病院の幽霊   作:最下

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学級日誌⑦

 木々の陰に紛れて少年達が通り過ぎる時に草木を揺らす。

 それだけの出来事だと言うのに小学生達は可愛らしく悲鳴をあげる。

 肝試しが始まって五組目を見送り、そろそろハルを呼び戻そうか、それともあいつ六週目にも行くつもりなのだろうか。

 

『ただいまー、楽しかった、やっぱりここ八幡だったんだね』

「うわっ!」

『失礼な、幽霊を見る様な……って幽霊だったね。ごめんごめん』

 

 鬱蒼とした林の雰囲気に不釣り合いな明るい声が耳元から聞こえる。

 この肝試しで一番怖い体験をしているのは実は俺なんじゃないだろうか、幽霊とは厳密には違うが霊体が背中に乗っているのだから。

 

「ルミルミ達は最後だからまだ余裕はあるぞ?」

『や、五回行けば満足だよ』

「こんなチープな肝試しで五回楽しめんのはすげぇよ」

 

 俺だったら二回目は行かない。

 別に怖いわけでなくてチープだし行く気になれないだけであって決して怖いんじゃない、こんなので怖がっていたらこいつと付き合えない。俺が一番怖いのは人間だし、でも肝試しの仕掛け人は人間じゃないか、怖っ。

 

『八幡の所が二番目に受け良かったよ』

「一番は?」

『雪乃ちゃん』

「あーはい、そうですか」

 

 妹が可愛すぎて怖いよな。わかるわかる。

 だがハルは身内贔屓ではないようだ。

 

『本当だって、揃って雪女がいたって言ってたもの』

「氷の女王凄いな」

『最初は後ろを向いてんだけどね、声をかけるとキッとこちら向くの、見つかったかと思っちゃったよ』

 

 楽しそうに身振り手振りで話すハルだが、雪ノ下の内容は普通に肝冷える。

 美人に睨まれるってかなり怖い、霊的要素は一切ないけどあいつ信じてないだろうからな。いつでも子供になりたいトイザらすキッズだが今日と言う日は子供になりたくないと思ってしまった、雪ノ下に睨まれるなんてかなり怖い体験だからかな。

 

『で、わたしに何をさせるつもりなのかな?』

「大体は葉山達に任せるつもりだからな、でもそこに留美まで付き合わす必要はないだろ」

『それで?』

「ルミルミの肩をチョンと突いてくれりゃあいい」

『地味……』

「仕方ないだろ、盛大にやったら二度とここは林間学校に使われなくなる」

 

 葉山達リア充軍団に任せたのは身も蓋も無く言ってしまえば恐喝だ。小学生には刺激が強すぎる。しかしお灸をすえるのは俺達の目的じゃ無く、グループの関係を破綻させるのが主目的だ。だが留美はグループに含まれていない、ならそこにいるのは場違いだ。その為の救出措置が俺となっている。

 昼にかっこよく決めた割にはかなり地味な役割である、しかし周囲との擦り合わせと俺が楽する事を考えたらこれが妥当だったのだ。

 

「しかし葉山が乗ってくれるとは意外だったな、てっきりギリギリまで粘るかと思ってた」

『クズだけど立派な案だったからね、クズだったけど』

「二回も言うな」

 

 否定はしないが何度も言われると流石に落ち込む。

 しばらく雑談に興じていると、がさがさと茂みが揺れこちらに音が近づいてくる。

 幽霊だろうか、それともポケモンだろうか、ゴーストタイプの。だがこっちには守護霊が憑いている、弱らせて捕まえてやるぜ。

 

「一人で談笑なんて器用ね、比企谷くん」

「雪女だ」

『でしょ?』

 

 なんと野生のユキメノコ(こおり、ゴースト)が現れた。

 これは見事な雪女だ、鋭い視線とかマジぜったいれいど。俺相手に使うとすばやさの差的にもレベル差的にも必中レベルで当たってしまう。

 

「比企谷くんも似合ってるわよ、ゾンビ姿」

「これは素だ、ノーメイクだ、すっぴんだ」

『八幡も開き直ってるよね』

 

 流石雪ノ下、ゾンビにも辛辣だ。

 ゾンビに優しくするのもどうかと思うので正しい対応か。だがゾンビだけでなくバックに幽霊もいるのでそう簡単に俺を倒したりは出来んぞ。

 

「進歩はどうかしら」

「順調、そこそこ楽しんでんじゃねぇの」

 

 ハル曰く、二番人気だからな。一番人気様の前では平伏すほかないのが歯痒いものだ。

 他の連中が何をしているかは後でハルに聞くとしよう、由比ヶ浜とか小学生に馬鹿にされていなきゃいいが……。後戸塚も心配、暗闇にあんな可愛い子がいたら本能のままに動く獣になっちゃう。

 

「由比ヶ浜さんはハードルを下げてくれているわ、……私は高い方がいいのだけれど」

「フォローしたいのか、文句言いたいのか、どっちなんだ」

『文句が言いたそうだね』

 

 流石ハルペディア、雪ノ下の事なら何でもござれだ。

 しかし由比ヶ浜のお蔭でハードルが下がっていたのか、俺はハードルが低ければ低い程嬉しいのでナイスだガハマさん。正直草木をガサガサするだけで小学生たちがビビッてって面白かったです。

 

「そんなことよりも、あなたがあの子の回収係なのが一番の不安よ」

「俺はシスコンであってもロリコンじゃ無いから安心しとけ」

「いえ、ちゃんと呼べるかが……」

 

 確かに周りに気付かれず留美だけを呼び込むのは普通は骨が折れる。

 だが出てこい俺の友達! とやればハルが注意を引いてくれる、俺がそこで手招きすれば完全犯罪で遂行できる。犯罪じゃないけど。

 

「大丈夫だろ、目が合えば悲鳴だってあげると思うぞ」

「そうなったら失敗ね」

「そうだな」

 

 ところで後ろの小学生が一人で談笑する雪女に脅えてるぞ。

 どうやら俺の存在は認知されていないらしい、雪ノ下は立って、俺は座ってだから茂みに隠れて見えなかったのだろう。

 雪ノ下の名誉を思い立ち上がると、驚いた小学生が蜘蛛の子を散らす様に去っていった。

 

「……目が合えば悲鳴だってあげるぞ」

「実証されたわね」

『八幡を暗闇で見たら心臓止まるよ』

 

 お前は元から止まってるだろ。

 仕事を放棄しいつまでも雑談に励んでいては後になって平塚先生に何を言われるかわからないので、そろそろ仕事に戻るとしよう。

 そこでピピッと俺のケータイが着信音を上げる

 

「時間ね」

「らしいな」

 

 葉山達は既にポイントに移動しているだろう、ならいつまでももう雑談はできない。

 それに最初に動くのは俺だから、俺がしくったら作戦全体に支障がでてしまう。

 

「任せたわよ」

「あいよ、任された」

『任されたよ雪乃ちゃん』

 

 ハルも随分ご機嫌なようだ。ハルはブンブンと手を振って雪ノ下を見送る。

 

『さぁ、お姫様をお迎えにいこうか』

「気取った言い回しだな、俺も言おうか」

『やめといた方が賢明かな』

「あっそ」

 

 そりゃ残念。

 

 

  *  *  *

 

 

 行って来い、俺の友達!

 ハンドシグナルだけでハルに指示を出す。目標はグループから四歩ほど遅れて俯き歩く鶴見留美、急に肩を触られるのは肝が冷える心霊現象だが、木の葉が当たったとか言って林に罪を被せるので問題ない。

 

『タッチ』

「……!」

 

 ハルがチョイっと触れるとルミルミの肩が大きく跳ねる。

 恐る恐るこちらを覗いてきたので人差し指を唇に当て、静かにさせてから手招きをする。留美の前を歩く女子グループは後ろの事など気にもせず楽し気に進んでゆく。

 それを見て決心したのか木の根に注意しながら近づいてきた。

 

「……何してるの?」

「何って肝試しの脅かし役だ、……お前以外に気付かれなかったけど」

 

 怪訝な表情をした留美に適当を返す。向こうから聞こえる話し声も十分小さくなってきたので懐中電灯を取り出し辺りを照らす。

 後は葉山達の仕事で俺は頃合いを見て留美を戻せばいい、それまでは空を眺めるも良し、木の年輪を数えるも良しだ。

 だが、まぁ、内心穏やかじゃない留美の相手も仕事の内か。

 

「今日、満月じゃなかったけど」

「そうだな、でも月が出てるしOKだろ」

「なにそれ」

『なにそれ』

 

 俺の雑過ぎる言い分に留美が少しだけ笑う。

 見逃してしまいそうな程小さな笑みだが、人に見せられる笑みがあるのは上等だろう。俺レベルになると笑うだけでキモイって言われるからな、大事にしとけ。

 

「妖怪とか幽霊とか元気かな」

「俺にゃあ見えないからな、だがお化け役のお兄さん達はうるさい位元気だ」

「あんなにはしゃいでたのに……」

 

 戸部とかな。ってか小学生も超元気じゃねぇか。チビ共が自由時間に何をしていたのかは知らないけれど、もう少し疲れた素振り見せてくれてもいいだろ。

 

「そっちもこっちも帰る時にはグッスリだろうよ」

「そうだね……」

「帰りは静かなんだよなぁ、運転できる年齢じゃ無くてほんとよかった」

 

 周りが疲れて眠る中、黙って車を走らすなんて奴隷みたいだろ。平塚先生は俺の存在にもっと感謝をしてもいいと思う、じゃなきゃ帰り道は全力で寝たふりをする。

 俺の寝たふりは毎日学校で練習してるだけあってプロ級だ、起こすのも申し訳ないと思わせる事ができるはず。

 

「えいっ」

 

 パシャっとフラッシュが焚かれ、突然の光に目を押さえてうずくまる。目がー目がー!

 な、何故……。俺が不審者に見えたのか、それともてめぇの腐った目で見られたくねぇんだよ的なあれか。

 何にせよ俺に対してのフラッシュ撮影は今後禁止する方針で行こうと思う。

 

『大丈夫?』

「八幡の写真はすーぱーれあ? って聞いたから。一枚もらいます」

「先に言え、先に」

 

 誰だ俺の写真の希少性を説いたのは、その通りだけどお蔭でまだ目がシパシパする。

 少し留美に待ってもらって、目が落ち着かせる。その間にカメラの取り回しについて注意をしておく、魂吸われたらどう責任とってくれるんだ。

 

「あれ……?」

「あん、どした?」

「これ」

 

 留美の手元を覗くと、驚きに目を見開いている俺と、隣にハルが写った画像が。

 ……立派な心霊写真の出来上がりだ。それより俺の顔が酷い、一々説明したくないからこれ以上は個人の想像におまかせするけども。

 

「……幽霊も元気らしいな」

「……みたいだね」

 

 お互いに顔を見合わせ、破顔する。

 ……改めて見るとこいつしっかりポーズ取ってるな、写る気満々かよ。

 

「よかったな、ただでさえ希少な俺の写真に幽霊も写ったぞ」

「うん、大事にする」

「や、しなくていいんだけど」

「面白い顔してるからする」

「やめてっ!」

 

 手招きした時の疑いに満ちた表情で無く、イタズラが成功した悪ガキの表情で笑っている。

 まあ、子供らしくて似合っていると思う。当たり前のことだが垢ぬけて大人びた子供と言えどやっぱり子供だ、イタズラは好きだし大人の事は舐めてる。実に子供らしい。

 

「そろそろ行くか、騒がれたら目立つしな」

「八幡も?」

「お前一人で歩かせるほど、人間出来てない訳じゃない」

 

 茂みから道へ戻りケータイを確認しておく、着信の由比ヶ浜からのメールを開くともう戻って来ていいとのお達しだ、絵文字顔文字の量を見るに無事に終わったらしい。

 ならこの林にもう用はないのでさっさと立ち去るに限る、俺だって暗い場所は嫌だ。

 

「八幡、手」

「あ? 手がどうしたよ」

「手を繋ごって言ってるの、普通さっきので伝わるでしょ?」

 

 最初の会話、名前を聞かれて雪ノ下が噛みついたあの会話に似た言葉選び。

 残念ながら『手を繋ぐ時は自分から云々』とか言ってくれそうな雪女はここにいない、もしここにいたら間違いなく通報されて豚小屋にぶちこまれそうなのでいなくて助かった。

 特に言う言葉が見つからなかったので、手を出してやる。叩かれても一つの思い出だ。 

 

「ん、いこ」

「へいへい」

 

 叩かれたりスルーされることもなく、小さな手に握られる。

 俺がロリコンになったらどうすんだ、夏目漱石さんだって『普通の人が突然悪人になるのマジ怖い』って遺してるんだからお前だって超怖いよ? いやロリコンにならないけども。

 

「お前、懐き過ぎじゃね?」

「そうかも?」

 

 留美の答えはそれだけだった。

 林をザクザク進んでゆく。

 

『はーちまん、手?』

「…………」

 

 お前もか。留美に見えないよう身体の陰でハンドサインを出す。

 親指と人差し指で円を作ってマネー、ではなくOK。

 サインを出してすぐに腕に質量を感じた。

 

「おまっ」

「どうしたの?」

「何でもない」

 

 ハルの手の繋ぎ方は俗に言う恋人繋ぎで動揺しただけだ。

 うわ、これってかなり密着されるんだな。ちぃ、覚えた。

 だが人肌の温もりなんてものは無い、霊体だから当然だけど。

 

 あ、もしかしてこの状況って両手に花? モテ期到来?

 

 

  *  *  *

 

 

『八幡、八幡! 起きて八幡!』

「んぁ……どうした、ハル……」

『よかった……学校に着いたよ』

「ああ、サンキュ」

 

 やけに切羽詰まっているように聞こえたが学校に着いただけらしい、寝起き悪すぎて小町に置いてかれてしまったのか?

 だが後ろにはグッスリ眠っている小町、ってより戸塚と小町と奉仕部の面々がいる。

 ……そう言えばいつの間に眠ってしまったのだろう、確か平塚先生の雑談に付き合って……付き合っていて、そこからの記憶がない。よっぽど眠かったのだろう。

 そう、首の後ろを擦りながら考える。

 

「おはよう比企谷。君には精霊でも見えているのか?」

「んなもん見えませんよ、フェンタジーやメルヘンじゃありませんし」

 

 隣では平塚先生が口をあんぐりと開けて欠伸をしていた。

 大和撫子は大口あけないのが基本ですよ先生。口に出したら殴られそうなので黙っておくが心の中だけで注意をしておく。

 

「さて、そろそろ起こすとしようか。最後尾の二人を頼む」

「わかりやした」

 

 どうやら誰かが起きるまで待っていてくれたらしい、普段からそんな気遣いができたら既に結婚できていただろうに……。

 最後尾の二人、すなわち小町と戸塚は肩を寄せ合って静かに寝息を立てている。美しい光景だ、写真でも撮ってから起こそうか。

 

「ん……八幡……おはよ」

「お、おはよう」

 

 取り出したケータイをポケットに突っ込む。

 やばい、戸塚の声は最高の癒しになる。是非とも毎朝起こしてもらいたいし、何なら俺が毎朝起こしてあげたい。それに比べて妹は毎朝起こしてくれないし、俺が起こす気にもなれない。これだけで戸塚の尊さが良く理解できる。

 

「小町も起きろ、おーい」

「むにゃ……後五時間……」

『八幡みたいな事言ってる』

 

 えっ、なにそれ、俺知らないんだけど。

 いやいや、後五時間寝たいなんて思っても言いませんよ、ははは。

 いいから起きろ小町。

 

「おはよぉ」

「続きは家に帰ってから寝ろ」

「んー」

 

 小町の手を引いて降りると、雪ノ下と由比ヶ浜も既に起きていたらしく伸びをしている。

 その、由比ヶ浜さん、あなたが伸びをすると強調されるその二つの富士山に視線が吸い寄せられててててて。

 

「今日はここで解散だ、後の夏休みは好きに過ごしたまえ」

「うす、お疲れさんでした」

「ゆきのん、一緒に帰ろ?」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜も帰るのだし、俺達も寄り道しないでいいだろう。

 俺は家が何より好きなのだ、例え家に食いもんが無くともまず家に帰りたい。カマクラがちゃんと餌食ってるかも心配だし。

 

「いえ、その、ごめんなさい。迎えが来たわ」

「やっほー、雪乃ちゃん。それと比企谷くんとハルちゃん」

「…………」

『…………』

 

 黒塗りベンツが止まったかと思ったら陽乃が出てきた。

 これには俺もハルも黙り込んでしまう、まずハルの存在を簡単に明かさないでほしい。これを知っているのは俺とあんただけなんだよ。

 

「ハル? 一体何言ってるんだ陽乃」

「んにゃー何でもないよ。久しぶり静ちゃん」

「その呼び方はやめろ」

 

 むっとした顔で平塚先生は指摘するが陽乃は改める気配はない。雪ノ下と毎度やっているノック問題みたいなものなのだろう。

 しかしいつ見ても模範的な笑顔だ、これに警戒心を抱くのはよっぽどの捻くれ者か、事前に何かしらの知識を持つ者だけだ。

 俺が見ていた事に気付いたのか陽乃が歩み寄ってくる。

 

「久しぶり、二ヶ月かな?」

「そうっすね」

「ハルちゃんも……まだ雪乃ちゃんと一緒か」

『まあね』

 

 一瞬何の感情も含まれない瞳がハルに向けられたがヒラリと交わす。

 この前会った時と違ってハルは落ち着ている、表情も全く話したことないクラスメートの相手をした時ぐらいだ、敵意は無い。

 

「立派な車っすね、高そうで」

「比企谷ぁ、車の評価点はそこだけじゃないぞ」

 

 ちょっと黙りやがれください。

 俺がしたいのは車談義じゃ無く、疑念から生まれる詮索だ。

 

「実際高いからね、雪ノ下のご令嬢を乗せるのにやっすい軽は使えないから」

「へぇ、なまっちい稼ぎじゃ手が届きませんね」

『一般家庭が使うものじゃないよ、これは』

 

 しばらく陽乃と視線を交わらす。いつの間にか周囲が静まり返ってしまったので気付いた時点で視線も外す。 

 まあ、同じ型の車なんていくらでもあるだろう。

 

「さ、雪乃ちゃん、お母さんが呼んでるよ」

「……!」

『…………』

「えっと、雪乃ちゃんのお友達かな? 仲良くしてあげてね?」

「は、はい!」

 

 雪ノ下の顔がこわばる、そんなに怖い母親なのだろうか。と思ったがハルの言う通りならかなり怖いのだろう。もしかしたらあの陽乃も恐怖という感情を持つかもしれない。

 ま、俺も会いたくないのでその顔を見る事は叶わないだろう。

 

「俺らも帰るか」

「ヒッキー……その」

「……車なんてどれも似たり寄ったりだろ」

「うん……そうだね……」

 

 それは違うぞ比企谷とかほざいてる独身教師は無視し、戸塚に向き直る。

 

「と、戸塚、その、元気にな、風邪ひくなよ?」

「うん、八幡も元気でね、テニス絶対誘うから……来てね?」

「ああ、どんな用事でも蹴っていくさ」

 

 戸塚に挨拶も済まし帰路に着くことにする。

 後ろで平塚先生が何事か話しているが、解散はしているので聞く義務はないだろう。

 

「いくぞ小町」

「はーい」

 

 小町と左手を繋ぎ歩きはじめる。

 あの車がそうだとは限らない、しかし直感だか記憶に残っているのか、あの車な気がしてならない。もしそうなら雪ノ下家に令状でも出しておこうか、せっかくハルと俺を繋いでくれたキューピッドなのだし。

 ……ごっついキューピッドだな。


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