インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
フィールド内へ出てきた俺を見るオルコットさんの目はどちらかと言えば驚きに見える。
「専用機だと聞いていましたが?」
「ちょっとトラブルがあってな……気にしないでくれ」
「そうですわね。これは決闘……トラブルなど気にせず、全力で貴方を潰しますわ。ご安心なさい……私は誇り高きイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。相手がだれであろうと本気で行きますわ!」
――――警告。相手武装のセーフティー・ロック解除を確認。
こちらも近接用ブレードを呼び出し、それを手に握る。
相手の手には2メートルを超す巨大で青一色に染められている銃器が握られており、自動検索によって67口径特殊レーザーライフル・スターライトmkⅢと一致したことが告げられる。
『それでは二人とも試合を開始してください』
相手の手がレーザーライフルのトリガーにかけられようとしたその時、俺はその場から移動しようとするが慣れていないせいもあってISが前に行ったり、後ろに行ったりしてしまう。
「食らいなさい!」
「くそっ!」
耳をつんざくような音が聞こえ、俺に向かって一筋の青いレーザーが放たれた。
「でぁ!」
向かってくるレーザーをなんとか近接用ブレードで叩き落とすが次々とレーザーは俺めがけて放たれてくる。
ISが思う方向に行かず、近接用ブレードで叩き落したり防いだりするが徐々にエネルギーが削られていく。
仕方がない! 空中での移動は諦めて地上で慣れるしかない!
オルコットさんからのレーザーをブレードで叩き落しながらも地上に降り立ち、地面を滑るようにして移動しながらISの操縦になれていく。
「ISは空中戦が基本! 地上に降り立つということは狙ってくれと言っているものですわ!」
そうだ。確かに彼女の言う通り、ISには脚部スラスターと背部スラスター、そしてPICなどというものがあり、それらによって空中飛行を可能にしており、ISが地上に降り立つことはほとんどない。
「そうそうやられてたまるか」
「なっ!? 貴方いったいどこを走ってますの!?」
放たれてくるレーザーを跳躍して避け、観客席を護っている遮断シールドの上に着地し、そのままそこを走ってレーザーを避けていく。
どうするどうする!? スペックで言えば向こうの方が圧倒的に上だ! それに比べてこっちは量産されているIS! そしてそれを使っている操縦者は初心者のペーペーだ!
「うぉ!?」
足元にレーザーが当たり、遮断シールドから降りるがそこを狙って複数のレーザーが降り注ぎ、全て俺に直撃し、ごっそりとエネルギーを持っていかれる。
残り半分で損害レベルはさほど高くはない……ただもう移動は慣れた!
「よっ! はぁ」
相手からの一撃を回転して避け、そのまま再び空中へと飛び出す。
「このままこれでも良いのですが……こちらとしては全力で行くと約束した以上、私の最強の装備で貴方を倒してみせますわ!」
彼女の背中からフィン状のパーツにBT兵器の銃口が直接つけられたものが4つ放たれ、俺の周囲へと配置された瞬間、一斉に4つからレーザーが放たれてくる!
そ、そんなの初心者相手にありかよ!
どうにかして最初の一発を避けるが二撃目、三撃目と連続で青いレーザーがくるのと何も知らない初心者の俺という最悪の要素が重なり合い、空中で残り三発が俺に直撃し、エネルギーがごっそり持っていかれる。
まずいマズいって! こんな初心者殺しの武装使われたら負ける!
「さあ踊りなさい!」
4つの独立兵器から放たれてくるレーザーをどうにかしてブレードで弾きながらふとオルコットさんを見るとさっきまで構えていた格好は今は腕も足も伸び切っており、楽な姿勢になっている。
……なんであいつ攻撃してこないんだ。さっきからあの自立型の奴でしか攻撃していない……それにあの恰好……もし俺が突撃していったら急に反応できないんじゃ…………もしかしてあれを使っている間はあいつ自身は攻撃できないのか……それに移動もしていない……だったら!
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
「なっ!?」
背部スラスターを全開にし、オルコットめがけて突っ込んでいくとピットからの攻撃がやみ、向こうさんからの直接攻撃が俺に放たれてくる。
なるほどそう言う事か!
「そらぁ!」
「きゃっ!」
放たれてきたレーザーをブレードで防ぎ、至近距離でブレードを振り下ろすと目の前で火花が散り、オルコットさんのエネルギーを結構削ったがそれと同時に打鉄からのアラートが響く。
背後からのロック!
振り向くと同時にブレードを振るい、放たれたレーザーを叩き落とす。
「ぐっ!」
ただすべてを落とせるはずもなく、2機からのレーザーは直撃してしまい、エネルギー残量が200を切ってしまった。
ただビットからの攻撃があるということは相手からの攻撃は来ないということ!
打鉄からのアラート情報をもとに放たれてくるレーザーの位置を把握し、縦横無尽に動きながら必死にレーザーをよけていく。
落ち着け……落ち着いて相手をよく見ろ。
残りエネルギーは180ちょっと……対して相手はその倍はある……絶体絶命だな……でも絶体絶命な状況であっても諦めない……そう教わったからな。
「これで終わりですわ!」
上空から4つのレーザーが降り注ぎ、スラスターを全開にして避けていくがいくつかは完全に避けきれず、装甲を掠ってエネルギーが徐々に削られていく。
ダメだ! こんな速度じゃあの攻撃は避けれない! もっと! もっと早く! 早く!
目の前までレーザーが近づいてきた瞬間、俺の想いがISに伝わったのか先程とは比べ物にならないほどの速度で移動し、レーザーをすれすれのところで避けた。
「っっ! この速度はまさか瞬時加速!? 初心者のあなたがなぜそんな技術を!」
「うぉぉぉぉぉ!」
なおも放たれてくるレーザーを自分でもわかるくらいの凄まじい速度で右に左に動きながら避けていき、上空へ大きく飛んで一基のビットを切り裂く。
真っ二つになったビットから小さな青い閃光が放たれた瞬間、大爆発を起こし、木っ端みじんに吹き飛ぶが残り三基からも俺めがけてレーザーが放たれてくる。
今の俺はどんなものよりも早い!
レーザーをターンして避けて最短距離である直進するコースを凄まじい速度で突っ切り、二基目を通り過ぎ様にブレードで切り裂く。
「っっ! 瞬時加速に加えて加速回転まで!? 貴方いったい何者ですの!?」
「俺は俺だ! 織斑一夏だぁぁぁぁぁぁぁ!」
驚きのあまり突っ立っていたオルコットさんめがけて全開の速度で突っ切るが向こうから俺めがけて青色のレーザーがライフルから放たれてくる。
放たれたレーザーをすれすれのところで回転して避け、そのままオルコットさんとの距離を一気に詰める!
「であぁぁぁぁぁぁ!」
「っっっ!?」
ブレードを振り下ろそうとしたその時!
『そこまで!』
「「は?」」
『勝者! セシリア・オルコット!』
もう少しで切り裂こうとしたその時にそんなことを言われ、俺もオルコットさん、そして観客席にいる連中までもが驚きのあまり何も言えないでいる。
な、なんで? 今めっちゃいいところだったのに!
その時、ジジジッという放送が入る前になる音がアリーナに響く。
『馬鹿者。調子に乗って瞬時加速を常時使用しおって。自分のエネルギー残量を見て見ろ』
そう言われ、エネルギー残量を表示させると赤い文字でEmptyと表示されている。
要するにエネルギーはすっからかんの状態だという事だ。
『これにて選抜戦は終了とする』
Aピットに戻った俺は打鉄から降りたのは良いが千冬姉と箒からの冷たい視線に耐え切れず、何も言われていないのに正座をした。
「お、おしかったですね~。エネルギー残量さえ気にしていれば勝ててましたよ!」
山田先生の優しい励ましの声がまるでどこかの聖なる魔法のようにズタボロの俺の精神状態を回復してくれるが残りお二方からの滅殺魔法でそれ以上のダメージを加えられてしまう。
「瞬時加速はエネルギーを消耗して発動するものだ。授業で教えたはずだが」
「え、えっと戦闘中だったのでそこまで気が回らなかったというか」
「そんなことでは万年一回戦負けだな」
「すみません。以後気を付けます」
ふぇぇ~。怖いよう。
「それとお前の専用機だが……所在が判明した」
「え!? どこですか!?」
「あいつが持っているそうだ。さっき連絡があった」
あいつ…………ま、まさかあのウサギ耳か。
「で、いつくらいに」
「知らん。今日はもう休め。部屋でISについて勉強しておくんだな」
そう言われながら電話帳の様に分厚いIS基礎とタイトルに大きく書かれた教科書を渡され、俺は諦め半分面倒くささ半分の溜息をついた。
選抜戦が終わり、空が茜色に染まっている。
その中を俺は箒と一緒に歩いていた。ついさっきまで箒と一緒に選抜戦の記録映像を見て何がいけなかったのかを互いに指摘し合っていたんだ。
千冬姉曰く、模擬戦・公式戦に関係なくIS学園ではその全てが映像に記録されているらしく、出席番号とクラス・名前をホームページ上で打ち込めばうちの生徒ならだれでも見れるらしい。
ただ前者の場合は申し込みが必要らしいけど。
そしてもう一つ。自分がやった全ての模擬戦はもちろんのこと他の生徒が行った試合は必ずすべて目を通しておけと言われた。
特に上級生の試合はと念を押された。
「やっぱりあの時は瞬時加速を使いすぎたのが敗因か」
「それもあるがISになれていなかったせいもあるだろう。明らかに最初は避けれる攻撃を貰っている」
「ごもっともで……はぁ。なんでウサギさんは俺の専用機を強奪したのやら」
「わ、私を見るな」
「そうだな……部屋に帰って映像見直すか」
IS学園の地下50メートルにはレベル4権限を持つ教員にしか入れない隠された空間があるがそのもう1つ下には織斑千冬にしか入ることを許されていない部屋がある。
そこで千冬はモニターに流れている映像を酷く冷たい表情で眺めていた。
モニターには一夏の専用機となるISが収納された格納庫を荷台に積んでいるトラックの様子が映し出されていたのだがある部分で映像にノイズが走り、それが消えるといつのまにかトラックは火の手を上げていた。
千冬はその部分だけを何度も再生しながら一瞬だけ映りこんでいるその存在を見つめていた。