やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 作:武田ひんげん
体育祭実行委員会は順調に進んでいた。
スローガンもきめて、競技もきめていよいよ準備の段階に入っていた。
ちなみに結局競技は、借り物競争と棒倒しと演舞をすることになった。演舞に関しては言いだしっぺが責任をもって管理するということなので採用された。
あとはリレーなどもあるのでそこそこ盛り上がるだろうということになった。
ちなみに仕事は文実の時よりもだいぶ軽いようで、陽乃が放課後残るということもなかった。
カタカタカタカタ
パソコンのキーボードを叩く音が会議室の中を支配しているこの空間はまるで文実を思い出すかのようだった。まあメンバーもメンバーだしな。
「これ、よろしくね」
「はいよ」
文実メンバーだった男子生徒から書類を渡される。ちなみに俺の役割は相変わらずの記録雑務だった。まあ俺のテリトリーだからな。誰にも渡さんぞこの仕事は。
カタカタカタカタ
…喋ってるやつもいないし、みんな真剣に仕事に打ち込んでいた。本当にこいつらは真面目に打ち込むな。それとも陽乃がリーダーとしてまとめてるからなのか?でも陽乃の影響は少なからずあるはずだ。
「あ、もう時間だ。じゃみんな今日もお疲れ様ー。体育祭までこのままがんばっていこう!」
そういうとゾロゾロと会議室から出ていく。俺も流れに乗って出ていこうとしたら、
「八幡、まってよー」
「ん?なんだ?」
「一緒に帰ろっ!」
「…えなんで?」
「むー、いいじゃーん、減るもんじゃないしー!」
「いやだって、他の奴に見られたら恥ずかしいだろ」
「気にしないでいいじゃーん、わたし達は付き合ってるんだからっ!」
陽乃はからかうような笑顔を終始浮かべながらそう話しているが、俺としては笑顔なんか全く気になっていなかった。もちろん誰かに見られたら恥ずかしいのもある。だがそれ以前に、陽乃の後ろにいる平塚先生の表情が怖すぎて笑えない。なにその無表情、てか目死んでますって、俺と同じくらいに死んでますって。
「…あー、気をつけて帰るように」
「あ、静ちゃんありがとねー、ばいばーい」
何を脳天気にいってますのあなた。平塚先生の表情見てから言ってくれよ。
「さあ、さっさと帰ろう!」
そういうと強引に左腕に腕を絡ませてきた。俺は外国人がよくやるお手上げポーズを右腕だけで体現すると、陽乃は引いた表情をしていた。
――――――――――――
「あー、俺チャリとってくるから腕離してくんね?」
「腕離さなくても取りに行けるでしょ」
「…いや、取りにくいだろ」
「理由はそれだけ?」
「…」
もうだめだ。俺は本格的に諦めることにしよう。てかこれは恥ずかしいよ。すれ違う生徒はヒソヒソ話をはじめるし。
結局自転車置き場まで腕を組んだままやってきた。
「おい、さすがにチャリ取る時くらい離してくんね?」
「だめ」
「…おい」
「あっはは、八幡こわーい」
怖いといいながらニヤニヤしているところはまるで子供のようだった。ほんとにこいつってこんな性格なのか?
とりあえず、腕を離してくれたのでチャリは取りやすくなったので良しとしよう。
俺たちは2人で帰るが、当然その道のりも大変だ。陽乃はやっぱり目立つとして、おれもその流れで目立ってしまうのは仕方ない。だが、ヒソヒソ話が偶然にも聞こえたときは萎えてしまった。
「…ねえ、あの美人さん綺麗ねー。でもその横にいる男はだれかしら?目が死んでてあぶないわねー」
…もうなれてますからね。は、八幡平気だよ?傷ついてないよ??
「ねえ八幡」
「なんだ?」
「気にすることはないからね?」
「あ、ああ」
…しんど。
――――――――――――
俺達はなぜか公園に行くことになった。陽乃が強引に連れてきたからだ。当然腕くんだままで。
俺達は公園のベンチに座っていた。俺のてにはマッカンが握られていた。
「ふぅー、そろそろ冷えてきたなー」
「そうだね、もう秋だもんね。それよりもさ、そのコーヒー甘くない?」
「全然まったくこれっぽっちも」
「本当八幡は甘党だね。この前のデートのときもコーヒー甘くしてたしね」
陽乃はブラックコーヒーを飲んでいた。なんか似合うな。
……。
俺達は会話があまりなかった。お互いに二人でいる時間を楽しんでいるような、そんな感じだった。
そんな時間がしばらくたったとき、
「ねえ八幡」
「なんだ?」
陽乃がいつになく真剣な表情になって、
「私たちって付き合ってるんだよね?」
「あ?そうだろ?」
「…だよね。ねえ、八幡は私のこと好き?」
「当たり前だろ」
「そうだよね。私も八幡のことが好きだよ」
陽乃の表情はこころなしか影があるような気がする。一体どうしたんだろう。俺がなにかしたのか?
「おい、なにか俺悪いことしたのか?」
「え?そんな全然そう言う事じゃないよ」
「なにかあるのか?話くらい聞いてやるぞ」
「…いや、なんでもないよ」
「…そうか」
なんだか暗い雰囲気になってしまった。一体どうしたんだろう。
「ねえ八幡」
「どうした?」
「私は、君のことがすきだからね」
「…そうだな」
「だから――――――」
俺たちは薄暗くなってきた公園の中でキスをした。
そのキスはなんだか愛情を貪っているような、そんな感じのキスだった。
続く
次回投稿は7月20日の17時です。
投稿時間を元に戻したいと思います。これからもよろしくお願いします。