる。

 そしてまた、シュテルも自らの高まる鼓動を感じていた。

(これが、デッキ(あなたがた)の答えですか……)

 自分が未熟なばかりに招いてしまったピンチだ。見捨てられても仕方ないはずなのに。

 どうやらこのデッキは、まだ一緒に戦ってくれるらしい。

 そんなことを思うと、どうしても興奮してくる。

「私はこれで、ターンエンド」

 終わってみれば、たった1体のスピリットを出しただけのターンだったが、シュテルが息を吹き返すには充分なものだった。

 だからなのはは、改めて気を引き締める

 本当の戦いはこれからだ、と。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

レヴィ「さすがシュテルん! あの状況から持ち直したよ!」

ユーリ「すごいです……!」

ディアーチェ「ああ……。だが、まだ防戦が覆ったという訳ではない。エリシオンの回復阻害の効果は死んでおるし。確かにライジング相手に【装甲:赤】は効果的だが、それでも致命的ではない。対処のしようはいくらでもある」

ユーリ「うっ……」

レヴィ「確かに。どんなに強くても、スピリット1体にできることなんて高が知れてるし」

ディアーチェ「だが」

レヴィ「?」

ユーリ「?」

ディアーチェ「次の攻撃に対して、シュテルが対応をしくじらなければ流れは完全にシュテルに傾く。そして」

レヴィ「シュテルんは絶対しくじらない!」

ディアーチェ「その通りだ」

ユーリ「なるほど。……だったら安心ですね!」

ディアーチェ「ああ。故に楽しみにするとよい。この状況、シュテルが如何にして凌ぐかをな」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 第12ターン。

(アクア・エリシオン、かぁ……)

 リフレッシュステップまでの処理を全て終えて、なのはは4枚の手札と盤面を見ながら考え始めた。

(今この場で一番怖いのは、ライジング・アポロドラゴンが疲労した状態で、アクア・エリシオンが合体ブレイヴすること)

 アクア・エリシオンのレベル3合体(ブレイヴ)時効果。それが適応されれば、相手のリフレッシュステップで、相手の合体(ブレイヴ)スピリットは回復しなくなる。

 今、シュテルの手札にブレイヴがあると仮定すると、このままライジング・アポロドラゴンでアタックすれば、機能不全は免れない。

(でも、手札にブレイヴがなければ)

 絶好の攻め時だ。これを逃せば、下手をすればこのバトルは勝てなくなる。

 これは大事な場面だ。なのははシュテルのブレイヴの有無を的確に予測しなければ、折角掴んだバトルの主導権を返す破目になりかねない。

(スタークスさんのデッキは、12宮Xレアが沢山入ってる。高コストスピリットが多い構築のはずだから、ブレイヴを多く入れてる可能性は十分ある)

 さらに言えばアクア・エリシオンは勿論、ドラゴニック・タウラスや前のバトルで見た「巨蟹武神キャンサード」など、ブレイヴと相性のいいXレアが多数見えている。そう考えると、シュテルのデッキには多くのブレイヴが入っていて、手札にブレイヴを握っている可能性は高いと言える。

 けれど、そうだと腑に落ちない点がいくつかある。

(でもそう考えると、ブレイヴがボーン・ローダーしか見えてないのがなんともなぁ……)

 このバトル、シュテルが見せたブレイヴは、アスクレピオーズに合体(ブレイヴ)したボーン・ローダー1枚のみである。単純に引けていないと言えばそれまでだが、そうは思えない要因が、なのはにはあった。

(しかも、ブレイヴ・ドローが見えていない……)

 そう。なのはは、自分が使っているからこそ分かっている。ブレイヴが多いデッキで、ブレイヴ・ドローがどれほど有効なカードになるかを。

 それを、シュテルはまだ使っていない。

 そう考えてしまうと、もともとシュテルのデッキにはブレイヴが少なく、そして第9ターンでその数少ないブレイヴであるボーン・ローダーを使っていることから、もう手札にブレイヴがある可能性は低いという結論にも至る。

 つまりは―――。

(ダメだ。考えても分からない……)

 現状、両極端の結論を1つに絞れる情報はないと言っていい。この状況でのブレイヴの有無の予想など、ただの賭けに等しかった。

(まあいいや。とりあえず)

「メインステップ。マジック『ブレイヴ・ドロー』を使用。2枚ドローして、3枚オープン。『射手星鎧ブレイヴサジタリアス』を加えて、残りをデッキの上へ」

 なのはは、ドローカードをとりあえず見ないで手元に置き、残った2枚を「双翼乱舞」「太陽極龍セブンス・アポロドラゴン」の順に引くよう戻す。

 そして、手元に置いた2枚を見た。

 それを見てなのはは―――考えが変わった。

「2体目のコロナ・ドラゴンと戦竜エルギニアスを共にレベル1で召喚!」

 なのはのフィールドに、2体のスピリットが現れる。

 この瞬間、ライフ4のシュテルのブロッカー1体に対して、なのはのアタッカーが5体となった。

 フルアタックでなのはが勝つ。

「アタックステップ!」

 先に召喚したレベル2のコロナ・ドラゴンの効果で、合体(ブレイヴ)スピリットがLv3BP16000に、コロナ・ドラゴンレベル2がBP5000に、コロナ・ドラゴンレベル1がBP4000に上がる。

 その処理を終え、なのはは盤面にいるスピリット1体に手をかけて。

「合体ブレイヴスピリット! その魔弾で、ライフを打て!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 この時、はやてはずっと考え事をしていた。バトルしている2人の手札についてである。

 もともとはやては、第三者としてバトルを見る時は決まって、バトルの内容からバトラーの手札の予測を好きでやっている。

 この場合、なのはの手札は分かりやすかった。プレイングが真っ直ぐだからというのもあるが、何よりブレイヴ・ドローを2回も使っているのが、公開情報をかなり多くしていたからだ。今のなのはの4枚の手札は、ブレイヴ・ドローで加えたブレイヴが2枚と、大方腐っているマジックが2枚だろう。

 だが逆に、シュテルの手札は読みずらかった。

 公開情報が少ないというのもあるが、シュテルのプレイングが上手いのだ。相手に自分の手札内容を悟られないように徹してバトルしているため、いろいろな可能性を排除できない。はやてからしてみれば、ブレイヴの有無は勿論「光導」が手札にないというのも正直断定できるものではない。

 だが、ただ1つだけ、はやては確信していたことがあった。

 シュテルのこのバトルのプレイング、特に、第7ターンのプレイングはあるカードを握っていないと出来るものではない。

 だからこそ。

「合体ブレイヴスピリット! その魔弾で、ライフを打て!」

 なのはの言葉を聞いた瞬間に。

「―――アカン」

 それが致命的なことに繋がること理解したのは、はやてだけだった。

「なのはちゃん! それはアカン!!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「ふぇ? はやてちゃん?」

 あまりに鬼気迫ったはやての叫び声に、なのははそんな間抜けな声を出してしまった。

 だが、もう遅い。

 スピリットはもう疲労しており、ライジング・アポロドラゴンは既にヴェスパーを構えている。

 アタックはもう、成立した。

「―――フラッシュタイミング。マジック『ウィンド・ウォール』を使用」

「え?」

「コストは宝瓶神機より確保。よってレベル1にダウン」

 風が、フィールドに吹き荒れる。その風に、アタックしているライジング・アポロドラゴンを除いたなのはの全スピリットが体勢を崩す。ムゲンドラに至っては吹き飛ばされていた。とても、動き出せる状況ではない。

「このバトル終了時、アタックステップを終了する。そしてそのアタックはライフで受けます」

 ライジング・アポロドラゴンが握るヴェスパーから、魔銃の砲撃が放たれる。ダブルシンボルのアタックは、展開された赤い魔法陣を通じて、音と衝撃と共にシュテルのライフを2つ砕く。

 これでアタックステップは終了する。

 ただ1体“合体(ブレイヴ)スピリットだけが疲労”して。

「なっ! しまっ―――」

「詰めが甘いですね。タカマチさん」

「くっ……! た、ターンエンド」

 

 




 このバトルの前にシュテルはヴィータとすずかと戦っていて、そのすずかとのバトルで獅子蛇蟹の布陣を決めています。
 なのはがキャンサードを知っているのはそれを見ていたからで、前のバトルとはこのすずかとのバトルの事です。

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