女神な聖女と黒ウサギ   作:赤嶺

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prologue3

 

 

研究所は極秘裏のものだったためか、森の中に建てられていて出口から出ると見渡す限り緑が広がっていた。

 

私はここから1歩でも離れるべく、休むことなく歩き続ける。

 

後ろからは炎のゴゥゴゥの燃え盛る音と、研究所の崩れる音が聞こえる。

 

私はそれに振り返ることなく、前だけを見て歩く。

 

炎のおかげか夜の森の中にもかかわらず、しばらくは足場を確かめながら歩くことができた。

 

本当にどうしてこんなことになったんだろう。

 

こんなことになると分かっていれば、みんなを連れて逃げ出したのに。

 

……いや、出来なかったな。

 

私にはそれほどの力はない。

 

みんなよりもちょっとだけ特殊な力があっただけの子どもなんだ。

 

きっとわかっていても私1人逃げるのに精一杯だった。

 

《その通りだね。ボクらはまだ弱い》

 

消えたんじゃなかった?

 

《違うさ。相棒が力を使いやすいように溶け合っていただけ。相棒はまだひとりで力を使うことはできないんからさぁ》

 

でも前にも何度か使ったことがある。

 

《それもボクが手を貸していた。じゃないと相棒、死んでたかもしれないし》

 

……そうか。

 

《使い方はまた今度教えるよ》

 

それは助かるな。

 

《久しぶりに力を使ったからか疲れたから、少し眠るよ》

 

追っ手が来たときどうすれば?

 

《そのときはそうだなぁ、なんか声かけてよ。せーの、とかさぁ》

 

掛け声。

 

どんなのがいいだろう?

 

《簡単なのでいいよ。さっき言ったせーのとか》

 

掛け声かぁ。

 

《……せーのは気に入らないんだねぇ》

 

子どもっぽいから。

 

《まだボクらは10歳なんだ。まだまだ子どもさぁ》

 

そうだけど、カッコいいのがいい。

 

《カッコいいのねぇ。そういうのは子どもっぽいんじゃないの?》

 

……うるさい。

 

《アハハ。じゃあとりあえずはせーので、決まったらそっちのカッコいいのにしなよ。まだ思いつかないんでしょ?》

 

……そうだな。

 

また後で決めることにする。

 

《そうしなよ。……ふぁ〜あ。それじゃ、おやすみ》

 

おやすみ黒ウサギ。

 

黒ウサギが眠ってからもしばらく歩き続けていると森の終わり、つまりはどこかしらの道を照らす電灯の光が見えてきた。

 

腹の傷は治る様子もないから、どこかの病院で診てもらわないと。

 

傷といえばどうして胸の傷は無くなったんだろう。

 

腹の傷は治らないのに胸の傷に、火傷など意識を失う前にあった傷がすべて治るなんておかしい。

 

少なくとも司祭たちによるものではない。

 

あいつらは私たちを殺していたんだから。

 

ならどうして?

 

黒ウサギなら知ってるのだろうか。

 

いますぐ聞きたいけど、また後でにしよう。

 

いまは早く森を抜けることを考えよう。

 

道に近づくにつれ、視界に明るくなっていく。

 

さっきまでは真っ暗で手を伸ばした先までしか見えていなかったが、もうだいぶ先が見えている。

 

これでやっとーーー

 

「なんと!本当に生き残りがいたんですねぇ」

 

「まったく、あのままくたばっていればよかったものを」

 

前と後ろ、その両方から声が聞こえた。

 

後ろから聞こえた男の声は聞いたことがない。

 

でもわかる。

 

背中にビリビリと感じるプレッシャー。

 

いままで感じたことのない威圧感。

 

勝てない……!

 

力を使いこなせない私ではどんなに尽くしても勝つことができない。

 

素人の私が相手を見ずともそう思えるほど、圧倒的なプレッシャー。

 

身体が震える。

 

でも、その震えは後ろの男だけが原因ではない。

 

前の男。

 

それはーーー

 

「……何故、ここにいるのですか、教授(プロフェッサー)さま……?」

 

教会の誇る12使徒。

 

『特務機関イスカリオテ』序列第9位。

 

教授(プロフェッサー)』ロイド・バニエス。

 

私たちが被験者となった実験の立案者。

 

「んん〜?それはねぇ。処分できたか確認しに来たんだよ。ダホア司祭がちゃ〜んとしたかを、ね」

 

処分……。

 

それは何に対しての言葉だろう。

 

実験の書類?

 

施設?

 

それとも、私たちのこと?

 

……私たちのことだろうな。

 

じゃなければあんな目にあうはずがない。

 

毒入りの食べ物を食べた私たちを生きたまま燃やすなんてことするはずがない。

 

「それにしてもその傷でこんなところまでこれるなんて、火傷の跡がないのは気になるけど、案外試作品としては成功してたのかねぇ。これならあと数度の実験で完成するかもしれないなぁ」

 

試作品。

 

人間に使う言葉じゃない。

 

やっぱりこの人は私たちをただの実験動物(モルモット)ととしてしか見ていなかった。

 

いや、いまはそんなことどうでもいい。

 

どうやってこの場から逃げるかを考えろ。

 

「僕の研究所に持ち帰って、解剖したいなぁ」

 

「おい、そいつは始末するんじゃなかったのか?」

 

「そのつもりでしたが、ここまで逃げてこれたものを処分するのももったいないと思いましてねぇ。どうです、『剣王(ブレードマスター)』。あれを生け捕りにすることは可能ですか?」

 

「やっていうんならできなくはないが、手足の1、2本はもげても文句言うなよ?」

 

「えぇ、えぇ!構いません!手足がいくらもげようがあとで生やせばいいのです。あぁ、楽しみですねぇ。あれは一体いまどのような体組織になっているのか!解剖が楽しみですよ!!」

 

終わった……。

 

勝てない。

 

何が起ころうとも。

 

逃げ出すことすら、できないと分かってしまった。

 

背後の男は強いと思っていたけど、教授(プロフェッサー)と同じ特務機関イスカリオテの第12位、『剣王(ブレードマスター)』アスランだなんて……!

 

教会の最高戦力のうち2人もいれば大抵の敵は逃げることすら叶わず、ただその身を蹂躙されるだけ。

 

それを教えてもらったときはその強さに憧れたが、いま私の前後にいる男たちの出す空気を感じるだけで狂ってしまいたくなる。

 

これが教会の頂点……!

 

どうすればいい?

 

どうすれば……。

 

……。

 

…………。

 

………………力を使おう。

 

暴走してもいい。

 

ここから逃げ出せるなら。

 

まだ、私は死ねない。

 

みんなのためにも長く生きないといけない。

 

だから。

 

……せーの!

 

首元から何かが這うのがわかった。

 

這って右頬に、這って這って、右腕に、這って這って這って、右足を何かが這うのがわかった。

 

黒い筋のようなものが右頬を、右腕を、右足を這っていく。

 

るらるらと巡る。

 

呪いが巡る。

 

私の身体をるらるらと呪いが巡る。

 

視界が薄れる。

 

音が掠れる。

 

身体のどこかが変わっていく。

 

あああ、ああああああああああああああ。

 

呪いが、私をーーー

 

《仕方ないなぁ。ボクがまた助けてやるよ》

 

 

 

 

気がつけば、知らない森の中にいた。

 

さっきまではいた森じゃない。

 

どこか遠い森。

 

朦朧とする意識の中で、私は助かったのだと、不思議と思えた。

 

あの場からは何とか逃げ出せた。

 

ゆっくりと意識が覚醒していく。

 

さっきまで感じなかった痛みがじわじわと広がっていく。

 

左手を動かそうとして、

 

私は左手がないことに気が付いた。

 

途端に痛みが走った。

 

「が、ぐぅぅぅがぁぁぁぁああああああああ!」

 

斬り落とされ二の腕から下のなくなった左腕のその斬り口からはいまだ血が止まらず、その場を紅く染め上げる。

 

全身を引き裂かれたかのような痛み。

 

「うぐぅぅぅぅううううううう」

 

歯を食いしばり、ひたすら痛みに耐える。

 

けれど痛みは引かず、私は数時間叫び続けてた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

叫び続けてようやく痛みが鈍くなってきた。

 

鈍くなったというか感覚がなくなってきたと言ったほうがいいだろうか。

 

血を流しすぎた。

 

もう叫ぶ気力も起きない。

 

どうやってかあの最悪の状況から逃げ出せたというのに、なんてざまなのだろう。

 

みんなには悪いが私もここまでのようだ。

 

「ーーーか?」

 

何が聞こえた。

 

「だれか、そこにいるんですか?」

 

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