大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた   作:さくたろう

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このシリーズも15話ですね。
前回の話が9月の話でしたが、今回は八幡の誕生日SSの関係上、書けなかった話を書いてみました!
時期的に7月になりますね、それではどうぞっ


私は彼の家に泊まり込む

 七月、私たち一年にとって大学最初の試験が控えてた。

 うん、どうしよう……正直碧たちとふざけすぎて、まともに講義聞けてなかった私にとってこれはピンチ、ホントにピンチなんだよね……。このままじゃ赤点で単位が取れなくて留年なんてこともあるかもしれない。そんなことになったら先輩になんて思われるか……嫌われる? いや、多分あの先輩のことだからそれで私を嫌いになったりはしない……よね? でも物凄い上から目線で馬鹿にされそう……

 

「あぁぁどうしよぉぉぉ……」

 

「どうしたのいろは? なにかお悩みかな? お姉さんに相談してごらん?」

 

 後ろから陽気な声で話しかけてきたのは友達の碧。私がこんなに必死で悩んでるのに、なんで一緒にふざけてたはずの碧はこんなに呑気にしてるの? むう……。

 

「碧、試験は大丈夫なの?」

 

「試験……? あぁ大丈夫、大丈夫。私基本は一夜漬けだしね、大学受験もそれでなんとかなったし!」

 

 天才? 普通の学期末とかならわからなくもないけど、大学受験を……しかもこの大学はレベルは低くない、むしろ私立大学の中ではトップクラス。それを一夜漬けでとかどういうこと!?

 ……でもまぁ今はそれどころじゃない。碧の頭が私の予想以上だったのは嬉しい誤算だし。

 

「ねぇねぇみどりぃ~……べんきょう、おしえて……?」

 

「うぐっ……あんたのそれ卑怯だから……男なら確実に落ちてるよ……」

 

 ふふんっ、当然だよっ。でも碧もすごい効いてるじゃん! やっぱり百合……?

 

「でも私はいろはに勉強は教えないよ?」

 

「な、なんでよー! 私たち友達じゃん! おーねーがーいー」

 

「友達だから私に教わるよりいい方法を教えてあげる。むしろなんでこんな簡単なことをいろはが気づいてないか不思議だけどね?」

 

 んん……? どういうことだろ、碧に教わるよりいい方法……? あっ……そうか。

 

「どうやら気づいたようですねいろはさん! そうだよ、せっかくなんだし比企谷先輩に教わればいいんだよ。せっかく同じ学部で同じ学科なんだからさー、この手を使わない手はないんじゃないの?」

 

 碧、天才! まあ私も今気づいたけどねっ。確かにこれなら先輩と一緒にいれるし、勉強もできるしで一石二鳥だよね。なんでこんな簡単なことにすぐ気づかなかったんだろ。そうと決まれば早速先輩にメールをしてっと……

 

 

―――――――――――――――

送信者:いろは

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タイトル:Re:せんぱーい……

───────────────

添付ファイル:

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本文:せんぱーい、やばいです

やばいです……(´;ω;`)

 

試験勉強したいんですけど

私一人の力じゃ厳しいんです!

助けてください˚‧º·(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )‧º·˚

 

 

 

     -END-

―――――――――――――――

 

 

 よし……とりあえずはこれで大丈夫かな? どうせ先輩のことだから返事が来るまでしばらくかかるだろうし気長に待とうかな。

 

 一限目の講義の教室に入り、携帯を取り出すと新着メールが一件来ていた。まさかあの先輩がこんなに早く返信するなんてありえないと思いつつ、少しだけ期待をしてメールを見ると期待通り先輩からのメールだった。

 

 

―――――――――――――――

送信者:先輩

―――――――――――――――

タイトル:Re:Re:せんぱーい……

───────────────

添付ファイル:

―――――――――――――――

 

やだ

 

 

     -END-

―――――――――――――――

 

 

 うん、非常に先輩らしいメールですね……。なるほど、なるほど? そういうこと言っちゃいますか。いいですよ、ならばこちらにも考えがあります。

 それから一限目の講義が終わると、私はすぐにとある人物に電話をする。電話の相手は、まるで私からの電話を待っていたかのようにワンコール目で電話に出る。

 

『おはよう、いろはちゃん。ハッチーから聞いたよー』

 

 ふふっと声を漏らす金沢先輩。GW中に先輩で困ったことがあったら助けてあげると言われていたので、ここで私はこのカードを切ることにした。

 

「それじゃあお願いしてもいいですか……?」

 

『うん、まかせてー』

 

 そのままお礼をして電話を切る。ひとまずこれで大丈夫なのかな? でもどうやって説得するんだろ……。あの人も何か先輩の弱みを握ってるのかな? ……握ってそうだなぁ。まぁもし成功したらあの人には何かお礼しなきゃかな。

 午前中の講義が終わり、私たちが学食に向かうと入口には先輩が立っていた。

 

「おい、一色、お前卑怯だぞ。金沢使うとか反則すぎんだろ……」

 

「はて? 先輩は何を言ってるんですか? あ、ちょうどいいので先輩勉強教えてくださいよー。前に本気だったら教えてくれるって言ったじゃないですか」

 

 そうなんだよね、先輩は前に教えてくれるって言ったのに、さっき断るとかひどいんですけど!

 

「いや、それは編集者になるための勉強だろ? 試験勉強は日頃ちゃんとしてれば問題ないはずだろ。それを切羽詰てるってことはお前まともに講義受けてねえだろ。それは自業自得だ」

 

 うぐ……これは正論すぎて言い返せない。

 

「まぁでもあれだ。金沢にたのま、いや脅されたし見てやるよ……言っとくけど今回だけだからな。次からは試験勉強は自分でやれ」

 

 っつ~~~! ありがとうございます金沢先輩っ。これは今度ちゃんとお礼しなくちゃっ。

 

「それじゃ今日から先輩のおうちで勉強会ですね! 私お泊まりセット持っていきます!」

 

「はい? なんで俺んちでやるんだよ……」

 

「え? 先輩もしかして私の家でやりたいんですか? いえ、確かに先輩なら私の家に来て泊まったりしてもいいですが流石にいきなりそれは難易度高いと言いますか次回までに心の準備をしておくのでそれまで待ってください」

 

 い、言い切った……、うん、もはや何の断りも入ってないな私。完全にデレデレですねこれ。

 

「お、おう……。とにかくだ、勉強なら大学の図書館とかでもいいだろ? 別に俺の家でやる必要はないだろ」

 

 もう! いい加減察してくださいよ! あなたの家で先輩と二人で過ごしたいんですよ、言わせないでください、恥ずかしい。

 

「それじゃ、間に合わないんですよ、先輩、私ピンチって言いましたよね? 徹夜覚悟でこれから勉強しないとまずいんです。あっ……安心してください先輩、その間は私が先輩のためにご飯とか作ってあげます、どうですか可愛い後輩が作るご飯食べたくないですか?」

 

 先輩は少し考えたあと「はぁ……」とため息を吐き、先輩の家で勉強会をすることに了承した。まぁ金沢先輩がバックについてる時点で、私の案を断ることはできないんだから抵抗なんて無意味なのだっ。

 

「……で、いろは……いつまで二人でイチャついてるのかな? 私たちお腹減ったよ」

 

 あっ……すっかり碧たちの存在を忘れてた。というか周りの人たちがチラチラこっちを見てるしなんか恥ずかしいんですけど。

 

「い、イチャついてないから! ね、先輩!」

 

「お、おう……」

 

 あーもう、ちょっと照れないでくださいよ! キモイです、でも好きです!

 ニヤニヤと碧たちが先輩と私を見る。流石に恥ずかしいのでもうこの場を離れよう。先輩とは後でいくらでも絡めるんだしっ!

 

「そ、それじゃあ私たちお昼まだなので、また後でっ」

 

「おう」

 

 先輩と別れて私たちは食堂に入る。今日は日替わり定食を選んだ。毎日おかず変わるし、A、Bランチより安いんだもんいいよねっ。

 

「それにしても、あんなやり取りしててまだ付き合ってないんだもんいろはたちの関係ってなんなんだろうね」

 

 そう言われて考える。確かに涼香の言うように今の私たちの関係ってなんだろ? 私は先輩のことが大好きで、先輩も私のことを嫌いではないはず……だよね?

 

「んー、ぼっちな先輩に構ってあげる可愛い後輩?」

 

「ハッ」

 

 うわっ、碧に鼻で笑われたんですけど!

 

「そうじゃないでしょ、ぼっちだった先輩を好きすぎて構って欲しい後輩でしょ?」

 

「ちょっ、何言ってるのかな碧ちゃん……?」

 

「いやいや、別にもうみんな知ってるし照れるところなの?」

 

 いやね? 流石に人にそう言われるのと自分で好きだと宣言するのはちょっと違うんだよ? 人に指摘されるとやっぱりちょっとだけ恥ずかしいわけでして。

 

「もうなんでもいいからっ! 私先に行って席取ってる!」

 

 私は、恥ずかしさを隠して食べかけの日替わり定食を一気に掻き込んでみんなより先に学食をあとにした。

 

 午後の講義をいつもより真面目に受けると、意外と時間の流れが早く感じるもので、気づけば今日の講義を全て終えていた。私は一度帰宅して先輩の家に泊まるための荷物をまとめる。何日泊まるかわからないし用意は多いほうがいいと思って少し大きめの鞄を持って家を出た。

 

 先輩の家に着き、呼び鈴を鳴らすと、だるそうな声が中から微かに聞こえる。玄関の扉が開くと先輩が声のとおりだるそうに迎えてくれた。……迎えてくれてるのかなこれ。

 

「お邪魔しまーす」

 

「本当にお邪魔してるよな」

 

 この先輩本当にひどいですね! せっかくのニコニコ笑顔での挨拶もこの人にはまるで効果がないようだ。

 

「とりあえずなんか飲むか? コーヒーなら今淹れるけど」

 

 毎度毎度思うけど先輩、その一度私を不安にさせてからの優しい対応は狙ってやってるんですか? 不本意ながら効果抜群なんでやめてください。……やっぱりやめないでください。

 

「頂きます……」

 

 先輩がキッチンに向かったので私はテーブルに試験勉強の準備をする。テーブルには先輩のノートが何冊が置いてある。表紙の文字をみると今私たちが受けてる講義のノートのようだ。

 

 こうやってちゃんと準備してくれてるところとかホントあざといんですよね……

 

「ほれ、それ飲んだら始めるぞ」

 

 コーヒーを淹れ終えた先輩が戻ってきた。

 

「あ、はい。先輩は真面目にノートとかとってるんですね」

 

「ぼっちは自分でノートとらなきゃ助けてくれるやつがいねえんだよ」

 

 なるほど、納得してしまいましたよ。でも大学での先輩はぼっちじゃないし助けてくれるでしょうに。

 

「そうかもしれないですけど今の先輩はぼっちとは呼べないと思いますよ?」

 

「例え今現在ぼっちじゃなかったとしても、今まで培った習慣つうのはすぐには抜けないの。少しは俺を見習って自分でノートとることを覚えろ。人のノート写すとか本来なら最低だぞ。今回だけは多めに見て写させてやるけど次からはちゃんと自分でとれよ」

 

「はーーい」

 

 まぁ実際先輩の言うことは正論だし、いやぼっちだからの件は正論とは呼べないけどね? これからはちゃんとノートとるとしますかー。

 先輩のノートはとても綺麗にまとめられていた。よく考えたら先輩の字をちゃんと見るのは初めてかも。先輩ってこういう字を書くんだなぁ、字が上手い人ってかっこいいよね、先輩はそれ以外もかっこいいけど。

 

 何ページか写し終えて次のページを開くと、それ以降真っ白のページが続いてることに気づいた。今ちょうど私たちが受けてる部分以降が書かれてない。去年だけなかったってことはないからおかしいなと思い、さらにページをめくると何枚かの紙が挟まっていた。その紙は先輩の字とは違う字で書かれたノートをコピーしたものだった。

 

「……先輩、これなんですかね?」

 

 私は先輩のノートに挟んであったコピーを見せる。

 

「なんだよ……あっ」

 

 今「あっ」って言いましたよね? 「あっ」ってなんですか。

 

「これはあれだ、あれ。ノート忘れた時に俺が別のノートでまとめたのをコピーしたんだよ」

 

「でもこの字、先輩の字じゃないですよね? もっとこう女の人の字っていうか。これ金沢先輩のコピーしたんじゃないですか?」

 

 大学で交流してる先輩と仲がいい女性なんて限定されてる。つまりこれは先輩がノートをとらなかったのを金沢先輩に助けてもらったということになるわけで、さっきまでの説教はなんだったんでしょうかねぇ、先輩? 何かカッコイイこといろいろ言ってた気がしますが。

 

「ぼっちでもたまには疲れてる時があんだよ……」

 

 はいー、開き直り入りましたー! これじゃあ私のお願いは断れないですよねー、せ・ん・ぱ・い?

 

「ぼっちの先輩でもそうなんですもん私がノートとってなくても仕方がないですね」

 

「いや、それは違うだろうが。はぁ……まぁいいや……とりあえずお前はそのままそれ見ながら勉強しろ。それでわからなかったことがあったら聞いてくれ」

 

「はーい。ではではせんぱいっ、よろしくでーす」

 

 最近やってなかった敬礼をやってみたんだけど。……ちょっと恥ずかしいですねこれ。

 

「変わらないな、お前」

 

 ふっと鼻で笑われた気がしたけど、そんなに嫌な気分にはならなかった。むしろ目は私を見ながらもどこか違うところ……過去でも見ているような気がした。

 

 グゥー……

 

 しばらく勉強をすると、時刻も七時に差し掛かろうとしたところで先輩のお腹がなった。

 

「腹減ったのか? 休憩するか」

 

 グゥー……

 

 先輩のお腹がなった!

 

「いや、私は平気ですけど。先輩がお腹すいたなら何か作りますよ」

 

「いや、さっきからお前のお腹なってるじゃん」

 

 この人にはデリカシーって言葉がないんですかね!? そこはさり気なくスルーしたりしてあげるのが紳士ってもんじゃないんですか!

 

「あぁ……一色、俺腹減ったんだけど、何か作ってくれない?」

 

 そうですかそうですか。先輩お腹減ってたんですかー、私はそんなに減ってないんですけど先輩がお腹すいたなら仕方ないですね。私の手料理を披露すると気が来ましたか。

 

「仕方ないですねー。では食材は用意してきたので台所をお借りしますね」

 

 私は持ってきた食材で料理を始める。ここは王道で攻めるべきかで悩んだ結果、肉じゃがに決めた。男の人って好きでしょ? 肉じゃが。お味噌汁も同時進行で作り始め、できたのは八時を少し過ぎた頃だった。流石にお腹空きすぎてやばいです……

 

「先輩、できましたよ~。いろはちゃんスペシャル肉じゃがとお味噌汁ですっ。どうぞ召し上がれ」

 

「おぉ、さんきゅう。普通に美味そうだな」

 

「当たり前ですよ、これには私の愛情がたっぷり入ってますからねっ」

 

 ふふん、これで先輩のハートも鷲掴みですよ?

 

「美味いな、だがまだ小町の方が上だ」

 

 …………はい? 先輩? ここで小町ちゃん出しちゃいます? 流石にそれは私でもドン引きというか、何も言えないんですけど?

 

「でもこの味噌汁は毎日飲みたいくらい美味いよ」

 

 ……そ、そんなお味噌汁を褒められたくらいで浮かれたりしないんですからね!? どうせなら肉じゃがを褒めてくださいよ! 肉じゃがを!

 

「先輩は本当に捻くれてますね……どうせならお味噌汁じゃなくて肉じゃがのほうを褒めてほしいんですが」

 

 私がそう言うと、何やら俯いてぼそぼそと呟く先輩。残念ながら内容までは聞こえなかった。けれど先輩の耳が少しだけ赤く染まっていた気がしたので何か恥ずかしいことでも言ったのかもしれない……聞きたかった!

 

「ごちそうさん」

 

「お粗末さまです」

 

 二人共夕飯を済ませて試験勉強の第二ラウンドが開始された。二人でテーブルに向かい、先輩が先に座る。それに続き私は今度は先輩の横に座った。

 

「……なんで隣に座ってんの?」

 

「え? 先輩わからないんですか? 向かい合って座った場合、ノートの内容とか確認してもらうのに向きが反対になって見にくいじゃないですか! 先輩が見やすいようにという私の優しさなんですよ?」

 

「いや、そういう優しさはいらないから、戻ろうな?」

 

「い・や・で・す」

 

「はぁ……わかったよ……その代わりあんまりくっつくなよ」

 

 なんですか、なんですか先輩、照れてるんですか? これ言ったら強制送還されそうなんで言いませんけど。

 先輩の了承をもらったところで今度こそ本当の第二ラウンドが開始された、されたのだけれど、久しぶりに本気で勉強した疲れと、お腹いっぱいご飯を食べたせいで急に眠気が襲ってきた。第二ラウンド開始後二十分くらいたったあとだった。

 

 隣の先輩をみると、既にあぐらをかきながら眠っていた。それを見て私の眠気はさらに加速したので、先輩に責任をとってもらうためにテーブルをどかして先輩のあぐらに自分の頭を乗せる……案外気持ちがいいもので、横になった私はすぐに眠りについてしまった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

しかし、この二人いつになったら付き合うんですかね……こんなのもう確実に突き合ってるレベルなのに!





毎回感想は何度も読ませていただいてます。本当にありがとうございます!

それでは感想や評価等お待ちしております(`・ω・´)

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