千切れた腕と炎に抱かれ   作:江上音

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プロローグ・脳

 

 

 そもそも、俺は乗り気じゃなかった。

 手術とやらで頭蓋骨を外して脳みそを見る。そして弄る。

 死ぬよな?

 俺の住んでた地域にも医者はいる。免許もとれないヤブ医者や、剥奪された闇医者どもだけど。

 腕がよければなんでもいい。安けりゃ最高だ。

 でも、どんな高い金払ったって、脳ミソ弄ったら死ぬだろーよ。学がない俺だってわかる。

 

「こちらが被験体6型B号です」

 

 薄暗い部屋。窓もなく、テーブルや椅子もない。天井につけられた電球だけが、俺「たち」を照らしていた。

 白いドアを潜って現れたのは、偉そうな医者たち。

 一際偉そうな医者に、ボードを持った医者が、さっきの言葉を俺を見ながら告げたんだ。

 あ、俺ってそんな名前になったんだ。

 感慨もなく、俺は納得する。

 親も知らない俺は、愛称はあるが名前はない。

 愛称を呼んでくれる恩義のある人はいたが、その人が流行り病に倒れたから、俺はこんな病院に身売りすることになった。

 簡単に説明しすぎたかな? だから学がないって馬鹿にされるのかもしれない…。

 

「君は人を殺したことがあるか?」

 

 偉くなさそうな医者に聞かれる。

 これは俺にじゃなく、ロクガタエーゴウというやつに向かった質問だった。

 彼は忌々しそうに「あるよ」と答えた。

 質問はそれだけで、今度は俺にさっきの質問を剥けてきた。

 

「君は人を殺したことがあるか?」

「ない…ッス」

「では、人を殺してみたいと思ったことは?」

「あるッス」

「なぜ殺さなかった?」

 

 なぜ、なぜか…。

 

「力がなかったから、かなー?」

「銃があれば撃ったか?」

「銃は、持ってた」

 

 では、なぜか。

 

「報復が怖かったかね?」

「引き金が怖かったかね?」

「何人もいたのかね?」

「撃ち方を知らなかったのかね?」

 

「いや…えっと…」

 

 うまく言葉にできない。頭のいいやつが羨ましいよ。

 自分の言葉にちゃんと説明をしようと頭を捻っていると、耳元で――錯覚だ誰もいない――囁くような声を聞いた。

 

 

 人殺しは、いけないことだと思ったのだろう

 

 

 その冷たい声に、冷たい音に、思わず逃げ出したくなった。悲鳴を上げなかったのは、単にタイミングを逃したからだった。

 言葉自体は、なんのことはない、ただの価値観の押し付けだ。なにがここまで怖かったのか、さっきの言葉にどんな意味があるのか…早鐘を鳴らす心臓の音に邪魔されて、考えることを放棄した。

 

 俺にその質問をしたのは、一番偉そうな医者だった。周囲からは「教授」と呼ばれている。

 顔は上げれない。

 言い当てられた…わけじゃない、人殺しを否定なんてしてない。しかたないことだ。戦争じゃ人殺しなんて当たり前だし、人を殺そうとする奴を前に、俺は説得なんてせずに逃げ出すことを選ぶ人間だ。

 なのに、この教授の顔を見ることができやしない。

 教授教授と呼ばれる医者を――

 カウプラン教授を――

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