女神な聖女と黒ウサギ 作:赤嶺
ーーー……リ
意識が覚醒する。
ーーー……スリ
聴覚が戻ってくる。
ーーードスリ
視界が戻ってくる。
ーーードスリ
私は、どうして……?
ついさっき私は黒いローブを羽織った何者かに胸を刺されたはず。
なのにどうして、まだ生きている?
ーーードスリ
刺された胸に手を当てようと動かすと、身体が意識を失う前まで感じていた疲労感がなくなっていた。
手が動く。
そのまま胸の刺された辺りをなぞるようにさするとそこには何もなかった。
おかしい。
私が意識をなくして何日もたっているとしても、完全に消えることはないはずだ。
それなのに消えているだなんて。
ーーードスリ
それにしてもさっきからこの音はなんだろう?
動くようになった身体を起こすして、音がする方へ向けば、
ドスリ
黒いローブを羽織った何者かが私の時のように子どもたちの胸に剣を突き立てていた。
突き立てられた胸からは血が溢れ出し、タイルを赤く染めていく。
ドスリ
また胸を指す音が聞こえた。
そちらを向けば同じように胸を指している光景が。
目線を横にスライドさせれば、同じように胸を貫かれ、動かなくなっている子どもたちが。
ドスリ
最後の一人が貫かれた。
これで、48人の死は確定してしまった。
どうして私は死んでいないのか、それだけはわからなかったが、他のみんなの死は確定してしまった。
「……ぅ、うぅ……うぅぅ」
心に黒い感情が宿るのがわかった。
《やぁ、はじめましてかな?相棒。調子はどうだい?》
暗闇に包まれた意識の中に誰かの声が聞こえる。
……悪いよ。
とても悪い。
《だろうねぇ。家族が目の前で殺されちゃったんだから》
声の主のほうへ意識を向けると、闇の中には、1匹のウサギが立っていた。
黒いウサギだ。
それも人型の、私と同じ容姿をした人間の子どものようなウサギが。
ところで、キミは誰?
《ボクかい?ボクはキミだよ》
キミは私?
《そうだよ〜》
ウサギは笑った。
《で、どうする?》
どうするって?
《キミは家族を殺されたんだろう。なら、あいつらをどうするってこと》
そうだな。
憎い。
すごく憎い。
《なら壊しちゃおうぜ》
壊す?
《そうさ。キミとボクの力を使えば壊すことなんて簡単さぁ》
そう、だな。
壊そう。
私から家族を奪った奴らを。
私を騙していた神父も、その仲間も。
《そうそう。全部壊そう。ボクらの敵は全部壊そう》
そう言ってウサギが意識に溶け込むように消える。
内側に向けていた意識が外に向かって覚醒する。
視界に映るのはさっきまでと変わらぬ、残酷な光景。
足に力を入れて立ち上がる。
立ち上がる時に音を立てたからか、黒いローブの何者かたちと司祭さまを含んだ教会関係者がこちらに顔を向ける。
そして信じられないものを見たかのように、目を見開き、口を開けた。
「ば、馬鹿な⁉︎なぜ死んでいない⁉︎貴様は真っ先に殺すようーーー」
司祭さまが叫ぶが、途中で言葉が途絶えた。
代わりに、
ポタ、ポタ、ポタ
と、何かが垂れる音が聞こえ出した。
その音は私の手から。
司祭さまの首があった場所から。
私が握った首から、何かが垂れる音が聞こえた。
「……脆いな」
誰かの悲鳴が聞こえる。
けれどそれを私は無視する。
誰かの鳴き声が聞こえる。
けれどそれを私は無視する。
誰かの命乞いが聞こえる。
けれどそれを私は、
「おや、誰かと思えば神父さまではないですか。お久しぶりです。……どうかしたのですか?お顔の色が優れないようですが」
「た、助けてくれ!わ、悪かった、私が悪かったから!!どうか命だけは!!」
「何を言っていらっしゃるので、神父さま?許すわけないでしょう。私は、私たちは、あなた方のような屑によって苦しめられたのですよ?なら、その分苦しんでいただかないと」
そう言って神父さまの右腕を千切る。
神父さまが悲鳴をあげた。
左手を千切る。
神父さまが悲鳴をあげた。
「……ゆ、ゆるして、くだ……さ、い……」
まだ、命乞いをしてくる。
「私は優しいから、あと1回で、やめてあげましょう」
右手で手刀を作り、腕を上げた。
神父さまは情けない声を上げながら、何度も命乞いをしている。
手刀を振り下ろそうとして、身体に違和感を感じた。
意識を失う前に感じた、喉を這うように上がってくる不快な感覚。
口元に手を当てれば、指先は赤く染まっていた。
ザシュッ
腹を何かが通った。
手刀をといて触れればヌルヌルと湿っている。
また、か。
腹を斬られた。
それも臓器ごと。
背中に手を回す。
腹と同じように裂傷があった。
さっき感じた違和感はこの傷のようだ。
だか、不思議と両方とも痛みはない。
でも身体から力が抜けていく。
とりあえず、神父さまの頭を潰した。
トマトを潰すかのように一瞬で潰れてしまった。
呆気なかったな。
再び私を切り裂こうとする黒いローブの腹に蹴りを入れる。
腹を斬られたからか力をうまくコントロールできない。
黒いローブの腹に風穴が開いてその場に倒れた。
血が止まらない。
蹴ったからか腹に鈍い痛みが帯びてきた。
「……はぁ……はぁ……」
研究所を焼く炎が勢いを増していく。
酸素が燃やされていき、ますます息が荒くなる。
司祭たちは全員殺した。
黒いローブの数人も全て。
でも、誰かが別の教会に連絡をして他の武装神父たちを呼んでるかもしれない。
それにときどき来ていた司祭よりも偉い人がいない。
きっと死体の数が合わなかったら追いかけられる。
早く逃げないと、追っ手に追いつかれる前に。
血の流れすぎか震える足に力を入れて、ゆっくりと出口に向かう。
出口にたどり着くと私は振り返って、軽く黙想する。
どうか、みんなに次なる生が訪れますように。