インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
セミが鳴き、ジリジリと暑い日差しが照り付ける中、俺は久しぶりに帰って来た自宅で一人寂しく筋トレをやっていた。
千冬姉は学園の仕事で忙しいみたいだから掃除とかやってたけどそれもほとんど終わり、暇になったので部屋からバイトの小遣いをためて買った筋トレ器具たちをひっぱり出してきて筋トレ中だ。
マジでIS学園のトレーニングルームの機材見た後に俺が買った機材を見たらなんか小さく見えるわ。まぁ、相手は国の予算つけてもらってるからな。
ある程度は金持ち仕様なのは仕方がない。
「ふぅ……ちょっと休憩」
休憩がてらテレビでも見ようと電源をつけるとちょうど夏の子供劇場で懐かしいヒーローものの激情版らしいものが放送されている。
「うわぁ、懐かしいな。俺もよく見てたわ。うぉ!? 今車乗るのかよ……時代って凄いな。お?」
その時、ヒーローが高速で移動しつつ地面を滑るようにして相手の周囲を旋回しながら剣で切り裂いている映像が流れ、俺の頭の中で何かが来た。
俺も白式の速度が上がったことで高速戦闘が主になってくるわけだけどどうしても反応しきれずに攻撃にあたってしまうことだってある。
この前の模擬戦でも瞬時加速中に撃たれてきたセシリアのBTレーザーも最高速度に入っている状態だったから避けきれずにあたったもんな……俺もここまで低姿勢で行けばもしかしたら……でもISはほとんど空中戦だしな……低姿勢で移動し、攻撃を避けつつ零落白夜で切り裂く……相手が近距離戦闘で来ればこれは使えるな。
「意外と特撮作品も侮れないな。おぉ、シ、シンゴウアックス? あ、でも必殺技格好いいな。おぉ!? トリプルヒーローキック! 懐かしいな! 中学の頃、弾と数馬と悪乗りでトリプルヒーローキックやって全員足捻挫した記憶が懐かしい」
ふと周囲に誰もいないことを確認し、白式を準備する。
「変身!」
そう言いながら適当にポーズをとり、白式を展開するとちょこっとだけヒーローになった気がして高揚感にも似た感情が奥底からふつふつと出てくる。
おぉ、憧れたな~。今は疑似ヒーローになれるけど……ん?
その時、センサーが何かを感知したのかしきりにデータ解析をしていたので何となく後ろを振り返ってみた。
「…………」
「…………」
はい、千冬姉がいました。
「……見てた?」
「……変身! からな」
千冬姉はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら俺を見てくる。
あぁ、最悪だ……最悪だー!
「何でもするから言わないでください」
恥も外聞もすべて捨てて俺は実の姉である千冬姉に土下座をする。
こんな格好をみんなにばらされたら俺は多分、一生恥ずかしい十字架を持ちながら生きていかねばならなくなってしまう。
そんな未来を土下座一つで回避できるなら俺は喜んでやってやる!
「特撮は好きか? ん?」
「ほ、ほんの出来心で」
「冗談だ」
「はぁ……何か食べる?」
「いいや、またすぐに仕事だ」
そう言い、千冬姉はスーツを脱ぎ、下は下着、上はタンクトップ一枚の姿になり、冷蔵庫からお茶が入っているボトルを取り出し、そのまま口飲みで飲み干していく。
千冬姉って学園ではきりっとしているけど家ではまるっきりグータラだからな。
「そう言えばお前」
「ん?」
「夏休みのお世話になるそうだな。さっき私のところに連絡が来た。くれぐれも粗相のないようにな」
「お、おう」
お世話? いったい何の話をしてるんだ?
と、そんなことを考えながら千冬姉が脱ぎ捨てたスーツを洗濯機に放り込み、スイッチをONにして洗濯機を回し始めると家の電話が鳴ったので電話の画面を見てみると表示されている電話番号に見覚えが無かった。
「誰だ……はい、もしもし」
『ハロ~。オリム~』
「……のほほんさんか」
『そうだよ~。IS動かせる場所用意できたよ~』
「……マジ?」
『マジ~。今から来る?』
「行く! ていうか本音さんマジ凄いっす!」
『えっへん』
「じゃ、どこに行けばいい?」
『んとね~』
一時間後、俺はのほほんさんに電話で指定された場所に辿り着いていたんだがその場所を見て驚きを隠せず、思わず開いた口が塞がらないでいた。
いや、確かに俺はISが動かせる場所を知りたいとは言ったぜ? のほほんさんが用意してくれるっていうのもありがたかったしさ……でも、ここって。
「自衛隊IS部隊基地じゃん」
自衛隊・IS部隊。日本初のIS部隊であり、日本の代表候補生や日本の代表の所属はここになり、自衛隊の訓練などで将来の代表へと目指すらしい。
ちなみに企業なんかのテストパイロットをしている人たちもここには出入り自由で部隊の訓練を受けることも可能らしいんだけど何でそんな場所をのほほんさんが提供してくれるんだ?
「オリム~」
「お、おっす……なんでここなんだ?」
「私、日本の代表候補生の子と幼馴染でね~。その子を通してオリム~にも使えるようにして貰ったんだ~。世界初の男性操縦者ならいつでもどうぞだって~」
あぁ、確か四組の代表だったよな。あ、それと個人トーナメント戦で優勝した子だったはずだ。専用機のこととかは知らないけどIS学園でもかなり頭が良いっていう噂は聞いたことがある。
千冬姉が言っていたお世話になるっていうのはこのことか。
のほほんさんの後に続いて中に入ると確かにIS学園程じゃないけどIS専用のアリーナらしきものも二つほど見えるし、トレーニングルームもかなり広い。
それに射撃場があるのかさっきから銃声が何度も断続的に響いてくる。
すげぇ。ここが日本のIS部隊なのか。
「じゃじゃ~ん! ここがオリム~が使えるアリーナだよ~」
「おぉ」
IS学園とは違って観客席は無いけどその分、学園よりも広いフィールドがあり、今でもそこで打鉄が何基か模擬戦らしきものをやっている。
ここで日々、IS部隊の人やテストパイロットの人が訓練しているのか……今は訓練している様子は見えないけど俺もその訓練に参加できるのか?
「言ってくれればオリム~も訓練に参加できるよ~」
「心読むなよ」
「ごめ~ん。あ、簪ちゃ~ん」
「ほ、本音」
振り返ると青色の髪の少女がデバイスをもって立っていた。
となるとこの子があの四組の代表さんなのか?
「この子が四組の代表さんの~更識簪ちゃんだよ~」
「あ、俺は一組の代表の織」
「い」
「い?」
「いやぁぁぁぁぁ!」
「ごっはぁ!」
突然叫んだかと思えば更識さんからの痛烈なアッパーが見事に俺の顎を捕え、どこにそんな力があるんだと思いたくなるくらいに頭がグワングワン揺れ、軽く足が地面から離れ、背中から落ちた。
な、何故に……アッパー?
更識さんはそのまま二メートル以上俺から離れて壁にもたれ掛り、デバイスを操作して俺に画面を見せてくるがよく見えなかったので近づいてみようとするがその女の子がササッと距離を開けてしまう。
「え、えっとあの子は」
「ん~男の子が嫌いなんだって~」
「昔何か」
「ん~分かんないけど男の子が嫌いなんだって~」
そ、そんな理由で俺はアッパーをされたのか。悲しすぎて涙が出てくるわ……でもデバイスを壊されたくらいでここまで拒絶反応を見せるか? まぁ、他人の過去にあまり土足で踏み込むのもあれだからこれ以上は詮索しないけどさ。
「オリム~ならいけると思ったのにな~」
その自信はどこから来たのか小一時間ほど問い詰めたい。
「まぁ、いいや。とりあえずありがとうって言っといてくれるか?」
「オッケ~」
ダボダボの服を揺らしながらのほほんさんが更識さんに近づき、一言二言喋るとまた服を揺らしながらこっちに戻ってきた。
「別に私は貴方のためにやったわけじゃない。本音が言ったからやっただけ。だって~」
「あ、そ、そう……よし。早速やりますか」
白式を展開し、打鉄に混じって俺も訓練へと身を投じることにした。