「私が最初からペンドラゴンを握っていたのも、スタークスさんがあのタイミングでアクア・エリシオンを引いたのも、きっと偶然なんかじゃない。私の勝ちたいという気持ち、スタークスさんの諦めない気持ち、そしてチームメートや観客の気持ち……そういうのが全部集まって、それにカードたちが応えてくれてるから!」
終わらない。まだ終わらせたりなんかしない。そういう心にデッキは応える。
そう思わせる何かが、今このフィールドには確かにある。
少なくともシュテルには、それに対する異論はなかった。
「だから私は、諦めたりなんかしない!」
故になのはは、強い気持ちでカードに向かう。
「スタートステップ!」
第14ターンの開始宣言に、なのはの盤面が光る。
「コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ」
リフレッシュステップを宣言したこの瞬間、フィールドが赤い水に浸される。アクア・エリシオンのレベル3合体時効果によって生み出されたそれは、合体スピリットであるライジング・アポロドラゴンの回復を許さなかった。
「メインステップ! マジック『双翼乱舞』を使用!」
リザーブから3コスト支払、双翼乱舞を打つ。
なのははまず1枚目のセブンス・アポロドラゴン引く。
そして、2枚目のドローカードとなるデッキトップに手をかける。
強く、強く、そのカードに願う。
デッキにたった1枚入っているあのカード。それこそが―――。
目を瞑り、手に力を込める。
そしてなのはは、カードを引いた。
目の前に持ってきて、ゆっくりと目を開き、そのカードを確かめる。
果たして、そのカードは。
それこそが―――闇に輝くただ1つの光となる。
「―――北斗七星、七番目の光をここに。太陽の力の全てを統べよ! 『太陽極龍セブンス・アポロドラゴン』レベル1で召喚!」
なのはのかざしたカードから7つの光が放たれ宙を舞う。それが北斗七星を描いた時、7つの光が水晶に代わりそれらが埋め込まれた窯が実体化する。それを、龍の手が掴む。黒き翼の紅き龍。胴体に北斗七星が刻まれたアポロが、このフィールドへと召喚された。
その顔を見て、シュテルは思う。
(引いたのですね。起死回生の一手を)
「セブンス・アポロドラゴンの召喚時効果! 手札にある『アポロ』と名の付いたスピリット1体をノーコストで召喚する!」
なのはが、引いた2枚目のカードを上にかざす。瞬間、フィールドの外側、その両脇から、赤と白のシンボルが昇ってきた。
まるで太陽と月のように見えるそれらは、弧を描くようにフィールドの真上に昇っていく。
「月と太陽、今ここに交わる! 日食が造りし闇の中、ただ1つの光となりて世界を照らせ!」
フィールドの真上で、両シンボルが重なる。世界が闇に染まる中、美しく、わずかに、けれど眩しく輝くそれは、見る者に日食を思わせる。
「『神星皇ストライク・アポロドラゴン』! レベル2で召喚!」
フィールドから光が消える。暗闇になった世界の中、ただ1つ、重なったシンボルのみが美しく光る。その光が徐々に増していき、刹那、フィールドが光に包まれた。段々と晴れていく光の中から現れたのは、銀白の紅き龍。月光龍の武装を纏った太陽龍が、その咆哮で闇を払った。
「…………素晴らしい」
3体の「アポロ」が並ぶなのはのフィールドを見て、シュテルがそう呟く。それは、誰にも聞こえることはなかったが、確かにシュテルの本音だった。
「魔銃ヴェスパーとライジング・アポロドラゴンを分離させ、アタックステップ! 光輝け、神星皇!」
神星皇が飛び立つ。ダブルシンボルが、ライフ2のシュテルへ真っ直ぐに駆ける。
「ピクシスリザードでブロック」
抵抗など許されずに弾き飛ばされたピクシスリザードを、しかし気に留める者は誰一人としていなかった。消えるピクシスリザードに目もくれず、神星皇がシュテルに咆える。
「ターンエンド」
神星皇の咆哮にシュテルが動じることはなかった。しかし、シュテルは思う。
このフィールドは、お互いが勝つために本気でバトルした結果だ。勝ちよりロマンを優先してプレイしている訳ではないし、ましては(テーマに拘っているとはいえ)デッキの構築は勝つ為のものだ。それなのに、なのはのフィールドは一種の芸術すら思わせるような状況になっている。
さらに、ピスケガレオンの効果で引いた3枚のカード。
(まさか、揃うというのですか……)
そんなことを、期待してしまう。
もしも、このフィールドであのスピリットが見れるというのであれば。
きっと“あの人”と同じ世界が、見れるかもしれない。
「スタートステップ」
そんな思いを抱きながら、シュテルは第15ターンを始める。
コアステップ、ドローステップと処理を進めて、シュテルは引いたカードを見る。
「…………」
そのカードを見て、シュテルは少なからず落胆した。
やはり、無理なのだ。本気で勝ちにいく限り、ロマンより勝利を優先する限り、あのスピリットのあの姿は見ることなど出来ないのだ、と。
「メインステップ。エリダヌス・ドラゴンをレベル2にアップし、効果を発揮。このスピリットを疲労させ、手札の『光導』スピリットの軽減を全て満たします」
けれどシュテルは、手を抜かない。
それがバトルする上での礼儀であり、何より憧れた“あの人”に近付くための近道なのだから。
「黄道を駆けし獅子座の神よ。月夜に降り立ち、大地に咆えよ。『獅機龍神ストライクヴルム・レオ』レベル3で召喚」
不足コアは、エリダヌスをレベル1に下げて確保し、盤面にストライクヴルム・レオを置く。
フィールドが再び、闇に染まる。しかし、今度は月夜。シュテルの背後に月が現れて、さらにフィールド場外から光の線が宙をまう。18あるそれが天空に向かっていき、そして夜空に獅子座を描いた。描かれた星座は、直後にスピリットへと姿を変え、白いオーラをまといながら宙を駆けていく。ゆっくりとフィールドに降り立った時、そのスピリットは咆え、同時に白いオーラとフィールドの夜が晴れた。
「さらに宝瓶神機の
アクア・エリシオンが両腕につけたシャイン・ブレイザーを放るように分離させる。その光の翼は、そのまま真下に位置付いたレオの背中に
そのスピリットは、まさに必勝のカード。ストライクヴルム・レオの存在は、それだけで無数の手数とシンボルを与える。状況次第では、ワンショットキルまで成し遂げてしまう切り札。ブロッカーが1体しかいないなのはにとっては、最も出て欲しくはないスピリットの1つ。
けれどなのはは、臆することはなかった。想定していたと言わんばかりの表情でストライクヴルム・レオを見ている。
想定の上で、勝つ気でいる顔をしている。
(……面白い)
―――覆せるなら、やってみなさい。
「獅機龍神のレベル3
シュテルの場のスピリット全ての目の前に白のシンボルが現れ、直後にそれぞれのスピリットに取り込まれる。
「アタックステップ。
「セブンス・アポロドラゴンでブロック!」
駆け出したストライクヴルム・レオに、セブンス・アポロドラゴンが空へと飛翔し迎え撃つ。空へ上がったセンブスを追いかけ、レオもまた空へ上がる。
空中で対立する2体の龍。レオが襲い掛かり、セブンスがそれをよけ鎌を振るい、レオもまたそれをかわす。
だがその対立も長くは続かない。セブンスの視界から瞬時に消えたレオがセブンスの背後を取り、セブンスの気付かぬままそのかぎ爪で切り裂く。
それでセブンスは破壊された。