インフィニット・ストラトス Strong・Summer   作:kue

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第23話 何故、それは戦うのか

「ハロハロ~! 天才・束さんだよー!」

 今度は宴会場の空気が一気に熱くなるのを感じる。そりゃそうだ。ISの生みの親で現在絶賛し酩酊手配中でありながら一度も捕まったことがない超天才が目の前にいるんだから。

 

「何の用だ束」

「ねえち~ちゃ~ん。さっきの話聞いたんだけどそこのゴミクズよりも箒ちゃんの専用機・紅椿ならちゃちゃっとそんな作戦終わるよ~」

 

 ……ほ、箒も専用機持ちになってたのか!? もしかしてさっき会ったときに言っていた妹のためにひと仕事したっていうのはここにISを持ってきたから? だから束さんはここにいたのか……箒の手首に見えていた赤井装飾品は紅椿とやらの待機形態か。

 そんなことを考えていれば突然、俺達の周囲を囲うように数枚のディスプレイが空間に投影され、そこには紅椿のスペックデータが表示されているのが分かった。

 

「そんなパッケージなんて面倒くさいことしなくても展開装甲を備えた第四世代型ISの紅椿ならわずか七分の調整で超高速戦闘が可能になるのです! あ、ちなみに展開装甲っていうのは天才束さんが開発した絶賛机上の空論の技術だよ☆。分からなかったら論文見てね。まあ質の低い論文だけど」

 

 ……ってちょっと待て! 確か今世界の主流派第三世代型ISの完成を目指しているんだろ!? なのになんでそれを一つぶっとばして第四世代型ISなんか……ってよくよく考えたらこの人が生み出したんじゃん。

 皆俺と同じことを思っているのかは知らないが一言もしゃべることが出来ていない。

 

「そうか。オルコット、超音速下での起動訓練時間は」

「二十時間です」

「そうか……」

「ねえねえち~ちゃん良いでしょ? ちゃちゃっと終わらせようよ~」

 

 千冬姉は近づいてくる束さんを片手で頭を鷲掴みにしてその場に固定しながら何やら考えている。

 にしても箒も専用機持ちか……だとしたら所属はどこになるんだ? いまだに俺の所属だって未定扱いなのにまだ世界にすら出ていない技術が使われているISを使う箒の所属を決めようとしたら下手したら世界で戦争が起こりかねないぞ。

 

「オルコット。すぐさま準備をしろ」

「はい!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 千冬姉の指示に異論を唱えたのは束さんではなく箒だ。その表情は納得いかない様子だ。

「なんだ」

「私に行かせてください! 必ず成功させてみせます!」

「そうだよ~ち~ちゃ~ん。箒ちゃんといっくんのペアなら確実に成功するよ~」

「…………これは実戦だ。人の命がかかる可能性もある。作戦は必ず成功させなければならず、そこに不確定要素を入れてはならない。今の不確定要素は……お前だ。篠ノ乃」

「っっ!」

「突然、最強の力を手に入れたからといってあまり図に乗るな。今のお前は調子に乗っているようにしか見えない。本作戦は織斑とオルコットの両名で行う! これ以上の変更はない! 各人準備を急げ!」

 

 千冬姉が大きな声を出すと同時に教師陣はバックアップの為の設営に着手し、鈴たち代表候補生たちはシルバリオ・ゴスペルのスペックデータを見ながらセシリアと一緒に話を詰めている。

 箒の方をチラッと見てみるとショックの隠せない様子だった。

 …………そうだよな。一瞬、言い過ぎかとも思ったけど千冬姉の言っていることは正しい。これは訓練なんかじゃない。実戦なんだ……下手すれば人の命がかかることだってあるんだ。

 自分に言い聞かせるように心の中で復唱し、拳を握りしめる。

 やってやる……必ず。

 

「一夏。あんたも白式チェックしておきなさいよ」

「あぁ。分かってる」

「それと……絶対に無理はしないでよね」

「お、おう」

「もしも作戦が失敗したとしても僕たちがバックについてるから」

「嫁。気合を入れるのはいいが力みすぎるな。実戦ではそんな事でも命取りになる」

「あぁ……分かった」

 

 皆からのアドバイスのような激励を受け、俺は最後の白式の調整を行う。

 ふと箒と目が合うが気まずいのか箒はふいっと視線を逸らし、そのまま宴会場から出て行ってしまった。

 …………箒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……うっ……どうしてなんだ」

 宴会場を出た箒は悔しさのあまり、涙を流していた。

 ようやく力も手に入り、ともに一夏を戦えると思った矢先、まるで自分の全てを全否定されたかのような感覚に陥っている。

 あれだけ自分の姉が紅椿の性能の高さを力説していた様子を見て箒は自分が一夏と共に出撃するという確信にも似たものを抱いていた。それなのに呼ばれた名前は自身ではなくセシリアの名前。

 自分には力が、実力がないと否定されているようなものだった。

 

「箒ちゃん」

「……姉……さん」

 後ろから呼ばれ、振り返ってみるといつもの微笑を浮かべた姉が立っていた。

「悔しいよね? 悲しいよね? 大丈夫。そんな箒ちゃんのために束お姉さんがスペシャルなステージを用意しておいたから。そこの主役は箒ちゃんだよ」

「姉さん……何を言って」

 いつもの微笑なのに何故か箒は恐怖にも似た感情を抱いた。

 まるで何か嫌なことが起きるのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は11時ちょうど。そらはこんな緊急事態だというのにも拘らず変わらない綺麗な青空をしているし、波もやけに落ち着いている。でもその落ち着きが逆に怖かった。

 全ての準備を終えた俺達はビーチに集合し、作戦開始時刻が来るのを待っている。

 今回は俺はセシリアの背中に乗り、シルバリオ・ゴスペルがいるところまで運んでもらい、そこで一気に勝負を決める。

 

「一夏さん。高速戦闘にはなれているでしょうが気を付けてください」

「あぁ、分かってる」

 作戦開始一分前になるともう俺の腕が震えてくる。

 や、やべえ。変な汗かいてくるし腕の震えが止まらない。

 

「一夏さん」

 そんなセシリアの優しい声が聞こえるとともに俺の手にセシリアの手が重ねられる。

「セシリア……」

「今までの鍛錬を思い出してください」

 

 そう言われ、目を閉じて今までやってきた放課後の鍛錬や自主トレの様子を思い出す。

 そういや最初の頃はセシリアの鍛錬がきつかったっけ。無重力反転を習ったときもいきなり背中に直撃を食らったもんな。でもあれがあったおかげでラウラとの戦いにも勝てたんだ。それに鈴とも一杯やったな。あいつも説明が下手だけどあいつ自身、かなり質が高い技術をいっぱい持ってる。

 シャルロットとの射撃訓練も驚いたな。構えを知っているのと知らないのとじゃあんなにも差があるなんて。ラウラとの鍛錬は模擬戦しかしていないけどそれでもあいつの操縦技術の高さは分かる。

 

「手が」

 さっきまでガタガタ震えていた手はもう震えていない。

「落ち着きましたか?」

「あぁ……ありがとうな、セシリア」

『作戦開始!』

「行きますわよ!」

「あぁ!」

 

 千冬姉のその声と同時にセシリアが上空へと飛び上がり、一瞬にして地上が見えなくなり、シルバリオ・ゴスペルがいる場所へと超音速で向かっていく。

 超音速状態って言っても瞬時加速状態の何ら変わりない景色だな……あれか。

 敵機の姿を捉えたことを知らせるウインドウが表示され、その姿がハッキリと見える。

 シルバリオ・ゴスペルの名前の通り、機体カラーは銀色だ。それに頭部から一対の巨大で銀色に輝いている翼が見える。

 雪片弐型を強く握りしめる。

 その瞬間、白式から二重瞬時加速の準備が整ったことを知らせるメッセージが表示される。

 行くぜ!

 セシリアの背中から飛び、一瞬だけ瞬時加速を発動させ、その直後に再び瞬時加速を発動させて重ね合わせた瞬間、超音速状態で飛行しているはずの敵機がスローモーションで動いているように見える。

 

「えあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 零落白夜を発動させ、光り輝いている雪片弐型を振り下ろした瞬間、目の前でゆっくりと火花が散るとともに奴がこちらを見た。

 

「っっ! んの野郎!」

 零落白夜で切り裂いたが相手のエネルギーが切れていないことに気付き、もう一度振り下ろそうとするが相手も瞬時加速を発動させたのか一気に距離を開けられた。

 

「あいつ、あの超音速状態で体を傾けさせて俺の一撃を食らう断面を減らしやがった」

「ですが相手のエネルギー残量は残り3割! 行きますわよ一夏さん!」

「あぁ!」

 

 銀色に輝いているウイングスラスターが大きく左右に広げられたかと思えば羽根の形をしたエネルギー弾が俺たちめがけて次々と放たれていく。

「食らいなさい!」

 

 セシリアは針の穴を通すように正確な射撃でエネルギー弾の隙間から福音めがけてレーザーを当てていく。

 ほんとセシリアの射撃はすげえな……俺も負けてられねえ!

 福音がセシリアの射撃から回避行動を見せようとした瞬間、スラスターを全開に吹かし、福音に斬りかかる。

 

「うらぁ!」

 俺の斬撃を後ろへ下がって避けようとした福音めがけて青い一筋の光が突き刺さる。

 この隙は逃がさねえ!

 瞬時加速を発動させ、雪片弐型での高速の突きを奴にぶつけ、瞬時加速を解除してスラスターによる推進力を利用してそのまま押し込んでいく。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁ!」

 目の前に火花が散る。

「La♪」

 

 そんな甲高いマシンボイスが聞こえたかと思えばウイングスラスターは36あるその全ての砲門を開き、俺に全てを向けてエネルギーを凝縮させていく。

 だが突然。福音は俺ではなく後ろの方へと砲門を向け、エネルギー弾を放とうとした瞬間、俺を避けるように青いレーザーが上空から降り注ぎ、ウイングスラスターの砲門に直撃し、爆発を上げる。

 どんな正確な射撃なんだよ!

 

「一夏さん!」

「終わらせてやるよ!」

 雪片弐型を握りしめ、瞬時加速を行いつつ福音の頭上を飛び越え、背中を大きく切裂いた直後に脇を通過すると同時に弐型で切り裂く。

「おおぉぉぉぉぉぉ!」

 相手の周囲を瞬時加速で旋回を続けながらそれと同時に雪片弐型で相手を次々に切り裂いていく。

「はぁぁ! いまだセシリア!」

「止めですわ!」

 福音の脇腹を深く切裂き、その場から離脱した瞬間、セシリアから二発のミサイル、4基からのビットによる一斉射撃が福音に直撃し、大爆発を上げた。

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