すずか「……はやてちゃん。分かってたの? スタークスさんがウィンド・ウォールを持ってたこと」
はやて「正確に言うとウォール系マジックを握ってたっちゅうことを、やな」
アリサ「なんでそんなことが分かるのよ?」
はやて「まあ、カードバトラーの心得みたいなもんや。バトスピはウォール系マジックが必須のゲームで、それがバトルに駆け引きを生んでる。ウォール系マジックの警戒はバトルする上での基本中の基本なんよ。特に今のバトルやと、シュテルは今までウォール系マジックはおろか、防御札になりうるカードを1枚も切っていない。これだけターンが続いているんやから、ここは握っていると考えるんが定石かな」
アリサ「いや、でも単に引けてない可能性だってあるでしょ」
ヴィータ「ううん。ウォール系をアイツは持ってたはずだ。じゃなきゃ、第7ターンのプレイングが謎すぎる」
アリサ「……第7ターン?」
すずか「えっと……あ。アレかな? シュテルさんがアスクレピオーズを出したターン」
アリサ「……。ああ! ドラゴニック・タウラスでなのはのライフが3つも減ったターンね!」
ヴィータ「ああ。あのターン、いくらバーストを『絶攻氷盾』と読んでたって、あのプレイングはない」
はやて「確かに私もあの時のバーストは絶攻氷盾と読んどったけど、でも違う可能性は少なからずあった。せやのにシュテルは、とっておけば勝てたかもしれへん2体のスピリットを切って、新たに疲労状態のスピリットを出した」
ヴィータ「アイツをそうさせたのは、初心者が相手だという無意識の油断と―――ウィンド・ウォールを持っていた安心感」
はやて「あの時のシュテルは本当に気が緩んどったやろうな。あそこはアスクレピオーズは出さずに、光り輝く大銀河のレベル2効果のコストとして手札に持ってべきやったな。そうすれば、次のターンのライジング・アポロドラゴンのアタックを返り討ちにできたし」
すずか「ふ、2人とも、すごい……」
アリサ「こう言っちゃ悪いけど、アンタらどういう頭してるのよ」
はやて「別に大したことやあらへんよ。バトルの経験を積めば自然と身につくもんや」
ヴィータ「それにアタシも、さっきはやてが叫んだ時に考え直してやっと気づいたくらいだし。ましては初心者の高町なんとかが気付かないのも仕方がないと思う」
アリサ「いや、なんとかって」
はやて「せやけど、そこに気付かんかったせいで、完全に流れはシュテルに移った」
アリサ「確かに……。確かにこんなタイミングで合体(ブレイヴ)スピリットが機能不全になるのはかなり痛いよね」
はやて「……。それだけで済むとええんやけどな」
アリすず「「え?」」
◇◇◇◇◇
「詰めが甘いですね。タカマチさん」
「くっ……! た、ターンエンド」
第12ターンが終わる。
このターンにフルアタックで勝てると意気込んで―――目先の勝利にとらわれて、ライジング・アポロドラゴンからアタックしてしまった。
それは、今にして思えば愚の骨頂。シュテルが防御札を握っている可能性を考えたら、最も行ってはならないプレイングだった。
「では。スタートステップ」
シュテルの第13ターン。
「コアステップ」
これでもし、シュテルの手札に―――。
「―――ブレイヴがあったら、などと考えているのですか? タカマチさん」
「え?」
自らの行いを悔いる思考の渦の中、シュテルのその問いによってなのはの意識が現実に戻る。
シュテルは、デッキの上に手を置いたまま、なのはを見ていた。
「バトルスピリッツ。このゲームの本質は、どこにあると思いますか?」
「え? えっと、本質?」
いきなりそんなことを言われても。
淡々と言葉を告げるシュテルに、なのはは言葉が出なかった。
第一、なのははまだバトスピを始めたばかりの初心者である。本質は何かと問われても、答えられる訳がない。特徴を上げろと言うのであればまだ答えられるが、それと本質はまた違う話だ。
「このゲームの本質―――それは、高度な読み合いの中にあります」
「読み、合い……」
「それはたった1回の、スピリットのアタックですら発生します。アタックを受ける側は、そのアタックの相手の意図を読みブロックするかを決めなければなりませんし、またアタックする側も、相手の出方を予想し、それによってアタッカーの数やアタックする順序を考えなければなりません。そして何より『フラッシュタイミング』というシステムによって、プレイヤーは手札にある“かもしれない”マジックカード等を、常に警戒しなければなりません」
相手の手札を警戒しない不用意なアタックは、ただ1度ですらそれが敗北につながる事だって珍しくはない。
それがバトルスピリッツというゲームの本質。
「その読み合いに勝った者こそが、バトルスピリッツで勝利を掴むことができる」
勿論それが全てという訳ではないが、それでも【速攻デッキ】ですらある程度の読み合いを要求されるのが、バトルスピリッツなのだ。
「いい機会です。軽率なプレイングがどれだけ愚かか―――」
シュテルがドローステップでカードを引く。リフレッシュステップでトラッシュのコアを戻して。
「―――その身をもって、充分に味わいなさい」
シュテルが引いたカードを見る。そして。
「メインステップ。『ピクシスリザード』をレベル2で召喚」
赤のシンボルが現れ砕け、ピクシスリザードがフィールドに召喚される。
なのはは、そのスピリットを知っている。
前のバトルで、すずかに対してシュテルの勝利に貢献していたスピリットの1体。手札にある「光導」スピリットのコストを5にするスピリット。
そして、その真価は―――。
(待って。確かスタークスさんの手札には……!)
このスピリットと共にある。
「続いて『エリダヌス・ドラゴン』をレベル2で再び召喚」
第9ターンで手札に回収したエリダヌス・ドラゴンが、再びフィールドに戻ってきた。
この地から黄道を見守り、そして必要とあらば光によって神を導く2体の竜。
光導コンボが成立した。
「で、でも……! スタークスさんの手札に12宮Xレアはないはずじゃ―――」
「それこそ読みが軽率ですよタカマチさん」
なのはの言葉を遮って、シュテルがそれを否定する。
「宝瓶神機のコアを合計4つにしてレベル2にアップ」
そしてなのはは、ここで1つ、世界の真理を理解することになった。
世の中に、絶対なんてないということを。
「黄道より来たれ、魚座の神宿りし冥界の箱舟よ。『双魚賊神ピスケガレオン』を召喚」
エリダヌス・ドラゴンが疲労し、その側の地面に魚座が描かれる。そしてそこから闇の瘴気が溢れ出し、瞬く間にフィールドを覆う。その上を漂う2隻の船。それは先端に魚のそれのような恐ろしい顔があり、2つの船の上には、それらを跨って帆が立ててある。
まさに船の化物としか表現し難いスピリットが、このバトルフィールドに降臨し、咆哮によってその瘴気をフィールドから払う。
「双魚賊神の召喚時効果を発動。コアを1個―――このスピリット以外の“全てのスピリットから”取り除きます」
「え? そんな!?」
ピスケガレオンが、その2つある巨大な口を開く。瞬間、フィールドの全てのスピリットから、何かがそれに吸われ始めた。それは、シュテルのスピリットも例外ではない。
「これにより、アナタの場の合体(ブレイヴ)スピリットとコロナ・ドラゴン、そして私の場のエリダヌスとピクシスがそれそれレベルが下がり―――アナタの全てのレベル1スピリットが消滅します」
その力の前に、全てのスピリットは抵抗を許されなかった。ピスケガレオンに全てを吸われたスピリットは為す術なく消滅し、生き残ったスピリットも力なく膝をつく。
たった1体のスピリットの召喚で消えていった3体のスピリットたちを、なのははただ見ているいることしか出来なかった。
残ったのは、Lv2:12000になった
対してシュテルの場のスピリットは1体も消滅していない。
ついさっきのターンに数で押し切れると思っていたフィールドが、一瞬にしてむしろ数で押し切られかねないものになっていた。
◇◇◇◇◇
アリシア「シュテル選手、大・逆・転! 一気に場を制圧して、なのは選手とのアド差を付けた!」
フェイト「―――す、すごい。あんなプレイング、私には考えられない」
アリシア「へ? シュテル、何か変なことしてた」
フェイト「なのはの場が崩れたのは、スピリットを並べたから。スピリットを並べたのは、なのはが勝てると思ったから。なのはが勝てると思ったのは、シュテルの場にブロッカーがアクア・エリシオンしかいなかったことと、なのはがウォール系マジックを忘れていたこと」
アリシア「ウソ。じゃあシュテルは前のターンからこの状況を狙ってたってこと?」
フェイト「ピスケガレオンは第9ターンには握ってたみたいだし、多分狙ってたと思う。少なくとも、あり得る展開の1つとして頭の中に入っていたはず」
アリシア「それは確かにすごい。けど、いくらなんでも初心者相手に容赦なさすぎじゃない?」
フェイト「その油断が、現に第8ターンの悲劇を招いてる。もうシュテルは、本気なんだと思う。勝つために、突ける隙は徹底的に突いてくるよ。それが、初心者特有の未熟さであっても」
アリシア「本気のシュテル選手に絶望的なフィールド……。なのは選手はこのピンチ、果たして乗り越えられるのでしょうか」
フェイト(がんばって。……なのは!)
◇◇◇◇◇
「この効果でスピリットが消滅した時、その数だけ、私はカードを引くことが出来ます」
シュテルがカードを3枚引く。
結局、勝つために並べたスピリットは何もせずに無駄死に。それどころか、シュテルに3枚引かせる破目になってしまった。
もう、後悔ばかりが押し寄せてくる。今考えてはいけないと分かっていても、考えても仕方ないと分かっていても。
これでシュテルの手札にブレイヴがあれば、いや、たとえ手札にブレイヴがなかろうと、引いた3枚の中にブレイヴがあれば、もう―――。
「!?」
「―――え?」
ふと、引いた3枚を見たシュテルが、固まった。
あの基本的に無表情を突き通すシュテルが珍しく驚愕を顔に出している。
あまりに驚いているシュテルに、なのはは少しだが冷静さを取り戻す。
(もしかすると、入れていないはずのカードを引いたとか?)
「あの、スタークスさん。大丈夫?」
「……。いえ、すみません。問題ありません」
なのはの言葉を聞いて、シュテルはいつもの調子を取り戻した。
何があったにしても、このままバトルを続けるつもりらしい。
そのままシュテルは、引いた3枚の内から1枚を取り出して。
「ブレイヴ『輝竜シャイン・ブレイザー』を召喚」
赤のシンボルが現れ砕け、そこから白いボディの機械の竜が現れる。
そして。
「シャイン・ブレイザーを『宝瓶神機アクア・エリシオン』に合体(ブレイヴ)し、そのままレベル3にアップ」
シャイン・ブレイザーの胴体から翼が分離する。その翼がアクア・エリシオンの腕に装着される。その手が扱う光剣の色が青から赤へと変化し、シャイン・ブレイザーの
合計BPは、15000。
「アタックステップ。宝瓶神機で
アクア・エリシオンが、その赤く煌めく光剣をかざし前へ出る。
「コロナ・ドラゴンでブロック!」
ダブルシンボルのアタック。後続を2体残したそのアタックを、ライフ3でブロッカー1のなのははブロックせざるを得なかった。
宣言の瞬間、コロナ・ドラゴンは走り抜けるアクア・エリシオンの光剣に無残に切り裂かれた。
「ターンエンド」
ターンが終わる。
なのはは改めて、この戦況を見渡した。
結局、彼女の場に残ったのは疲労状態の合体(ブレイヴ)スピリットが1体だけ。しかもそれも、アクア・エリシオンのレベル3
実質的に、なのはのフィールドは壊滅した。
けれど。
「流石に、諦めてはくれませんか」
「まあね。だって、まだバトルは終わってない」
なのはの目は、死んではいなかった。
「まだ、勝機が残っていると?」
「うん!」
その目に宿るものは、自信。
けれどシュテルは、その根拠が分からなかった。
「アナタの手札の内2枚はブレイヴ・ドローで加えたブレイヴ。もう2枚は大方、序盤から使う機会のなかったマジック辺りでしょう。その手札に打開策はない」
「…………」
「かつ、次のドローは双翼乱舞です。発動しても、引く2枚の内1枚は太陽極龍で確定している。勿論それでもこの状況は覆らない。タカマチさんがこの場をどうにかするには、双翼乱舞の2枚目で何かを引くしかない」
シュテルが、ただ淡々と事実を述べていく。
見直せば見直すほどに絶望的に見えてくる状況。並のバトラーなら、バトルを続けても諦める場合が多い盤面。
「それを分かっていて、勝機があると?」
「もちろん! 確かにもう勝率は極わずかだけど、ゼロじゃないから!」
その2枚目で逆転できる可能性が、なのはのデッキには残っている。だから、それを見るまで諦める訳にはいかない。
それにこのバトルは、この2人だけのものではない。
多くの観客が見守る中でのチーム戦ラストバトル。関わっている全ての人たちの思いが、今この瞬間に集まっている。
「それに、このフィールドなら起こるよ、奇跡!」
そのなのはの言葉には、妙な説得力があった。
そしてシュテルに至っては、納得してしまっている。
「私が最初からペンドラゴンを握っていたのも、スタークスさんがあのタイミングでアクア・エリシオンを引いたのも、きっと偶然なんかじゃない。私の勝ちたいという気持ち、スタークスさんの諦めない気持ち、そしてチームメートや観客の気持ち……そういうのが全部集まって、それにカードたちが応えてくれてるから!」
終わらない。まだ終わらせたりなんかしない。そういう心にデッキは応える。
そう思わせる何かが、今このフィールドには確かにある。
少なくともシュテルには、それに対する異論はなかった。
「だから私は、諦めたりなんかしない!」
故になのはは、強い気持ちでカードに向かう。
「スタートステップ!」
なのはの、第14ターン。