ヒースクリフと名乗るプレイヤーと別れ、イーヴァンは宿屋へと向かった。
向かったと言っても、マップの開き方すら不明であるので、目的地を宿屋へ設定しただけだが。
「つーかこれマジなん? ドッキリとか、夢とか?」
肌をつねるが、痛くない。
これはまさに夢である。もしくはVRゲームの中だ。
「勘弁してくれよー…というか、現実世界の俺ってどうなってんだろ…」
「そこの彼女!」
「ナーヴギアだけ素早く抜けばいいんじゃないの? あ、でも電脳世界に意識だけ~とか?」
「おい、あんただよ!」
「そもそもこのゲームってなにするの? 俺、僕夏とどう森しかやったことないんだけど」
「おいってば!」
「あだっ!」
後ろから引っ張られ、大きく仰け反る。
振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。その後方にはこれまた数人の男女。アイコンを見る限りプレイヤーだろう。
「俺たち盾職探してるんだけど、あんたは?」
「…たてしょく? わり、わからん」
「はぁ? えっと…素人さん?」
「うん」
「そっか、引き留めて悪かった。お互い災難だな…」
「あぁいいよ。これからどこに行くんだ?」
「第一層は広いから、他の街にも行きたいんだけど、いかんせんネットにもログインできないから攻略データがないんだ。だから、できるだけ大人数で、レベル上げながら移動したかったわけ」
「そーかそーか。気を付けてな」
「おう」
プレイヤーたちと別れ、「いろいろ聞いておけば良かったなー」とちょっとだけ後悔する。
とは言っても、急ぐ彼らを引き留める理由にはならないと、そうそうに諦めた。
(…仲間か…)
ネットきログインできないと彼らは言っていたが、それはつまり、友人関での情報交換や、他プレイヤーの攻略情報がなにより大切になってくるということだ。
(新聞でも作ろうかな)
会社で、小さな広報誌を作っているため、多少の心得はある。…が、そもそもこのゲームの目的すらわからないし、情報交換をするほど情報をもっていなければ、集めるツテもない。
「これってどういうゲームなんだ?」
まずはそこからだな…そう考え、彼は宿屋へ向かうのだった。
《はじまりの街》を散策中に、彼はプレイヤーが多く集まる酒場に入った。
酒場にもクエストボードはあるため、他のクエストボードで受注できなかったプレイヤーたちが、酒場へ溢れてきたのだ。
こんな命懸けのゲームでクエストを行うことになんの意味があるのか、イーヴァンは首を傾げていると声をかけられた。
「おねーさんもクエストですか?」
「んん?いやー。クエストはいいんですけど」
脇には、女の子。おそらく16歳ほどだろうか。髪は後ろで結ばれていて、なかなかの高身長である。四肢はししなかやでスラッとしていて、ランダムに決められたアバターにしては、なかなかの幸運だと思った。しかし、「こんな死んじゃうゲームでそんな綺麗なアバターもらって君も幸せやな!」とは言えないので、当たり障りなく、彼女と話すことにする。
「クエスト受けてどうするの?」
「え? えっと、レベル上げて、次の街に行きたくて」
「そーかそーか。レベル上げるには敵を倒すの?」
「は、はい」
彼女の視線がイーヴァンから逸らされた。
「あ、ごめんね、俺完全に素人だからさ。それより、どうしたの? 話しかけたよね、俺に」
「あの、おねーさん強そうだったから、助けてくれるかなーって」
「あははは、正直者だね。でもごめんね、ケンカとか大分苦手でね」
「そうなんですか…あたしもです」
ふと、団体パーティーが酒場を出たので、空いたテーブルへ彼女と向かう。
「時間いいの? 強そうな人と一緒に行かなくて」
「みんな基本パーティー組んでて、でも盾職は募集してるんですよね…みんな死にたくないから」
「え、盾職って死にやすいの?」
「はい。ふふ、おねーさん本当素人なんですね」
「うん。さっきも盾職で誘われた。あのやろー今度見たら……とくになにもしないけどさ」
「あはは」
「あ、おねーさんってのもやめていいよ。ネットなんだし、何歳かお互いわからないでしょ。俺だってアバターは…あ、そっくりにしてたんだ」
変なのに変わっちゃったけど、と続けようとしたとき、彼女は顔を歪めて泣き出してしまった。
「うぅぅぅ」
「あーあー、大丈夫? ビックリしたよねこんなことになって」
「う゛ん、う゛ん」
「鼻水出てるよ。俺もビックリした。誰か知り合いログインしてないの?」
「あ、たった、の、あ、あたし、だけ、でぇぇ」
「そーだねー。寂しかったね、広場では泣かなかった? 偉いねー」
テーブル越しに、彼女の頭を撫でる。
「わけ、わかんなく、って! みんな、クエストう、受けるっから、あたしも、受けなきゃって」
「無理しちゃダメだよ。怖いもんな」
さて、どうしたもんか――と顔をあげると、周囲には何人かの女の子。
「えっと…座る?」
こっちを見ている子が多く、中には泣いてしまっている人もいた。イーヴァンが席に促すと、おずおずと近づいてきた。
その数6名。3人組、2人組、お1人さんである。
「お互い災難だったよね。君らはこれからクエストいくの?」
3人組は頷いたが、その他は首をふった。
頷いた3人組の1人は、こっちの彼女に感情移入してか、呻くように泣いてしまっている。
「まぁまぁ座りなよ。時間あるならね」
イーヴァンが席を立って、7人掛けのテーブルに女の子全員を促す。
彼は最初の女の子の側に膝立ちになって、1人視線を低くした。
「自己紹介でもしていく? みんなここにきたってことは、クエスト受けにきたんでしょ、多分。パーティー組んでなかったら、みんなで組めばいいし」
パーティーメンバーの上限は7人であるが、彼がそれをしるよしもなく。そもそも彼に、彼女たちとクエストを受けるつもりはなかった。手伝うくらいはできるかもしれないが、盾や剣をもって戦えるとは思えない。
「えっと、君は?」
後からきた組の、お一人さまから順々に自己紹介をしてもらう。
数人はゲームでつけた名前だったため、最後に彼は自己紹介でイーヴァンと名乗った。
「あたしたち3人、他のネットゲームやってて、今回当たったから…」
「へぇー、じゃあ結構ゲーム強い?」
「まぁVRゲームは初めてですけど…」
「いやいや、ゲーム初心者の俺からすればすげーよ。さっきキキちゃんに、レベルどうするのとか聞いちゃったし」
「あはは、おねーさん本当ゲームダメなんですね」
「無理無理。剣とか持てないレベル。ノンノちゃんと真弓ちゃんは?」
「真弓は忘れてください! 火龍院章人です」
「あ、乙女ゲーです」
2人の片割れ、ノンノがフォローすると、何人かが知ってるー!と声を上げた。
イーヴァンは、女性陣だけだと脱線するため、一生懸命、会話のレールを敷き直していた。できるなら、彼女たちがパーティーを組んで、キキを誘ってくれることを望んでいた。
「あたしたちは、リア友なのであんまり違和感はないんですけど…こんなことになっちゃって、心細くて…」
「他の男たちは頼りないし、ステータスに男女はうんぬんって言って盾職やらせようとするし!」
「あたしらに声をかけてきたのも!」
「俺もそうだったよー。じゃ、トールは?」
1人で加わった彼女は、誰よりもオドオトしていた。その理由はわからないが、彼女もこのパーティーに加わるべきだと考えている。
「あ、私は…えっと…引きこもり…です」
「お、マジで? じゃあゲーム得意?」
「な、なんでも、一通り…って、言うか、ゲームしかできないって…いうか」
「すげー!心強いな!いいの?パーティー入ってもらって」
「あ…あの…でも」
「うん?」
「パーティーは、その、人数制限あって」
「え、マジで!?」
イーヴァンが詳細を求めると、彼女は小さな声で説明してくれた。
「な、7人が限界で、それ以上いても、経験値が分配されない。で、でもボスはまた別のシステムで、7人以上でも大丈夫。βだもと、ボスは、にじゅ、20人くらいで、倒した」
(ベータってなんだろう。でもみんなわかってる顔してるし…いまこの質問するのは不味いよな…あれか?ベジータ様の略か?)
「もしかしてトールちゃんって、β出身者?」
章人が聞くと、彼女はゆっくり頷いた。
「う、うん」
(出身…ベジータじゃないや)
「じゃあ、攻略のしかたとか大丈夫?」
「だ、大丈夫っていうほど…で、でも、戦いかたはわかる」
「やったー!」
「でも、ここ8人だよね」
その言葉で、テーブルが静まり返る。イーヴァンは別の意味で慌てていた。
「お、俺は勘定にいれなでよ? 戦闘とか本当無理」
「えー!おねーさん来てくれないんですか?!」
「無理無理怖いもん!」
彼の慌てっぷりに、彼女たちの気持ちも大分落ち着いたようだ。
イーヴァンの目論見通り、彼女たちはパーティーを組み、明日の朝に出発することになった。
途中、トールが先生になってスキルや戦闘を教えてあげるということになっていて、最後のほうには、トールも笑いながら話をするほど打ち解けていた。
そして次の日の朝、酒場で一晩明かした彼らを起こしたのは、一般プレイヤーとβテスターとの間に水をさす、第一の事件だった。
ハーレムはないと言ったな。
あれは……本当だ!!
彼女たちには、女の子のどろどろしたの書いたら退場してもらいますね!
追記
前回後半で話しかけてきたプレイヤーの名前間違えちゃった(´・ω・`)
ヒースクリフの名前をジークフリードだと思ってました。ほ、ほら強そうですしおすし