インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
「どうだった」
レベル4権限を持っている教員にしか入れないIS学園の地下にあるスペースに一組の副担任である山田麻耶と担任の織斑千冬の2人はいた。
機能を停止した敵ISはそのままこのスペースへと運ばれ、解析を受けている状態にあった。
今回の件を受けて学園側は対抗戦を中止し、これを目撃した生徒たちには実験用ISが暴走したと伝え、破壊した当事者である一夏・鈴・セシリアの3人には緘口令が引かれた。
「はい。未所属のコアのうえ無人機です。コア中枢は既に織斑君の攻撃で完全に焼き切れているので詳しい解析は不可能ですがその二つだけは確実に言えます」
いつもの柔らかい表情ではない麻耶が無人機の情報が送られてくるタブレットを確認しながらそう言い、千冬は目の前の無人機を腕を組んで冷たい表情で眺めている。
「やはりか…………」
まるでその口ぶりはくることを予想していたかのような一言。
「ただこの無人機……どうやら破壊を前提に作られているようなんです」
「というと?」
「武装は両腕にある砲門のみ、エネルギー量も既存のISに比べて半分以下、全体的なスペックは第一世代並みにまで低くされているんです」
「学園の破壊を目的としたものではなく別の意図があったという事か……確かに織斑の最初の一撃を避けたにも拘らず次の攻撃では避けなかった……いったい何を考えているんだ」
「織斑先生?」
「いや、なんでもない」
「鈴! すまない!」
「な、何あんた土下座なんかしてんのよ!」
俺の所為で鈴は足首を脱臼するくらいの怪我もしてしまったし、専用機の甲龍だって整備行きになるくらいの損害を与えてしまったんだ。
これくらいしないと……いや、こんなことじゃ釣り合わない。
「俺の所為で鈴が……」
「気にすんじゃないわよ。足首の脱臼くらい……それにちゃんと勝ってくれたんだし。甲龍だって2日で治るくらいのダメージで済んだんだし」
「で、でも」
「じゃあ2日間ご飯奢りなさいよ。それで手打ちってことでいいわよ」
「……鈴」
鈴は中国の代表候補生だ。もしもあの時、今後の候補生生活に支障をきたすような大怪我をさせてしまったらお金とか謝罪とかで済むようなレベルじゃないことが俺の身に降りかかってきたんだ。
やっぱり……俺ってまだまだだな。
そんなことを思っているとふと夕焼けの光が窓から保健室の中に入ってきているのが見え、その瞬間にあの日のことが何故か浮かび上がってきた。
「なあ、鈴……酢豚、食べさせてやるだったっけ」
「お、思い出したの?」
「この状況でな……そ、その……悪かった」
「もう謝るのはお終い……」
鈴が横になっているベッドの空いている場所に腰を下ろす。
昔もこうやって鈴が半分寄ってくれた1つの椅子に一緒に座ったな……あの時はISとかそんなの考えたことも無かったから純粋に楽しかった。
その時、襟を軽く引っ張られたかと思えばそのまま鈴の柔らかい太ももに頭を乗せられた。
「お、おい鈴」
「これくらいは許しなさいよ」
恥ずかしいのか少し顔を赤くしながらそう言う鈴の表情はどこかニヤツいている。
これっていわゆるひざまくらだよな……そう言えば昔、千冬姉に何回かしてもらったっけ……ほとんどその状況は覚えてないけど。
鈴はそのまま俺の頭を優しく撫でてくる。
な、なんかこれはこれで恥ずかしいぞ。
「なあ、鈴」
「ん?」
「お前がこっちに帰ってきたってことは店はやるのか?」
「……お店はもうしないんだ」
「なんで」
あそこ安いし量も多いから好きだったのに。
「両親離婚したのよ」
…………マジかよ。
「ISが発表されてからさ。なんか両親の仲が悪くなってきて……それであたしがISに適性があるってわかってから2人とも離婚して、あたしは母さんに引き取られて中国に帰ったってわけ」
そう話す鈴の表情はどこか寂しそうな感じに見えた。
今まで一緒にいた両親がいなくなれば誰だって悲しくなったり寂しくなったりする……俺はもともと両親の顔なんて一度たりとも見たことがないから両親が目の前から消える寂しさは経験したことがないから分からないけど鈴の顔を見ていたらそれがどれほど寂しいことなのかある程度は分かる。
「た、ただ1つだけ」
「ん?」
「1つだけお願いがあるんだけど……いい?」
「お、おう」
「そ、その…………あ、あたしを」
鈴が恥ずかしそうに顔を赤くしながら何かを言おうとした瞬間、保健室に何かが倒れたような音がこだました。
慌てて起き上がって閉めていたカーテンを開けてみると盗み聞きしていたであろうセシリアと箒が一緒に床に倒れていて俺を見るや否や不味そうな表情をした。
「あれ? お前ら何してんの?」
「そ、それはだな……」
「あ、貴方には関係ありませんわ!」
「はぁ…………結局こうなっちゃうのね」
鈴のお見舞いから1時間が経過し、俺は部屋でゆっくりと寛いでいた。
「織斑君、篠ノ乃さん。いますか~?」
「どうぞ」
箒がそう言うと山田先生が入った来たのでベッドから起き上がる。
「篠ノ乃さん。お引越しですよ」
「は?」
「部屋割りが決まりました」
「そ、そうですか」
箒は残念そうな表情を浮かべながらせっせと荷物をカバンに詰め込んでいく。
まあ、この部屋割り自体期間限定なものだって千冬姉から言われていたし、学園側も年頃の男子と女子を同じ部屋にとどめておくのはいかんだろうという答えになったんだろう。
箒が出ていってしまったことで1人部屋となり、静かになった。
「…………ん~。何故か広く感じる」
「い、一夏」
ドアの外から箒の声が聞こえ、開けてみると箒が立っていた。
「どうした? 忘れ物か?」
「い、いや、そうではなくてな…………い、一夏!」
「は、はい」
「来月の学年別ISトーナメント戦で私が優勝したら……付き合ってもらう!」
「……はい?」