暗の使い魔   作:Luta

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第二話 『魔法学院外の決闘』

今日この日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは最も混沌とした時間を過ごしていた。

 

2年生の使い魔召喚の儀式、それはメイジとしての資質を見る重要な機会。

そして、メイジの生涯のパートナーを呼び出す、神聖なる儀式であった。

彼女のこの儀式に掛ける思いは、半端な物ではなかった。

この機会に誰よりも、賢く、立派な使い魔を召喚し、学園の皆を見返してやるのだ。

そうすればきっと、自分のこれまでの努力は報われる。ルイズはそう信じた。

だがしかし、蓋を開けてみればどうであろう。そこに現れたのは人間の男。

それも、両腕に鉄球をくくりつけた、みすぼらしい囚人のような平民だった。

今日のこの時ほど、彼女が落胆した瞬間はなかったであろう。

オマケにコントラクトサーヴァントでは、自分のファーストキスを不本意な形で奪われる始末。

最も、契約の形はもともとキスと定められているので、結果的には大きく変わらないのだが。

彼女にとっては踏んだり蹴ったりであった。

そしてさらには使い魔の男である。

役に立ちそうに無いばかりか、自分は別の世界から来ただの、未来のテンカビトだの、よくわからない妄想をぶちまける。

そして仕舞いには、目を離した隙に逃亡を企てる始末。

 

「冗談じゃないわ!もう!」

 

なぜいつも自分はこうなるのか。なぜ努力を続けても、裏目ばかりなのか。

彼女もまた、この理不尽な現状を呪わずには居られなかった。

 

自分の目前で、逃げる使い魔をレビテーションで捕らえたクラスメイトが言う。

「全く自分の使い魔の管理くらいしっかりしてほしいものだね」

「(わかってるわよ……)」

この程度の嫌味など、普段は何気なく流すルイズである。

しかし、今日この時だけは、ただの言葉が彼女の心に深々と突き刺さった。

「まあいい、彼を部屋まで運べばいいんだね?」

ギーシュの言葉に頷き、そのまま力なく俯く。

なぜ自分は何も出来ないのだろう。

基礎の魔法であるレビテーションでさえ、クラスメイトに助けてもらわなければ使えない。

ただただ悔しかった。拳を固く握り締め、目を強く瞑る。と、その時だった。

「うわあっ!?」

ずどん!と地面に衝撃が走り、土埃が舞い上がった。

「きゃっ!?」

あまりの振動と吹き飛ぶ土くれに、思わずその場に尻餅をつくルイズ。

「な、何が起こったの?」

見ればギーシュも、先ほど居た位置から1メイルほど後方に吹き飛び倒れている。

だがすぐさまギーシュは飛び起き、すくりと立ち上がると、ある一方向を見定め杖を抜いた。

その杖を向けた方向には。

「え?」

自分の呼び出した使い魔の男、黒田官兵衛が立っていた。

10メイル程の距離をあけて二人が対峙する。

「いったい何をしたんだ?」

急な出来事に驚いたのか、やや警戒しながらギーシュが言う。

「なに、お前さんが余りにしつこいんで、コイツをお見舞いしてやっただけさ!」

平然とした様子で答える官兵衛。

ルイズには、状況が理解出来ないで居た。先程の衝撃は官兵衛が起こしたとでもいうのだろうか。

それはあり得ない、とルイズは考えた。

彼はまず、レビテーションにて完全に動きを封じられていた。

仮に、腕にくくりつけられた鉄球をふりまわしたところで、その距離は1~2メイルが精精だ。

その倍以上はなれた距離にいるギーシュに、ましてや空中から手出しできるはずが無い。そう思った。

「どうやら、お前さんを何とかしないと自由になれんらしい!」

官兵衛が言い放つ。

それに対して何を言っているんだ、とばかりに呆れた表情を表すギーシュ。

官兵衛は意に介した様子も無く、変わらぬ口調で言い放った。

「こうなりゃやってやる!小生は、自由だぁ!」

そういうと官兵衛は、両腕を右下段に構えた。

 

 

暗の使い魔 第二話 『魔法学院外の決闘』

 

 

「一体どうなってるのよ……」

ルイズは混乱していた。官兵衛をようやく捕らえたと思いきや、謎の衝撃が地を走る。

その隙に使い魔はレビテーションの拘束から抜け出て、メイジであるギーシュにむかって対峙している。

「ちょっと!何考えてるのよ!やめなさい!」

「やめるか!小生はここで一生過ごすなんざ、ご免なんだよ!」

ルイズの制止も聞かず、官兵衛はそう答えた。何が何でも抵抗をやめないつもりらしい。

そんな様子をみて、対峙していたギーシュも口を開く。

「ルイズの言うとおりだよ。無駄な抵抗はやめたまえ」

杖を向けたままで、ギーシュが言う。しかし。

「やかましい!来ないならこっちからだ!」

官兵衛は、まるで聞く耳を持たなかった。そのまま勢い良くギーシュに向かって官兵衛は駆け出す。

その時、ギーシュが構えていた造花を振るう。

造花から一枚の花びらが足元の地面に落ち、光輝いた。すると。

「何?」

なんと、官兵衛とギーシュの間に、2メイルはあろう、金属製の戦乙女の格好をした人形が姿を現したではないか。

ギーシュの目前まで迫っていた官兵衛は、急な敵の出現にあわてて距離をとる。

「何だコイツは!」

「やれやれ、少々手荒くなるけど構わないね?」

先程よりも余裕を取り戻したのか、気障ったらしい様子でギーシュはルイズに言う。

「ちょっと!何もゴーレムまで持ち出すこと無いじゃない!」

いよいよ尋常でない事態にルイズは声を荒げた。だがそれに対して答えず、ギーシュは静かに官兵衛に告げた。

「どうやってレビテーションから抜け出したかは知らないけど、これまでだよ。

まさか僕の青銅のゴーレム、ワルキューレを前にしてこれ以上抗うつもりかい?」

先程の振動について気になる事はあったが、さすがに屈強なゴーレムを前にして抵抗する平民はいないだろう。

このまま取り押さえて、さっさと連れ戻そう。ギーシュはそう考えていた。

「ハッ!言いたい事はそれだけか?」

だが官兵衛の返答は、予想とは違った。

「何だって?」

「随分魔法ってやつに自信があるみたいだな。だが小生から言わしてみれば、大した事ない。

こんな人形ひとつで満足してるようじあゃな」

官兵衛の言葉に、ギーシュの顔から表情が消える。

「いいだろう。そこまで言うなら仕方無い。ワルキューレ!」

ギーシュの合図とともに、重い青銅の塊がゆっくりと動き出した。

そのまま徐々にスピードを上げ、官兵衛に向かって駆け出す。

その勢いたるや、巨馬が地を鳴らし迫ってくるかのような迫力である。

右斜め上に構えた鉄槌のような拳が、官兵衛に迫る。

「ギーシュやめて!」

ルイズの悲痛な叫びか響く。しかしゴーレムは止まらない。ゴーレムの拳が官兵衛の顔面に届こうとしたその時。

がしん!と鈍い衝撃音が辺りに響いた。

「きゃっ!」

ルイズが思わず悲鳴を上げる。なんとゴーレムの一撃は、官兵衛の両腕を拘束する枷で受け止められていた。

ビリビリと、枷を通じて手首から肘にかけて振動が走る。

拳を振り払い、すかさず逆方向から飛んできた拳を、身を屈めて回避する。

そのまま地面を転がるようにしてワルキューレの脇を抜けると、官兵衛は背後に立ち、再び構える。

と、今度は背後の官兵衛を狙いすましたかの如く、肘鉄が飛んできた。

体重を乗せた一撃を、またも枷で受け止めると、官兵衛は地を蹴り後方へと退避。

眼前に枷を構えた状態でゴーレムと対峙した。

そして、再び迫ってくるゴーレムの一撃を枷で受けては、退避を繰り返す。

「中々やるじゃないか。だが逃げているばかりかい?先程の威勢はどうした」

余裕を崩さず、ギーシュが言う。

先程から官兵衛は、攻撃を受けるか回避するかしかしておらず、防戦一方であった。

そんな官兵衛に、ワルキューレは容赦なく攻撃を繰り出す。そしてとうとう、ゴーレムの拳が官兵衛を捉えた。

両腕ごと枷を跳ね除け、がきり、と鳩尾へ一撃がめり込む。

「うっ!」。

槌で打たれたかのような衝撃に、官兵衛の身体は1メイルほど後方へと動いた。

甲冑を着込んでいた為、ダメージはそれほどでもない。しかし。

「ぐあっ!」

すぐ目前まで接近していたワルキューレがすかさず蹴りを叩き込む。

脇腹への強烈な一撃を喰らい、官兵衛は吹き飛んだ。

「ぐっ……畜生!」

歯噛みしながら、官兵衛はその場に膝をつく。それでも、ワルキューレの攻撃は止まらない。

駆け寄り、動けない官兵衛の頬に一発。

「うげっ」

さらにもう一撃。

「げふっ!」

ワルキューレの容赦ない攻撃が続いた。

官兵衛も所々を枷で防いでいたが、攻撃を捌ききれない。

官兵衛が荒い息をつきながら、ギーシュを睨んだ。

「おや?もう終わりかね?」

そんな官兵衛の様子を見て、ギーシュが勝ち誇った笑みを浮かべる。

あれだけの防戦による疲労に加え、先程からの攻撃。もう立っているのも辛いと判断したのだろう。

息を切らす官兵衛にゆっくりと、ゴーレムが近づく。

「ギーシュもうやめて!あんたも十分わかったでしょう!?」

と、そこへ再びルイズの制止が入った。遠くはなれた箇所から見守っていたルイズが駆けつける。

 

一体なんでこんな事になってしまったのだろう。

自分はただ、逃げ出した使い魔を連れ戻してくれ、と頼んだだけだった。

元はといえば、逃げ出したこの男が悪い。先程も騒ぎを起こしていたようだし、非があるのは官兵衛だ。

だがそれにしても、ここまでする必要があったのだろうか?相手はただの平民である。

ゴーレムまで持ち出して、一方的に痛めつけて良い筈はない。

呼び出したばかりとはいえ、自分の使い魔がいたずらに傷つく様を、ルイズはこれ以上見たくはなかった。

「いい?落ち着いて。平民はメイジには絶対勝てないのよ。」

ルイズは官兵衛に説得を試みる。これ以上は無駄である、と。

「なんだってんだ?」

「聞いて。あんたがどうしたいのか知らないけど、あんたの衣食住は私が保証するわ。

帰りたい場所があるのなら、帰る手段だって探してあげる。だからもうやめて!」

ルイズの悲痛な願いだった。

「一体どういう風の吹き回しだいルイズ。捕まえてくれと頼んだのは君じゃないか。」

ギーシュがやれやれといった様子で言う。

「だからってこんなにすることないじゃない!」

ルイズが叫んだ。

「とにかくこれ以上はもうやめて。こいつも十分わかったわよ」

ルイズがギーシュに必死で訴えかけた、その時。

「何がわかったって?」

息を切らし、膝をついていたはずの官兵衛がすくりと立ち上がった。

「あ、あんた……」

「あんたじゃない。小生は黒田官兵衛だ。さっき名乗っただろうが」

官兵衛は苦々しい顔でルイズにそう言うと。

「頃合か……」

再びギーシュに向き合った。そして。

「金髪の!お前さんの人形はやっぱり出来損ないだな。そんなんじゃ人っ子一人殺せない」

仰天するセリフを吐いた。流石のルイズも顔を青くして、官兵衛を見やる。

「ちょ!ちょっとアンタなに言ってるのよ!!」

彼女は思わず官兵衛に食って掛かった。

「あんたさっきまでコテンパンにやられてたじゃない!これ以上ギーシュを挑発して――」

「出来損ないだと……!」

その声にハッとすると、ルイズは声の主を見やった。

そこにはわなわなとふるえ、薔薇の杖を固く握り締めたギーシュがいた。

「そうだ出来損ないだ。悔しいならもっとスゴイやつを出してみろ!それとももう店じまいか?」

そのセリフで、ギーシュの中の何かが切れた。

「この平民め!こっちが手を抜けばいい気になって!もう許さないぞっ」

ギーシュは激高した。即座に杖を振るうと、花びらが1枚2枚と地面に落ちて行き。

「ワルキューレッ」

なんと一気に6体もの戦乙女が姿を現した。

「(来た来た来たっ!)」

官兵衛は内心ほくそ笑んだ。

「なんじゃ!数が増えただけか!芸のない!」

「黙れっ!いけワルキューレッ!その生意気な平民の奴隷をもっと痛い目にあわせてやれ!」

新しい6体のゴーレムと先程の1体。合わせて7体のゴーレムが、ギーシュの合図と共に津波のように押し寄せた。

「ばかぁっ!何考えてるのよっ!」

ルイズが官兵衛にむかって叫ぶ。

しかし、ガシャガシャと押し寄せるゴーレムの群れの音にかき消され、ルイズの声は届かなかった。

ゴーレムの群れが官兵衛に一斉に攻撃を加えようとした。

「いやあッ!」

ルイズは目を覆った。だが次の瞬間。

「うおらっ!」

ガキン!と金属を弾くような音が辺りに響いた。

「なっ、何だと!?」

ギーシュが驚きの声を上げる。

ルイズが恐る恐る目を覆っていた手を開く。するとそこには、全身をゴーレムに打ちのめされる官兵衛――はいなかった。

代わりに見えたのはもっと別の光景。官兵衛を中心に、7体のゴーレムが地面に倒れ伏しているではないか。

ある物は尻餅をつくような格好で。あるものはもんどりうって転んだような格好で。

当の官兵衛自身はまったくの無傷。それどころか、コキコキと首を回しながら、自分の鉄球に座り込んでいる。

一体何が起こったのだろうか。

「お前っ!一体何をしたんだ!?僕のゴーレムが一瞬で……」

「何、余りにも大振りな攻撃なんで、こいつで弾き返させてもらったのさ」

そう言うと、官兵衛はジャラリと鎖ごと自分の枷を持ち上げて見せた。

どういうことだろう。まさかあの枷一つで、7体のゴーレム全ての攻撃を弾いて見せたとでもいうのだろうか。

ルイズもギーシュもにわかには信じ難かった。

「どうした!まだ人形は動かせるんだろう?もっと激しく打ち込んで来い!」

「くっくそっ!この青銅のギーシュをなめるなよっ」

ゴーレムたちはよたよたと立ち上がると、再び官兵衛に向かって突進を始めた。

今度は大振りな一撃ではなく、両腕を用いたラッシュ攻撃が官兵衛を襲う。

ルイズが危ないと思った時、彼女は再び信じられないものを目にする。

なんと、官兵衛は受け切っていた。全てのゴーレムの攻撃を、あの小さな枷で。

「ば、馬鹿な!」

ギーシュの顔から余裕の表情は完全に消え去っていた。

それは目にも留まらぬ早業。

両の腕を封じられているとは思えない動きで、あらゆる方向からの拳を、完全に捌き切っていた。

「うそ……」

ルイズもこれには驚きを隠せずにいた。

「くっ!なぜ当たらない!」

「連携がなってないな、お前さん」

なお攻撃を激しくするも、その拳はまるで当たらない。

「(いいぞ!この調子ならこの枷も……)」

「おらぁっ!」

再び激しい金属音が鳴り響く。

官兵衛が左下より枷をかち上げると、官兵衛を囲んでいたワルキューレ達が放射状に吹っ飛んだ。

「すごい」

ポツリと言葉が漏れる。ルイズはただただ、目の前の光景に見惚れていた。

しかし当の官兵衛は。

「だーーー畜生!何故じゃ!」

なぜか、ガシンガシンと鉄球に枷を叩きつけ、何かを悔しがっていた。

「こ、こんな。こんなことがあってたまるか!ワルキューレェッ!」

ハッとしてルイズは再びギーシュを見る。見れば薔薇の花びらによって、次々と地面に武器が練成されていくではないか。

それは剣であったり、ハルバートであったりと多種多様な武器が練成されていた。

7体のゴーレムが、次々と練成された武器を手に官兵衛に迫った。

「いけない!」

ルイズが叫ぶ。

「なっ!なんて便利なんだ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

暢気な感想を述べてる官兵衛に、思わずツッコミを入れるルイズ。

今はそれ所ではない。

いくら先程の早業があるとはいえ、リーチの長い武器相手に果たして枷ひとつでそれを捌き切れるのか。

今度こそまずい。ルイズはそう思った。

「カンベエ!危ない!」

ルイズは官兵衛の名を呼ぶ。しかし、官兵衛は枷を鉄球に叩きつけているのみで、前を見ようともしない。

「何故じゃ……何故じゃっ」

「何やってるのよバカッ!」

武器を持ったワルキューレたちが円陣を組んで、官兵衛を取り囲んだ。もうだめだ、とルイズは思ったその時。

「なーぜじゃあああああああああっ!」

官兵衛が一際大きく、自分の枷を地面の鉄球に叩き付けた。

ズドン!と官兵衛を中心に巨大な振動が発生した。

「きゃっ!」

「うわあっ!」

官兵衛から離れていた、ルイズもギーシュも、あまりの振動に体制を崩しその場に倒れこんだ。

周囲を囲んでいたワルキューレたちが、青銅の塊が、木の葉のように宙を舞った。

高さにして3~4メイル以上。そして――

がしゃり!

地面に叩きつけられた戦乙女達は衝撃でバラバラに砕け、一体残らず動かなくなった。

「ぼ、僕のワルキューレ達が……」

倒れたままの姿勢で、その様子を見ていたギーシュは、力なくうなだれ、地面に杖を落とした。

「私の使い魔が……ギーシュに。メイジに勝った?」

ルイズは驚きのあまり、倒れた体勢から立ち上がれずに居た。

そして官兵衛は。

「何故……何故こんだけやって外れんのじゃ!この枷は!」

静かにうなだれていた。ゴーレムの攻撃でも傷一つつかない枷を、恨めしく睨みながら。

 

「一体なんの騒ぎ!?」

ふと唐突に、塔のほうから声が聞こえてきた。

見れば紫色のローブに帽子をかぶったふくよかな女性が、こちらに駆けてくるのが見えた。

「ま、まずい!」

官兵衛は焦った。これだけの騒ぎを起こしたのだ。

見れば自分の周りにはバラバラに壊れたゴーレム。自失呆然となった生徒二人。

そして見るからに怪しい自分。何かと追求されても言い逃れは出来まい。

「こうなったら!これじゃあ!」

官兵衛は咄嗟に足元の鉄球に全身で抱きついた。そして――

ぎゅおおおおお!

なんと官兵衛をしがみ付けたまま、鉄球が高速で回転し始めたではないか。

黒い鉄球が、官兵衛の服の色と同じ色の球体に見えるほどまで、その場で高速回転し、その次の瞬間。

「うおおおおおおっ!」

ぎゅおん、と超高速で林の方角へと疾走した。

馬以上のスピードで疾走する球体は、あれよあれよという内に見えなくなり、林の中へと姿を消した。

その一部始終を、未だ地面に座り込んだままの二人の少年少女は、唖然として見ていた。

「わ、私……何者を召喚してしまったの?」

「な、何なんだ彼は一体……」

二人はそれぞれ、ポツリとそんな言葉を漏らした。

 

機略重鈍

    黒田官兵衛

          勝 利

 

 

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