IS~制御不能の黒皇帝~   作:暴風圏0294

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 軍靴を鳴らしてアイツが来た。



第8話 レッドアイズブラックラビット

「よし! 出来たぞ!」

 早朝、どこからか香る良い匂いに誘われてシャルルは目を覚ました。

 起き抜けでボヤける視界に苦戦しながらゆっくりとピントを合わせる。

「んん……いちか……?」

 上体を持ち上げるとシンクに立つ一夏の後ろ姿が見えた。制服のスラックスとYシャツを着てエプロンをつけている。

「あ、悪いシャルル。起こしちゃったか?」

 シャルルに気付いて振り返った一夏の右手に握られている菜箸の先には卵焼きが摘ままれている。

「大丈夫、ちょうど起きようと思ってたとこだから」

 一夏にフォローを入れつつベッドから降りた。こういった気配りの出来るところがシャルルの良いところなのだ。

「ところで何してたの?」

 一夏の隣に並んだシャルルが尋ねる。

「弁当作ってたんだ。これが俺の、これが千冬姉の」

 三つ並んだ弁当箱を端から指差していく。それぞれ中身が違うらしく、千冬の弁当は特にバランスを考えているように見える。 

「で、これがシャルルのだ」

「え? ぼくの……」

「ああ、シャルルにはいつも世話になってるしさ。他にも俺に出来ることがあったらなんでも言ってくれよ」

 布で包み終えた弁当箱を手渡し、一夏がエプロンを外す。それを受け取ったシャルルはニコリと笑い言った。

「ありがとう……。一夏って優しいね」

 突然見せたまるで少女のような微笑みに一夏がドキリと顔を赤らめた。モジモジと体を揺らしながら照れる二人と、それに苛つく二人。

「いつまでやってんのよ! まどろっこしいわね!」

「さっさと仕度をしろ!」

 いつの間に入ってきたのか箒と鈴音が怒鳴る。

「え? なんでおまえらが!?」

 部屋のロックをもっと厳重にしよう。この日、一夏はそう決意した。

 

 

 

 

 

「おっす円」

 なんやかんやあり、一夏率いる四人はいつも通り通学路を歩いていた。

 やや前方を歩いていた円を見つけた一夏が声をかけながら隣に並ぶ。それに素早く反応した箒が一夏の隣を奪い、その後ろでは鈴音が「しまった」という表情をつくった。

「おっす」

「円はいっつも早いな。何時に起きてるんだ?」

「大体五時半から六時の間かな」

 年寄りくさいなぁ、と笑う一夏に対し「おまえは人の事言えないだろう」と箒が言う。その間に鈴音が円の横に並んだ。

「鈴、あんま広がって歩くなよ」

「うっさい! アホ一夏!」

「アホとはなんだアホとは」

「アホだからアホって言ってんのよ!」

 などとやりとりをしている二人をよそに円と箒は武道についてなにやら話している。

 その時、一夏が見慣れた後ろ姿を見つけた。

「千冬姉!」

 駆け出す。仕事から帰ってきた飼い主にすりよる犬に近いものがあるかもしれない。

 それに気付いた千冬は振り返りながらいつもの低音な声を発した。

「学校では先生と呼べとなんども……」

「はいこれ!」

 遮られると同時に眼前に弁当箱の包みをつきだされる。兎の模様のが沢山ついた赤色の包みだ。

「……なんだこれは」

「弁当だよ。忙しいだろうし毎回食堂まで移動してたら大変だろ?」

 包みを受け取り、千冬はすこしの間弁当を見つめる。それを見ながら箒と鈴音は羨ましそうな顔をした、が考えてみると自分だって一夏に弁当を作ったのにズルい、とでも言いたげな顔をした。

「すまんな」

「気にすんなって。姉弟なんだから助け合うのは当たり前だろ」

 一夏がニコリと笑う。千冬は踵を返し、さっさと歩いていった。

「一夏」

「ん? なんだよ箒」

「その……なんだ。私にも弁当を作ってほしいというかなんというか……」

「おう、いいぞ」

 あっさりと答えた一夏に何度も、本当だな!? と聞き返す箒に続き鈴音も弁当をせがむ。同じく快諾する一夏の後ろでは何故か忍び足で千冬に近づく円の姿が。

 千冬にバレないように近づきゆっくりと正面に回り

「なんだ?」

 込めなかった。素早くつきだされた千冬の腕が円の頭を捕らえる。

「た、たまには織斑先生の笑顔を見たいかなー、なんててててててて!」

 ミシミシと軋む音と悲鳴をあげる円。いわゆるブレーンクローというやつだ。

 ポイ、と円を投げ捨て千冬は再び歩きだす。

「ふふ」

 一夏から受け取った弁当の包みを大事そうに抱え嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

「ええっと……きょ、今日は皆さんに新しいお友達を紹介したいと思います」

 ホームルーム時、真耶の一言により教室がざわつく。先日円が転入してきたというのに、ていうか他の組に比べてうちって人数多くない? など核心を突いた意見だ、

「それでは入ってきてください」

 自動ドアがスライドし、教室に小柄な女子が入ってきた。何人かの女子から「あ、かわいい」という感想が漏れた。

 少女が黒板の前に立つ。腕を組み目を閉じたままの仁王立ちだ。髮はまるでナイフのような鋭い光沢を帯び、肌は病的に白い。

 手入れをしていないわけではないようだがどこか伸ばしっぱなしのような髮の間に黒の眼帯が覗いた。

「そ、それじゃあみんなに挨拶を……」

「……」

 無視。まったく動かない。

「え、えと……あの、その……」

 真耶が泣きそうな顔をした時、教室の端で立っていた千冬が声をあげた。

「挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 千冬が声をかけると少女は態度を変え、ハッキリと返事をした。「教官」という単語に皆首を傾げる中で一夏は一人合点がついたようだ。

「その呼び方はやめろ。ここは学園で私とおまえは教師と生徒だ」

「了解しました」

 少女が目を開く。閉じられていた瞳の色は赤色。

 髮の色や肌の色の薄さからして先天性白皮症という疾患によく似ている。俗にアルビノと呼ばれるのだが、これらの共通点は色素の少なさだ。

 アルビノ種と呼ばれるもの達にも彼女と同じく赤い目を持った者が居る。似てはいる、がだ彼女の眼は少し違った。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 奈落の底に血溜まりがあるのだとしたらきっと彼女のそれと同じような色をしているのだろう。そう思わせる程にラウラの眼は黒々とした深みを持っていた。

 決して生気が無いという事ではない。だが、困難の底を映した事のある瞳だった。

「い、以上ですか?」

「以上だ」

 教室が静まりかえる。最後列に座っている円はというと「眼帯ってやっぱり真芯を見るの難しいんだろうなぁ」などとどこかズレた事は考えていた。

 最前列に座っている一夏は一連のラウラの様子をみて唖然としており、ちょうどラウラと目が合った。

「貴様が……」

「え?」

 ツカツカと靴を鳴らしながら一夏の前に立つ。瞳は怒りの紅蓮に染まっている。

 バチンッ! ラウラの腕が素早く横に振り抜かれ、一夏の頬を平手が捉えた。衝撃に流され一夏の視界が横へと一気にズレた。

「私は認めないぞ。貴様が……貴様のような軟弱者があの人の弟だなどと……!」

 静かに怒るラウラをセシリアが睨んだ。しかしまるでそれを気づかないかのようにラウラは無視をした。

 一方で少しの間呆けていた一夏がようやく復帰した。

「いきなりなにしやがる!」

 ジリジリと痛む頬を抑えることもせずに立ち上がる。ガタッ、と音をたて椅子が倒れた。

「ふん」

 一瞥し、鼻を鳴らすとラウラは一夏の隣を素通りして空いた席へと座った。教室内に微妙な空気が漂う。

「……ごほん。諸君、一限目は移動だ。素早く準備を整えてさっさと動け、解散」

 千冬の声により生徒達が動き出す。円も隣に座っている本音に誘われ立ち上がる。

 ただ一人、一夏はラウラの背を睨み続けていた。

 

 

 

 

 そんなことがあったがこの日は目立った事件は無く、一夏達と自主練習を終わらせた円は部屋に戻ってきた。

「ん?」

 ドアノブに手を掛けたところで動きが止まる。

「(誰か居るのか?)」

 音を出さぬようにゆっくりとノブを捻り同時に左の拳を固める。

 臨戦体勢を作り慎重にドアを開いた。

「(それにしてもこの気配……相手も気づいてんのか?)」

 そろりそろりと壁伝いに歩く。部屋の奥からまるで待ち伏せているかのような鋭い気配が感じられた。

 少し歩き、曲がり角に差し掛かったところで歩みを止める。意図的に消したのか部屋は薄暗い。

「(……考えてもしゃあないか)」

 大きく踏み込んで角から飛び出、と同時に左の裏拳を振るった。が

 チャッ! 小さく機械的な音をたてて、大型拳銃が円の胸へあてられる。

 それを握っている手は驚くほどに小さく細い。

「下手な真似をすればすぐにトリガーを引く」

 意外にも部屋の中に居たのはラウラ・ボーデヴィッヒであった。彼女の脳天より少し高いところで円の拳が止まっている。

「ここでなにしてる?」

「ここは私の部屋だ。生憎同居人は戻っていないがな」

 今すぐにでも右手に持った鞄の角をこめかみにでも叩きつけてやりたいがやめた。

 それほどまでに彼女の瞳は本気であり。殺人になんの躊躇を持っていない。円にはそう見受けられた。

「俺がその同居人だ。あといい加減銃下ろせよ」

 そう言われ、円を少し眺めたあとにラウラは銃口を逸らした。セーフティを戻しベッドの上に置く。

 円も腕を下ろし、窓際のベッドに鞄を放った。

「(こいつが紅波円か……。データで見た以上に出来るらしい。興味深い)」

 上着を脱ぐ円の背を見ながらラウラは冷静に分析する。

 データ上の彼の経歴、交流、戦闘技術などの能力を彼女は全て記憶していた。その中で特にラウラの気を引く事項がある。

 

 短期間だが織斑千冬は紅波の道場で修行を積んでいた模様。彼との交流もあり、親しい間柄のようだ。

 

「(つまりは教官の……なんとか弟子というやつだな。なんだっけ? 異母兄弟だったかな。いや違うな……えーと」

 その間に円はすでに着替えを終えていた。(といってもYシャツを脱いで薄手の上着を羽織っただけだが)

「どうかしたか、ボーッと突っ立って」

 顎に手を当てて考えにふけるラウラに声を掛けた。すでに窓の外は夜の闇に染まっている。

「(あ、思いだした)」

「ん?」

 

 

 

 

「(穴兄弟だ!)」

「(なんだろ。なんか変な事考えてる気がする)」

 満足気に頷く。間違っても人前で言わないほうがいいだろう。

「俺学食行くけど来るか?」

「うむ、案内してくれ」

 そう言ってラウラは部屋を出た。後に残された円はというと

「あいつにしてもシャルルにしてもそうだけど日本語上手いよなぁ」

 呟き、ラウラを追いかけた。

 

 

 






 というわけで第8話でした。今回の主な改変箇所は

・ラウラと円が同室
 
 ぐらいですかねぇ。ま、話の都合上やむを得ずってわけで(笑)


 それでは、読了ありがとうございました。

 次回もまた!ノシ
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