やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 作:武田ひんげん
side陽乃
八幡の病室を離れ、電話可能な休憩室まできたところでようやく電話にでた。
「もしもし、なに?お父さん」
「陽乃、すぐに帰ってきなさい」
「…どうしたの?」
「…お母さんが呼んでいるんだ」
「…なにがあったの?」
幸い休憩室には誰もいなかったので心置きなく話せるのはよかった。でも、なにか嫌な予感がする。しかも電話でわざわざ呼び寄せるくらいだからよっぽどのことだというのは明白だった。
「…詳しくは帰ってから話そう。ただ…」
「ただ?」
「あまりいい話ではないだろう」
「…そう。わかった。帰るわ」
「わかった。今どこにいるんだ?」
「総武総合病院」
「…わかった、迎えをよこすよ」
ツーツーツー
…電話が切れる音が聞こえている。なんだか胸がしめつけられるような苦しみが沸き起こってきた。すごく胸糞悪い気分だった。
私はその気分を紛らわすために、自販機のブラックコーヒーを飲むことにした。このにがさが私の今の気分にはちょうど良かった。
――――――――――――
「ごめーん、電話長くなっちゃった。…ちょっと家から呼び出しがあって、もう帰らなきゃいけなくなったの。じゃ八幡、また明日来るねー」
そういって私は病室から、病院から出てきた。
病院からでると、車を待つあいだ、静ちゃんも出てきたので挨拶だけをして車を待った。その後しばらくして家の車がやってきた。
車の中で私は考えていた。母が何をいうかを。この時期だから進路関係だろうか?それとも縁談系だろうか?恐らく進路の関係だろう。どちらにせよ、私にとってあまりいい話ではないのは明白だった。
そう考えていると、あっという間に家に着いた。
家に帰ると、父が迎えてくれた。
「お帰り陽乃」
「ただいま」
「さあ、いこう」
そのまま、母の部屋にまで連れていかれた。それほど急ぐことなのだろうか?いや、ただ単に母の期限を損ねないようにしているだけだろう。
ガチャ
「入るぞ」
「…ただいま、お母さん」
母は部屋のソファーでくつろいでいたが、ただだらけているだけではなく、やはりそこにはばらの花が似合うような可憐さがあった。
「陽乃、お話があるわ」
「なに?」
母はいつもどおりニコニコしながら、
「貴方の進路のことなのだけれどね」
「うん」
「貴方には海外の大学に行ってもらうことになったから」
「…え?」
「もう決定事項よ。よろしい?」
「ちょっとまって、海外って、どこの?」
「イギリスの大学よ」
「…そんな、なんで海外なの?国内じゃだめなの?」
「決定事項よ。理由はしらなくていいわ」
「…少し考えさせてください」
「考えるも何も、決定事項なのよ?わかってるわね?」
「…はい」
海外って、それってもう八幡に会えないってこと?そんなの嫌よ。折角私は自分を取り戻そうとしてるのに。彼のおかげで。
とにかく私は気分最悪のまま部屋に戻った。
――――――――――――
「…陽乃、どうした?…おい、陽乃?」
「え?あ、なに?」
私は病室でいつものように八幡といた。でも、心はどこかへ行ってしまっていた。
「おい、お前様子変だぞ。どうした?」
「いや、なんでもないわ」
笑顔を浮かべているはずだ。いつもどおりの。私にはあのことを彼に伝える必要があると思う。だけど、言おうとすると、喉に引っかかるようになかなか言葉として出てこなかった。
「…そうか。お前も大変なんだな」
「え?なにが? 」
「昨日なにかあったんだろう?」
「…」
「昨日あんなに慌てて帰ったんだ。そして、今日はなにか心ここにない感じだ。…あの後なにかあったんだろう?」
ほんと、なんでもお見通しなのね。それとも顔にでてたのだろうか?
「まあ、言いたくなければいいんだけどな」
「…うん」
「ただ、あんまりひとりで考え込みすぎるなよ。まあ俺が言えたことじゃないが、折角、その俺がいるんだからもう少し頼ってくれてもいいんだぜ」
彼は恥ずかしそうにそのセリフを言っていた。…やっぱりなんだかんだで頼りになるわね。でも、まだ言えない。こんなに優しくしてもらっても、どうしても喉から言葉が出なかった。
続く
なんだかんだで続いてきましたね。なるべくマンネリ化は防ぎたいですね。
次回投稿は7月28日の17時頃です。