やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 作:武田ひんげん
パチッ
目を開けると、まず夕焼け空が目に入ってきた。綺麗なオレンジだ。そして、陽乃の覗き込んだ顔が目の前に見えた。
「おはよう、八幡」
「あぁ、おはよう」
まだ寝ぼけていた脳が本格的に動き出した時、俺はもう夕方になっていることに気づいた。
「あ!今何時だ??」
「5時半だよ」
「…まじか。何時間寝てた?」
「だいたい2時間くらいかな?」
「…まじか」
寝すぎだろ俺。いくら陽乃の膝枕が気持ちいいからってさすがに寝すぎたわ。
「ねえそう言えばさ八幡」
「ん?」
「まだお昼食べてないよね」
「…あ、そういえばな」
「遅いけど食べに行こっか。ていってもカフェにだけど」
「わかった」
そういって立ち上がって行こうとしたが、膝枕してもらっていたとはいえ、体勢が悪かったのか、ベンチの硬さにやられたのか体中痛かった。
「あいたたたた」
「ふふふ、八幡おじいちゃんみたいだね♪」
「うっせ、体中いてーんだよ」
「あんなとこで寝るからよー」
「それは、お前の膝枕が気持ちよかったからで…」
「そ、そんな真っ直ぐ言われるとさすがに…」
そういうと陽乃は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。夕焼け空のせいかもしれないが。
「ねえ、マッサージしてあげようか?」
「は?いやいいって、大丈夫だから」
「遠慮ぜずに、ほらほらー」
そのままグイーンとベンチに逆戻り。
「おい、さすがにこれは…」
「大丈夫よ。それよりこっちに背中向けて八幡」
「…はいはい」
「私こう見えてもマッサージには自信があるんだ」
グイッ
…おおっ。やばい、これはなかなかや。うん、気持ちええわー。やべーわー、ちょーやべーわー。
あ、コリの部分にちょうど…
「いたたたたたっ!」
「あ、強すぎた?」
「強すぎだよ…肩壊れるだろ」
「ごめんなさいね。てへっ!」
「…」
ぶりっ子がするてへっ、とは全然違うガチ目にかわいいてへっを見た俺は許すことにした。俺どんどん陽乃の虜になってるな…
その後はすごい気持ちいいマッサージをしてくれた。ツボを的確についたマッサージは、気持ちいい以外の言葉を全て失わせた。
「ああー気持ちいい…」
「ほんと?じゃもっと気持ちよくしてあげる…」
「あんまりそういうのは…あ、やばいそこそこ、やべーわ…」
もうだめだ。また膝枕して欲しい気分になってきた。
おっといかんいかん、昼飯を食べに行かねば…
「なあ、気持ちよくてもっとして欲しいけど、昼飯食べに行かないか?」
「あ、そうだね。すっかり忘れてたよ」
「じゃ、いきますかね。よっこいせっと」
「なーに親父臭い声出してんのー」
そういいながらも腕を絡ませてくる陽乃。でもすっかりなれてしまったが。
――――――――――――
俺達はカフェに入ることした。そこはここのキャラをモチーフにした可愛いカフェで、至る所に人形が飾られていた。
店内は少し込み合っていたが、俺たちが入った途端に一つ窓側の席が空いたので運良く座ることができた。
店内には昼間みたようなカップルでいっぱいだった。
「ふうー、なにたのもっかなー。というか、お昼ご飯って時間じゃないから軽食にしよっかなー」
「そうだな。ホットコーヒーと卵サンドにしよう」
「じゃ、私もそうしよ。すいませーん!」
「はい、お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「ホットコーヒーと卵サンドを二つずつで」
「かしこかしこまりましたかしこー」
「え?」
「かしこまりました」
なんかQちゃんのネタが聞こえた気がしたが気のせいだろう。…うんたぶん。
「たのしみだなー、パレード!」
「そうだな」
「でも、人多そうだねー」
「そりゃパレードだからな」
「八幡、わかってるよね?」
「…なにが?」
「はぐれないようにするためにはあれをするしかないよー」
「…ああー、てかお前最初からそのつもりだろ?」
「あ、バレちゃった?」
「バレバレだよ」
「あの、お待たせしましたー」
「あ、ども」
店員の女の人がすこし遠慮がちにいってきた。まあそりゃあんな会話してたら声かけづらいよな。
とりあえず俺はホットコーヒーにガムシロップ&砂糖&ミルクをふんだんに入れ始めた。
「…ねえ八幡、入れすぎじゃない?」
「普通だろ」
「八幡にとっては普通でもわたし達にとっては普通じゃないんだけど…」
俺は甘甘コーヒーをすする。…あー美味い。甘さがいいわー。
「ねえ八幡、それ甘くないの?」
「全然」
「ねえ、ちょっと頂戴」
「は?なんで?」
「気になるのよー」
「…はいはい」
一口陽乃がコーヒーをのむ。しかも俺が飲んだとこと同じところから飲んでいた。
「おい、わざとだろ?」
「あっま!甘すぎでしょー…」
無視ですか。まあそうだろうけど。
「それがうまいんだよ」
「本当に甘いのが好きなんだねー」
俺達は雑談をしながら軽食をすませ、とっととパレードに行くことにした。当然腕は組んだまま。
――――――――――――
「うわー、人多いね!」
「まあ、人気だからな」
パレードは予想通り人が多かった。何度もいうが、カップルだらけである。
「あ、ちょうど始まるみたい。でもここからじゃあんま見えないなー…」
「しゃーねーだろ。ま、なんとかなるだろ」
「そうだねー」
パレードが始まると、いろんなキャラクターがパレード専用車?に乗って手を振っていた。
陽乃も必死に手を振っていた。陽乃って意外とこういうの好きなのな。
「ミッギーマウズー!ほらほら、八幡も手を振って!」
「は?やだよ」
「ほらほら、ミッギー!」
強引に手をふらされた。なんかやっぱ恥ずかしいよなこれ。
「楽しいなーパレード!」
「そうか?俺は人が多過ぎるとおもうが?」
「それがパレードだよ!まあそんなこと言わず楽しもう!」
陽乃はほんとに楽しそうだ。ここのところずっと文化祭とかで楽しむ余裕とか無かったからな。その分のストレスを発散している気分だった。
なんだかおれもテンションがだんだんハイになってきて、気づいたら手を振っていた。
「…なんか八幡が手を振っているのって、似合わないね」
「うっせー。いいだろたまには」
「…うん、そうだね!」
俺たちは最後までこうしてテンションアゲアゲのままパレードを終えた。
――――――――――――
「終わっちゃったねー」
「そうだな」
俺達は帰りの電車に乗っていた。
満員電車を避けるということでダッシュで電車までいったらなんとか座ることができた。それでもギチギチだけど。
「ねえ、楽しかったよね? 」
「あたりめーだろ。それにお前が楽しそうで何よりだ」
「え?」
「だって、文化祭ずっと頑張ってて、楽しむ余裕なんてなかったろ?だから今日一日でストレスを発散できたかなと」
「あーそういうことか。まあ今日でストレスは発散できたやよ!ありがとねー」
「おう」
「まあでも、文化祭の時、八幡が放課後残ってくれなかったらもっとストレスたまってたとおもうなー…」
「え?なんだって?」
声が小さくてまったくききとれなかった。すると陽乃は顔を赤くさせて
「なーんでもないよ!あ、私次だ。じゃまたね八幡!」
「おう、またな」
手を振りながらお別れするさまはもう、ただのカップルにしか見えなかった。
俺にはまだ実感はつかめてなかった。
続く
次回投稿は7月16日です。