インフィニット・ストラトス Strong・Summer   作:kue

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第32話 少年は最強にくぎを打たれる

 文化祭の会議も終了し、やるべきことを終わらせた俺は第三アリーナにて自主訓練を行っていた。

 IS学園のアリーナにはいくつかシステムが存在しており、その一つとして自動照準によるロックオン・ゲームというものが存在している。

 文字通り、ロックオンされればその回数がカウントされ、一定数ロックオンされればその時点でゲームは終了、スコアが表示されるというものだ。

 正直、スコアはどうでもいい。俺が知りたいのはロックオンされてから何秒でその照準から外れているか、それだけが知りたかった。

 

「ロックオンから、0.5秒後に離脱……ダメだ。これじゃ遅すぎる」

「そうね、遅いわね」

「うわぁ!? って会長、いつの間に」

「一人熱心にやっていたからちょっと様子見を……ふむふむ。回避行動の訓練とロックオン・ゲームをやっていたわけね」

「はい。俺の機体って装甲が他に比べて薄いですから」

 

 他の機体に比べて装甲は45パーセントほど減少、エネルギー消費率はほとんど変わらないけど装甲に費やしていたもの全てを速度にがん振りしたと思えばいいと千冬姉に言われた。

 ただ、エネルギー効率を考えないといけない機体であることは変わりなく、零落白夜、そして瞬時加速とそれの派生型。

 どれも長時間使えば派手にエネルギーを消費してしまうもの。

 スラスターによる回避術を駆使すればいいんだけど今の俺じゃそれだけではすべての攻撃は避けきれず、結局瞬時加速に頼っているところがある。

 

「今のままじゃ速度を見切られたら確実に負ける……だから夏休みの間にIS部隊で回避術を教えてもらったんですけどまだ出来てないんですよ」

「体の重心がまだ固いのね」

「気づいてたんすか」

「もちろん。これでもIS学園生徒会長。動かすだけじゃなくて理論もやってるもの」

 

 そう。会長の言う通り、俺が回避行動をとる際、体の重心が未だに一点で留まっており、柔軟な回避行動がとれないでいる。

 そこを夏休みの間に克服しようとしたんだが結局、克服しきれなかった。

 教官が言うにはまだ俺は感覚が先を行って体が後を追いかけているから避けきれる攻撃も避けきれていないと言われた。

 事実、瞬時加速中の攻撃は避けきれないことが多い。

 

「じゃあお姉さんから1つアドバイス。紙が風で流される様子を浮かべてみて」

「紙……ですか」

「そう。紙は固いところなんてないから風にあたるとフニャンフニャンになるでしょ? アドバイスはここまで。後は自分で手に入れるのよ」

 クスッと小さな笑みを浮かべると会長はアリーナから去っていった。

「紙……がぁぁ! 分かんねえしイライラする!」

 

 叫ぶと俺は二重瞬時加速を発動させ、アリーナの機能を使用して可動式の的をいくつか展開するとそのまま最高速度で突っ込んでいき、すれ違いざまに的を切り裂き、アリーナの壁を軽く蹴って方向転換し、もう一つの的を切り裂く。

 それを連続で続け、全ての的を破壊し終わって地上へ着地すると空中の的の破壊にかかった時間が表示され、何故かNEW RECORDと表示された。

「はぁ……今日はもう上がろう」

 

 

 

 ―――――☆――――――

「へぇ。あの速度のまま方向転換できるんだ。それに姿勢制御も完璧、そのうえ最高速度に入りながらも攻撃でも相手に完璧に一撃を加えられる……攻撃面は私が教えなくても良いみたいね……回避面が問題なんだろうけど……それもすぐに自分で見つけるでしょう。うん、お姉さん嬉しいぞ」

「人の弟を弟認定するな、更識」

「お、織斑先生」

「で、どうだ。お前から見て私の弟は」

「そうですね。良い具合に成長しているかと。攻撃面は恐らく型にハマれば私と同等。後は回避面だけですがそれも自分で見つけるでしょう」

「お前にしては珍しい高評価じゃないか。いつも酷評を下すお前が」

「先生ったら。私だってちゃんと見て評価してます」

「ふん……問題は篠ノ之か」

「そうでしょうね。彼女のISは世界唯一にして無二の機体。いつ彼女を狙って敵が情報を盗みに来るか分かりません。ですが機体に対して彼女自身の技術が伴っていません。ですので彼女を優先的に鍛えようと思っています」

「そうか……お前も面倒な時代に最強になったな」

「先生程じゃありませんよ」

 

 

 

 

 ―――――☆――――――

「……分からん」

 必修科目の国語科が終了し、俺は休み時間を割いて公開されているモンドグロッソでの試合を見ていたんだがどうしても先輩が言っていたあの回避が分からない。

 紙のようにってなんだ……分からねえ。フニャンフニャンになるってどういう意味だ。俺は人間だからゼリーみたいな材質にはなれないし……分からん。

 国語科に関しては言語の壁があるという事でそれぞれの国に分かれての授業が行われており、いつもは髪色がカラフルな教室なんだが今日は黒か茶色一色だ。

 

「オリム~。何見てるの~」

「あ、これモンドグロッソの障害物じゃない」

「回避方法が分かんなくてさ。紙みたいになれってさっぱり分からなくて」

「こんな感じ~」

 

 そう言いながら布仏さんが一反木綿かと突っ込みたくなるくらいに全身をフニャンフニャンにしながら揺れているが表情がいつもののほほ~んとした感じだからなんか逆に可愛い。

 フニャフニャしてるところから癒しの風が噴き出てるみたいな感じ……風……紙……がー! なんとなくわかりそうなのに全然わかんねえ!

 

「もうすぐ文化祭か~。織斑君の燕尾服姿、楽しみにしてるから!」

「俺は皆のメイド服姿、楽しみにしてるぜ」

「あ、言っとくけど女子のほとんどを裏方に回してるからメイド服を着るのはボーデヴィッヒさん・デュノアさん、セシリアに篠ノ乃さんくらいだよ」

「ふぇぇ~」

「織斑一夏はいるかー!」

 

 そんな叫びと同時にドアが思いっきり開いた音がしたので慌ててそちらの方を向いてみると上級生を示す色のリボンをした人が腰に手を当ててドアの前に突っ立っていた。

 スカートが短く、黒い下着が露出する程までにスリットが深く入っており、黒のガーターベルトを着用し、金髪のホーステールという格好の人。

 

「あ、あの」

「お前が織斑一夏か。オレはダリル・ケイシー」

 

 ……あ、思い出した! 夏休みはいる前に模擬戦申し込みをしたけど色々予定があってクソ忙しいから断られてしまった先輩の一人だ!

 教室からは「あのアメリカ代表候補生の?」、「なんか凄い」というような声が聞こえてくるように先輩の格好は聊か露出が激しい。

 

「ど、どうも。織斑一夏です」

「あんたオレと模擬戦したいんだってな。やってやろうか?」

「い、良いんですか? 断られましたけど」

「良いんだ良いんだ」

「ダメよ」

 

 そんな第三者の声が聞こえ、ダリル先輩と一緒にその声が聞こえた方を向いてみるとそこには絶対禁止という文字が大きく書かれた扇子を広げている会長が立っているがどこかその目は以前会った時の様な優しいものではなくどこか厳しい目だった。

 

「あ? 良いじゃねえか会長さん」

「ダメよ。だって今は文化祭準備で忙しいのだし、貴方だって専用機のVerアップのためのデータ取で忙しいでしょ? 代表候補生の仕事はほったらかしちゃダメよ」

 

 会長は確か自由国籍権を所得して今はロシアの国家代表をしていたはずだ。

 一時期は日本人がロシアの国家代表をするのはいかがなものかという批判が噴出したが当時の会長の実力を間近で見た国民の大多数が掌を変えたらしい。

 なんでもその当時の国家代表を余裕でぶっ飛ばしたとか。

 要するに会長は代表クラスの実力者という事だ。

 

「わ~ったよ。仕事してきます。織斑一夏、今度やろうぜ」

「あ、はい」

 そう言いながらダリル先輩はまるで男の様にズカズカと歩き去っていった。

 なんだかすごい先輩だ。

「あ、あの会長」

「織斑君。模擬戦をするのは私、もしくは一年生の代表候補生だけにしておきなさい」

「へ?」

「貴方の身の安全を確保するという意味でもね。じゃ、文化祭、楽しみにしてるわ。バイバ~イ」

 以前と同じ優しい笑みを浮かべながら会長は去っていった。

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