ディアーチェ「負けを、認めおった、だと……」
ユーリ「シュテル……」
◇◇◇◇◇
はやて「信じられへん……。あのシュテルが……」
アリサ「いける……いけるわ!」
すずか「なのはちゃん……!」
ヴィータ「いっちまえ! 高町 なのは!」
◇◇◇◇◇
アリシア「なのは選手! 起死回生! 止めの一撃だあ!!」
フェイト「これは、無理だよ。シュテルじゃなくても、あのコラプスなんて予想できない……
」
アリシア「さあさあさあ! 神星皇が、ストライクヴルム・レオに切りかかる!!」
逃げ続けたストライクヴルム・レオだったが、今度は神星皇によって後ろ脚を切り付けられた。当然駆け続けることはできずに、そのまま地面を削って突っ伏してしまう。
最強のカードバトラー「シュテル・ザ・デストラクター」が、負けを認めた。
それは少なくとも、このような大衆の前では放たれたことのない言葉であることは確か。
いや、もしかすれば、知人・友人の前でも滅多に言うことではないことだろう。
少なくとも、控室のチーム「ダークマテリアルズ」の面々が会場と同じく動揺するくらいには珍しいことだった。
神星皇が、その光剣を振りかぶる。
それを投擲して、ストライクヴルム・レオの破壊と同時に、その軌道上にあるシュテルの最後のライフを砕くために。
勝負は決した。
あのシュテルが負けを認める言葉を発したことにより、なのはを始め、その他大勢が同じくそう思っていた。
「しかし―――」
バトルスピリッツというゲームは、時に非情である。
「このバトルの勝利は、まだ譲りません……!」
神星皇が、その白い光剣を投げ放つ。
このゲームは、どれだけ相手の裏をかくバトルをしても、最後に勝負を分けるのは。
結局、時の運なのである。
「フラッシュタイミング。マジック『フェーズチェンジ』を使用!」
神星皇が放った光剣が、ストライクヴルム・レオを貫き破壊する。そのままその光剣が、セイバー・シャークの
しかし、それがシュテルのもとにたどり着く寸前、目の前に白い幾何学的な文様が地面に垂直に浮かび上がり、それが神星皇の光剣を弾いた。
「この効果で私は、スピリットの効果―――セイバー・シャークの
「なっ!?」
弾かれた光剣が爆発したストライクヴルム・レオの上を舞い、神星皇のもとに戻ってきて、それを神星皇が掴み取る。
このバトルはまだ、終わらない。
◇◇◇◇◇
アリシア「シュテル選手、まさかのフェーズチェンジ! 絶望的なピンチをかろうじて回避!」
フェイト「……。フェーズチェンジって、ああいう使い方ができるんだ」
アリシア「まあ、ルール的には全く問題はないね。私もあんな使い方したことないし、思いつきもしなかったけど」
フェイト(あのコラプスの不意打ちを冷静に受け止めて、フェーズチェンジのあの使い方に瞬時に気付いた。これが、シュテルの実力……)
◇◇◇◇◇
「にゃはは……。今のをかわされちゃうか……」
乾いた笑いが、なのはからこぼれる。
今まで全く見えなかったたった1度の勝ち筋を、潰された。
「……ですが、今ので私の場は、完全に崩れてしまいました」
シュテルの言葉通りだった。
描いた勝ち筋は確かに潰された。しかし、勝機は全く消えたわけではない。むしろなのはが圧倒的に有利だ。
シュテルのフィールドに残っているのは、ストライクヴルム・レオから分離した疲労状態のシャイン・ブレイザーに、効果を使って疲労状態のエリダヌス・ドラゴン、そして回復状態だがレベル1のピスケガレオンのみ。まさに焼野原と言って差し支えないだろう。
自分のターンに、焼け野原にされたのだ。
つまり、次にはなのはのターンが待っている。
本来はあり得ない「攻撃ターンが連続する」という現象が、実質的に起きている。
「本当に、してやられましたよ。まさか自分のターンでフェーズチェンジを打つ日が来るとは思いもしませんでした」
「私もだよ。ホント、勝ったと思ったんだけどなぁ……」
この壊滅的な場で、シュテルは次のなのはの攻撃を防がなければならない。
控えめに言って、大ピンチ。
普通に考えれば、普通に勝敗は決している。
けれど。いや、だからこそ。
「さあきなさい―――“ナノハ”!」
相手を認め、その上で、諦めたりなどはしない。
「っ! ……うん! 行くよ―――“シュテル”!」
なのはの第16ターン。
瞬間、フィールドが闇夜に染まる。
「メインステップ! 神々の魂よ。今、究極超えし神器に宿り、顕現せよ!」
残った2枚の手札を構えたなのはの背後に、星座を模した文様が現れる。
それは、紅い射手座の文様と、白い獅子座の文様だった。
「射手座より来たれ! 『射手星鎧ブレイヴサジタリアス』!」
なのはの言葉で、紅い文様から紅の神器が歩み現れる。
「獅子座より来たれ! 『獅子星鎧レオブレイヴ』!」
同じく、白い文様から白銀の神器が歩み現れる。
2体の神器が、その姿を全て現した時、2体は同時にフィールドに降り立ち、そして咆える。
「セイバー・シャークを神星皇から分離。そして『射手星鎧ブレイヴサジタリアス』を
まずは射手座。
ブレイヴサジタリアスが、その手に持つ弓を残しその姿を消す。宙へ放られたその紅の弓を、神星皇がその右手で掴み取る。
そしてこの瞬間、ブレイヴサジタリアスの
「続いて『獅子星鎧レオブレイヴ』を神星皇に
次に獅子座。
レオブレイヴはその顔面を残してその胴体を変形させ、盾の形へと変形する。その盾を、神星皇がその左手の甲に接続させる。
瞬間、右手に持つ弓が変形を始める。
形は、剣。
それを再度、神星皇が手に掴む。
星座が煌めく夜空の下、
「これが私の、全力全開! 輝け!
その声に応えるように、神星皇は吼え、また輝きを増す。
そのBPは、23000。
「…………美しい」
それはシュテルが思わず口にしてしまった言葉だが、おそらく、それを思っていたのはシュテルだけではないだろう。
このバトルを見ている者の全てが今、神星皇の輝きに見惚れている。
神星皇はなのはの頭上から動かない。
ふと、シュテルは視線を落として、なのはの方を見た。
なのはは、真っ直ぐシュテルを見つめていた。その瞳からは一目で分かるほどに、勝利への渇望を感じ取れる。
そしてその強気の瞳に、シュテルはなのはの背後に幻を見た。
「――――――っ!」
その幻に、シュテルは言葉が出なかった。
そこにあったのは、2つの人影。
それはシュテルが憧れ、目標にする“あの人”の姿。
決して届かないと、そう思っていた憧れを、何故かシュテルは幻視している。
その意味を、彼女は理解することができなかった。
しかしそれでも、こんなことを考えてしまう。
(もしかしすると、たどり着くのでしょうか。このバトルで、“あの人”と同じ、強さの高みに……)
「ヴェスパーを再びライジング・アポロドラゴンに
星が輝く夜空の下で、ライジング・アポロドラゴンがヴェスパーを構える。
「魔銃ヴェスパーの
ライジング・アポロドラゴンが引き金を引く。銃口から放たれた紫の弾丸は一直線にエリダヌス・ドラゴンへ向かい、抵抗する暇も与えずに打ち貫く。コアが0個になったので、エリダヌス・ドラゴンは消滅する。
「そしてライジング・アポロドラゴンのアタック時効果! ピスケガレオンに指定アタック!」
ライジング・アポロドラゴンが飛び立ち、浮遊するピスケガレオンと同等の高度まで浮上すると、すぐに銃口をピスケガレオンに向ける。そして、そこから間をおかずに赤の銃撃を数発放つ。ピスケガレオンはそれを、紫のオーラで作ったバリアで弾く。その後も連射で放たれた銃撃はしかし、そのバリアを貫かない。
ライジング・アポロドラゴンは銃撃を止め、そのままピスケガレオンへ突撃を始めた。ピスケガレオンはなおもバリアを解かない。ライジング・アポロドラゴンが、そのバリアにしがみつく。そして、ゼロ距離で口より火炎を放射する。
バリアは最初こそビクともしなかったが、徐々に揺るぎ始める。やがてひびが入り、そこでライジング・アポロドラゴンが一気に火力を上げる。
そしてついに、バリアが砕ける。
ガラスが割れる音ともにバリアは破壊され、ピスケガレオンはその火炎の勢いに負けフィールドへ落とされてしまう。
落ちて身動きが取れなくなっているピスケガレオンに、ライジング・アポロドラゴンが再びヴェスパーを構える。
「このアタック……決して間違いではありません」
フィールドで起こっている戦闘を見ることもなく、なのはをまっすぐに見てシュテルが言う。
「うん。指定アタックしなければ勝てる。って話だよね?」
「ええ。勿論この一撃でライフを取りにいくのも正解の一つですが、それには多少のリスクが伴います」
もしもこのライジング・アポロドラゴンのアタック、ヴェスパーの効果をピスケガレオンに使えば、ブロッカーがいなくなったところにライフにアッタクして、通ればなのはの勝利が決まる。
でもそれは、攻撃が通ったら。
もし何かがあって通らなかった場合、シュテルの場にエリダヌスとシャインブレイザーを残してしまうことになる。
エリダヌスは召喚軽減の効果もさることながら、その系統に『星魂』を持っているというのが非常に厄介だ。残しておけば『光導』スピリットの恩恵を受け、ともすれば、なのはの敗北が確定する事態に陥ることも普通に考えられる。
そう思ったなのはの答えは、まずシュテルのフィールドの一掃。
神星皇の防御力があれば『光導』スピリット1体までなら難なく攻撃を防げると判断し、不安因子の徹底排除を優先したのだ。
「ええ。ですから間違いではありません。これがアナタの本気で、その上での全力です」
ですから、いやだからこそ。と続けながら、シュテルが手札の1枚を手に取る。
それとほぼ同時に、ライジング・アポロドラゴンがヴェスパーの引き金を引いた。
「ナノハ。アナタの全力に、必ず私は応えます!」
赤い銃撃がまっすぐにピスケガレオンに向かう。
その1枚は。
「フラッシュタイミング! マジック『絶甲氷盾』を使用! 不足コストはピスケガレオンとシャインブレイザーより使い、ピスケガレオンを消滅させます!」
銃撃は当たることなく、その前にピスケガレオンが消滅する。
これで、ライジング・アポロドラゴンの
「このバトル終了で、アタックステップは終了です」
ライジング・アポロドラゴンがフィールドに降り立ち、なのはのところへ戻り、そして膝をつく。
「ターンエンド……。やっぱりまだあったんだ、防御札」
「ええ。蛇皇神帝の効果で一気に引いたのですが、正直に負けを覚悟していたんですよ」
「あ、そうだったんだ」
シュテルが、バトル中に弱気な発言をした。
それは、彼女が対等と判断したものにだけ見せる、1人のカードバトラーとしてバトルの内容を振り返っている素の姿。
それを知っているのは、今のところ『ダークマテリアルズ』の面々だけである。
それほどに、シュテルにとってなのはは強敵だった。
「次が最後、だよね」
「まあ、そうでしょうね」
次のターン。シュテルが勝つにしても負けるにしても、それがシュテルの最終ターンだろう。
シュテルは、残った手札2枚を見る。
言葉を選ばないで言うなら、まさにクソ手だった。
この2枚では、どうやってもこの状況から逆転できない。
(けれど私は、まだ全力を出してはいない)
本気と全力は違う。
シュテルは間違いなく手を抜かずに本気で戦っている。しかしそれと同時に、本気を出しているが故に、全力を出せないでいる。
だがそれも当然といえば当然だ。全力とはつまりトップギアのこと。そしてトップギアは、最初から出して勝てるようなものではない。それをいなされてしまったら、ガス欠でじり貧になって負けていく。
本気で勝利を狙うということは、バトルスタイル次第では全力を自重することと同義になる。そして、シュテルはそういうスタイルだった。
だからシュテルは、勝利を狙った上で全力を出したことは、出せたことは1度もない。
けれど今、それでは勝利に届かない状況に陥っている。本気だけでは、足りないのだ。
(これがおそらく、本気の上で全力出せる、最初で最後のチャンス……)
これを逃せば、もう“あの人”の見た高みにはたどり着けないだろう。
(だから───)
この願い、この理想、この思いが届いたならば。
(―――デッキよ。私にその答えを!)
「私の、ターンっ……!」
これが最後の、シュテルの第17ターン。
シュテルは目を閉じカードを引いた。それを目の前に持ってきて。
しかし、その瞼は上げなかった。