インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
IS学園は夏休みに入る前に臨海学校という行事がある。普通の高校や中学ならばその名の通り、海に行ってカヤックやボート、そして自由時間中に自分で持ってきた釣り竿で釣りをするというのが通常なんだがうちの学園は一味もふた味も違う。
まず優秀なIS操縦者を生み出すことが主目的のうちの学園では最初の初日は自由時間に当てられるのだが残りの2日間はIS操縦の訓練に当てられるらしい。
でも実弾をボコスカ撃つリアルガチのものではないらしく、主に起動面に関する技術などを徹底的にやるらしい。俺の十八番ともいえる瞬時加速から始まり、無重力反転などなど学ぶことは多々ある。
初日の自由時間、俺は適当に泳いでおこうと思い、家の水着で行こうと思ったのだが鈴とセシリアに鬼の様に火を噴かれてしまい、結局買いに行くことになったのだ。ある人物と。
お前らはリザード〇かってくらい吹いてたからな。
「~♪」
「あ、あのシャルロットさん?」
「シャルって呼んで♪」
「シャ、シャルさんや。近いっす」
学園外という事で俺もシャルも制服ではなく、白のノースリーブに少し短めの青色のスカートを履き、サマーサンダルというThe・サマーモードのシャルが俺の腕に抱き付いて胸をあててくるのだ。
しかも上のノースリーブは結構、肌の露出が多く、シャルの胸のサイズも標準以上あるらしいのでさっきからチラチラ谷間が見えるのだ。
い、いかん! 息子がぁ! 息子がぁ!
「一夏も水着を買うんだよね?」
「あ、あぁまあな」
「ねえ、一夏ってどんな水着が好きなの?」
「ほぇ? み、水着?」
「うん……もしかしてエッチィのが好きなの?」
そう言われ、首が飛ぶんじゃないかと思うくらいの速度で左右に大きく振る。
な、なんかシャルってハニートラップだっていう前に比べてやけに大胆さが増してきているような……い、いかんいかん。変なこと考えたら俺の尊厳が消えてしまう。
IS学園の近くから出ているモノレールの中で悶々としながら目的地に着くまで必死に耐える。
「そう言えば白式の修繕終わったんだよね?」
「まあな。でもなんか整備科の人達は変な顔してたけど」
「鈴から聞いたよ。一夏、ニンジャになったんだってね」
「なってねえ。でもなんか修繕から速度がまた上がったんだよな」
鈴との模擬戦の後、ラウラとの模擬戦も行ったんだけどやっぱり俺の気のせいでも何でもなく白式の通常加速の速度が上がったみたいだ。
余計に捕えにくくなったって言われたな。鈴からはあんたはハエかって言われたわ。流石にそのたとえは悲しすぎるだろ。殺虫剤かけられてお終いじゃねえか。
「そんなことあるのかな? スラスターを1から変えたとしてもどこの会社の物だとしても今の限界速度以上はなかなか出せないと思うんだけどな」
「だよな。ま、いいか。あ、シャル」
「なに?」
「今度、俺と模擬戦しようぜ。まだやってなかったよな?」
「うん! やろう! あ、ついたみたいだよ。行こう!」
「お、おう」
モノレールから降りた一夏とシャルの後ろをササッと隠密に行動しながらストーキングしている少女2人がいた。1人は茶色い髪をツインテールにし、もう1人は金髪縦ロールの少女。いずれも一夏に恋い焦がれる、もしくはその一歩手前の心境の持ち主である。
「ねえ、セシリア」
「なんですの?」
「なんであんたも来たわけ?」
「り、鈴さんには関係ありませんわ」
「ふ~ん」
少し頬を赤くしながら否定するセシリアの表情を見て鈴は一瞬で彼女を見抜いた。
それは同姓というだけではなく同じ相手に恋をしている乙女として第六感が働いたともいうべきだろうか。
「最近、シャルロットって大胆じゃない? 谷間見せてるし谷間見せてるし谷間見せてるし」
「そこまで谷間を強調すればするほど悲しいですわよ、鈴さん」
「なっ! あ、あんたは良いわよね! 勝者の余裕があってって2人どこ行った!?」
「追いかけるぞ!」
「ええ! ってなんであんたもいる訳!?」
第三者の声が聞こえ、振り返ると何故か銀髪に眼帯をしたラウラがいた。
「嫁に模擬戦を申し込もうとしたらいなかったのでな。ついてきた」
「貴方は本当に……とりあえず行きますわよ」
さて、水着売り場に到着したことでシャルといったん別れ、水着を探しはじめるのだが正直、どれも家にある水と何ら変わりないように見えてしまう。
まあ男の水着なんて色が違う位しか差異が見つけられないしな。女子みたいに種類があるわけじゃなくて大体はボクサータイプかたまにブーメランタイプがあるくらいだ。
「その癖して値段は高いんだよな~」
この値段じゃ家にある水着でもいいな……うん。シャルが帰ってくるまで適当に時間を潰すか。
「ねえ、そこの貴方」
そう言われるが俺はそちらの方も見ずに無視を決める。
大体、こういう台詞から始まる奴らは根っから男を見下している奴らが多いから俺は振り向きもしないし聞こえていないふりをする。
「聞いているの? 頭おかしいの?」
流石にカチンときた。
「あ? あんたこそ頭おかしいんじゃねえの? 俺が誰だか知らねえの?」
そう言うとじっくり俺の顔を見てようやく気付いたらしく、ハッとしたような顔を浮かべる。
こんな自分の地位を見せびらかすようなのはなるべくしたくないけど分からせるくらいならだれにも迷惑かけないよな。
「それでも男には変わりないでしょ。そこの水着、片付けておいて」
「……ざっけんな。なんでお前の奴隷みたいな扱いなんだ」
睨みつけながら低い声でそういうと一瞬たじろぐが俺と同じように睨み付けてくる。
「今頭下げて謝るなら許してあげるわよ。警備員呼ばれたくないでしょ?」
女性優遇のこの時代、社会に女性が進出する速度が一昔前と比べて何十倍にも早くなったがそれと同時に男性の冤罪も増えてきているらしい。
特に車内での痴漢。ただでさえ一昔前でも多かったのがこの時代に入ってさらに急増、さらには弁護士も女性が多くなってきたのでろくに弁護してくれず、そのまま有罪判決が下る。なんてこともある。
事実、そのことについてある男性国会議員が問題を提起したんだが周囲の圧倒的多数の女性によって何故か犯罪者扱いにされ、そのまま議員を辞めてしまった。
「悪いことしてないのに警備員呼ばれる筋合いはねえよ」
「何よ。それでもあんた千冬さまの弟なわけ?」
っっ! こいつ……落ち着け。ここで腕を上げたらだめだ。
俺が何も反撃してこないことに味を占めたのかあまりにも醜い女性店員はそのまま捲し立てるように俺に罵倒染みた言葉を叩きつけてくる。
「千冬さまの弟だったらそこら辺ちゃんと弁えなさいよね。それとも何? 調子乗ってるわけ? IS使えるからって良い気になんないでよ。千冬さまもこんな弟をもってさぞ最悪でしょうね」
満足したのか女性店員はそのまま俺に背を向けて去っていく―――ただ俺は満足していない。それどころか今の今から満足するつもりだ。
腕を振り上げ、殴り飛ばそうとしたその時、腕をガッと後ろから掴まれた。
「一夏」
「シャル…………悪い」
シャルの顔を見て自分が今まで何をやろうとしていたのか客観的に見ることができ、冷静になって振り上げかけていた腕を降ろした。
「間に合ってよかったよ。一夏が犯罪者になっちゃったら僕、嫌だもん」
「へ?」
「……え、あ、い、今のはね! そ、その……と、友達! そう! 友達として嫌だってことだよ。べ、別にお、男の子として嫌ってわけじゃ」
「どうしたんだよいきなり。で、水着決まったのか?」
「うん! あ、よかったら見る?」
「い、いや当日でいいや」
今ここで見せられたら多分……いや、確実に俺の男としての尊厳が下がること間違いなしだ。最近、溜まってるしな……はぁ。女子高に男子一人ぶち込まれるのもなかなか苦労があるもんだ。
そのまま会計を済ませ、ブラブラとショッピングモールの中をシャルと2人で歩く。
久しぶりに来たけどあんまり変わってないなここ。中学の時は鈴と弾でよくここに遊びに来たし。
「お兄! ちゃんと持つ!」
そんな時、聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ってみると大量の荷物を持った弾とその妹である蘭の姿があったがその格好は兄弟ではなくしりに敷かれている哀れな兄にしか見えない。
弾も大変なんだな。
「お、おい蘭。流石に……買い過ぎだって」
蘭の後ろに俺がいることを見つけた弾は途端に気持ち悪い笑みを浮かべて話を続ける。
「はぁ? どこが買いすぎなわけ? 勝負水着・超勝負水着・ウルトラ勝負水着。女の子は大変なの! お兄は何のためにその筋肉鍛えてるわけ?」
「いや、そりゃ勿論男だから」
「ちっがーう! お兄は妹の荷物を持つために鍛えてるんでしょ!」
「ひでぇ……そりゃひでえよ蘭……ところで誰に見せるんだ?」
「そりゃもちろん一夏さんよ」
「呼んだ?」
「…………いいいいいいいいいいい一夏さん!?」
弾。お前はこれを狙っていたのか?
「おっす、一夏……隣の子は?」
「俺の同級生」
「シャルロット・デュノアです・よろしく」
……気のせいか? シャルのスカートとかノースリーブのきわどさがなくなっているような……まあ気のせいか。
「お前も大変だな」
「まあな。じゃあな、行くぞ蘭」
「一夏さんまたー!」
そう言って弾兄妹は去っていった。
仲が良さそうでいい兄妹じゃないか……そう言えば七月と言えばあいつの誕生日だな……今年も誕生日プレゼント用意しとかなきゃな。
「シャル、ちょっと行きたい場所あるんだけどいいか?」
「うん。いいよ」