インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
結局、白式はトーナメントまでに修復が間に合わなかったので辞退となってしまった。
トーナメントは4組の日本代表候補生が優勝したらしい。
今度模擬戦でも申し込もうかしら……そんな事よりも白式だ。
今朝、学園から支給されている俺の個人端末に整備課から白式の修復があらかた終わったから集合との命令を受けたので俺はスキップ交じりに指定された第三アリーナのビットへと向かっている。
それはいいんだが……。
「あ、あのラウラ?」
「なんだ?」
「なんでついてきてんの?」
「白式が直ったのだろう」
「な、何故それを……あ」
慌てて口をふさぐが時すでに遅し。
「お前がスキップをしながら部屋から出るのが見えた上にさっきからやけに手首を摩っていたので白式が直ったのではないかと予想したまでだ」
うっ。さ、流石はドイツ軍所属な上に隊長であるラウラだ。初めてそのことを聞いたときは驚いたがラウラの戦闘能力を考えれば納得がいく。
「お、おう。当たってる」
「となると模擬戦が出来るという事だ。よし、嫁。戦え」
「何故にそうなる!?」
「なんだ? 白式の起動確認のついでにすればいいだろう」
ラウラはそう言いながら小首を傾げる。
な、なんかラウラって時々、ど真ん中正解のことを言ってくるから反論の余地がないんだろな……でもまあ、白式の起動確認はするだろうし、ラウラとの模擬戦は必要だな。
「じゃあ頼む。模擬戦ついでに起動確認」
「うむ。それでいい」
「その話ちょーっと待ったー!」
そんな大きな声が聞こえるとともに茶色いツインテールがものすごい速度で通り過ぎていくのが見えた。
廊下を滑るようにして俺たちのところへやってきたのは中国代表候補生で俺のセカンド幼馴染でもある元気いっぱいかつ少女こと鈴。
ていうか廊下滑らなくても。
「なんだ、貴様か」
「その相手。この私がやってあげるわ!」
「何を言っているのだ貴様は。嫁の相手はこの私だ」
「細かいことは良いから行くわよ!」
何故に鈴が主導権を握ったんだ? まあ、いいけど。
そんなわけで第三アリーナのビットへと到着した俺の目の前にはもうそれは綺麗に修復が完了した俺の専用機である白式があった。
でも何故だがさっきから整備を担当してくれた人たちの表情はどこか芳しくない。
「織斑君。白式の修繕、完了しましたよ」
「ありがとうございます!」
「では起動確認をしますのでISを装備してアリーナの方へ」
山田先生に言われ、白式を装備するとあのいつもの感覚が俺を包み込むようにしてやってくる。
白式の装着が完了し、ビットからアリーナへと出ると既に展開し終えている鈴とラウラの2人が立っており、まだどちらが先に俺と模擬戦をするかで言い争っていた。
「一夏! あんたはやっぱあたしと先にやるわよね!?」
「嫁は私とやるのだ」
「ま、まあまあ。ここは公平にジャンケンで」
そう言うとムスーッと不機嫌そうな顔をしながら鈴はしぶしぶ了承し、ラウラとじゃんけんをする。
結果はラウラがグーで鈴がパーで鈴の勝ちなのだがさっきまでの不機嫌な顔はどこへ行ったのかパァッと音が聞こえてくるくらいに明るい表情を浮かべ、全身で喜びを表す。
なんかたまに鈴って可愛いところあるよな……なんというかいつものギャップさというか。
「ちっ。まあ良い。嫁とは後で激しくすればいいだけのこと」
いやラウラさん。そんなサバイバルナイフを持って言われたらただの不審者にしか見えないでござるよ?
ブツブツと文句を言いながらラウラはビットへと戻り、アリーナには俺と鈴の2人だけが残る。
『織斑君。では軽く戦闘を始めてください』
「はい。じゃ、行くぜ鈴!」
「来なさい!」
雪片弐型を呼び寄せ、強く握りしめ、スラスターを全開に吹かして鈴に向かった瞬間!
「ごっぱぁ!」
何故かいつも以上の速度が出て鈴の隣を通過していき、そのままアリーナの観客席を護っているISの絶対防御と同じ壁にぶつかってしまった。
イタタタタ……瞬時加速じゃないのに瞬時加速みたいな感じだったな。
「あんた何やってんの」
「い、いやなんかいつもの調子で全力だしたらこうなった」
「スラスター新しくしたからじゃないの? 鼻っから全力で行くからよ。整備後は色々と合わないこともあるからゆっくり慣らすのが基本よ」
「お、おう」
念のため白式のスペックデータを持ってきて表示させると以前の白式の速度スペックと比べるとほんの少しだけ最高速度が上昇している。
ほんの少しでこれほどの速度が出るのか……やっぱりISっておっかねえな。
「とりあえず右手に向かって衝撃砲うつから瞬時加速使って見なさいよ」
「おし、行くぜ」
直後、一瞬視界が歪んだかと思えばアリーナの端の方まで移動しており、その直後に衝撃砲が地面に着弾した音が聞こえる。
相変わらずすげえ速度だな……よし。
「あ、あんた忍者でもなったの?」
「は? 何言ってんだお前」
「い、今一夏が5人に見えた気がした」
鈴は基本的に冗談は滅多に言わない。まさしく当たって砕けろ、正面突破な性格だ。その鈴が冗談のようなことを言うという事は大体は現実という事なのだ。
「瞬時加速使ったら残像くらい見えるものじゃないのか?」
「見えるけど残像じゃなくてこう……なんというか……あぁもう! とにかく一夏が5人に見えたのよ!」
何故、怒られねばならぬ。
「にしても新しいスラスターに変えるだけでこんなにも速度が違うのか」
「ほんと、それどこの会社なのやら。余計に速度与えたらあんた下手したら高速で移動して過去に飛べるんじゃないの?」
「止めてくれ。そんな非現実的なことは考えたくはない……ある意味な」
「まあ、ISの存在自体少し前までは非現実的だったしね」
そう……ほんの10年くらい前まではISの存在など非現実的と一笑されるだけの机上の空論の塊でしかなかったんだ。でもあのウサギ耳が特徴のISの生みの親によってそれは現実のものとなり、今じゃ表向きは次世代のスポーツ、裏では核に変わるクリーンな抑止力となっている。
ウサギ耳が特徴のあの人は今も行方不明で全国家が血眼になって探しているがどこにいるのかさえ分からず、全ての国家共通の手配人になっている。
まあ、あの人を拘束すればISという業界において最強になるも同然の話だからな。
それにしても束さんのことで思い出したが最近、箒の姿を見ない。ついこの前までは一緒に剣道やったりアリーナで放課後訓練をしたりしていたのに最近はそれもない。
それもこれもこの前の学年別トーナメント戦が終わってからだ。
何かあったんだろうか……今度、飯にでも誘ってみるか。
誰もいない時折、集会の場としてもつかわれるぽっかりと開いた寮の裏の空間に1人、箒は真剣を握りしめ、何度も振り下ろしていた。
その姿はまるで何かを振り払おうとしている。
この前の学年別トーナメント戦。一夏に優勝したら付き合えなどとたいそれたことを宣言したはいいものの結果は1回戦負け。
せめて一夏と戦い、負けたのであれば気持ちも幾分かは変わったのだろうが彼女を負かした相手はフランス代表候補生のシャルロットだった。
2人のコンビネーションは素晴らしいの一言しかなかった。ただそれ故に二人の仲の良さが目に映る。
あの時、もしも一夏が自分をペアに選んでくれていたら同じような結果になったのだろうか―――そんな質問の答えなど一瞬で出てくる。
自分は弱い。今は一夏の足元にも及ばない。
ただ自分にも専用機があれば――――そんな考えが頭の片隅にあり、その欲望にあらがう事が出来ず、姉であり、ISの生みの親でもある彼女に頼ってしまった。
自分も専用機が欲しいと。
(専用機さえあればあいつと……一夏といつでも好きな時に模擬戦が出来る。そうすればきっと一夏も……)
―――――振り向いてくれる。
今の一夏の周りには自分よりもはるかに強い奴らが集まってきている。噂では一夏に代表候補生にならないかなどという話もきたという。
そしてあのラウラに勝ったという事で現時点で一夏は自分たちの学年では最強に等しい強さを持っている。
――――羨ましかった。
一夏と長年一緒にいた自分ではなく、まだ出会って一年も経っていない連中が一夏の傍に入れることが羨ましくて仕方がなかった。
自分も何度その中に入ろうとしたか……だが中に入ることで自分の弱さが皆に指を刺されているように感じて仕方がなかった。
ただもうそんな気持ちを抱くことは無くなる。
(私にも……専用機が)