千切れた腕と炎に抱かれ   作:江上音

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隠しNPCとのイベント

 

 

 第一層攻略の報が《始まりの街》に知らされたころ、イーヴァンたちの教会の建て直しは佳境を迎えていた。

 

「ねぇトールさんトールさん」

「はいはいなんですかおねーさま」

「大工スキルまた上がったよ」

「……なんていうか、良かったですね…」

 

 最初の頃にあった不安感は、イーヴァンもトールも薄れてしまっていた。

 子どもたちの世話に忙しかったということもあるが、子どもの前で現実世界の話をしないようにしていたため、自然と現実世界を忘れる日のほうが多くなっていたのだ。

 無論二人は、そこのと自体に危機感を感じているため、定期的に夕食後、子どもたちから「ゲームから出たら家族となにがしたい?」という話し合いを行っていた。

 トールも大人とは言い難く、イーヴァンもたかだか20才の若造である。その話し合いのおかげで、二人も現実世界とゲームの世界を区別できていた。

 

「あーもー疲れたのおねーさま!」

「はいはい。しかし、一ヶ月で一層だもんなー。キキちゃんたち大丈夫かな?」

「…あー、いましたねそんなの」

 

 教会の屋根にしゃがみこむトールの頭を、イーヴァンはペシンと叩いた。

 

「怒るよ?」

「うぐ…はい」

 

 すでに二階の壁は修復済みで、いまは屋根の基盤となる木材を、釘で打ち付けていた。

 

「おねーさまは優しいなー」

「だろー?」

「現実世界に戻ったら付き合いましょうねー」

「いぇーい」

 

 ペチンと二人で手を合わせる。もちろんトールの冗談で、イーヴァンもそれに合わせていただけだった。

 

 彼が女のアバターになって一ヶ月。特段これといった不都合もなく、イーヴァンは自身が男であることをそれほど強調していなかった。

 何度かトールの全裸を見る機会はあったものの、相手は所詮アバターであるし、彼自身それほど性欲が強くもないため、見て見ぬふりを貫いていた。

 

「大工に料理に清掃に…おねーさま本当いいお嫁さんになれますよ」

「スキル補正って大きいよねー。もー俺が直したところ壊れる気しないッスもん」

「教会直したら、どうなるんですかね?」

「さぁ? 普通ゲームだとどうなるの?」

 

 トールが頭を捻った。

 そもそも普通のゲームで、これほど建物を直す作業はしないだろう。大工に依頼するというならまだしも、教会の修正中に会得した大工スキルを使って、廃墟と化していた教会を直すなど、RPGでは起こり得ないのんびりとしたイベントだ。

 トントントンと釘打ちの音を聞きながら、クエストの方向性を考える。

 

 そもそも、報酬が破格である。必要経験値は忘れてしまっているトールでも、1000EXPあればエリアボスに必要なレベルには届くのだ。

 現状、そのクエストが6回ほど繰り返されている。

 

 イーヴァンもトールも、それこそ子どもたちすら、レベルだけならおそらくフロアボスを倒したプレイヤーより高い。

 

 報酬が破格だというより、おそらくこの教会を立て直すプレイヤーを『救済』と言ってもいいほど、レベルを上げておかなければならない。

 つまり、教会を立て直した瞬間に、ボスが現れて彼らを襲う罠が――

 

「魔王さま本当魔王」

「ん?」

「なんでもないですよおねーさま」

 

 彼女は、自分の断片的な知識を周囲に伝えることを辞めていた。

 ここ一ヶ月、βテスターと一般プレイヤーとの軋轢は見ていられないほど酷く、一部の生産プレイヤーは、βテスターだと断定されたプレイヤーには、物を売らないと決めていた人までいた。

 PK《プレイヤーキル》とまではいかないが、それに類似することをされたβテスターは、何人かいるという。

 

「さて、一応終わったなー」

 

 最後の釘を打ち終え、イーヴァンは立ち上がった。同時にクエスト報酬のパネルが目の前に表示され、またレベルが上がる。

 それを見ながら彼はトールに笑いかけた。

 

「やったねー。ね、今日はパーティーしよっか」

「ま、まぁいいことですね」

 

 トールは周囲に気配を配り、隠しモンスターが現れないか気配を配る。

 ここが安全圏内とは言え、魔王茅場晶彦からすれば、その程度の変更些細なことだろう。

 むしろ彼が、本当に異世界を作ろうとしているのならば、全てのプレイヤーが旅立った《始まりの街》がなくなるなんて、ドラマチックじゃないか。

 

「……魔王本当魔王」

「だからなにそれ」

「それより、出てきませんね。次のクエスト」

「うん、だね。ボーナスクエストおしまいかー」

 

 楽観視すれば、確かにただのボーナスクエストであり、報酬は経験値と一戸建ての家だ。

 イーヴァンは満足そうに梯子を降り始めた。

 

「おお、おおお」

 

 その男のうめき声に、いの一番に反応したのは、子どもたちだった。

 

「なにー?おじさん誰ー?」

「ここは俺たちの家だぞー!」

「大丈夫ー?」

 

 イーヴァンが梯子を降りて、正面で話す子どもとおじいさんに話しかけた。

 

「どうしました?」

「おねーちゃん! おじいちゃん泣いてるのー」

「痛い? 大丈夫?」

 

 子どもたちに囲まれ、蹲る――跪く老人は、まるで祈りを捧げる神父だった。

 

「あ、それNPCだ。離れてー。教会直したイベントだから」

 

 パンパンと手を叩き、子どもたちを解散させる。もっとも彼らは、興味津々とイーヴァンの背に隠れ、事の次第を見守ることにした。

 

「おじいさん、大丈夫ですか」

「はい、はい」

 

 震える声で返事をするNPC――ノンプレイヤーキャラクター。

 彼らNPCは、人間と全く同じ形をしているだけで、中身は「数字の塊」である。もっともSAOのNPCは、その膨大な量の数字から、ほぼ人間と変わらない受け答えができるのだが。

 

「とりあえず中入りましょう。ね?」

「感謝します、感謝します」

 

 うわ言を繰り返す老人を、室内に入れる。中に残っていた子どもたちは、トール自作のカードゲームに勤しんでいた。

 

「お茶だしてー?」

「はーい!」

 

 客は、それほど珍しくない。

 溺れる者は藁をも掴む。《始まりの街》から出られないメンバーは500人を越えていて、それらプレイヤーたちが憩いの場として利用しているのだ。何十人かのプレイヤーからは、食事もいただいている。

 最初は荒んでいたプレイヤーたちも、天真爛漫な子どもたちを見るたびに、心に余裕を持ち始めたのだ。

 それこそ、街を出るほどに。

 

「私は、20年前まで、この教会の神父でした」

「あぁやっぱり」

「こんな姿なのに、そんなことを言っていただけるとは…」

「いやいや、おじいさんを一目見て、神父だったらいいなーって思いましたよ」

 

 彼は社会に出て「おべっか」を覚えていた。半分は本音であるが、それにしてもこの浮浪者のような人物が神父だとは、街であえば思えない。しかしただの浮浪者が、教会を見て泣き出すとも思えない。

 

「一応ね、修繕は終わったんですね。でも所有者はいなくて。これからどうしたものかなーと」

 

 彼にとって、これは賭けだった。

 もしこのNPCが、「ここは私のシマだ出ていけ!」と言い出した場合、ちょっとした戦争になる。

 しかしここで言質を取れれば、子どもたちの生活は保証されるだろう。

 

「私は見ての通り、もう神父と呼ばれる人間ではありません…」

「神父って見てくれで人を判断するわけじゃないでしょう」

「それはそうですが」

 

 この受け答えである。

 正直、イーヴァンはNPCというものに違和感を拭えなかった。

 彼らはまるで人間なのだ。

 

 ちょうど、子どもたちとお茶を入れていたトールも戻ってきて、そのまま席についた。

 

「話は、まぁ壁が薄いんでなんとなく」

「あとで直しとくッス…」

「それで元神父さまは、どんなイベントもってきたの?」

 

 イーヴァンの違和感を、彼女は感じていない。NPCは人間じゃなくてただのシステムだと割りきっている。

 

「とくにまだなにも」

「じゃあ元神父さま、ここに残る? どこかいく?」

 

 これは「ワード」である。

 イベントを進めるにあたって、特定のNPCに「ワード」を伝えなければならないのだ。無論、前段階で情報があるならまだしも、今回は教会関連を除けばほとんどの知識がないため、当てずっぽうである。

 

「こんな私にここに居ていいと?」

「もちろん」

 

 イーヴァンが断言すると、老人は泣き出してしまった。

 

「やはり、神はいてくださったのだ! それなのに、私はなんてことを…」

「なにしたのおじーちゃん」

 

 トールの質問に、元神父はポツリポツリと語りだした。






 ほぼ説明回!
 物語が遅々として進まない上に、一ヶ月の食費やら食材やら、他のプレイヤーとの触れ合いとか、掘り下げたかった方向はなにも説明してないという!!
 ここまで読んでもらえばわかると思いますが、アニメSAOで語られなかった一般プレイヤーがどんな生活してたのか書きたいんですよ。釣り師のナントカ部長(うろ覚えすぎ)とか、いつ《始まりの街》を出たんだろうとか。
 シリカとか武具作ってる女の子とかもそのうち出してみたいけど、原作知らないからオリジナルキャラで誤魔化してます。
 でも、グリセルダとかグリムロックとかは出してみたいですね。
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