インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
場所は2人が運ばれた保健室。検査の結果、骨などには一切異常が見られず、どれも打撲程度の傷だったが問題は2人のISの方でダメージレベルがCを超えてしまっており、整備行きとなってしまった。
それにより2人のトーナメント参加は認められなくなってしまった。
「一夏! 絶対にあいつに勝ちなさいよ! 勝たなかったらボッコボコにしてやるからね!」
「お、おう。絶対に勝つ」
もし負けたら……なんてこと考えたくないな。下手したらショック療法以上のショックを与えられかねん。
鈴はいつものように元気なのだがセシリアの方はさっきから俺と目を合わせるや否や顔を赤くして恥ずかしそうにしながらぷいっと顔を逸らしてしまう。
俺なんか嫌われることしたか? まあ2人とも無事だからいいんだけどさ。
「でも2人とも俺に挑発に乗るなって言っていた癖に何でラウラとやり合うことになったんだよ」
「うっ」
「そ、それはですね……いろいろあるのですわ」
「まあまあ一夏。女の子には色々と聞かれたくないことがあるんだよ」
乙女の心は秘密倉庫と聞く。つまりそう言う事なんだろうか。
「まあでも2人が無事でよかった……あとのことは俺に任せろ」
そう言うや否や2人とも顔を赤くして俺から視線を逸らし、ブツブツと聞こえない程に小さな声で何か呟く。
ん? さっきから何でセシリアは目を合わせてくれないんだ? 地味にショックだぞ。
「一夏は凄いな~」
「何がだ?」
「色々だよ。言うなら泥棒? ね、篠ノ之さん」
「わ、私にふるな!」
泥棒? 俺何にも人の物盗ってないんだが……いったい何を指しているんだか。
そんなことを思っていると保健室の棚に置かれている薬品が入っている瓶がカタカタと音を立てて小さく揺れ始めたかと思えばドドド! と大きく揺れ始める。
「じ、地震!?」
「地震にしては外揺れてないけど」
『織斑君!』
シャルロットがそう言った瞬間、保健室の扉がバン! と勢いよく開かれ、保健室には入りきらないほどの数の女子たちが一気に流れ込んできた。
な、なんだ? 雪崩ならぬ女崩か?
「な、なんでしょうか」
『私と組んでください!』
そう言い、一様に女の子たちが頭を下げて俺に手を差し出してくる。
その手には紙が一枚握られており、一枚拝借して内容を見てみる。
「今月開催する学年別トーナメントではより実戦的な模擬戦を行うためにペアでの参加を義務付ける。なおペアが出来なかった場合はこちらでランダムで決める……だって」
ペアか……多分、前のクラス別対抗戦で無人機が侵入してきたこともあって1人よりも2人ペアの方がより迅速に行動が出来るってことでペア義務にしたんだろうな……あの時は2人とも専用機持ちだったからよかったけどあれが一般生徒だったら被害は広がっていたよな。
「だから織斑君私と組んで!」
「いやそこは私と!」
あっという間に俺の周りは女子たちに包囲され、まるでバーゲンセールのように周りから女の子と綺麗な手が伸びてきて逆に恐怖を感じる。
な、なんか映画とかで操られた人が周囲を囲んで手を伸ばすシーンみたいだ。こ、怖い。
「い、一夏! 私と組め!」
「そんな事よりも助けてくれ~!」
箒もバーゲンセールに参加してしまい、保健室はもうてんやわんやになってしまった。
そんな中、ふわっと浮遊感を感じたかと思えば俺の体が誰かに持ち上げられているらしく、女の子たちが俺を見上げる様子が見える。
「え、えっとシャルロットさん? 確か学園内でのIS展開って禁止事項じゃ」
「今はありなんだよ。ごめんね~。一夏は僕と組むから。じゃあね~」
『織斑くーん!』
そのまま窓から外へと脱出し、女の子たちの恨めしそうな声を聴きながら俺はシャルロットに抱きかかえられたまま第三アリーナへと到着した。
ま、まさかシャルロットさんがこれほど大胆さがあるとは……いやまあ、ハニートラップだってことを俺に言う前から結構、大胆さはあったけど。
「そう言う事で一夏、よろしくね」
「お、おう」
本当にこれでいいかは分からないけどまあいいか……あとで箒に怒られそうなのは怖いが。
「じゃあ少し訓練していこうか」
「お、おう。何するんだ?」
「射撃訓練。一夏近接戦闘オンリーだから少しは遠距離戦もね」
喋りながらアリーナのグラウンドへと出るとそれぞれISを展開する。
「でも俺の白式って後付装備できないぞ」
「らしいね。拡張領域がないんだってね。でもそこは2対2のペア戦ならではのことを使うんだ」
そう言うとシャルロットは手元にサブマシンガンを呼び寄せ、俺に渡してくる。
確か他人の装備は使えないはずじゃ……あ、そう言えばアンロックすれば他人にも使えるようになるって教科書で見たぞ。
「ボーデヴィッヒさんは1年生の中じゃ最強って言っても差支えないくらいの強さ。一夏も彼女と戦えるとは言ってもISの使用期間は短い。そこでペアでラウラと戦うんだよ」
「それで俺が遠距離武器を使うのか?」
「そう。近接オンリーって聞いていた一夏が遠距離武器を使えば少なからず隙が出来る。それに彼女のISに搭載されているAIC・停止結界は一対一じゃ反則的なまでに強いんだ」
「あれか……確かにあれに捕まったらおしまいだよな」
「そこで互いにカバーしあうんだ。僕が捕まったら一夏が、一夏が捕まったら僕が助ける。遠距離武装ならエネルギーを使うことも無いからね」
確かにそれもそうか。近づいて攻撃されたらエネルギーが減って勿体ないからな。でも遠距離武器があれば敵の攻撃も当たらない距離からペアを助けることが出来る…………ずっと近距離一本でやってきたけどこの機会に遠距離の武器も勉強するか。
「シャルロット。教えてくれ」
「オッケー。じゃまずは」
すると前方に的がいくつか浮かび上がる。
「一夏の素質を見たいから撃ってみて」
「お、おう」
俺なりの構え方で銃を構え、引き金を引いた瞬間、強い衝撃が俺にかかり、弾丸はあらぬ方向へと飛んでいき、的にすら当たらなかった。
「センサー・リンクしてる?」
「白式にはそれがないんだ。探してるんだけど」
「ん~。本当に近接オンリーなんだね……じゃあ目測でやるしかないね。構え方はね」
シャルロットが後ろに回り、手とり足とり銃の構え方から教えてもらう。
IS状態でよかった。生身だったら今頃…………俺の尊厳がなくなってたと思う。
「左手はこう。あと脇は閉めるように」
「こうか?」
「うん。じゃあやってみようか」
引き金を引くと銃声が鳴り響き、衝撃がまた俺にかかるが今度はちゃんと構えていたこともあり、弾丸はまっすぐ的に直撃した。
おぉ、構えを知っているのと知らないのとではここまで差があるのか。
「うん。そうそう。1マガジン使ってもいいよ」
「おう」
少しの間、アリーナには銃声音が鳴り響いた。
6月の最終週に入り、学園全体が今日行われる学年別トーナメント一色に染まっている。
今の今まで生徒たちによる来賓の誘導や雑務が行われ、どうにかして試合開始までに全ての準備は終わったがそれにしても来賓者の顔ぶれがこれまたすごい。
よくテレビに出ているIS研究者だったり、どこかの国の高官だったり、挙句の果てには国のリーダーまで来ているという噂まであるくらいだ。
俺達1年生には関係泣けど2年生は1年間の成果の確認、3年生にはスカウトが来ているらしい。
「ふぅ……俺も着替えるか」
「織斑さんでしょうか」
「はい?」
振り返るとスーツ姿に黒縁メガネ、黒髪をポニーテールに結んでいる女性がいた。
「私、日本代表候補生担当の長谷部と申します」
「は、はぁ。織斑一夏です」
名刺を手渡されると確かに日本代表候補生担当官という肩書きが書かれている。
でもなんでそんな人が俺に。
「お時間はよろしいでしょうか」
「まあ、ちょっとは」
「そうですか……手短に話しますと今回、織斑さんの成績次第では政府から代表候補生にならないかという声がかかるかもしれません」
…………へ? 俺が代表候補生? 鈴やシャルロットみたいに?
「お、俺がですか?」
「はい。織斑さんがです」
「い、いやでも俺、男ですし……それにもう候補生って決まっているんじゃ」
「はい。決まっておりますが候補生の数に関してはさほど問題ではありません。代表は一人ですし」
まあ、それもそうか。ていうか優秀な候補生は数がいればいるほどいいもんな……でも、わざわざこんな時期に俺に声かけなくても良いんじゃ。
「それにここだけの話ですが……結構、VIPなかたも見に来られているんですよ」
「はぁ……」
「頑張ってくださいね。では」
そう言い、ポニーテールをゆさゆさと揺らしながら長谷部さんは去っていった。
代表候補生か……とにかく今はラウラに勝つことだけを考えよう……うん。
「あ、一夏」
「シャルロット」
「もうすぐトーナメント表が発表されるよ。見に行こうよ」
「おう」
モニターが設置されている場所に向かうと大勢の女子たちが集まっている。
初戦で当たってくれりゃ俺としては楽でいいんだけどな……。
「「あっ」」
トーナメント表を見た瞬間、俺とシャルロットの声が重なった。
「初戦からか」
「ペアは箒か…………ちょうど良い。1回戦から当たるなんて運が良い」
「そうだね」
「よし、シャルロット。頑張ろうぜ」
「うん。あ、シャルロットって戦闘中に呼ぶには長いでしょ? シャルでいいよ」
「よし、シャル。絶対勝つぞ」
「うん。頑張ろう」