イーヴァンは、自身の武装を盾にした。
タンク、盾役、盾職、肉壁と、言い方はいろいろあるが、ことSAOに置いては最も死にやすいとされている。
事実、SAO正式サービス開始から、戦闘で死んだ者の約6割が盾職だった。
それは、イーヴァンも知っている。
盾を持ってパーティーに来ないかと、誘われたこともあった。
それでも、イーヴァンは盾役を買ってでた。
理由は、大きく二つだ。
一つは、トールのため。
第一層ならば、攻撃力の低さに目を瞑れば二人でも問題ないだろう。しかし、もっと上の階層。それこそ、いま挑む界層では、とてもじゃないが、貧弱極まりないイーヴァンたちの装備で、戦略なくして攻略できるわけもない。
ゆえに、トールを守るために、トールを戦いやすくするために盾を持つことにした。
そしてもう一つの理由が――
「おねーさまダメ!近すぎ!」
「あちゃー」
敵の鞭のような攻撃に、考え事をしていたイーヴァンは足を絡めとられ、地面を引きずられた。
幸いなことに、引きずられるとこによってのダメージはなく、鞭攻撃にも大した威力はなかった。
「誰か!おねーさまを!」
「はい!」
凛とした声とともに、引きずられる感覚がなくなる。惰性で転がり、グルグルと流れていく視界の隅に、彼はその声の主を捉えた。
「ありがとうッス、アスナ」
「いいから下がりなさい!!」
(怖いっ)
こちらを一瞥もしない長髪の少女の背を眺める。
「あれは絶対あれだ、男社会で無理して馴染もうとして、結局男に打ち勝っちゃって婚期逃す人だ」
「おねーさま下がってください!」
「おーけーおーけー」
第12層のフロアボス――の周りの雑魚に手間取りながら、イーヴァンは周りを見守り始める。
ゲーム開始からおよそ半年。
第一層を拠点とするイーヴァンたちは、とうとうエリアボスに挑むまでに成長していた――といえば聞こえはいいが、今回は彼らには思惑があった。
アサインクラット解放隊に、子どもが4人ほど連れ去りれたのだ。
無論、それはトールの主観からみた出来事であって、実際は子どもたちから干渉して、パーティーに組み込まれたわけだが。
それでも、トールは引かなかった。むしろ押し進んでこんなところまで来てしまった。
「スイッチ!!ってもっと離れてください!」
「あれ?もっと?」
「おい邪魔すんなら帰れシスターズ!!」
周りのプレイヤーから野次がとぶ。
SAOでの戦闘で、最低限こなさなければならない戦略が、「スイッチ」である。ターン制ではないSAOでは、攻撃は最大の隙でもある。そのため、攻撃する役と防御する役とに分かれ、モンスターと対峙するという安全マージンを守りながら戦うようになっているのだ。
それができなければパーティーから外され、一からやり直せと言われる地雷プレイヤーに認定される。
ただのゲームならまだ良い。だが、これは命懸けのデスゲームだ。イライラ程度では済まされない。おまけにフロアボスともなると、プレイヤーキルされないことが奇跡的ですらある。
「おねーさまなんでそんな近いんですか!あんなに打ち合わせしたのに!」
トールも、普段は見せない強い口調で、イーヴァンを嗜めている。
だから、彼女は気づかない。
イーヴァンの、淡々とした口調に。
「近づかないと、装甲に勝てない。俺の銃はライフリングがないから」
「もう言い訳はいいです!下がっててください!」
彼が盾を選んだもう一つの理由。
イーヴァンたちは、零距離射撃ではないといけないのだ。
まず、この距離で、『彼ら』は●●と対抗できる手段がない。施条のない●●●●●●では、中・遠距離ともに●●の装甲に何発撃っても貫くことはできない。
それに加え、いまは武装も貧弱だ。
鉄のシールド、腰にはナイフ。
せめて鋏でもあれば、敵の鎧を突き破れるのだが、
「あれ?」
鋏って、なんだろう。
イーヴァンは、自身のイメージに首をかしげた。
「おいシスター姉! 体力減ってねぇなら前線に出ろ! せめて役に立ちやがれ!!」
誰かに引っ張られ、イーヴァンは前線へ押し出される。雑魚相手に、華麗な剣技を披露するトールは、そのことに気づいていなかった。
イーヴァンの眼前に立つ、化け物が1体。
第十二層フロアボス、THE・GONG。剣は持たず、拳で戦う。細身のゴリラのようだった。
フロアボスが持つ武器の代わりに、GONGはナックルを装備している。それも、堅いクリスタルが拳を覆っている物で、必殺の間合いで繰り出されたはずのプレイヤーのソードスキルを、全て打ち払えるほどの威力があった。
ここで盾役に求められていた技術は、「パリィ」である。剣でもパリィはできるが、盾で行う場合は相手の隙が大きくなり、なおかつ剣ではパリィできないほどの強力な技でも、受け流すことが成功する場合が多い。
しかし、そんな技術を持たないイーヴァンができることといえば、精々強力な一撃を防いで、その隙に他のプレイヤーが攻撃する時間を稼ぐこと程度のことである。
「あだっうぉ! マジかこれ!」
強力な一撃――それが、このフロアボスにはなかった。遠距離の攻撃には滅法弱く、中距離のソードスキルにも対応できないボスである。
先遣隊が、このフロアボスを弱ボスと言い切った理由もわからなくはない。
だが、フロアボスのHPが半分を下回ったとき、GONGの持ち味が火を噴いた。
フットワーク。ボスフロアの端から端を駆け回り、連撃を繰り出す。一撃一撃は重くない。
だが、このボスのコンボ(おそらくは無手スキル)を一度食らえば、瀕死になるプレイヤーは多かった。
幸いなことに、攻略組と呼ばれるプレイヤーに、死んだものは一人もいない。
「死ぬわ」
イーヴァンは、盾の内側で呟いた。
盾を打ち付けるのはフロアボスの連撃。地面に盾を『噛ませて』いなければ、とっくに後ろへ吹っ飛ばされていただろう。
「いま助けるぞ!うわっ!」
他のプレイヤーが、イーヴァンが陥った惨状を見て動こうとするも、雑魚敵に邪魔されている。
そして、この雑魚敵の多さが厄介だった。
盾のソードスキルに遠距離のものはなく、先遣隊が体験したTHE・GONGのフットワークはそれは悪いものだったらしい。
だから、ほとんどのプレイヤーが使いなれた剣を持ってきた。持ってきてしまった。
スイッチという戦法は、必ずしも盾である必要はない。むしろ二人で剣を持ったほうが、総合攻撃力は高くなり、雑魚であるなら瞬殺できるため、比較的安全だ。
だから、先遣隊はTHE・GONGより、その周りにいる雑魚敵を重視して報告してしまう。
結果、雑魚を討伐しきる前に、攻略組はその攻撃力を遺憾無く発揮してTHE・GONGのHPを50%以下にして、フロアボスを覚醒させてしまった。
フロアボス討伐のために集まったプレイヤーはおよそ25人。その中で、大型の盾を持ったプレイヤーは、イーヴァンを含めて3人。小型の片手盾を装備しているプレイヤーは、5人ほどしかいなかった。
ただでさえ肉壁と呼ばれて見下される盾。
彼らは、盾の限界を、まだ知らない。
パンプキン・シザーズは月マガで読んでるんですが、ヤバい、本当に伏線長すぎ。スティレット《慈悲の一撃》とか鳥肌立った。
おまけにあのピーコックの砲撃ね、その号令ね。コートの下亀甲縛りされてるってわかっててもヤバい。
あと前月の(先々月?)ミュゼさんの「わたしなら…(わたしでも――)」の真意教えてエロい人!
(――)←わたしでもできる!なのか、わたしでも無理!なのか、気になって夜しか眠れません!