女神な聖女と黒ウサギ   作:赤嶺

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prologue
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──炎が見える。

 

全てを終わらせる炎が。

 

──早く逃げないと。

 

倒れた身体を起こそうと力を入れるが動かない。

 

かろうじて動く首を動かして周りを見ると私と同じように多数の子どもたちが倒れていた。

 

みんな身体が動かせないようで、身体を小刻みに震わせ、中にはもうすでに事切れたのか動かない子どもまでいた。

 

炎の先には動けない子どもたちを見る研究者たちの姿があった。

 

その中には私をひろってここまで育ててくれた神父さまの姿もあった。

 

その姿を視界にとらえた私は、涙が溢れる。

 

だが、もうこれ以上悲しむことはないだろう。

 

私の、少年たちの死はすぐそこまで迫っているのだから。

 

私はふと、過去に想いを馳せる。

 

──どうしてこんなことになったんだろう?

 

 

私は身寄りのないストリートチルドレンだった。

 

1日に1食取れることが出来れば運が良い日で、食べれないときは水だけで1週間を過ごしたこともあった。

 

そのため身体はボロボロで痩せこけ、1日1日が生きるか死ぬかの瀬戸際で、何度も死を覚悟した。

 

だけど死にたくはなかった。

 

だから生きるためには何でもやった。

 

物乞いはもちろんのこと、店から盗んだり、人を襲ったこともあった。

 

そして襲われたことも。

 

私は見た目はそこそこいいらしく、何度か攫われたこともある。

 

その度に私はその身に宿った忌々しい力を使って逃げた。

 

この力のせいでお母さんに捨てられたのに。

 

ただ、攫われたことから自分の身体に価値があると知って、身体を売ったこともあった。

 

ろくな買い手がほとんどおらず、そこから逃げ出す事の方が多かったが。

 

町の中は敵だらけ。

 

顔は見られていないが、それでも私の服装や体格を見ればみんな警戒した。

 

みんな私のようなストリートチルドレンに多かれ少なかれ被害を受けているのだから、しかないことかもしれない。

 

だから普段は街から少し歩いたところにある森で過ごした。

 

町ではできない水浴びもできる。

 

季節が冬でなければ、木の実やキノコなど食べ物もあった。

 

不満といえば夏は虫が多く春や秋は肌寒く、冬は寒すぎること。

 

それでも町よりは快適に過ごせて私としては気に入っていた。

 

森では主に狩りをして暮らしていた。

 

食べ物の大切さは身を以て知っていたから、木の実などは1日何個までか決めていた。

 

なら、何を狩るのかといえば、森に生息する動物や森の中にあった小さな湖で魚を狩っていた。

 

 

そんな生活を3年程続けていたある日。

 

私は神父さまと出会った。

 

神父さまは教会で身寄りのない子どもを引き取って育ててくれる私のような子どもにとって神のような存在だった。

 

町で私の噂を聞いた神父さまは私を引き取るためにここまで来てくださったのだ。

 

最初は信用できなくて、近づかなかったけど、周りの子どもたちの表情を見れば、この人は敵じゃないと思えた。

 

私や他の子が悪さをすれば、怒ってくれた。

 

いいことをすれば、頭を撫で、「よくやった」「エライぞ」と褒めてくれた。

 

本気で私を思ってくれた人はこれまでお母さんしかいなかった。

 

だからすごく嬉しかった。

 

こんな私を怒ってくれることが。

 

こんな私を褒めてくれることが。

 

お母さんしかいなかった私にとって神父さまはお父さんのような人だった。

 

お父さんのような神父さまに出会えたことを私は主に感謝した。

 

それから数ヶ月が経って神父さまは私に「主の為に頑張って欲しいことがある」と言ってこの施設へ預けられた。

 

もちろん私はそれを受け入れた。

 

神父さまに出会えたのは主のおかげであるから、少しでも恩返しがしたかった。

 

そして、神父さまにーーーお父さんに、また褒められたかったのだ。

 

 

 

神父さまに連れられるまま国を渡り、深い森の中にある教会に入った。

 

出迎えてくれたのは神父さまと似た格好をした男の人。

 

男の人は司祭と名乗った。

 

神父さまと別れ、司祭さまについて行くとそこにいたのは、私と同じくらいか幼い子どもたち。

 

子どもたちは髪に白髪が混じり、目がうつろだった。

 

司祭さまは子どもたちに私を紹介すると、仲良くするようにと言い残し奥の部屋に入っていった。

 

子どもたちは私に教会を案内してくれた。

 

みんなでご飯を食べる食堂からみんなで入る大浴場、みんなで眠る広間。

 

みんな私に良くしてくれた。

 

この教会に来て4日目。

 

これまでみんなと過ごしてきたがついにここに来た理由である、実験が始まった。

 

実験はとても辛いものだった。

 

毎日毎日身体を弄られた。

 

おかげで身体中包帯だらけだ。

 

ここに来たときどうしてみんな目がうつろで元気がなかったのかがわかった。

 

こんな実験を繰り返していればそうなっても仕方がない。

 

私も髪に白髪が増えてきた。

 

このまま実験が続くなら成功する前に私たちの身体がもたないだろう。

 

でも、神父さまのために頑張ろう。

 

 

 

並行して行われていた実験が廃止になったらしい。

 

ここも廃止になるかもしれないと、研究者の人たちが話していた。

 

私としてはそれは嬉しい知らせだった。

 

神父さまの期待を裏切ってしまうけれど、私たちにはもう限界だった。

 

おととい、私のことを兄と慕ってくれていたアッシュくんが倒れた。

 

身体はボロボロで髪も真っ白になっていた。

 

一週間くらい前にもライアちゃんが倒れ、その前にも家族が倒れていった。

 

みんなアッシュくんと同じで身体はボロボロで、髪も真っ白だった。

 

私はみんなより少し大きかったからか、みんなほどではなく、髪も光の反射角度によって7色に変化する薄桃(ラベンダー)色だったものが、ツヤの消えた灰色に変わったくらいだった。

 

それでも、限界だった。

 

みんな限界だった。

 

身体を弄られ続けた私たちにはもう実験に耐えられるだけの力は残っていなかった。

 

それは研究者たちもわかっていたんだろう。

 

私たちは研究が凍結されるとともに処分された。

 

 

 

眼前に迫る炎を吸い込んだことで、喉が、肺が焼けたのがわかる。

 

もう、息をするのも苦しい。

 

神父さまにどうして、と問いかけたいけど、声が出なかった。

 

どうして、私たちは司祭さまの言う通りに頑張ってきたのに。

 

私はただ、神父さまに喜んで欲しくて……!

 

視界が薄暗くなっていく。

 

もう何かを考えることも辛い。

 

急に視界がいっそう暗くなった。

 

誰か、私の近くに立っているのだろうか?

 

重たくなった首をなんとかひねり見上げると、黒いローブを羽織り、刀身が光でできている剣を私の胸に突きつけていた。

 

「……な、に……を……」

 

何をしようとしているのですか?

 

そう聞こうにも、喉が焼け声が出ない。

 

ドスリ

 

そんな音が聞こえて、胸を見るとそこには先ほどの剣が抜けて行こうとしているところだった。

 

身体から喉を伝って何かが溢れてくる。

 

「……ガフッ……」

 

どうやら血が溢れてきたらしい。

 

身体に力が入らず、さっきまでかろうじて動かせた首ですら動かない。

 

視界もなくなり、音も消え、胸に走る燃えるような痛みも消えた。

 

 

 

その日、私は、私たち49人の子ども(モルモット)は一人残らず、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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