インフィニット・ストラトス Strong・Summer   作:kue

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第2話 何故、少女はそこまでツッコむのか

 1時間目の授業が終わり、集中するためにかけていたメガネをはずし、背もたれにもたれ掛る。

 千冬姉が俺に渡した電話帳と間違えるくらいに厚い本を何とか読み切ったものの半端な知識では周りの奴らに舐められるだけだ。

 だからこの授業で完璧なものにしようとしていたのだが想像通り、授業はかなり濃密なものだった。

 でも入学初日にガッツリ進むってのもあれだと思うけど…………力は手に入るかもしれない。あとは俺がこの三年間でどこまで強くなれるかだ。

 理論を学び、それを実践する……いったいどこまで強くなれるか分からないけど……いや、強くなるんだ。ならなくちゃならないんだ。

 

「ちょっとよろしくて?」

「あぃ?」

「なんですの? その気の抜けた返事は」

 

 俺に話しかけてきたのは金髪の髪を両サイドに分け、それぞれ縦巻きロールにした女の子だがその目はどう見ても俺を下に見ている眼だ。

 ISの登場により、男の地位が格段に下がった現代じゃ何も珍しいことじゃない。

 喪女、鬼女に続く新しいネットスラングでキチガイ女子と書いて基女と読むものさえできているほど時々、行き過ぎた考え方の奴がいる。

 さらに悪く言えばそれを周りの女性は受け入れているという事だ。その証拠に周りの連中は特におかしな様子とは思っていない。

 

 

「あ~はいはい。で? その……誰?」

「セシリア・オルコットですわ」

「セシリアさんがいったい何の用?」

「ファーストネームで呼ばないでくれませんか? まだそこまで親密な仲ではありませんし」

「日本人の癖なんだよ。最初に来た名前が苗字だって思うんだ。悪かったな、”オルコット”さん」

 ファミリーネームで呼んでやると納得したのかうんうんと満足げに首を縦に振る。

「まあ、今回は許しますわ。日本人の気質を忘れていた私の過失ですし」

 お? 意外と話が通じるのか?

「ところであなた、先程の授業はついていけましたの?」

 

 あ、だめだ。こいつは無しは通じないタイプの人間である可能性大だ。俺がさっきの授業を追いつけていないと決め込んで話をしてやがる。いやまあ全部理解は出来てないけどさ。

 ま、あまり俺は女性というものを信頼していないし話すことも無いからいいんだけど……まあ幼馴染二人と千冬姉は別としてだ。

 

「家に帰って復習するけど」

「やはりそうですか……よければ私が教えて差し上げますわよ? 自分で学ぶよりもより理解している人から学ぶ方が理解の速度も速いですわ」

「結構です」

「…………今何と?」

「結構っす」

「なっ!? この代表候補生をお誘いを断るというのですか!?」

「おう。お断りいたす。自分で出来るし」

 いや、まあできるかは不安だがここで折れては男がすたる。

「……な、なるほど。それ相応の優秀さはあるということですね……ですが知識は出来ても実践演習はどうなさいますの? 稼働時間一時間も満たしていない貴方が独力で動かせるようになるとは思えませんが。そこでわたくしの出番ですわ」

 

 まあ確かに代表候補生と比較すれば月とスッポン並だ。だって入試科目がISを使っての実演ではなく千冬姉との自由形の殺し合いだったからな。

 いや~流石に千冬姉に戦いで勝つのはなかなか難しい。ほんと、あの戦闘能力の高さは異常だ。

 

「まあそこら辺は先生に教えてもらうさ」

「ど、どこまで貴方は私を愚弄すれば気が済みますの!? ここに! 今ここに貴方に教えられるほどの知識と技術を持った人材がいるじゃないですか!」

「え? どこどこ?」

「それが愚弄しているというのですわ!」

「タダのジョークだって。ジャパニーズジョーク。Are you understand?」

「いいえしていますわ! この入試主席でイギリス代表候補生であるこの私を! というよりもその程度の英語くらい出来てください! Doですわ!」

「あ、そうか。Are you do understand?」

「なんで動詞が二つも入りますの!? 理解するするってなんですの!? ぐれてる息子が母親に鬱陶しそうに言うときの文ですの!?」

「ナイスツッコミイェ~イ」

「イェって貴方って人は!」

 

 なんだ。基女じゃなくてツッコミ女子か。俺は基女は嫌いだけどツッコミ女子は結構好きな部類だぞ。突っ込んでる女の子ってなんか可愛く見えるよな。

 今度はどんなジョークで突っ込ませようかと考えていたのだがどうやらそんなことをさせてくれるわけにはいかず、授業が始まることを知らせるチャイムが鳴り響く。

 

「ま、また来ますわ!」

「あ、いえ結構です。No thank you」

「No thank youが出来て何故、文章の基本が出来てないのですか貴方という人は!」

「さっさと座らんか」

「は、はい!」

 というか千冬姉がいてもツッコミは入れるのね。

「ではこの時間は実践で使う各種装備について授業を行う」

 

 1時間目は山田先生担当だったけどどうやらこの時間は千冬姉が授業を行うらしく、山田先生は後ろの方でノートを持って立っている。

「あ、それと言い忘れていたが再来週に行われるクラス代表戦に出場するクラス代表を決める」

 クラス代表……いわゆるルーム長や委員長みたいなものだろうか?

「その名の通り、クラスの代表だ。代表者にはクラスを代表して様々な会議に出席してもらうことになる。なお、一度決まれば一年間は変更は無しできない。誰か我こそはというものはいないか? 自薦、他薦何でも構わんぞ」

 

 クラス代表か……立候補したいけどしたらしたでまた面倒なことになるからやめておこう。クラス代表になったら筋トレの時間が無くなるからな……まあ、ISの素人の俺がやるよりも代表候補生のオルコットさんの方がクラスの評価も上がるだろう。

 

「はいっ。織斑君を推薦します!」

「あ、私も!」

 おうっふ。まさかのパターンでござる。

 あれやこれやと手が上がっていき、最終的にほとんどの女子の手が上がった。

 奴だけは除いて。

「ちょっと待ってください! 納得がいきませんわ!」

 オルコットさんの怒鳴り声に皆がそちらの方を見る。

「そもそもクラス代表とは最も強い人がやるもの! 私を含め、このクラスは先生方から見れば素人も同然な実力しか持っていませんわ。ですが! その素人同然の中でも私の実力が一番上だという事は自明! 珍しいからという事だけでクラス代表を男性に任せるのには不服です!」

 

 意外としっかりした意見だな。ていうか俺も思わずうんうんと頷いてしまった。

「では一番強い自分がクラス代表に立候補すると?」

「はい。物珍しさだけで決めるのには納得がいきませんわ!」

「と、言っているがもう一度尋ねよう。セシリア・オルコットの話を聞いても織斑を推薦したい奴は手を上げろ」

 

 意外とオルコットさんの発言で全員が目を覚ましたのかさっきまでの楽しそうに手を上げる奴はいなかった。

 たった一人を除いて。

「私は一……織斑君を推薦します」

「篠ノ之さん!? 貴方本気で言っていますの!?」

「本気も本気だ。私は彼と幼馴染だ……彼の強さは一番理解している」

「ISのことを今まで学んでこなかった男性だとしてもですの?」

「そうだ。一夏は強い」

 

 ……………そこまで言われたら俺も何もせずにはいられねえな。

「先生。俺も立候補します」

「ほぅ…………他に立候補者はいるか?」

 一瞬面白そうな表情をした千冬姉がそう尋ねるが他に立候補する奴はいなかった。

「馬鹿ばかりだがそれ故に面白いこともあるようだ。よし……来週月曜日の放課後、第三アリーナでクラス代表を決める模擬戦を行う。そこでケリをつけるといい。以上だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、俺はIS学園にある特設トレーニングジムにいて汗を流していた。

 流石は国家が税金を投入して作った特殊学園だ。まさかこんな広くて設備の良いトレーニングルームを作っていたなんて俺からすれば土下座してでもお礼が言いたい。

 

「おぉ。君凄いね。それ何キロ?」

「1つ80の160っす」

 

 軽く喋りながら1つ80キロの重りを付けたダンベルを持ち、それを持ち上げては降ろし、また持ち上げては降ろしを今ので100回はしている。

 やはり女子と男性の違いは把握しているのかトレーニングルームにいた女子たちは160キロを上げている俺を見て若干驚いている。

 ていうかよく女子高で80キロあったな。

 

「あ、織斑く~ん」

「山田先生」

「あ、あの織斑君」

「はい?」

「ダンベルを置け。馬鹿もん」

 

 いつの間にいたのかは知らないけど千冬姉に注意され、キリの良いところでダンベルを置き、近くに置いてあったタオルで汗を拭く。

 

「あの何か?」

「あ、そうでした! 織斑君の部屋が決まりました」

「部屋? 一週間は通いって聞いたんですけど」

「そうなんですが警護の件もあってですね。そこら辺のこと政府から何か聞いてます?」

 

 あぁ~なるほどね。どっかの諜報員が俺を拉致して研究所に売り飛ばすことだってあるということを踏まえてIS学園の寮にぶち込んだ方が安心・安全ってことか。まあ相手が銃とか使ってこない限り、千冬姉クラスじゃなけりゃ勝てるけど。

 

「お前の荷物は必要最低限の物だけ部屋に送ってある」

「……え、えっとまさか俺の筋トレ器具とかは」

「小さいものは入れておいた。少しは体を休めろ、脳筋バカ」

「す、すみません」

「そんなわけなのでこれが部屋の鍵です」

「うっす。ありがとうございます」

「じゃ、私はこれで」

 

 全ての用事が済んだのかルンルン気分の山田先生は時折、スキップを織り交ぜながら機嫌良さそうにトレーニングルームから出ていくが千冬姉は俺の傍に立ったままだ。

 

「あ、あのまだ何か」

「いいや、用はない……用はないんだがな」

 そう言うと千冬姉は俺がさっき置いたダンベルを見る。

 

「鍛えるのは良いが鍛えすぎると怪我をするぞ」

「分かってますよ。ちゃんと準備運動はしているし」

「そういう問題じゃない……」

 そう言う千冬姉の表情は教師としての織斑千冬ではなく、織斑一夏という姉である織斑千冬の表情をしていた。

「気負いすぎて一生モノの怪我をされてはこっちが困るからな……ほどほどにな」

 

 そう言い、千冬姉もトレーニングルームから出ていった。

 …………程々にか……今日は止めておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもよりも一時間も早くにトレーニングを切り上げ、俺の部屋である1025室に向かって歩いているがやはり卒業するまでの間は女子からの視線からは解放されないらしい。

 はぁ……胃もたれしてきそうだ……お、ここか。

 鍵を開け、部屋へ入るとちょうどどこかへ行こうとしているらしい箒とかち合った。

 

「よっ」

「……な、何故一夏が」

「俺もここなんだよ。なんか色々あってさ」

「そ、そうか……と、とにかく話は後だ! い、今は……か、カバンの中は見るなよ!? 絶対に見るなよ!? 見たら竹刀で叩き潰す!」

「お、おう」

 

 そう言い、箒は竹刀を持って出かけていった。

 箒が3回目を言ったところで見てやろうとも思ったが女子のカバンの中はブラックホールって言われているからな……そんなもん見ねえよ。

 二つあるベッドのうち、奥側は既に箒の荷物が置かれていたので入り口に近い方のベッドにダイブすると柔らかふかふかなのでポヨンと体が宙を舞った。

 

「……うん。流石は国立。訳が違う」

 ボーっと天井を見上げながら思う。

 ようやくたどり着けたんだ……あの人を……千冬姉を超えることが出来るチャンスがある舞台に……あとは俺の努力次第でどうにでも世界だ……もうあんな目に合う必要はないんだ……ここからは俺のステージだ。

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