だからといって、平穏に生活できるわけじゃない。
「暑い暑い暑い暑い熱い熱い熱い熱いいいい」
床をのたうち回る。
熱いのか暑いのか、もしかしたら寒いのかもしれない、わからない。
ただ、強く思った。
死んでしまいたいと。
「薬が切れた、投薬しておけ」
誰かが注射器をもって俺の腕を掴んだ。
「あああああづづづづづいいいいいい!!!」
掴まれた部分が、熱した鉄を押し当てられたように痛む。慌てて振り払い、ベタベタと四つん這いになって逃げようとした。
「こっちだ!押さえつけろ!!」
数人に捕らえられ、それでも無様に暴れる。
「あづい!あああああ!!!あづぅぅぅういいぃ!」
「この!失敗作が!!」
首に、熱さとは違う痛み。冷たいとすら感じられる。
ふと、意識が遠のいていく。
起きれば、また熱いだけだ。
死んでしまいたい。
だのに、起きれば薬を打たれ――
「じゃあ、俺は運がいいほうかな?」
「かも…な」
901ATT――
「そのロクガタエーゴウってやつはどこにいったんだ?」
「さぁ」
「他にも、その「殺した」って答えたやつもいないんだよな」
「あぁ。いないね」
室内で休憩している兵隊を見渡す。
室内といっても、かつてここがどこかの民家のキッチンだったのだろうと想像できる瓦礫の山の中をである。
2階が良い感じに崩れてて、1階部分もその半分が埋まっているものだから、これ幸いと休憩させてもらっていた。
ちなみに、他の家にも何人か潜んでいるが、どこにいるか知っているのは隊長格だけである。
「なぁ、ランデル。お前は自分が脳を開いたとき、死んじまったほうが良かったと思うか?」
「……いや、生きてて嬉しいよ」
真横で座る大男の顔を凝視してしまう。
「だって、お前…人殺しは――」
「うん……嫌だよ。ランタンつけるたびに、視界に『変な文字が見える』気がして、それも怖い」
「お前は、そんなふうに見えてんだ」
「……イーヴァンは?」
イーヴァン…慣れない名前だが、軍属になるとき必要になったので、適当につけた。適当に書ける字を並べたら、ランデルがアナグラだかアナグロだかの方法で、それを名前にしてしまったんだ。デカイだけじゃなくて頭が良い。
ちなみに苗字はお互いにオーランド。同じ地区の出身で、他の奴らより、少しだけ馬が合っている。
「俺は…黒い影が見える」
「なんだ、それ」
「なんだろうな。ランタンつけてるときは違うんだ、でも消すと人影みたいのがぼんやり見える」
「じゃあ今も?」
頷いた。
ランタンつけてるときには、いまも少しだけ感じる暑さを忘れられる。熱いのも痛いのも、全部忘れられる。ランデルはそれが怖いと言ったが、俺は嬉しい。
たとえ、その人影みたいなものが、どんどん輪郭を濃くしているとわかっていても。
「そろそろだ。準備しろ」
「はい」
我らが少尉が装備を持って立ち上がる。俺も自分の荷物を肩にかけて立ち上がる。
「お前はいいよなーデカイから」
「この荷物のおかげで、筋肉ついたよ」
「
「腕…とれそうだよな」
ランデルの青ざめた表情を見てると、俺も不安になってきてしまった。
「やめろよ、想像しちゃったろ」
俺たちは笑いながら空き家を後にした。
――ブチン――
あの家を出てから、いったい何日が経過したのだろう。
手術を受けてから、俺はどうやって助かったのだろう。
あの人影は、なんで俺に手招きをするようになったのだろう。
そんな疑問が、俺の左腕とともに千切れて消えた。