インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
九月三日。二学期最初の実戦訓練は一組と二組の合同で行われることとなり、現在は両クラスのクラス代表による模擬戦が行われている。
要するに俺と鈴の一騎打ちだ。
「喰らいなさい!」
甲龍の両肩の装甲が開き、そこから衝撃砲が放たれてくる瞬間、瞬時加速を発動させて鈴の直線距離から離脱し、背後へとまわってすれ違いざまに雪片弐型での一撃を食らわせる。
表情をしかめる暇も与えず、俺は瞬時加速を発動させたままの状態で鈴の背中を蹴り飛ばすと同時に彼女の頭上を通り、前へと移動し、腹部へと蹴りを加え、いったん距離を開ける。
「あぁもう! 鬱陶しいわねその速度! ていうかあんた一発も喰らってないじゃない!」
「一発でも喰らったら終わりだからな! 夏休みの間にIS部隊でみっちりと回避の術を教わったんだよ!」
鈴の双天牙月と俺の雪片弐型がぶつかり合い、金属音と火花が目の前で散るが動きを止めることなく忙しく移動をしながら鈴に少しずつ一撃を加えていく。
IS部隊の人から教わったのはとにかく相手に攻撃をさせないほどの連続・多連攻撃を加え続けていくことと速度を絶対に下げないこと。
俺の武器はその速度と零落白夜の最強の一撃。決定的な隙が出来るまでひたすら動き続け、小さな隙を見つければそこへ飛び込んで一撃を加え続ける。
が、相手は代表候補生。最初は俺の速度に翻弄されていたけど今じゃ少し遅れる程度にまで反応出来ている。
やっぱり代表候補生は凄いな。実戦ですぐに慣れる。
「でやぁ!」
鈴が双天牙月を二つに分解し、俺に向かって放り投げたかと思えば衝撃砲を連射してくる。
すぐさま瞬時加速を発動させ、鈴の攻撃範囲から離脱する。
「貰った!」
そんな声が聞こえたかと思えばいつの間にか放り投げた双天牙月を回収した鈴が瞬時加速を発動させ、俺に突撃してくる。
「それを待ってた!」
「え?」
彼女が瞬時加速を発動させた瞬間、こっちは2重瞬時加速を発動させ、鈴の隣を通り過ぎると同時に零落白夜で切り裂いた瞬間、アリーナに試合終了のアラームが鳴り響いた。
――――――――☆―――――――――
「一勝一敗……奢りは無しだな」
「ぐぬぬぬ……今日のチャーハン、お代わりしたかったのにな」
どうやら鈴は今日のチャーハンの二杯目を俺に奢らせようとしていたらしい。
実戦訓練は前半戦、後半戦と行われたんだけど前半戦は鈴が勝ったが後半戦は見事俺が勝ち、どうにかしてお財布からの出費は防いだ。
前半戦では鈴の衝撃砲に掠ったがゆえにエネルギーは尽きてしまい、負けてしまった。
ていうか掠っただけでエネルギーが二割減るってどんな薄い装甲してんだって話だ。直撃なんかしたら確実に一撃死かそれに近い状態になるぞ。
「俺的には遠距離武器が欲しかったぜ」
「あたしがあんたに勝ってる点は遠距離武器があることと稼働時間くらいだし」
「本当に一夏さんの白式は近接格闘特化型ですわね」
「むしろ遠距離武装が無い方が珍しい」
第四世代型IS・紅椿にさえ、遠距離武装は一応積まれているっていうのに白式は遠距離武装は一切積まれていない。
まあ、そんなことだから白式は速度を大幅に上げて一気に距離を詰めるっていう戦い方に特化した機体に進化したんだろうけどさ。
瞬時加速発動時間はほとんどノータイムで入れるようになったし、瞬時加速発動時のエネルギー効率も以前と比べて三分の二にまで減少、最高速度は白銀の流星時のほぼ光速みたいなもんだし。
「そう言えば一夏」
「ん?」
「白銀の流星は使わなかったけど何でなの?」
いつものようにミニスカートのシャルロットの胸を腕に当てられて尋ねられる。
ひひーん! 俺の息子がー!
「シャルロット。とりあえず離れなさい」
「ごめんね? で、なんでなの?」
鈴に言われ、シャルロットは可愛く舌をペロッと出しながら少し離れる。
「あれを発動するには一定の距離が必要なんだ。いきなりあの状態には入れなくて瞬時加速をつづけた状態で一気に速度を上げてあの状態に入るから実戦ではあまり使えないんだよな」
「使うときは本物の実践というわけか」
ラウラの一言に全員が押し黙る。
そうだ。ラウラの言う通り、狭いアリーナの中で戦闘を行う普段の戦いでは白銀の流星を使う意味はなく、むしろ距離的に考えれば使うのは不可能。
それを使うタイミングというのはラウラの言う本物の実践時のみ。
本物の実践時では距離もクソもなく、いつでも瞬時加速に入ることが出来るし、前に行こうが後ろに行こうが壁などにぶつかることも無い。
そう……命のやり取りを行う本物の実践のための最強の技なんだ。あれは。
「そ、そういえばもうすぐ文化祭だな!」
「う、うむ! 文化祭は楽しくしなければな」
空気を換えるべき俺が出した話題に箒が乗り、重苦しい雰囲気は消えていく。
「一夏。文化祭でバカみたいなことしないでよ。中学の時みたいに三階の窓からピーチ王万歳! とか叫んで傘さして飛んだり」
「や、やらねえよ! ていうかなんでお前それ知ってんだ!」
「はぁ? あんた、知らないの? 全学年で噂になってたわよ」
オーマイガー! まさか疲労骨折と過労で倒れて千冬姉に迷惑をかけてしまった弱い俺ということで精神的に参っていた時期にやったバカな行動が全員に広まっていたなんて!
「嫁は……バカなのか?」
真顔でそう言われるとシャルロットにマシンガンでハチの巣にされるくらい心が痛む。
―――――――☆――――――
「え、予約できないんですか?」
「はい。残念ながら」
放課後、放送で山田先生に呼び出されたので職員室へ向かうと先生から言われたのは夏休みに入る前に出した二年生と三年生の先輩たちとの模擬戦はどうやら準備できないということだった。
なんでも生徒会長は普段からいろいろあるのでという理由で断られ、二人の先輩は二人一組で真価を発揮するからとか言う理由で断られたらしい。
山田先生が何とか粘ってくれたらしいけど叶わなかったらしい。
「そうですか……」
「近々、上級生と模擬戦を行うイベントも開かれるでしょうし、そんな気を落とさないでくださいね?」
「あ、そうなんですか?」
「はい! 最近色々とあったのでそういうイベントもしようってことになったんです」
先生が俺の耳元でコソコソと話す。
色々とは多分、クラス対抗戦の時の無人機の襲来と臨海学校での軍用IS・シルバリオーゴスペルの謎の暴走事件の事だろう。
確かにふつうじゃあり得ないことが二回も起きているという事は先生たちにとっても異常なんだろう。
「まあ、生徒会長に関してはすぐに出会えると思いますよ」
「へ? なんで」
その時、視界が真っ暗になるとともに目の辺りに柔らかい感触が。
……こ、これが噂に聞く『だ~れだ?』ハンドか!? あのリア充のカップルにしかやることを許されていないという周囲に『私たち幸せでしょ? 良いでしょ?』感を自慢するがために行われる非リア充にとっては鬱陶しいこのうえないあのゴッドハンドか!?
「って、誰っすか」
そんなわけなかろうと自分にツッコミを入れながら無理やり手を外し、後ろを振り返るとそこにいたのは二年生のリボンをつけ、どこか子供っぽい笑みを浮かべながらもどこか大人な雰囲気を醸し出している女子生徒がそこにはいた。
その女子生徒はどこから出したのか扇子を口元へともっていく。
「え、えっと誰っすか」
「ふふ。誰でしょう。1番、貴方の恋人」
「は、はい?」
「2番、IS学園最強の生徒会長。3番、貴方の奥さん。どっちでしょう♪」
「いや、2番だろ」
「ピンポーン☆」
そう言いながら扇子を広げるとそこには大きく正解、と書かれている。
いや、正解とかそういうレベルじゃないクイズだったでしょうよ。特に1番と3番の選択肢が今の俺にはあり得ないものでしたけど……そりゃ、俺だって恋人は欲しいぞ? 欲しいさ。だって男の子だもん!
でもなんというか……この女の園にいるとどこか感覚が麻痺してしまってそういう考えが一向に湧いてこないんだよな。なんというか中毒?
「こんにちわ、織斑一夏君。私がIS学園最強のIS使い、更識楯無よ。呼ぶときはお姉さんでも良いし、お姉ちゃんでもいいし、楯姉でもいいわよ」
「こんにちわ、生徒会長」
「いやん☆。楯姉って言ってよ~」
そう言いながら俺に抱き付こうとするが華麗にステップを踏みつつ、その場から離脱するとその生徒会長の顔が山田先生の桃源郷へと突っ込んだ。
「……ま、負けた」
え、何サイズなの? 何サイズなの!?
「まあ、そんなことはさておき。お姉さんと模擬戦をしたいんだって?」
「はい。最強って聞いたら余計に」
「まあチャレンジ精神は悪くないわ……でもまだその時期じゃないわね。貴方、第二形態移行してからの稼働時間はまだ百時間も超えてないでしょ」
うっ、確かに第二形態へ移行してからの稼働時間は夏休みの分も含めるとまだ七十時間ほどしかなく、夏休みを除けば今日行われた鈴との模擬戦の二時間ほどしか動いていない。
「生徒会長に挑む条件として稼働時間は百時間を超えること」
「織斑君の場合、異例の速さで第二形態に移行してしまいましたから」
「というわけでまた今度、お姉さんに挑んできなさいな。織斑君」
「そうします。生徒会長」
「お姉さんと呼びなさい。なんならお姉ちゃんでもいいわよ? あ、楯姉でもねえ姉でもいいわよ? なんでもバッチこいなんだから」
「いいえ、生徒会長と呼ばせていただきます」
「むぅ~。あぁ、お姉ちゃん成分が足りてないわ……うぅ、成分を補給しないと。じゃ、また会いましょ」
そう言って生徒会長はそそくさと職員室から出ていった。
な、なんなんだ? お姉ちゃん成分って……というか何の用であの人、俺に接触してきたんだろうか。
「いつもあんな感じなんですか?」
「はい。あれでもセーフティーモードですけど」
「なん……だと」