このイベントは、《始まりの街》限定のユニークイベントで、期間はおそらく*ゲーム開始直後から受付開始。
*――このイベントを受注したプレイヤーは一人しかいない。クエストが表示された場合、詳しい説明が書かれていることが多いが、このイベントにエントリーしたとき、そのプレイヤーは読み飛ばしたようだ――
内容は《始まりの街》の教会の修繕。報酬は経験値のみであるが、初期では破格のEXP配分であり、《始まりの街》の教会を拠点にしていた者全てに与えられる。レベル1からならレベル12ほど上がるため、そのまま第3層に単身で潜っても問題なくなる。
しかし、そのために上記のプレイヤーが一ヶ月ほどの時間をかけて、大工スキルを160まで上げていたことから考えると、人を選ぶクエストである。
※イベント『懺悔する神父』に派生。
『懺悔する神父』
イベント『救済の家』の派生だとおもわれるユニークイベント。『救済の家』もユニークイベントであること鑑みるに、一連のクエストであると思われる*。
*――このイベントを受注したプレイヤーは一人しかいない。クエストが表示された場合、詳しい説明が書かれていることが多いが、このイベントにエントリーしたとき、そのプレイヤーは読み飛ばしたようだ――
クエスト同行者の話によると、教会の修繕がほぼ終わりの段階で発生し、NPCの神父が教会を訪ねてくる。そのまま神父の懺悔を聞くとクリア。報酬は『地下の鍵』。地下室には装備『神父』及び『シスター』がある。1着ずつではなく、クローゼットの鍵にもなっており、開ける度に入手できるため無限沸きになっている*。
――詳しくは小ネタ『呪われた神父服』を参照――
神父の懺悔の内容は、『20年前、詐欺にあった神父が、教会に住んでいた子どもたちのために盗みを働く。子どもを信頼できる人に任せた神父は、自ら出頭して神父としての立場を捨てた』と、SAOにしては分かりやすく裏もないイベントだったらしい。
イーヴァンは、神父の懺悔を聞きながらお茶を飲んだ。
要約すると、この神父は定期的に、寂れ、壊れていく教会を見に来ていたらしい。すると、一月前まで廃墟だった教会が、立派な建物になって、おまけに元気な子どもたちまでいることに感激した。中に入ることもできず、しかし捨てることもできなかったという『地下の鍵』をイーヴァンとトールに託して、この神父はまたどこかに行くという。
「このイベント長いな…」
「そうですねー」
NPCが話し続けているにも関わらず二人はそんな会話をし始めた。そもそもNPCにはイベントNPCとアクティブNPCなど、いろんなNPCに区分される。
ほぼ全てのNPCには、プレイヤー一人一人に対して個人友好度が設定されていて、現在はそこまでやり込んでいるプレイヤーはいないが、結婚も可能である。
しかし、イベントNPCはイベントを進めるためだけの存在であるため、イベントを開放するときに友好度が設定されていたとしても、イベント開始後からは、どのような好感度になっても関係がなくなる。
そのため、二人はカードゲームモドキで遊び始めていた。
テーブルの上に、子どもたちが片付け忘れていたものがあったのだ。
「トール強いッスわ…」
「これ売れるな…」
「子どもにはちゃんと手加減してるんでしょーね?」
「教育はしてるよ」
トールがクスクスと笑い、イーヴァンはガックリと肩を落とした。
まだ神父の話が終わらなかったからだ。
「つきましては、これをあなた方に」
「これなに?」
トールは神父から手渡されたアイテムを鑑定している。
「それは『地下の鍵』です」
「え…地下がまさかのダンジョンなの!?」
「いえいえ、そうではなく」
「あぁキッチンの床扉に鍵あったね。野菜いれるところじゃないんだ」
「いえいえ、そうでは」
「教会離れます? もし隠しダンジョンとかだったら」
「あのですね、地下にはクローゼットがありまして」
「クローゼットかぁ。Zでクローとは強そうなダンジョ…クローゼット?」
「はい」
「…え、なにが入ってるの?」
「お二人にピッタリの服ですよ」
神父の柔和な笑顔を見ながら、二人は首を傾げた。
夕方、旅立つ神父を見送った二人は、何時もとは違う服装に身を包んでいた。
「おねーさますごい似合ってますね」
「まったく嬉しくないけどねー…」
俺男だし。と呟くイーヴァンは、シスターの格好をして、裾をつまみ上げていた。
「パンツが見えそう!!」
「やめろやめろ」
興奮するトールにイーヴァンは笑いかける。
「トールも似合ってるよ」
「えへへ、コスプレも好きなんですよねー。引きこもりですけど」
クルッと回った彼女は、自分の格好を見てニタニタと笑う。
「男の娘って正義ですよね」
「男の子って正義なの?」
いまいち噛み合わない会話もそこそこに、イーヴァンはNPC神父を思い出す。
「あの人ってさ、イベント終わったらいなくなっちゃうの?」
「どうなんでしょうね? この鍵、消費アイテムかと思ったらなくならないし、クローゼットは常時開放されてますからねー。しかも中の服は無限沸きですよ! これは大きな前進ですね!」
「は、はぁ」
「ストレージの中をいっぱいにしてもまだまだありますからね、売ればどれほど儲かるのか…」
「普通のクローゼットなのにねー」
地下には、これといってなにもなかった。あえて言えば『金庫の鍵』があったが、これは神父いわく代々続く日誌を保管している金庫のものらしい。どこにあるかは空白の20年によって不明になったため、イーヴァンたちにはどうしようもない。
『金庫の鍵』は、おそらく次のイベントに繋がるものだとトールは思ったが、それは時期を見て言うことに決めていた。
「おそらく、次の街とか上の階層で教会がぐちゃぐちゃだったらまた見れますよ」
「うん、引き留めたんだけどねー…残念だったね」
「NPCに子どもたちの料理は作れないと思いますけどね」
「あ、そろそろ時間か。買い出しまかせた」
「はーい」
イーヴァンは、子どもたちとフリークエストを成功させて得たお金を、必要額分だけトールに譲渡した。
お金の管理は、イーヴァンが受け持っていた。トールがあまりにもお金に関してズボラだったためだ。
「野菜は収穫しとくからね」
「お任せしますー」
教会の裏手には、大きな畑が出来ている。
報酬でもらった種や、薬草、毒消し草など、色々な種類を自分たちで作った方が安上がりだと気づいたからだ。
おかけでイーヴァンは大工スキル、料理スキルに次いで、栽培スキルの熟練度が高くなっていた。
もっとも、栽培をしてくれるメインは子どもたちであって、その熟練度は子どもに劣る。
そして、一応無料で開放してある畑ではあるが、子どもが作っていると知ってか知らずか、悪さをするようなプレイヤーはいまだ一人もいなかった。
(明日は鍋買ってこよー。いや、作れるのかな)
ゲーム嫌いの割りに、すっかり馴染んでしまった彼が、コトコトとスープを煮込み始めたとき、トールが帰ってきた。
「早いッスねー。どうしたの?」
「た、大変ですおねーさま!」
彼女は顔を青くしていた。
そのただならぬ様子に、イーヴァンは慌てる。
「モンスター? また魔王カヤバー出てきたの?」
彼女は泣きそうな顔でフルフルと首を振った。
「子ども!? 大丈夫?!」
キッチンには、料理の手伝いをしてくれる子どもたちも数人いたが、今日の当番じゃない子どもたちは、たまにパーティーを組んでフィールドの外に出ていたりもする。
しかし、それでも彼女は首を振った。
そして、彼女が絞り出した言葉は、なんとも奇っ怪なものだった。
「の、呪われた」
「は?」
「この服は、呪われた装備だったんですぅ!!」
トールは下唇を噛んで、いまにも泣きそうである。
「売れない渡せない捨てられない!!」
「はぁ…えっと…それだけ?」
「そそそそそれだけ?! 何言ってるんですかおねーさま! アイテムストレージ一杯なんですよ! もう、ああ!もう!」
ここまで取り乱した彼女を見るのは始めてかもしれない。
頭を抱えしゃがみ込むトールを、イーヴァンはちょっと面白いなーと見ていた。
「どうしようー…もうダメだ…剣を持っても重量オーバーでスキル制限かかるし、ダメだ…詰んだ」
「試せることは全部やったの?」
「やりましたよ! でも、無理で…」
「んー……」
トールはまな板の上の包丁を逆手に持ち、それを躊躇なく自分の腕に突き刺した。
「わぁ!!」
子どもたちから悲鳴が上がる。
イーヴァンは包丁を抜きながら、傷口を見る。
「現実世界じゃ絶対真似すんなよー」
「お、おねーさま?」
「うん。いま剣持ってる?」
有無を言わせぬ口調で言われたため、トールはあわてて重量オーバーギリギリアウトのストレージを開き、剣を装備する。
「……貸して」
「え? はい」
イーヴァンの顔はすでに真っ青だ。
それでも、剣を受け取って、子どもたちに声をかける。
「えー、今からちょっと実験するから、回復薬持ってる子集合ー」
圏内ではHPが減らないため、イーヴァンは回復薬を持っていなかった。
「さて、トール動くなよ?」
「へ?」
イーヴァンは、ソードスキルを無意識に発動させたままトールに突き刺した。
「おおおおお!!?? およ、痛くない」
「まぁ、そうだね」
「え、これ何してるんですか?」
腹と背中から剣を生やすトールに、子どもたちはドン引きである。
「HPバーは? 問題ない?」
「はい、とくには」
「んじゃ、そのままそこに立っててね。料理再開ー。シリカはトールの代わりにパン買ってきて」
シリカと呼ばれたツインテールの女の子は、トールからお金を受け取って買い物へ出掛けた。
10分後、トールの服が耐久数値を越えて砕け散った。
おおよそ20着のシスター服を壊したところで、トールは安心してお腹から剣を抜いて眠った。