インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
6月頭の日曜日、俺は学園に外出届を出して久しぶりに親友である五反田 弾の家に遊びに来ていた。
面倒なことにIS学園という特殊な学園は外出するたびに外出届なるものを出さなければならず、さらに言えば外泊するときでさえ事前に出さなければ許可が下りないのだ。
まあIS使いを付け狙うエージェントだっているし、俺の場合はことさらだ。
そんな親友の部屋でマンガを読んでいる。
「つうかお前、楽しそうじゃん。メール見てる限りじゃ」
「そうだな。久しぶりに箒も鈴とも会えたし」
「にしても……またお前筋肉着いたんじゃねえの?」
「そりゃ毎日、学園のトレーニングルームで汗かいてるしな」
「ひぇ~。お前BMIいくつよ」
「さあ? 最近は測ってねえけど」
身長173に対して体重は先月測った時点で60キロちょうどだったからな。流石にこれ以上、落とすと危なくなるので60以上はキープするようにはしている。
「見るか?」
「ふん。俺だって最近鍛えてんだよ!」
そう言うや否やお互いに上の服を脱ぎ、筋肉を見せ合うがどうやら俺の筋肉を見た瞬間、弾は敗北を察したらしくガクッと膝をついた。
ふん。鍛えている年数が違うのだよ。
「お、お前えげつないだろ。腹筋割れてんじゃねえか!」
「もちろん」
「お兄! 昼飯できたってさっきから……い、い、い、一夏さん!?」
ドアを蹴り破って入ってきたのは弾の妹である蘭。有名私立女子高に通う超優等生だ。
「お前そんなラフな格好で何してんだよ」
「い、一夏さん来てたんですね」
「まあな」
「おい無視か」
「あ、あのお昼良かったら食べていってください」
「そうだな。久しぶりにそうする」
「じゃ、じゃあお爺ちゃんに言ってきますね!」
そう言い、蘭はドタバタと階段を降りていった。
「弾。お前何凹んでんだよ」
「いいや……妹もとうとう兄貴の存在を抹消したのかと思って悲しいのさ」
「?」
何故か涙目の弾を放置し、上の服を着て一階へ降りるとおぼんに乗せられた料理を運んでいる白いワンピース姿の蘭が見えた。
あれ? さっきと服装が違う……もしかしてどこかでかけんのか?
「一夏さん! はい、これです!」
「おお、かぼちゃの煮つけ定食! これ美味いんだよな~。いただきます!」
早速、一口かぼちゃの煮つけを食すとほんのり甘いかぼちゃの味が口の中いっぱいに広がり、久しぶりに味わう美味い味に俺は感激していた。
あぁ、昔はこれを目当てに弾の家に遊びに来てたもんだしな……いや、ちゃんと遊ぶ予定もあったんだ。でもこれが美味すぎるんだよな~。
「一夏。お前またかぼちゃの煮つけぎゃぁぁ!」
「?」
鈍い音がしたかと思えば脇腹の辺りを抑えている弾と足を上げて構えている蘭の2人が見えた。
「何やってんだ?」
「い、いえ何もないです! と、ところで一夏さん!」
「ん?」
「来年、私もIS学園に行きます!」
「そうなのか?」
「はい! 入学したらご指導の方! よろしくお願いします!」
「おう。楽しみにしてる」
「はい!」
そうか。蘭もIS学園に……来年までには今以上に強くなっとかねえと後輩の示しになんねえよな。
夕方の6時ころ、俺はいつもの様にトレーニングルームで汗を流しているが前回、千冬姉に鍛えすぎるなよとくぎを刺されてしまったので今日はランニングマシーンは行わず、なおかつ器具は重すぎる奴は使わずに数をこなすタイプの筋トレを行っている。
これならあまり負荷もかからないだろうしな……俺が鈴を傷つけたも同然なんだ……今以上に強くならなきゃまったく意味がないんだ。
「やっぱりここにいた」
「鈴。どうしたんだよ」
あれから一カ月以上も経っているので足首も完全に治り、甲龍も無事に整備から解放されたらしい。後俺が破壊した衝撃砲もものの見事に換装されていた。
あれ作る技術者凄いよな。
「そろそろ夕飯だからあ、あんた誘って食べようかと思って」
「そろそろか……よし。今日は上がるか」
傍に置いていたタオルを手に取り、鈴と一緒にトレーニングルームを出て一緒に食堂へと向かう。
その間に今日あったことを鈴に話してみると最初は弾の話で盛り上がったんだが途中で蘭がIS学園に来るという事を言ったときからやたらと不機嫌になった。
昔からこの2人は微妙な関係だったしな。
「ふ~ん。あいつここに来るんだ」
「らしい。適性検査も受けたらしいぞ」
「ふん。適性なんてゴミよゴミ。要は実力なんだから!」
まあ、それもそうだな。ちなみに俺のIS適正は最初はBだったんだが今はAに上がったらしく、この前千冬姉に授業中に言われて皆に驚かれた。
代表候補生でもないのにこの時期でAは中々良いらしい。Sは本当に僅かしかいないらしくモンドグロッソで上位に食い込む人たちしかいないらしい。
「はぁ……あーお腹減ったー!」
「あ、おい鈴。待てよ」
速足で歩き始めた鈴を追いかけるべく、俺も早足で食堂へと向かった。
翌日の朝、教室へ向かうといつもよりもクラスメイトが何かの話で盛り上がっていたようだが俺が入ってくるのを見るや否や焦りながら笑みを浮かべ、サササッと自分たちの座席に帰っていった。
「おりむ~おっはよ~」
「おっす。何か話してたのか? なんか俺見たら帰ってったけど」
「あ~。それたぶんね~。今度のトーナメント戦で優勝したらもがっ~」
「も、もう本音ったら~。私の部屋に忘れ物しちゃって~」
布仏さんはそのままズルズルと引っ張られてしまった。
「なんなんだ……あ、箒おっす」
「う、うむ。おはよう」
ここ最近、箒の様子も少しおかしい。なんというか挨拶しても反応が薄いっていうか……それに俺と目を合わしたら顔を少し赤くしてプイッと視線をそらしてしまう。
ふむ。何やら女の子にしか分からないことが蔓延しているのか……ま、いいや。
「皆さんおはようございます」
「あ、マヤヤ先生おはようございます」
「マ、マヤヤ?」
「あ、ヤマヤ先生の方がよかったですか?」
「先生をあだ名で呼ぶのはいけませんよ~」
いつものように柔らかい笑顔を浮かべながらそう言うがどこかその言葉には教師としての言葉が感じられた。
かれこれ2ケ月位たつが山田先生にはいくつものあだ名が出来ている。ある意味生徒に好かれているという事の証なんだろうけどな。
「諸君。おはよう」
「「「「おはようございます!」」」」
対して千冬姉のこの威厳ある挨拶に対する反応よ。まああの世界最強に挨拶されたら尊敬している奴らなら大体こうなるよな……そう言えば昔、よく『~してあげるから千冬さまのこと教えて』みたいなこと言われたっけ。
あれかなり傷つくんだよな。だった俺を見ていないってことだからな……今はもう過去のことだって割り切っているつもりではあるけど前に夢に出てきたからまだ割り切れていない部分もあるんだろうな。
「では山田先生」
「はい! 皆さんにうれしいお知らせです!」
その一言に教室が若干、騒がしくなるが千冬姉の一睨みでまた静かになる。
いや、マジで貴方の睨みはなんですか?
「転校生が来ました! しかも二人も!」
「え? この時期に?」
「しかも2人って」
噂好きな女子が知らないということもあれだが何もアナウンスされていない状態でのIS学園への転入生は非常に珍しい。何故なら大体は編入者というのは軍所属の専用機持ちかどっかの企業に所属している代表候補生って相場が決まっているから大体、企業や軍の宣伝も兼ねて公表されることが多い。
にしても二人か……ふつうばらけさせるもんじゃないのか?
「失礼します」
「…………」
転校生が入ってきた瞬間、騒がしかった教室が一気に静かになった。
そりゃそうだ。1人は黒い眼帯をつけた銀髪の小柄な女の子、そしてもう1人は金髪碧眼の超美少女だ。
にしても……なんでIS学園の女子生徒のスカートは皆一様に短いんだよ。毎回、目のやり様に非常に困るんだよな。あと階段の上とかでお普通に下着が見えるから女子との間に冷たい空気が流れる。
「シャルロット・デュノアです。フランスから来ました。まだ日本に慣れていないので迷惑をかけると思いますがみなさんよろしくお願いします」
超丁寧。鈴の活発さとは真逆のお淑やかというかこれぞ女の子っていうか……ちなみに今の発言も女性の前でしたら余裕で女性差別だなんとか言われてしまう。
そしてもう1人の銀髪の小柄な女子は挨拶の一つもせず、ただ突っ立っている。
ただその起ち方と黒い眼帯を見ただけで彼女が一般人ではないということは明らかに分かる。
軍人……だろうな。
「挨拶をしろ。ラウラ」
「はい。教官」
そう言い、少女は伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばした。
今の一言とこの立ち振る舞いで分かった。こいつは確実に軍人、しかもドイツ関係だ。
千冬姉はとある事情で1年間ほどドイツ軍でISの共感をしていた経歴があり、その後、1年の空白を開けてIS学園の教師になったらしい。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「…………い、以上ですか?」
「以上だ」
先生涙目になってるし。
そう言うとボーデヴィッヒさんはつかつかと俺のところにやってくる。
「な、なんだよ」
「貴様が織斑一夏か」
「そ、そうだけど」
地味に怖いぞおい。箒に睨まれるよりも怖い。
「貴様は強いのか?」
「は、はい?」
「強いのかと聞いている。私がここへ来た理由は強者と戦うため。教官から貴様は強いと聞いている……もう一度聞くぞ。貴様は強いのか」
「…………一応、このクラスの代表だけど」
「そうか……ふん」
そう言い、ボーデヴィッヒさんはそのまま自分の座席へと向かい、何も言わずに座った。
な、何だったんだ一体。
「山田先生」
「は、はい! え、えっと今日から訓練機を用いた実技演習を始めますので皆さんISスーツに着替えてくださいね。場所は第2グラウンドですので」
千冬姉に急かされて早口で次の時間のことを話し、ピャーッと教室から去っていった。