今日はお兄ちゃんの退院日、手続きとかめんどくさい事はお父さんに押し付けてお兄ちゃんを迎えに行く。お見舞いも一週間に一度くらいきたけどやっぱり小町は寂しかった、でもそんな日々も昨日で終わり!おはようからおやすみまでお兄ちゃんの提供でお送りします!
……あっ!
「おにぃーちゃーん!」
見つけたお兄ちゃんに向けて手をふりふりと振る、距離があるから何を言っているか聞こえないけどお兄ちゃんは何か話しているみたいだった。でもお兄ちゃんが画面に向けて話しかけたり、どうでもいいこと呟いているのはいつものことだから、ちゃんと元気になってよかった。
「おう、小町。久しぶり」
「もー、一週間前にあったばっかりでしょ?」
「一週間も前だろ」
そ、それは一週間の間小町に会えなくて寂しかったという事!?お、お兄ちゃんったら何時の間にそんなイケイケでメンメンなセリフを……、うん小町も少し暴走してまぁす。
「そろそろお父さんも終わるだろうし、いこっか」
「そうだな」
そういえばお兄ちゃんと外を歩くのも久しぶりな気がする、中二病とか失恋とか受験とかであまりかまってもらえなかったなー。今日はずっと小町のターンなのです!
「……ああ、自慢の妹だよ」
「? 何か言った?」
「い、いや何でもない」
……変なお兄ちゃん。いつもとは違う感じで変なお兄ちゃん。小町の前で誤魔化す様な態度とったのなんてフラれた時だけだったのに。何隠してるんだろう?
「お兄ちゃん」
「ん?」
「知り合いでもできた?」
何となく、理由を付ければただの勘。今のお兄ちゃんは前お見舞いに来た時と何処か違う、人が変わるのは人か人が触れたものってお父さんが言ってた気がする、……中二病のお兄ちゃんを見ながら。
「あー、知り合いの定義は分からんが、図書館で少し話した奴ならいる」
「お兄ちゃんと話した人がいるの!?」
「そこまで驚かれると悲しいぞ」
これはゆゆしき事態だよお兄ちゃん!
「女の子!?男の子!?」
「落ち着け、深呼吸しろ」
……む、確かに病院で話す声量ではなかったかも。反省反省。
「それでそれで?」
「……女子」
「うそぉ!!」
今日で一番大きな声を出してしまい、看護師さんやお父さんに怒られるはめになっちゃた。でも小町は悪くないよね、あのお兄ちゃんが小町以外の女の子とお話しできるなんて驚くしかないよ。
* * *
「なるほどー、お兄ちゃんも隅におけませんなー」
「これで満足か……」
小町が帰りの車の中でたくさん質問したせいで、家に着いた時にはお兄ちゃんは疲れ果ててしまった。小町もハルさんにあってみたかったな~、どうやらハルさんはお兄ちゃんより一足早く退院してしまったみたい、そこでメルアド交換しないのはポイント低すぎるよお兄ちゃん……。
「うんっ、次会ったら連絡先交換してね」
「えー、次会ったときに相手が覚えてるとは限らないじゃん」
「だいじょぶ! お兄ちゃんの目は忘れられないから」
「待て、どういう意味だ」
どういう意味もそのまんまの意味に決まってるじゃん、印象としては凄く強いよ。小町が他人だったら忘れられないと思う。
「お兄ちゃんはね、姿勢と声に力入れればクール系なイケメンになれるよ、……多分」
「目はどうした、目は」
「それも個性として認識されるんじゃない?」
「テキトーだな、おい」
姿勢が良くてハキハキ喋るお兄ちゃん……、どうしようただのイケメンだ。きっと顔だけで近づいた人もスルメみたいな性格にやられちゃうよ、そしたら小町がお兄ちゃんを守らなきゃ。
「お兄ちゃんは今が一番だよ、うん」
「お、おう?」
お兄ちゃんにはお兄ちゃんにつりあう相手が必要なのです、そのためにはまず自然体のお兄ちゃんを好きならなきゃダメ。その人が出てくるまではずっと小町の物なのです。
『――クス、愛―――るね』
「……あれ?」
何だろう、さっき途切れ途切れで女の子の声が聞こえた気がする。小町も少し疲れちゃったのかな?
「どうした小町」
「う、ううん。何でもない」
気のせい気のせい。
『よろ―――、小―ちゃ―』
「……ん?」
よろ、よろしく?「よろしく、小町ちゃん」……?気のせいだよね、もしかして何かいるの?お兄ちゃんは聞こえないの?お兄ちゃんが変なのと関係あるの? 変なの、変だけど、不思議だけど、
「……よろしくね」
この女の子の声は怖くない、むしろお兄ちゃんの様な暖かさがある。この声の事は不思議でわからないけど、よろしく……? うんっ、よろしく!
「小町ー、もしかしてマッカン全部飲みやがったー?」
「飲んでないー、多分お父さんー」
「あのクソ親父が!」
『怒――ぎ――な―?』
適当に返したせいでお父さんが危険な気がするけど、まあいいや。