訓練後、一夏と食堂に来た円はおすすめの日替わりランチを食べるべく券売機に並んでいた。
なお、この学食では無料で食事を楽しむことができる。(デザート類のみ有料)
もちろん無料なので食券は必要ない。が、食事時はごった返すここでは立派な整理券として機能するのだ。それに作り手のおばさま方もいちいち注文を聞かなくてもよく、スムーズに調理ができる。
「やっぱりみんな円を見てるな」
日替わりランチを受け取り、一夏は周囲を見回す。
言葉どおり彼らの後ろには目を光らせた(比喩ではなく)女子生徒たちが並んでいる。円と食事を取るつもりなのだろう、その姿は突進前のバイソンに近いものを感じた。(鼻息的な意味でもある)
「転入生が珍しいだけだろ」
同じく日替わりランチを受け取る円も横目にそれを見る。通常より多めに盛られたご飯はご愛嬌。おばさま曰く「美味そうなんじゃない。美味いんだよ」はいまだに一夏の心に残っていた。
ちなみに注文した理由は「ハンバーグ」だったから。意外に子供っぽい。
(お、窓際の席が空いてるな)
視線の先には二人用の席が。近くには多人数用の座席もあるが今回は避ける。恐らくあそこに座れば「私が座る!」「いや、私が!」「いやいやあたしが!」「じゃ、じゃぁ私が……」となり、当然「どーぞどーぞ」と譲るわけが無いのを一夏は知っている。
彼女らには悪いがこれも平穏な昼食のためだ。
「一夏ー! ここ空いてるぞー!」
しかし一夏の健闘(検討)虚しく、円はいつの間にやら多人数用の席に座っていた。
そのとき背後にいた女子の「まだまだ甘いわね。織斑くん」という言葉に鳥肌が立ったのは別の話。
〇〇〇〇〇〇〇〇
「へぇー。織斑先生とは道場で知り合ったんだ」
結局女子に囲まれたまま食事を取ることになった円は現在彼女らの質問攻めにあっていた。
こういう時、幼馴染である箒や鈴が居るとなぜか皆距離をあけるんだけどなぁ、などと考えていた一夏は後日それを本人達に話し、「人を予防線のように言うな!」と怒られたとか。
「やっぱり昔から強かったの?」
「そりゃあもう」
一人の素朴な質問に円が一度箸を置く。ハンバーグの減りがやや遅い辺り「好きなものは最後に」精神の持ち主なのだろう。やはり子供っぽい。
「一度暴れたらブラッドバスを作るぐらい強かったよ」
明らかな過大表現、ていうかそれ違う人だろ。と一夏がツッコミを入れる横で円が隣のブースに「だよね、ちーちゃん」と声をかける。
「昔の話だ」
「居たのかよ千冬姉!?」
それよりも実話なのかよ、という意見に千冬は咳払いを一つ。向かい側では真耶がうどん相手に眼鏡を曇らせていた。
「おまえ達、人の過去の詮索は不要だ。さっさと食事を続けろ」
「はーい」
やれやれ、といった具合にため息をつきながら目の前の後輩教師を見やる。
やはり湯気に悪戦苦闘しており実にもどかしい。こんどは口に出してやれやれと呟くのであった。
「ん」
一方こちらは円一行。相変わらずワイワイと食事を楽しんでいる。
そのとき、女子を二人挟んで隣の円を見ていた一夏はあることに気がついた。
「円、行儀がいいんだなぁ」
「ん? あぁ、じいちゃんがそういうのに厳しいからさ」
確かに食べる順番、箸の使い方、どれも作法に則ったものだ。そういうのは身に着けておいて損はないよなぁ、と爺むさい一夏はうんうん、と一人うなずく。
「おじいさんってさっき言ってたお師匠さん?」
「うん」
「やっぱり強いんだろうねぇ」
なにせ千冬が師と仰ぐほどの人なのだ。きっと筋肉隆々で瓦だのなんだのを叩き割っているのだろう、と想像する彼女達の横でお茶を飲みながら円が一言
「まぁ俺は勝てたことないかな。今じゃぁ俺より背低いし腕も細いけどしょっちゅうヒグマ相手に喧嘩売って勝ってるし」
「え……」
次元が違った。一夏もまた小柄な老人が熊を投げ飛ばしている様子を想像するがしっくりこない。
そんなことは気にも留めず円はハンバーグに箸を入れていた。
「ところで、やっぱり何トカ流ナンタラ拳みたいな名前があるの?」
「んー、流派は「紅波流」なんだけど正式な名前はよくわかんないなぁ」
「どういうことだよ?」
眉をひそめる一夏に他の女子も首をかしげる。千冬達はすでに席を後にしていた。
「その代の師範によって呼び方が違うらしいんだよ。じいちゃんは「紅波流護身術」っていってるけど」
俺もよくわかんないわ、といいながら円はゆっくり手を合わせ、「ごちそうさまでした」と礼儀正しく言うのであった。
さていつのまにか第4話ですね。
今回やたら「ハンバーグ」について触れていますが、まぁなにかしらストーリーに関係するのだろう、とか思っていただければと。
活動報告もそうですが最近あとがきが
ネクストコ〇ンズヒーント「ハンバーグ」
みたいになっている気が(笑)
では、読了ありがとうございました! 次回もまた!