やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 作:武田ひんげん
季節は梅雨に入り、毎日グズついた天気が続いていく。
今日も朝からザアザアと雨が降っている。おかげで昼休みいつもの俺のベストプレイスで飯が食えないじゃないか。ちなみにベストプレイスというのは俺が昼飯をいつも食べている場所で、海風の当たる心地よいスポットなのである。ボッチともなるとそういう場所を見つけるプロになるのだー!
…ただ単に教室にいると非っ常ーに居心地が悪いだけなのだが。
しかし今日は雨なので外にはいけないため仕方なく教室で飯を食べることに。…ごめんね、いつも俺の席に(勝手に)座ってる奴ら…
さて飯を食べようとしていると、教室内がざわつき出した。俺も何事かと顔を上げると、
……目の前に完璧なスマイルで立っている雪ノ下が居た。
「…あの、何をしにいらっしゃったんですか?」
「なにってただ、君とお昼を食べに来ただけだよー」
雪ノ下はわざとらしくやや大きな声で言った。…おいおい、やばいってそんなこといっちゃ。ほらもうコソコソ話してる奴らいるじゃん。俺ら目立ってるじゃん。
てか、絶対それが目的だろ。おれがキョドってるのを楽しむだけだろ…。ちくしょう、絶対キョドらねーぞ…
…ねえなんで陽乃さまがここに??ねえ、あの陽乃さまの目の前の男だれかしら??なんだあいつ、雪ノ下さんに近づきやがって…
めっちゃ気になるんですけど。コソコソ言ってんの筒抜けなんですけど。ボッチの習性には人のコソコソ声に敏感に反応するというのがあって、それで自分のことを言われているのかというのをしっかり聞き分けることが出来るという便利な習性だ。すごいでしょボッチって。みんなもぼっちになったら便利な習性もついてきて、自由な時間もあってお得だよ!
ただ、この場合は俺のことを言われているので逆効果しかなかった…ふぇぇー周りが怖いよぉー。
これはあれだな、吸血鬼が太陽の光をあびたら悶えるような感覚だな。つまりボッチは吸血鬼と同じような習性を持っているということだ。どこかの民話か伝説に新たに載るぞこれ。
そこで俺は雪ノ下に提案をしてみる。周りの目を気にしないように…
「なあ、と、とりあえずこの教室から出よう。ここにいたら俺の精神g――――――」
「却下」
即答かよ。やめてくれよそれだけは。突然光当てられて体はフラフラなのに…。もうクラス中を敵に回したぞ俺は。ボッチは敵を作らないことがメリットだったりするのに…。
雪ノ下はそんな目線なんか気にせずに弁当を取り出して俺の机に置く。それだけでもう周りがどよめく。
「うーん、美味しい♪」
美味しそうに弁当をほおばる雪ノ下。いいですねあなたは気楽で。こちらはクラス中の目線を一心に集めてるので飯なんか喉を通った物じゃないよ…
「比企谷くんのは美味しい?」
「あ、ああ、うん」
正直味どころではないのだ。人の目が多過ぎて全く味わえない。
「みんなわたし達のこと見てるねー。これもある意味新鮮かもー♪」
「俺は新鮮すぎて逆に怖くてさっさと教室から出たいんだけどな」
「だめだよ、出ようとしたら…わかるよね?(ニコッ)」
「わ、わなった」
笑顔が怖いって。なんでそんな凍えるような笑顔ができるの?おかげでちょっと噛んじゃったじゃん…
すると雪ノ下はふたたびニヤリとわらって
「なかなか面白いよねー、こういう中食べるのも」
「さっきもいったけど、俺は早く立ち去りたいんだが…」
「…よし、きめた!比企谷くん、明日からお昼は私と食べること、いいね?」
「はあ、少しは人の話をきいて……え?ちょ、今何言って…」
「これからはお昼も私と食べること。だって、そっちの方がおもしろそうなんだもん♪」
「おもしろそうってな…」
雪ノ下は無邪気にそんなことを平然と言えるが、俺的にはやばい。今日だけでもこんなに注目されてるのにそれが毎日となると俺は持たんぞ、主に心が。
すると、突然俺たちの前に三人ほどの女子生徒が現れた。その三人はおれに敵意丸出しの目を向けながら、
「陽乃さま、これはどういうことですか?」
「なぜこのような見知らぬ男とお昼を?」
「…消えろ消えろ消えろ…」
三人はそれぞれ非難の声を上げる。というか最後最後!発言がおかしいだろ。一人だけ発言の質がちがうだろ…
「なにって、この子とお昼を食べてるだけだけど?」
ケロッとした表情で言う雪ノ下。…いや、そんなこといったら更にこの人達の表情が…。ふえぇーこわいよぉー…三人ともそんなに睨まないでぇー…
「それから、これからはこの子とお昼を食べることにするから」
「「「っ!?」」」
おいおいそんなこと言わなくても…三人が固まってるじゃねーか。しかもプルプル震えてるし…
「っっ!てことは…もうわたし達とお昼は食べないと…?」
「そ、そんな、陽乃さま…」
「横の男消えろ、失せろ、この世から消え去れ」
おいおい、泣いちゃってるじゃねーか。どんだけ雪ノ下に執着してんだよ。てか最後の奴やばいだろ。こえーよ、俺の命の危機だよ!最後のやつなんかすでに涙をながしているどころか、目が俺と同じかそれ以上に死んでるし…
すると雪ノ下はその三人に向かってとびきり完璧な笑顔をむけて、
「大丈夫よ、あなた達とお昼は食べないけど付き合いが消えるわけじゃないわ。だから安心しなさい…」
俺からみたら仮面を完璧に被っている笑顔を見た彼女達は、まるで女神にあったかのように表情をガラリと変えて、
「は、陽乃さま…」
「陽乃さま、私感動していますっ!」
「女神さま…」
よかった、最後の奴も落ち着いたみたいだ。これで俺の命の危機は脱したな。
その三人は俺たちの前から立ち去っていった。俺はホッと一息…じゃない、なんでホッとしてんだ!まだクラスの奴らがいるじゃねーか。あいつらが濃すぎですっかり忘れてたわ。
チラリと周りを見ると、こっちを見ている奴らはいるが、数がだいぶ減っていた。というか人の数が減っていた。きっとさっきのやりとりのせいだろう。
キーンコーンカーンコーン
いつの間にか昼休みの終わりのチャイムが鳴り響いた。
こんなに時間が早く立ったのは初めてだ。
「じゃ、比企谷くん、また放課後ねー♪」
「お、おう」
ようやく立ち去って行った。というかこれからお昼はあいつと食うのか…。放課後も合わせて半分はあいつと過ごすことになるのか…
――――――
放課後、俺はいつものように特別棟空き教室にいた。あれから俺は毎日のように通っている。まぁ、相変わらずよく平塚先生に雑用やらなんやらを押し付けられるんだが。
それと、雪ノ下と平塚先生は仲がいいのかよく二人で他愛もない話をしている。いつもこういう感じだ。
俺のいる意味ってなんなんですかね?これはあれだな、友達と思ってたやつと二人で話してて、その後にそいつの友達が何人かやってきてそいつらが話しているところに首を突っ込もうとしたら「え?何お前まだいたの?」
て言われるレベルだな。ソースは俺。
最近俺はこういうことが多い。もちろん雪ノ下が話し掛けてきたら話すが、自分からは行かない。しかしなぜだか逃げようとすると引き止められる。俺には理由がわからない。
すると雪ノ下は席から立ち上がった。どうやら教室に忘れ物をしたようで、この部屋から出ていった。
すると、平塚先生は俺の元にきて、
「どうだね?雪ノ下は」
「さあ。ただ仮面をかぶってるということはわかります」
「ほほぉ、そこに気づくことができるのは凄いことだ。あいつの仮面は完璧だからな」
「そうっすね」
と、平塚先生はくすりと笑うと、
「しかし、最近は仮面が少し剥がれた雪ノ下を見ることがあるんだよ。本人は気づいてないのだがね」
「へえー、そうなんですか」
「気づいていないのかね?君は」
「なんのことですか?」
「…あいつは君といるときによく仮面が剥がれかけているんだよ。気づけなかったかね?」
平塚先生は少し神妙な顔になって俺に話しかけてきた。
「俺といるときに?いや、あいついっつも俺の事からかったりして遊んでますけど?しかもとびきり完璧な笑顔とか見せますし、あれは仮面をかぶっているのではないですか?」
「いや、君と話しているときや君といる時、ほんとに一瞬だが仮面が剥がれている時があるのだよ。おそらく本人も無自覚だ」
…そう言われたら少し心当たりがあった。映画館の時、俺はあいつの素の表情を見た気がする…。
平塚先生は少しニコッと笑って、
「やはり君にあいつを預けて正解だ」
「いや、最初言ってたことと逆ですよ?」
「ハッハッハ、君は記憶力がいいのだな」
「嫌なことはずっと覚えているので」
「うむ、やはり君は面白いな。…君のような存在がいてよかったよ…。おかげで雪ノ下がいい方向に向かっている」
平塚先生は暖かい笑顔を俺に向けてきた。俺は気恥ずかしくなって顔を背けた。
「おっと、いかんいかん、このあと仕事があったんだった。じゃ、私は失礼するよ」
というと教室から出ていった。
…雪ノ下の仮面が剥がれている時があるか…。
人には誰しも仮面がある。どんなやつでも仮面を被って、自分を偽って生きている。リア充なんてのはきっとそうなのだろう。自分を偽って、表面だけの付き合いで毎日笑いあっている。しかしそれは正しいのだろうか。俺はリア充になったこともなる予定もないからわからないから考える必要もないのだが。
そんなことを思っていたら、雪ノ下が帰ってきた。
「あれー?静ちゃんは?」
「平塚先生なら仕事があるとかで出ていったぞ」
「そっかー」
と、雪ノ下は俺の前に座ると、
「ねえねえ比企谷くん、今日のお昼楽しかった?」
ニコニコしながら聞いてきた。お前わざと言ってるだろ…
「楽しくねーよ。なんであんな公開処刑みたいなことされなきゃいけねーんだ」
「そうかなー?私は面白かったけどなー」
こいつはホントにそういうの好むよな…
俺をいじめるのそんなに楽しいの?ボッチだからっていじめていいってわけじゃないからね?
それから、俺は昼休みからきになっていたことを聞いてみた。
「なあそういえばさ、昼休みにいたあの三人組はなんなんだ?」
「あーあの子達ね、あの子達は私と今までお昼を食べていたグループの中の下級生の子達よー」
一体どれだけ大きなグループなんですかね。しかも同級生のみならず、下級生まで掌握しているの?あれなの?雪ノ下陽乃教でも開くつもり?
「でもいいのか?その子達と食べなくても」
「あーいいのいいの、あの子達は気にしないで。それよりも私は比企谷くんとお昼を食べたいだけだから」
雪ノ下は笑顔もなく淡々と言った。なんというか残酷な感じというと悪い言い方になるが。…もしかしたらこれが平塚先生の言ってたことなのか?
と、雪ノ下は表情をガラリと変えてニッコリしながら、
「ねえねえ、そんなことよりさー――――――」
このまま完全下校のチャイムがなるまで俺と雪ノ下はおもに雪ノ下が喋っていく。
こんな日常が毎日続いていた。
続く
今回は日常風景を書いて見ました。
時期的には一応6月中旬あたりになりますね。
それから感想や評価の方ありがとうございます。今後共よろしくおねがいします。
次回投稿時間は6月16日の17時です。
明日からまた一週間が始まりますね。がんばりましょう!