インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
数日後の放課後、俺は1人で学園の中を散歩していた。
本当なら今頃はセシリアたちと放課後特訓をしているんだが少しの間だけ休みを貰い、自分自身が目指すべき強さっていう奴を見つけるための期間にしている。
まあ、そんな短い期間で見つけられたら苦労はしないんだけどさ。
「教官。本当に彼は強いのですか」
そんな声が聞こえ、そっちの方へ向かうとスーツ姿の千冬姉とラウラが一対一で喋っていた。
「それはどういう意味だ、ラウラ」
「そのままの意味です。教官はあの時、織斑一夏という男は私に匹敵するほどの強さを持っていると言われました……ですがあの男は戦いから逃げている軟弱者。そのくせ強くなりたいというだけの口先だけの男です」
「それは私への侮辱ととっていいんだな」
「……失言でした。撤回いたします」
そう言うとラウラは小さく頭を下げる。
……いや、あいつの言う通りなんだ。俺は強くなりたいって言っているくせに戦いから逃げてるただの口先だけの軟弱者だ……。
「まぁ、今はそう思うだろう…………あいつはあの時のお前と同じなんだよ。何のために強くなればいいのか……それが分からない時期に入っている。お前とてそうだったはずだ。失敗作と烙印を押され、おちこぼれと言われた貴様が一部隊の隊長にまでのし上がったのには理由があったんだろう。ただ単にそれを見つけたのがお前の方が早かったという事だ」
「…………やはり分かりません。教官、貴方が仰っていることが」
「分かられてたまるか。私は忙しいんでな」
「お時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
そう言い、ラウラは足早にその場から去っていった。
「ふぅ…………そこの男子」
「うっ……ご、ごめん」
「謝るくらいなら早く理由を見つけろ、バカ者が」
そう言うと千冬姉は俺の頭を軽く撫でてからどこかへと歩いていった。
「「あ」」
二人の抜けたような声がアリーナに響いた。
時間帯で言えば放課後。最近、特訓の相手はもっぱら一夏だったのだが最近は休憩だとかいろいろあってな、などと理由を有耶無耶にされて避けられており、正直二人はストレスを抱えていた。
「あんたも?」
「ええ。最近、織斑さんとの特訓がないものですからどうもストレスが溜まってしまって」
「ほんと。なんであいつ戦わなくなったんだろ」
「何か悩んでいる様子でしたが」
「……ま、そのうち来るでしょ。その前にイギリスと中国」
「ええ。どちらが強いか白黒はっきりつけましょうか」
二人がメインウェポンを展開し、その手に握りしめた瞬間、二人の間を超高速で何かが通り過ぎていき、アリーナのグラウンドが爆ぜ、砂埃が舞った。
2人はすぐさま同時に後ろへ飛び退いて距離を取り、鈴は衝撃砲を準戦闘態勢へと移行させ、セシリアはスターライトmkⅢのロックを解除し、相手へ照準を合わせた。
「いったい何の用ですの?」
「ふん。織斑一夏がいればまたやるつもりだったのだが……今回は雑魚どもしかいないらしいな」
その一言に二人の額に青筋が走る。
「カッチーンと来たわ、カッチーンと」
「ええ、私もですわ。鈴さん」
「まあ良い。流石に奴もこいつらが痛めつけられていればくるだろう」
「その言葉、まんま返してやるわ! 行くわよセシリア!」
「ええ!」
「ほらほら、一夏早く♪」
「シャ、シャルロット! さ、最近貴様一夏に引っ付き過ぎだ!」
放課後、久しぶりにアリーナへ行こうとシャルロットに誘われ、一緒に箒も連れてアリーナへ向かっているんだがさっきから背中にシャルロットの柔らかいあれがひっつけられている。
な、なんか以前にもましてシャルロットのボディータッチが増えたような……なんでだ? 普通、あんなことあったら減るもんじゃないのか?
「一夏、今日は第三アリーナが使用人数が少ないと聞いている。さらに私は今日、訓練機を借りることが出来た。だ、だから……きょ、今日は私と」
その時、だだだっと3人の女子が慌てた様子で第三アリーナの方へと向かっていくのが見えたがその表情がどこか心配げなものだったので俺達もその後を追って小走りで第三アリーナへと向かうと多くの女子たちが観客席に集まっていた。
「模擬戦かな? でもなんだか様子が」
その時、フィールド内から爆音が響き渡り、セシリアと鈴が地面を滑るようにして後ろへと下がった。
鈴とセシリア……誰かと模擬戦……ら、ラウラ。
二人が睨み付ける先にいたのはあの漆黒のISを身にまとったラウラが立っており、どう見ても状況的にはラウラの方が圧倒的優勢だ。
鈴とセシリアの装甲は所々完全に破壊されている部分が見えるのに対し、ラウラの装甲は傷はついていれど一目でダメージは少ないと分かる。
「これは……模擬戦と言えるのか?」
「模擬戦というか実践だね」
「食らえ!」
鈴の衝撃砲から最大威力で放たれた見えない弾丸がまっすぐラウラに向かって突き進んでいくがラウラが手を鈴の方へ向けた瞬間、何か見えない壁にでも直撃したのかラウラの少し手前で爆発した。
「無駄だ。このシュバルツェア・レーゲンの前では貴様らなど有象無象に一つに過ぎん」
ラウラの両肩の部分から刃が放たれたかと思えばワイヤーと繋がっており、複雑な動きをしながら鈴とセシリアに向かって伸びていく。
「撃ち落としてくれますわ!」
4基のビットからレーザーがブレードめがけて放たれるがその全てを複雑な動きをしてすべて避け、セシリアの右足に絡んだ。
「きゃぁ!」
そのままラウラは振り子の原理でセシリアを鈴めがけてぶつけ、攻撃を阻害すると腰部からも同じワイヤーブレードを射出して2人の首に巻き付かせ、鈴を引き寄せた瞬間、何のためらいもなく殴りつける。
殴りつけられた鈴のISアーマーが粉々に砕け散る。
「どうした? そんなものか……この程度で代表候補生など笑わせる!」
「おいやめろよ! おい!」
叫びながら遮断シールドを叩くがこちらの声は向こう側へは届かない。
だがラウラはそれに気づいたのかこちらの方を一瞬だけ見ると俺に見えるように鈴を引き寄せ、殴りつけ、セシリアも引き寄せて何度も殴りつける。
「わ、私先生呼んでくる!」
「すぐに止めないとこのままでは二人が!」
「でもここからじゃ入れない!」
ラウラは2人を殴りつけて地面へ叩き付けるとプラズマ手刀を展開し、それをセシリアに向ける。
おい。そんなもので今のセシリアを切ったら確実に生身に傷が…………やめろ…………やめろ!
ラウラは何の気なしにセシリアめがけてプラズマ手刀を振り下ろす。
「ラウラァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
迫ってくるプラズマ手刀を見てセシリアは目を固く閉じるが痛みは全く来ない。
「な、何が…………っ!」
目を開けてみれば自分の胸すれすれのところでプラズマ手刀が止められていた。
生唾を飲みながらゆっくりと顔を上げるとそこにいたのは純白のISに身を包み、きりっとした男らしい表情の中に怒りを含ませた表情をしている一夏の顔が見えた。
その瞬間、何故か心臓が大きく鼓動を打ったような気がした。
「ようやく来たか…………織斑一夏!」
「だぁぁ!」
「ぐっ!」
プラズマ手刀を握っている腕を振り払い、ラウラの顔めがけて拳を放つけどもう片方の相手の腕に阻まれ、さらには距離までとられてしまう。
ようやく分かった…………俺が追い求める強さが…………皆を護る強さでいいんだ。俺が追い求める強さはみんなを護れる強さ、それ以上も出それ以下でもない。そんな強さで俺は千冬姉を超えて見せる。
そう決意し、雪片弐型を展開して握りしめるとラウラは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「シャルロット、みんなを頼む」
「分かった」
2人をシャルロットに任せ、俺はラウラを睨み付ける。
あの時みたいに怒りのまま振るったらダメだ……鈴にもそう言われたじゃねえか。あくまでクールに……でも一撃には怒りを込める!
「行くぞ! 織斑一夏!」
「えあぁ!」
「ぬぁ!?」
ラウラが俺に向かって突っ込んできた瞬間、瞬時加速を発動させて一気に奴との距離を詰めてすれ違いざまに零落白夜を発動した状態で雪片弐型を振るうがまたしても避けられ、掠った。
掠ったか……何で瞬時加速にまで反応できたかしらねえけど零落白夜は掠っただけでもエネルギーを奪う。
「ヴォーダン・オージェでさえ掠るか……良いぞ良いぞ! この時を待っていたんだ……貴様と全力で戦えるこのときを!」
「この戦闘狂野郎が!」
ラウラの腕部左右、および両肩から放たれたワイヤーブレードを背部・翼部全てのスラスターを全開に吹かし、自慢の速度で避けていくがワイヤーブレードはそれでも必死に食らいついてくる。
こんな速度じゃダメだ! もっと! もっとあいつを振り切れるだけの速度が欲しい! やるか……あれを。
ふと、昨日山田先生に聞いたことを思い出す。
『先生~。瞬時加速中に瞬時加速を重ね掛けしたらどうなるんですか?』
『良い質問ですね織斑君! 先生が答えましょう! だって先生ですから! えっとですね瞬時加速を重ね合わせる技術は2つあります。1つは瞬時加速発動中に重ね合わせるもの。もう1つは瞬時加速を瞬時に2回発動させるものです。前者は速度が2倍ずつ上がることが確認されています。そして後者の方は速度を1とした時、2の2乗、つまり4倍に跳ね上がるんです!』
『は、はぁ』
『ただし。注意してほしいのはどちらも体にかかる負荷が大きくなります。特に後者はスラスターにも負担がかかってしまいますので注意してくださいね』
エネルギー残量も余裕で9割以上残っているし、今フィールドにいるのだって俺とこいつしかいない……やるなら今しかない!
ジグザグに動き、どうにかしてワイヤーブレードの追撃を避け、瞬時加速の準備を行う。
「スペック以上の速度だな。ワイヤーブレードの追撃を避けきるとは…………だが瞬時加速が貴様の専売特許だと思うなよ!」
やってやるよ! 体に負荷がかかろうが耐えてやる! みんなを護るために!
「行くぞ白式!」
瞬時加速を発動させ、少し進んだところでもう一度発動しようとしたその時、俺達の間に人影が入るとともに互いの武器に何かが叩き付けられ、金属音が響き、思わず加速を辞めた。
「きょ、教官!?」
「やれやれ……貴様らか」
そこにいたのは千冬姉。その手にはIS用近接ブレードが握られているけどISスーツすらきていない。
それを片腕で、しかも2本操るってどこまで人離れしてんだよ。
「模擬戦をやるのは結構だ。今は人も少ないしな……ただ観客席のシールドバリアを破壊されたとあっては教師が黙認するわけにもいかないんでな」
「……申し訳ありません」
ラウラはそう言うとISを待機形態へ戻したので俺も白式を待機形態へと戻す。
「聞き訳が良くて何よりだ。この決着は週末の学年別トーナメント戦でつけろ。それまで一切の私闘を禁ずる。良いな、二人とも」
「はい」
「分かりました」
「よし、解散!」