フィールドが、炎に包まれる。
いくつもの火柱が現れては消えて、また現れては消える。中にはフィールドの上空にアーチを描いてる物もある。
驚いたなのはは、現れ消える火柱を目で追いかける時にふと、足もとを見た。
そこはすでに、炎の海と化していた。
いや、違う。
「これは、太陽……?」
そう、まさに太陽。
恒星としての太陽が、フィールドの真下に現れたのだ。このフィールドが今、太陽の上に浮いている状態になっている。
その太陽の上、シュテルの背後の、かなり向こう。
そこに、何かがいた。
「神々を統べる射手座の力よ! 今、太陽の炎をその身に宿し、黄道を貫く光と変われ!」
シュテルは、引いたカードを見ていない。しかし、確信していた。
これは間違いなく───。
「『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』! レベル3で召喚!」
彼の物は、龍にあらず。
その身の半ばは龍であるが、その半身は天馬のそれ。
太陽を駆けるその姿は、荒々しくも、美しい。
駆け上がり、宙を舞うその姿は、神秘そのもの。
フィールドに降り立つその姿は、黄道に刻まれし最強の神。
射手座の力を手に、太陽の龍が今、転生する。
「ナノハ……。これが、私のエース。私の全力です……!」
「光導の、アポロ……!」
煌めく星空の下、燃え盛る太陽の上で今、神星皇とサジットが対峙する。
そして。
「集いし光が、宇宙を駆ける翼と変わる。『機竜シャイン・ブレイザー』を『光龍騎神サジット・アポロドラゴン』に
サジットがその場から跳び上がる。
その半身に生える天馬の翼が消え、そこにシャイン・ブレイザーの翼が
サジットが、その右手に弓を構え、吠える。
レベル3:BP18000。
「アタックステップ! 射抜け、
サジットが、左手の矢を出現させ、右手の弓に添え、そして構える。
「光龍騎神のレベル3
そして、サジットがその矢を放つ。
炎を纏ったその矢は、サジットの弓から放たれると、一瞬のうちにセイバー・シャークを貫いた。
「光龍騎神のアタック時効果で、太陽神龍に指定アタック!」
瞬間、光龍騎神が更なる矢を放った。
一直線にライジングに向かって放たれた矢に、ライジングはヴェスパーを構える。
1発、2発、3,4、そして5発の白い弾丸を放つ。それは寸分違わず放たれた矢に命中し、爆発を起こして矢は消滅した。
しかし。
シュテルは、残り2枚の手札に―――ピスケガレオンの効果でシャイン・ブレザーとともに引いた残りの2枚に手をかけ、そして2枚を手に取る。
「フラッシュタイミング! マジック『バーニングサン』!」
「なっ!? バーニングサン!?」
そして、最後の1枚。それが、赤い光に包まれる。
「手札のブレイヴを、場の『アポロ』に
「ま、待って! サジットはもう
「―――光龍騎神は、ブレイヴ2つまでと
「なっ!?」
その光が炎へと変わり、シュテルの手元から離れる。
「手札の『トレスベルーガ』をノーコストで召喚! 光龍騎神にダイレクトに
その炎が盤面のサジットのもとへ辿り着いた時、その炎が晴れ、サジットに2枚目のブレイヴが
爆炎を祓うように、サジットが黄金に輝き始め、トレスベルーガによって黄道の神がその真の力を取り戻す。それに呼応するように下の太陽からさらに火柱が現れる。
それはもうすでに合体ではない。
開放だ。
黄道の力、光の翼、黄金の輝き。それらが太陽龍のもと1つに集った。
語られることすらなかった最強の神。その手に持つ弓は、変形して剣の体をなしていた。
「で、出たあ! サジット・アポロドラゴンの、ダブル
アリシアの実況が会場とフィールドに響き渡るが、それを聞いていた者は果たしてどれだけいただろうか。
◇◇◇◇◇
瞬間、シュテルの中で、何かが変わった。
最初に感じたのは、快感。
物理的なものではないことが分かったのは、感じた一瞬あとのことだった。
脳内を興奮剤が暴れまわる感覚、と言えば良いのだろうか。なんにしても、初めての感覚だ。これに身を任せれば、もしかすれば壊れるかもしれないと思えるような、そんな快感。
次に感じたのは、熱。
フィールドの演出だ。ダブル
その熱が、さらにシュテルの興奮を加速させる。
最後に感じたのは、炎。
シュテルの周りを、下にある太陽の炎が囲んでいた。
―――いや、違う。
シュテルは、その炎を払うように右手を動かした。
するとその炎は、シュテルの意思に従うように、手に触れることなく去っていった。しかし、まだシュテルの周りには炎は残っている。シュテルは、その炎に何もしない。
炎がシュテルを囲んでいる、のではない。
シュテルが、炎を纏っているのだ。
(これは……)
シュテルは、自身の右手に目をやる。そして、軽く2,3回、手を握ったり開いたりを繰り返した。
その行為に、意味などない。
そもそも、これはフィールドの演出だ。酷く凝っていて、都合の良い演出だとも思うが、決してシュテルの身に特別な何かが起こったわけではない。何かが起こったとすれば、それはシュテルの中の世界だけであり、つまり主観や価値観に何かがあっただけだ。
しかし確実に、シュテルの中で決定的な何かが変わったのも確かだった。
(これが“あの人”が辿り着いた強さの高み……)
そしてこれが、あの人が見た世界。
もしも、そうだというのなら。
(……最高です!)
自分は過去に、ここまで興奮することがあっただろうか。
いや、そんなものはない。
まだ10年近くしか生きていないが、シュテルは確信した。
(これから先、これほどの興奮を覚えることなど、ありえない……!)
たかがバトスピ、たかがゲーム、たかがカードでここまで心が躍っている自分は、狂っているのだろうか。
そんなことはありえない。そもそも、物事の価値など等しく無いと言ってしまえばそうなのだから、興奮を覚えた物事の内容など、決して重要では無い。
それに、もし狂っているとしても、それはそれで構わない。
この興奮を知らずに生きていくのなら、死んでいくのなら、それはもう生まれなかったと同義だ。
それだけの意味が、この一手、このバトルには確実にある。
ああ、最高だ。
このまま死んでも悔いは残らないかもしれないが、そんなことよりも長くこの興奮を噛み締めて生きていたい。
そして、このバトルの決着をつけたい。
おそらく死ぬまで忘れることは無いだろうこのバトルの終末を、決して下らない物にしてはならない。
そして何より、このバトルで戦ってくれた高町 なのはに、どうしても今の自分の本気の上での全力―――全力全開のアタックを決めたい。
故に、告げる。
「行きなさい―――」
シュテルの全力が、本気の声に応えてその剣を構える。
目指すは1つ。
勝利のみ。
「―――ダブル
サジットが、その黄金の剣を構える。
それを見て、ライジングもまた、その手握るヴェスパーを構えた。
しかし、もう遅い。
構えたライジングが引き金を引くよりも速く、斬撃がライジングを引き裂く。
サジットが放ったものだ。そかもそれは、1つだけではない。
「っ! ライジング!」
なのはが叫んだ頃には、既に3つの斬撃によって、ライジングは破壊されていた。爆風の中から、ヴェスパーだけが吹き飛ばされてくる。
「シャイン・ブレイザーの
その爆風が、戦いの余波が、なのはを襲う。
「きゃっ!」
なのはのライフは、残り2つ。
「
その声を受けて、サジットがフィールドをその足で駆け出す。
「光龍騎神の
サジットは、何もしない。
代わりにフィールドの外、下に出来た太陽から現れている火柱が4つ、ヴェスパーを狙う。爆風から逃れたばかりのヴェスパーは、そのまま抵抗することも出来ずに火柱の直撃を食らい破壊される。その横をサジットが何事もなかったかのように駆け抜ける。
なのはは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、そんなことはどうでもいい。
「さらに光龍騎神のレベル1以上アタック時効果!
サジットが、神星皇に切りかかる。
しかし神星皇はその攻撃をレオの盾で受け止めていなし、その隙を見切って、距離を取るべくその場から上空へ飛び立つ。それを、サジットは間を置かずに追いかける。
「そしてこれが、最後です……!」
追いかけてきたサジットに、神星皇は不意打ちにカウンターの剣撃を加える、それを、サジットは自身の剣で受け止めた。
「トレスベルーガの
自身の膨れ上がった力を感じて、サジットは受け止めた剣を弾いて少し距離をとる。そして、有り余る力を発散するように、吼える。
なのはの
それに攻撃するシュテルのダブル
即ち。
「合計BP、30000……」
なのはのその呟きは、誰かの耳に届くことは無かった。
そんなことよりも、サジットと神星皇の戦いが凄まじいのだ。
サジットと神星皇が、同時に剣を弓に変形させ、その手に10本に炎の矢を構え、同時に放つ。
お互いの矢は1本もかすりもせずに交錯し、互いの相手に迫っていって、それをお互いに弓を剣へ変形させ全てを弾く。
直後、神星皇の四方が火柱で囲まれる。
それは現れるだけにとどまらず、神星皇に向かって襲い掛かった。神星皇はそれを、剣で弾き、かわして、盾でいなし、けれど防ぎきれずに1つ直撃してしまう。体制を崩した神星皇に、追い討ちをかけるようにサジットが迫る。しかし、背後から迫るそれに神星皇は何も出来ずに、サジットの剣が神星皇の翼を切り裂く。
神星皇がフィールドに叩き落された。
そしてサジットは、その剣をまた弓へと変形させ、矢を構える。さらに、その背後。フィールド下の太陽から現れたプロミネンスが、数百、数千という単位でそこにあり、サジットの指示を待っていた。
サジットの矢に炎が宿る。
それを躊躇無く放つと、同時に待機していた無数のプロミネンスがその矢を追いかけ始める。
矢は、寸分違わず神星皇に迫っていく。つまり、フィールドを焼き尽くすかのような量のプロミネンスも神星皇に向かっているということで。
神星皇は、それに抗うことすら許されず、矢に貫かれた瞬間に全ての炎をその身に浴びて、フィールドを焼き尽くすかのような爆発を生み出して、破壊された。
分離され残されたレオブレイヴとブレイヴサジタリアスは、しかしフィールドに残り続ける炎に包まれて、破壊されるのは時間の問題のように思える。
そしてその炎は、なのはをも襲う。
「シャインブレイザーの効果! ライフをリザーブへ!」
「っ、きゃっ!」
なのはの残りライフは、1。
ブロッカーはいない。手札は0。シュテルのサジットは回復状態。
「これで終りです、ナノハ」
今度こそ、覆ることの無い勝利宣言が、シュテルから放たれる。
弓をまた剣に変形させ、シュテルの命令を待つサジットは、燃え盛るフィールドを見下ろしている。
「うん、残念……。あとちょっとだったんだけどな……」
サジットを睨んで冷や汗をかきながら、なのはがシュテルの言葉を素直に受け取る。
今まで決して諦めてこなかったなのはが、負けを認めた。
いや、これでは誤解を生むだろう。
確かになのはは負けを認めた。しかしその目は、まだ諦めていない。
今のなのはの思いは、1つ。
次は、必ず勝つ。
(はやり、このバトルは最高です……)
そんななのはを見て、シュテルは改めてそう思う。
油断によって追い込まれ、本気の攻撃にカウンターされ、全力の場に全力で答えられた。
ここまで濃厚なバトルなど、これまでしたことがなかったし、やはりこれからも無いだろう。
このバトルは、シュテルの中で永遠のものになるに違いない。
だからシュテルは、この言葉を紡ぐ。
「ナノハ。……このバトルをアナタとできたこと、私は忘れません」
それは、“あの人”の残した言葉だ。あの時の彼もきっと今の自分と同じ思いだったに違いない。その核心がシュテルにはあった。だから、この言葉を紡ぐ。
なのははその言葉を聞いた時、その意味や意図を掴むことが出来なかった。
しかし、これだけは分かった。
このバトルが、なのはとシュテルにとって、間違いなく最高のものだったということ。
だからなのはも、その言葉に応える。
「私も忘れないよ。でも、だからって次も勝てるとは思はないでね。次は、絶対に私が勝つから!」
「……。いえ、次に勝つのも、私です!」
一瞬、なのはの言葉に少しだけ呆けてしまったが、勝ちたいのはシュテルも同じだ。
まるで子供のようだと、自分でも思う。
けれど、そうやって純粋な気持ちで没頭できる趣味を持っている自分は、自分たちは、やっぱり幸せなはずだ。
シュテルが、盤面のサジットを横に倒す。
「光龍騎神の効果! 十二宮ブレイヴ2体を破壊します!」
フィールドに残された2体が、ついに炎に焼かれ命を落とす。
そしてサジットがその剣を構えて。
「行きなさい!
「ライフで、受ける!!」
そして、なのはの最後のライフは、砕かれた。
やっと終わった……。
ここまで長い話をここまで書いたのは初めてだけど、そんなに達成感は無いかな。
しかし大変だった。
やっぱり、自分のイメージを文にするのは楽しいけど、その分凄い大変だわ。
後日談みたいなのは考えてないけど、気が向いたら書こうかな。
ありがとうございました。良いバトルでした。
しかし、読んでいただいたなら察している方もいるかもしれませんが、私のカードプールは大分昔に停滞してしまっているので、書くためにはまず最新のカード情報などを調べなければならないだとかで、多分滅多なことが無いかと思います。
それでも、バトスピとは関係なしに「なのは」の短編二次創作はここにあげるかもしれないので、そのときはまたよろしくお願いします。
とりあえずこれで「バトルスピリッツ~リリカルなのはinnocent~」は終りです。
読んでくださった皆様、ご愛読ありがとうございました。