拝啓天国の親父殿
この町に来てから約半年が過ぎました。
最初は慣れない環境での生活に苦労もしましたが、何とかやっています。
このHL(ヘルサレムズ・ロット)では日本にいたころでは味わえなかった非日常がゴロゴロと、まるで日常のように転がっています。身に降りかかる火の粉を振り払うために毎日大変ですが、仲間とともに切磋琢磨しながら頑張っています。
この町では命など埃よりも軽い存在ですが、親父殿からもらったこの命と骨を大事にして生きています。
それでは親父殿、また今度墓参りに行きます。それではまた。
異界と現世が交わる街、HL。
この町は三年前まで「ニューヨーク」だったのだが、突如開いた「ゲート」によって一夜にしてこのHLが構築された。
この一連の出来事は「大崩落」と呼ばれ、いまだに原因は分かっていない。
大崩落から三年、今この町は今後千年の覇権を争う戦場となっている。
この物語はそんな街で世界の均衡を保つという名目で暗躍する超人秘密結社「ライブラ」に所属する日系の少年、御仏 一茶(みほとけ いっさ)通称「仏茶」(ブッチャ)の物語である。
異界と現世が交わる街、HL。
そんな場所で僕は今ライブラという組織を探してさまよっていた
日本からはるばるとこの町まで来たのは今は亡き親父のためだった。
僕の親父は癌を患っていた。すでに手術を何度も日本で行ってきたが、そのたびに転移を繰り返し、体力的にも手術はあと一回が限界だった。その最後の一回にすべてをかけるべくその時最新の医療技術を持っている医者を探してところ、このHLにあるとある病院に行き着いた。その技術は異界産で手術の費用はとてつもないことになってしまったが、ぼくにとっては親父と比べるまでもない額だった。
幸い、その医者とは比較的簡単にコンタクトが取れ、現地まで赴くことになった僕たち親子は飛行機に乗り、HL近くの都市に来ていた。計画としてはその都市に一泊し、翌日HL入りする予定だった。しかし、その晩、宿で二人で休んでいると異形の者が現れた。僕は思わず腰を抜かしてしまい床に座り込んでしまった。
「選ぶがよい
この骨を受け入れるのはどちらだ」
意味が分からなかった。こんな突然骨受け入れる?そもそも骨ってなんだ?
しかし、そんな疑問は次の瞬間異形の者が取り出したアタッシュケースの中に入っていた骨を見て吹き飛んだ。
なんというか気配が違った。まるでこの世の物とは思えなかった。
そしてこうも思った、この骨があれば親父は助かるんじゃないか?
確証なんてなかった。ただそう思わせるほどのエネルギーを持った骨だった。
しかし、僕は躊躇してしまった。何となく理解したのだ。受け入れないものには骨はいらない。
自分と親父を天秤にかけた。親父は何にも代えがたい存在だが自分と天秤にかけるとどうしても自分に天秤が傾く。親を文字通り骨抜きにしてまで自分は生きたかった。自分の中で結論は出た。しかし、それを言葉にできなかった。今までの親父との思い出が頭を巡り始めてしまったのだ。ガキの頃連れて行ってくれた公園やプール、一緒にした食事。そうなると僕の結論は簡単にひっくりかえってしまった。自分が犠牲になろう。親父が生きていればもうなんでもいい。そう思い思考の海から上がってきた僕の目の前には肉の塊があった。
何が起きたかわからなかった。しかし、理解する暇もなく首にチクッという少しの痛みと眠気が襲ってきた。僕はそれにあらがえずに意思を手放してしまった。
目を覚ました時、全身が自分のものでないような感覚に襲われた。そして理解してしまった、自分の中に骨があること。親父が骨抜きにされてしまったこと。僕は状況を確認しようと、周りを見回したがそこにはぺしゃんこにつぶれた親父の体があった。僕はあまりのショックにまた意識を手放してしまった。
それから数日間何があったかはよく思い出せない。思い出せるのは自分への憤りと異形の者に対する恨みだけだった。異形の者を殺したかった。復讐したかった。自分でもなぜこんな思考に行きついたかわからなかったが、その時の自分にはそれがすべてだった。
その数日後、僕はHL入りした。やはり異形の者を探すのはここだと思ったのだ。
HLでの聞き込みの結果は決していいものとは言えなかった。しかし、手がかりの手がかりになるかもしれないものは見つけた。それがライブラだった。
「なんで見つからないんだよ!」
苛立つ気持ちを抑えきれず、思わず叫んでしまう。
いらいらする。今日だけでなく最近不運続いてるのだ。
銀行強盗に巻き込まれたり、半分に分割された邪神に攻撃されたりと不運が過ぎる。
しかし、邪神騒動の時にライブラの一員と思われる一人の女性を見かけたのだ。
今はその女性を探しているのだが見つからないのだ。
正確には一度見つけて声をかけたところいきなり消えてしまったのだが。
やはりライブラに行きつくには騒動の中心にいかなくてはだめなのかもしれない。
そうして僕は騒動を探しに町をさまよう。