インフィニット・ストラトス Strong・Summer   作:kue

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第22話 何故、少女は前に出たのか

 翌日の朝、生徒全員は四方を切り立った崖に囲まれているIS試験用の秘密ビーチに来ている。

 それにしてもIS学園の権力が及ぶ広さって凄いんだな。こんな遠く離れた場所でも届くとは……だから花月壮に俺たち以外の宿泊者がいないんだな。まあIS学園なんてものは秘密の塊みたいなものだからな。

 ちなみに今日一日は専用機持ちは各種専用装備の試験運用、それ以外の生徒たちは訓練機を持ちいて各種移動時に使う技術を学ぶらしい。

 ちなみに俺の白式には後付装備はつけられないので訓練機を使う皆の監督をすることになっている。

 なんでも零落白夜にパルスロットの大部分を食われているらしい。まあこれ以上、武器を積んだとしても俺剣一本しか使わないからある意味良かったんだけどな。

 

「ではこれより始める。専用機持ちは向こうへ。それ以外の生徒は訓練機の搬入が終わり次第、教員の指示に従って始めろ。織斑は教員のサポートを行え」

「はい」

「では各自始め!」

 

 千冬姉のそんな声と同時に各自がチャチャっと動き出す。

 さっき小耳にはさんだんだけど四組にも日本の代表候補生さんがいるらしいんだけど今日は残念ながら欠席されているらしい。

 

「織斑君」

「山田先生。俺は何をしたら」

「そうですね……白式を展開してて待っていてください」

「はぁ」

 

 そう言うと山田先生はその大きなお胸をゆっさゆっさ揺らしながら搬入作業をしている皆のところへ向かっていく。

 それにしてもまさか俺が先生の補佐をするとは……ここで失敗したらあれだな。よし、気合入れてこれまでの訓練の成果を発揮するんだ。

 白式を展開して待つこと2分ほどで先生が向こうの方から大勢の女子たちを連れてやってくるのが見えた。

 

「お待たせしました織斑君」

「いえ、別に」

「そうですか……では皆さん~。これから始めたいと思います。これから皆さんには訓練機を装備した状態での高速飛行をやってもらいます。もしも順調にいけば皆さんにも瞬時加速をやってもらいます。では出席番号順で行きましょう」

 

 やっぱ教員って凄いな。いつも柔らかそうな雰囲気を醸し出している山田先生が今はバリバリ仕事が出来るキャリアウーマンに見えて仕方がない。

 そんなことを思いながら訓練機である打鉄を纏った出席番号一番・ハンドボール部に所属している相川さんが俺の近くまでやってくる。

 

「よ、よろしくね。織斑君」

「おう。じゃとりあえず浮遊から行くか」

 

 俺は専用機を持っているので毎日、浮遊しているのですぐに上がれるのだが毎日使う事が出来ないということもあってか相川さんは少し左右に揺れながらなんとか俺と同じ高さまで上がってくる。

 思い出すな~。俺も最初の方はあんな感じで左右に揺れてたわ……まあそこはセシリアの超正確な射撃の岡江gで無理やり君に強制されたんだけどな。でもマジでセシリアの射撃技術は凄いと思う。流石はBT兵器を使う代表候補生だな。今度射撃について倣おうか……とはいっても射撃武装なんかないんだけどさ。

 他のクラスの連中も空中をビュンビュン飛び回っているのでぶつからないように気を付けながら飛行を始める。

 まあハイパーセンサーがあるから警告ウインドウで分かるんだけどさ。

 

「こ、怖~い」

「まあ高さがあるからな。そのうち慣れるさ。よし、もう少し速度出してみるか」

「う、うん。いっけー!」

 

 その瞬間、打鉄の背部・脚部ラスターが全開に吹き、物凄い加速が行われ、相川さんは高速で飛行を始めるがいきなりの高速突入の所為でバランスが危うい。

「相川さん! ちょっと速度落として!」

「わ、分かってるんだけど~!」

 あ。ありゃテンパってるな。

「って前! 前!」

「え? きゃぁ!」

 

 前方からやってきた他のクラスの人と正面衝突しかけた瞬間、瞬時加速を発動して相川さんの機体を上に押し上げ、他のクラスの人の頭上を通り過ぎるようにした。

 危なかった。いくらシールドバリアとか絶対防御があってもあの速度で突っ込んだら衝撃は来るからな。

 

『大丈夫ですか!?』

「はい。なんとか」

『良かった~。じゃあ次に行きましょう』

「了解。相川さん。交代だ」

「ほ、ほぇ~」

 

 疲れ切った様子の相川さんの手を引き、ビーチまで戻って次の人と交代する。

 順調に事故なく順番を消化していき、一組の全員が高速飛行を終えたところで一旦、10分の休憩が挟まれることになった。

 それにしても……何で箒の奴いなかったんだ? もしかして体調不良なのか……最近、あいつの様子少しおかしかったもんな。あとで顔見に行こう。

 

「一夏~」

「おう……って疲れてそうだな、鈴」

「あったりまえよ! こっちはテスト運用でバカみたいに量がある武器を使ってんのよ!? しかも千冬さんが模擬戦をしながらやれっていうからもうくたくたよ!」

 

 大きな声で文句を言いながら鈴は水筒のお茶をゴクゴクと一気に飲んでいく。

 代表候補生も大変なんだな……そういや代表候補生の話、結局有耶無耶になったのか来なくなったな。まあ今の時点で代表候補生とかは考えていないからいいか。

 

「ん?」

「どうしたの?」

「……あ、いや……頑張れよ、鈴!」

 

 そう言い、鈴と分かれた俺は一瞬だけ見えたある人物の元へと走り出した。

 間違いない。あのウサギ耳は間違いなくあの人だ……でもなんで。

「束さん!」

 ビーチから少し離れた断崖絶壁でようやく追いつき、その人に向かって叫ぶと立ち止まり、いつものあの笑顔を浮かべながら俺の方を見てくる。

 

「やぁ、いっくん。久しぶりだねぇ~!」

「なんで束さんがここに……」

「ちょ~っと用事があってね。いっくん、それはそうと白式の調子はどう? 束さんお手製の最新世界に一つしかない白式専用のスラスターはどうかな?」

 

 ……そうか。やっとわかった。なんで整備課の人達が皆一様に微妙な表情を浮かべていたのか。整備課の人達は何もしていなかったんだ。この人が俺の白式を何らかの方法で学園に侵入して修復した。だから整備課の人達がみんなあんな表情だったんだ。

 

「あんなポンコツなスラスターじゃ今のいっくんの速度には耐えきれない。だからお姉さんが作ったんだよ」

「ありがとうございます……それは置いておいて何をするつもりなんですか?」

「ん? なんのこと?」

「昔からそうですよ……そうやってニコニコ笑ってるとき貴方は……何かをやらかす」

「そうかな? でもしいて言うなら……可愛い妹のために一汗かいたって感じかな?」

 ……束さんがここにやってきたのと最近の箒の様子は関係しているっていうのか?

「でもね、いっくん……お姉さんはいっくんのこと楽しみにしているんだよ?」

「何がですか」

「いっくんはいつだって束さんの予想を超えてくれるから」

 

 そう言いながら浮かべる笑みは紛れもない純粋な笑顔。なのに俺はその裏に何かが隠れて好そうな感じがして純粋な笑顔とはとらえることができないでいる。

 千冬姉も束さんも同じだ。何を考えているのか、その胸の奥には何があるのか全く分からない。千冬姉は来るなっていうのを少しだけ発しているからいいんだけど束さんの場合はそんなサインも何もない。

 だから余計に怖いんだ。それ以上先に行けば何があるのか。

 

「オリム~! オリム~!」

 その時、慌てた様子の布仏さんの声が聞こえてくる。

「呼んでるよ。早く行った方が良いんじゃないかな?」

「……」

 俺はその言葉に従い、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつだって紅は白を凌駕する。紅は白を混ぜても色は少し残る。でも白は……何を混ぜてもその色に支配されちゃうとっても弱い色……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 布仏さんに連れられてやってきたのは旅館の宴会大広間。そこには既にほかの専用機持ちと何故か箒の姿もあり、教師陣と空間投影のディスプレイがやけに大きく表示されており、そこには一機のISが表示されている。

「来たか。座れ」

 箒の隣に座ると千冬姉が俺達を見渡せる場所に立つ。

「では詳細を伝える。二時間前、アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型IS・シルバリオ・ゴスペルが制御下を離れて暴走。監視空域を離脱し、超音速飛行でこちらの空域を通過すると報告があった」

 

 話しをかみ砕けば外国が所持していたISが謎の暴走を起こして国の領域から離脱して俺達がいるこの場所を通り過ぎるってことだよな……緊急事態か。だからみんなを呼んだのか……でもなんで箒がいるのかまだ分からない……ってあれ?

 ふと箒の手首に今までつけていなかった赤い装飾品が見えた。

 

「なお、この機体は軍用ISだ。現時点の我々の戦力を鑑みるにアプローチは一回きり、なおかつ一撃クラスの威力を持つもので叩き落す必要がある」

 

 千冬姉がそう言うとともに全員の視線が俺に集中する。

 バカだと自覚している俺でもさっき千冬姉が言ったことは理解できる。つまり俺のワンオフ・アビリティーである零落白夜で一撃でエネルギーを刈り取る必要があるってことだろ。

 

「こちらの空域を通過する時刻は」

「約五十分後だ」

「でも一夏をどうやって運ぶかよね。相手は超音速飛行をしているってことは少なくとも最高速度を出せる機体にパッケージをぶち込んで底上げするしか」

「最高速度はもちろん一夏だけどそれだとエネルギーを消費しすぎる。一夏、全速力の瞬時加速を出して何分くらい持つの?」

「大体、5分から10分の間くらいだな。それに零落白夜も加えるんならもっと短い」

「それなら私が行きますわ。ちょうど本国から強襲用高機動パッケージが送られていますし、一夏さんの時点に私のブルー・ティアーズが早いですわ」

 

 みんな真剣な顔つきで作戦の中身を決めていく。

 そんな時、箒がスッと手を上げる。

「織斑先生」

「なんだ」

「私に行かせてください」

 

 その瞬間、宴会場の空気が確実に固まった音が聞こえた。

 それと同時にふすまが勢いよくバターン! と開けられたかと思えばウサミミを被った束さんがニコニコといつもの笑みを浮かべて入ってきた。

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