今では百合ゲームを生産している工画堂が硬派な戦術シュミレーションゲームを発売していた頃の名作パワードールズシリーズ。その二次小説です。

1 / 1
POWER DoLLS 未来から来た兵士達

主要登場人物

 

 ソイニ・イェルム……陸軍中尉。メアリーより先任である為、小隊長を勤める。

 メアリー・アプルトン……海兵隊少尉。索敵と狙撃を担当している。

 リーユン・ウェルゲラン……陸軍曹長。名家の御嬢様だが戦場を経験する事で戦士へと成長している。

 

 

 開拓時代に作られた街は戦争が始まると放棄されていた。今では植物が侵食し緑に呑み込まれている。

 地響きをたてて移動する人型陸戦兵器、PLD(パワーローダー)の一群があった。オムニ軍のX5+装甲歩兵、X5+C装甲強襲歩兵、X5RR装甲索敵歩兵。DoLLSと呼ばれ精強で名高い第177特務大隊だ。

 2652年8月、中央戦線におけるサイフェルト軍の攻勢を撃退したオムニ軍だが安息の時は無かった。地球からの支援を受けて物量で優る敵は活発に行動していた為、第177特務大隊は再び南部戦線に戻って来ていた。

 DoLLSは中隊、小隊単位で分散し戦場の火消しに投入された。並の部隊であれば消耗させられる所だが彼女達の生還率は高かった。ソイニの小隊も友軍の支援任務を帯びていた。

(簡単な任務ね……)

 戦場で戦うと言う事は相手を殺すと言う事だと士官学校の教官は言った。ソイニはかつて自機を撃破され脱出した時、味方と合流するまで死の恐怖を体験した。捕虜になれば女がどうなるかは考えるだけ無駄だった。今だから理解できる。死にたくなければ殺せと。

「ブッシュが濃い。敵の携行ミサイルに注意して」

 生い茂った草木が視界を妨げる。

 戦場では歩兵の待ち伏せが怖い。ソイニの指示に「了解」と僚機から返事が返ってくる。

『正面より敵PLD小隊規模接近中』

 メアリーから報告が来た。転送されてきた情報を確認する。Xs2装甲歩兵。サイフェルト軍の標準的なPLDだ。

(敵の機甲部隊は消耗しているって話だったのでは無かったの?)

 敵が用意周到な待ち伏せをしていたわけではない。情報収集が甘く敵戦力を過小に見積もった統合作戦本部。与えられた情報が不足していた自分達。ミスが重なった結果だ。

 リーユンが咄嗟に放ったグレネードによって近付いていた敵PLDは吹き飛ばされた。装甲に守られていない生身な随伴歩兵はミンチになっている。倒れたPLDに止めを指すソイニのアサルトライフル。

(今のうちに後退しよう!)

 致命的な損害を避けて後退しようとしたら背後に敵車輛部隊が現れた。PLDも怖いが車輛も馬鹿に出来ない。

 前も後ろも塞がれた。抜け道をメアリーは探し報告をした。

『右の路地から抜けれそうです』

「了解」

 ソイニにとって実戦は初めてではない。DoLLSは便利屋の様に使われ何度も死地を掻い潜って来た。

(包囲されるなんて初めてではない)

 戦場は処女を大人に変える。ソイニは鍛えられた。

(きっと今回も大丈夫のはず!)

 そう信じ込もうとしたが、戦っている間は冷静に物事が見える。

 敵PLDを撃破しながらも、今回は不味いとソイニの感が告げていた。方向転換して背後の装甲戦闘車にグレネードを浴びせながらソイニは作戦の中止を考える。

(やっぱり駄目かも)

 敵に位置を標定されたのかミサイルが次々と飛んでくる。一発でも食らえば大破確定、回収の可能性も低く死を意味する。迎撃で手一杯になる。

「メアリー、敵の索敵型を見付けて!」

 撃破したT-30中型戦車の影にメアリー・アップルトンの搭乗するX5R装甲索敵歩兵はいた。

 鋭い金属音がコックピットの中にまで響く。サイフェルト軍のPLDが激しい弾幕を張って味方の前進を阻害している。Xs2装甲歩兵とXs2C装甲強襲歩兵。手強い敵だ。

(数に物を言わせたやり方ね。ともかく敵の目を先に潰さなければ身動きが取れない、か)

 Xs2R装甲索敵歩兵を見つけ出し排除する事がメアリーに求められていた。一般的にはアサルトライフルやハンドキャノンを携行するが、ポケットや肩装備の制限されたR型はスナイパーライフルを持たされていた。

『まずは一つ……』

 M-S636スナイパーライフルから.80C2高速弾が放たれた。アサルトライフルと比べると弾数こそ少ないが貫通力や威力は桁外れに違う。

 索敵型を撃破されるとあきらかに敵の攻撃が弱まった。

 

     ◆◆◆

 

 索敵範囲に新手の敵の姿が映った。

「新たな敵集団、同方向よりPLD6機が接近中」

 メアリーは報告しながら内心であきれ返っていた。敵の戦力は無尽蔵に思えるほどだ。

(一体、幾ら居るのよ!)

 ソイニも報告を受けて憤りと焦りを感じた。このままでは数の力で押し潰される。

「こちらSilver Fox、敵の包囲を受け脱出不可能。支援を求む」

 オペレーターから返答が来る。

『現在、サイフェルト軍による大規模な攻勢を確認。ANGEL ARROWS、DEATH ARMY、NIGHT SHADOWSは出払っており救援は回せない。自走脱出せよ、との事です』

 ふざけるなとソイニは罵声が喉まで出かかった。しかし指揮官は常に堂々と構えてなければならない。部下の手前、何とか耐える。

 敵を撃破したメアリーが移動しようとした瞬間、警報が鳴った。迫るミサイルがモニターに映し出された。デコイは品切、ガトリング砲も弾を射ち尽くした。スナイパーライフルの弾倉を交換している時間はない。

『メアリー!』

 ソイニの声が聞こえたが間に合わない。目を閉じてコックピットへ直撃を覚悟した──。

 

     ◆◆◆

 

 いつまでたっても衝撃は来ない。メアリーは目を開ける。

 激しい疲労感を全身に感じた。

「あれ?」

 周囲の様子は一変していた。激しい戦闘にあったのか破壊され尽くした廃墟。

 機体に異常はない。だが通信障害を確認した。

 多機能ディスプレイ(MFD)に表示されていたWANTISのリンクが切断されている。SIISOF(統合戦略情報システム)その物が無くなった様で、他の部隊と連絡がつかない。

「Lunch Box、こちらSilver Fox送れ。Lunch Box、こちらSilver Fox送れ」返事はない。

(皆、何処?)

 ソイニとリーユン、索敵範囲に友軍機を確認してほっとする。

「小隊長、リーユン」

 ソイニから返事はすぐ帰ってきた。

『メアリー! 異常はない?』

「機体に異常はありません。敵はどうしたのでしょう?」

『分からない。取り合えずリーユンと合流しましょう』

 リーユン機体反応はあるが返事がない。不安を抱きながら移動する。

 EMPバラージを使った敵の攻撃ならPLDも動かないはずだ。考えられない事態に頭がいたくなる。

「あのPLD……X3……」

 撃破されたPLD残骸を視界におさめてソイニは訝しげな表情を浮かべた。100年前のPLDだ。

「小隊長、アプルトン少尉!」

 機外に出ていたリーユンが新聞を手に振って来る。

「リーユン、怪我はない?」

「はい大丈夫です。それより、これ見て下さいよ」

 ソイニは新聞を受け取った。

 地球派遣軍が大規模攻勢開始、オムニ独立軍は首都転進という内容だった。

「これが何か?」

 2539年の古い記事だとメアリーは気付いていないが、ソイニは朧気にだが他の部隊と連絡が途絶えた理由に見当がつき始めていた。

(100年前にタイムスリップした? そんな馬鹿な、SF映画でもあるまいし……)

 とにかく情報が欲しい、と前進をしていると友軍らしいPLDが装甲車両と戦闘をしていた。

「あれは──」

 ソイニの脳裏を戦史の教育で習った事が甦った。ミスカトニック川のハイカラムダム。2540年に初代DoLLSが最初に攻撃した場所と記憶している。

『小隊長、助けますか?』

「いや、ダムの破壊が彼らの任務なら直ぐに終わる。終わってから合流しても問題はない」

 戦史の教育によると、当時の地球政府軍は数個大隊を対岸に展開させていたと記憶している。下手に介入しても連携は出来ない。逆に攻撃される恐れさえあった。

 ソイニはDoLLSの撤退を支援して自分達が敵ではない事を証明する事を説明した。

 

     ◆◆◆

 

 第177特務大隊第3中隊は攻撃目標の破壊に成功した。

 ダムを壊された敵は混乱している。それに乗じて中隊は撤退をする計画だった。

『前方に敵機甲部隊接近中』

 報告を受けたハーディ・ニューランド海兵隊中佐は罵り声を漏らした。

(私達を逃がさないつもりか)

 せめて部下だけは脱出させたい。それが中隊長であるハーディの望みだった。

 その時、敵部隊の背後から所属不明のPLDが現れて攻撃を始めた。

「行けるぞ!」

 第3中隊は敵の追撃を振り切った。落ち着いた所でハーディには確認しなければならない事があった。

「そこのPLD、助けて貰った事に感謝する。だが貴隊の所属、官、姓名を名乗れ」

 指揮官の立場上、それが敵ではないと分かるまで警戒を解く訳にはいかなかった。

『信じられないかもしれませんが、私達は敵ではありません』

 帰ってきたのは年若い女性の声だった。

「先ずは機体から降りて姿を現せ」

 降りてきた搭乗員の「2652年からやって来た」と言う予想外な言葉にイカれていると思ったが、明らかにオーバーテクノロジーな機体を前に彼女達が告げた言葉を信じる事にした。

「未来から来た、か。敵の謀略か正気を疑う所だが、物証もあるし否定は出来んな」

「私達はオムニの為に協力します」

 ソイニの瞳を見て言った。

「ソイニ・イェルム中尉、時代は違えども私達は同じオムニ軍だ。お前が将校として与えられた責務、守るべき市民は変わらない。そうだろう?」

 理解は出来る。納得も出来た。ソイニは元の時代に戻る事は不可能だろうとも予測していた。この時代で生きていくしかない。地球政府軍に協力は出来ない。彼らは祖国オムニの敵。迷う事は無い。

「勿論です。ニューランド少佐、貴女の指揮権に服します」

 この時代で生きていく。その決意をした。

「DoLLSは貴官を歓迎する」

 基地に戻り、ソイニは与えられた居室で仲間達に今後を伝えた。

「私達はニューランド少佐の指揮下でDoLLSに所属する事になった。おそらく主力のサポートになると思うわ」

「100年前のDoLLS……。射ち尽くせば弾薬の互換性も無い、撃破されれば機体の交換は不可能。その状況で私達が役に立てるのでしょうか?」

 伝説的指揮官の下で動く。栄誉な事だが弾薬に余裕は無い。PLDの電池は節約出来るとしても、弾薬はそうもいかない。

「それは向こうの方でも分かっていると思うわ」

 ソイニの言葉にメアリーは頷く。

「機種転換を考えていた方が良いかもね……」

 部隊の運用を考えればX3への機種統合は間違いない。戦争はまだ終わらないからだ。歴史通りなら10月には戦争が終わる。半年間を生き延びれば良い。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。