インフィニット・ストラトス Strong・Summer   作:kue

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第37話 少年は落胆する

「お行きなさい! ティアーズ!」

 

 セシリアから放たれたビットがそれぞれ俺に向けてBTレーザーを放って来るが瞬時加速を使用し、縦横無尽にアリーナ内を駆け巡ることで放たれてくるレーザーを回避していく。

 さっきから何度もロックをされるがその度に瞬時加速を発動してロックをセシリアからの視界から消えることで無理やり外し、隙を伺う。

 文化祭での亡国機業による襲撃の一件以来、俺の課題はクリアされたと言ってもよく、最近は本当に勝利数も調子がいい。

 

「くっ! なんて速度!」

「隙あり!」

「きゃぁぁ!?」

 

 アリーナの壁を蹴り、勢いをつけた状態で方向転換し、セシリアの傍を通り過ぎると同時に零落白夜発動済みの雪片弐型で切り裂いた瞬間、試合終了を告げるブザーがアリーナ内に響き渡る。

 大きく息を吐き、勝利を噛みしめるが今の模擬戦のセシリアは少し様子がおかしかった。

 いくら俺の速度が速いと言ってもセシリアはそれでも掠るくらいの正確な射撃をしてくるはずなのに何故か今日はあらぬ方向への誤射が多かった気がする。

 

「セシリア。今日なんかおかしかったぞ」

「ええ。少し。ですが大丈夫ですわ」

「そうか? なんか悩んでいるようだったら」

「大丈夫です!」

 

 初めて聞くセシリアの怒鳴り声に思わず動きが止まってしまい、その間にセシリアはそそくさとその場を離れてピットへと帰還してしまった。

 ……明らかに文化祭のあの襲撃からちょっとおかしいよな。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――☆―――――――――

「ハァ」

 

 女子更衣室へと戻ってきたセシリアは大きく息を吐きだし、設置されているベンチに腰を下ろす。

 そのため息は呆れの色も含まれていたがそれはさっきの模擬戦における自分のふがいなさと一夏に対する態度を取ってしまった自分への戒めでもあった。

 本国からISが一機、強奪されたという話は聞いていた。

 そしてその奪還の話しも自分には来ていたがそれを使用している連中と自分の実力の差が開きすぎていることはもうあの襲撃ではっきりと自覚していた。

 BT兵器との適合率が一番高い自分ですら出来ていない偏光射撃を難なくこなした相手との実力差はまさに壁一つ分違うと言えるほどだった。

 そして最近の模擬戦の勝敗数も原因の一つだった。

 いくら一夏の機体が速度に特化し、エネルギーを消失する能力を持っているとはいえ、まだISを使い始めて半年ほどしか経っていない相手にこうも圧倒されるのは代表候補生としての自分のプライドに酷く傷をつけた。

 ついこの間までは自分が上だったにもかかわらず、すでに一夏が遠くなってしまっている。

 それに最近、専用機・紅椿を手に入れた箒の実力も徐々に上がってきており、専用機を持っている一年生の中では自分が下位に位置付けているのは明らかだった。

 

「…………どうしてできませんの」

 

 習得しなければいけないという焦りと早く強奪された機体を取り戻さなければいけないという弐つの焦りに板挟みになっているセシリアの表情は疲れ切っていた。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――☆―――――――――

「そう言えばもうすぐキャノンボール・ファストだな」

「あれって要するにF1だろ?」

「あんたそんな簡単に言わない方がいいわよ? あんたは普段から高速どころか文字通りの光速で戦闘を行っているから慣れているだろうけど本来、ISはあんなに速度は出さないのよ」

「そうなのか?」

 

 まぁ、確かに俺の白式は瞬時加速を連発してもエネルギー消費量は他の機体と比較しても少ない方だから毎回の模擬戦では絶対に一回は使ってるな。

 まぁ、そこが白式の利点でもあるんだけどさ……でも確かに皆、模擬戦じゃほとんど瞬時加速は使わないよな。

 

「お前の場合、瞬時加速を主軸にすることに特化しすぎている機体だからな。我々の場合、おいそれと瞬時加速は使えん。なんせ消費が多いからな」

「使うのはここぞっていう時くらいかな。一夏みたいに相手をかく乱するためなんかには使わないんだよ」

「なるほどねぇ」

 

 昼飯を食いながらみんなの話しを聞いているとチラッと視界の端に落ち込み気味の表情をしている箒とどこか焦りを隠せていない様子のセシリア、二人の顔が見えた。

 最近、箒は生徒会長と放課後訓練をやっているらしいし、セシリアはセシリアで何かを習得しようと頑張っているみたいだけど二人の表情を見るにその結果はあまり芳しくないらしい。

 はて、ここはどう声をかけるべきか……いや、ここは声をかけない方がいいのだろうか。

 でもこういうときって人はあまり声をかけられたくないってのもあるしな……難しい。

 

「でもあんたは出られないわよ?」

「なんでだよ」

「嫁の最高速度は私たちの最高速度と比べ物にならん。しかも嫁独自の二重瞬時加速、二連続瞬時加速などという発展形もあるのだから嫁は出られないぞ?」

「ま、マジかよ」

「仕方ないよ。一夏は音速で飛ぶ機械の塊だし」

「俺は隕石かよ……はぁ。出られないのか……」

 

 確かに白銀の流星、二重・二連続瞬時加速と瞬時加速の発展形をいくつも持っている俺が速度を競う大会に出たら鳥人間コンテストに鳥が参加するみたいなことになっちまうしな。

 

 

 

 

 

 

―――――――☆―――――――

「と、言うわけで今日からキャノンボール・ファストにおいて使用される高速機動についての実技演習を始めたいと思いま~す!」

 

 山田先生の声がここ、第六アリーナに響き渡る。

 この第六アリーナは中央タワーと繋がっていると同時に他のアリーナと比べるとアリーナ自体の広さも大きいので高速機動の授業にはもってこいという設計になっている。

 まぁ、俺は早すぎて出場できないんだけどさ。

 

「ではまずはその高速機動を織斑君とオルコットさんにやってもらいましょう」

 

 一歩前に出てそれぞれの機体を纏う。

 普段、ビットが装備されているんだがその砲口は全て推進力を上げるために使用されているのがセシリアの高速機動パッケージの特徴らしい。

 俺の場合は別に何もしなくても高速機動が出来る、というか俺は箒のような第三世代機より上の世代のISにはパッケージというもの自体が必要ない。

 展開装甲と呼ばれる物によって装甲自体が必要に応じて変わるのでわざわざインストールしてチューンなっぷしてなどという忙しいことはしなくても良い。

 

「セシリア」

「はい? なんでしょう」

「いやさ。最近、思い詰めた感じしてたからな」

「申し訳ありません……色々とありまして」

「そっか……何かにぶつかったらいったん止まるのもアリだぞ」

「え?」

「では二人ともいいですかー!?」

 

 山田先生の声が聞こえ、俺達はスタートの準備をする。

 俺も今まで何回も立ち止まってきた。本当にこのままの状態で強くなれるのかとか。

 だからその度に壁の前で止まってじっくりと考えて自分の意思で決めて進んできた。俺に出来ることがセシリアに出来ないはずがない。

 きっとセシリアだって前に進める。

 

「ではいきますよー! よーい、スタート!」

 

 先生の合図の直後、あれは全力でスラスターを吹かし、中央タワーへと向かっていくがそれに負けじとセシリアも高速機動パッケージを駆使して追いついてくる。

 空飛ぶ金属を舐めんなよ!

 最高速度へと到達するが俺の方が若干、早く頭一つ分抜き出ている。

 パッケージもつけずに高速機動パッケージをつけた機体を頭一つ分、二斤出る速度を出せるってやっぱり白式は速度にステータスを全振りしてるな。

 中央タワーをターンするが普段からこの速度に慣れている俺とセシリアでは曲がる際に膨らむ角度に大きく差があり、頭一つ分だった差がさらに大きくなる。

 そしてそのままゴールラインをぶっちぎりで突っ切り、スラスターを切ると同時に地面を滑るようにして着地し、土煙を上げながら壁に激突するギリギリで止まる。

 

「織斑。貴様最高速度を出した際のブレーキに毎回、それほどの隙を見せるつもりか?」

「あ、い、いえ。今回はその……レース用っていうか」

「レースだろうがキャノンボール・ファスト時は妨害もアリだ。ゴール手前で攻撃を受ければどうする。その最高速度を出している際に攻撃を受けて体勢を立て直せるのか?」

「うぅ、すみません」

「速度に酔うのは良いが程々にな。今回のキャノンボール・ファストは異例の一年生も参加だがやるからには全員結果を出すように。ではこれより訓練機組の貸し出しを行う!」

 

 その千冬姉の一言で全員が一斉に準備に取り掛かる。

 大体の連中はパッケージや期待の出力を弄ったりすることで高速機動にあった武装を取り入れ、姿を少しだけ買えるらしく、俺のは異常らしい。

 なんせ何もしなくても高速機動による戦闘を行えるのだから。

 

「流石、一夏さんですわ。普段から高速で移動しているだけあります」

「まあな。速度が俺の持ち味みたいなもんだし、そこで負けていたら俺も勝てないしな」

「それにしてもよくあんな速度で曲がれるね」

 

 後ろを振り返るとシャルロットの姿があるがそのISスーツはの露出が激しすぎて思わず目をそらしてしまう。

 ほとんど水着みたいな形なのは仕方ないにしても何故にシャルロットさんのスーツは背中や胸周辺がばっさり開いているのでしょうかね。

 

「やはり男性と女性の筋肉量の差、だろう。いくらISが緩和してくれると言っても重圧は男女で耐えられる限界があるからな」

「そう言えば皆、中々瞬時加速とか使わないよな」

「まぁ、エネルギー消費が多いですし」

「一夏の機体くらいだよ? 瞬時加速を主軸にして戦うのは」

「ふ~ん……ところで箒は?」

「あそこですわ」

 

 セシリアが指差す方を見て見ると1人で黙々と練習に励んでいる箒の姿があった。

 ……やっぱり、どこか焦っているような感じがするな。セシリアとは違った重圧ってやつか……。

 

「じゃ、僕たちもしよっか」

「よし、シャルロット。まずは私とやれ」

「オッケー」

 

 そう言い、二人はあっという間にその場から飛びたっていった。

 いくら速度が優れているからと言っても技術じゃまだまだだからな……俺も鍛えねえと。

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