インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
『君本当に千冬さんの弟さん? それにしては要領悪いと言うか』
遠まわしに言うな。要するに俺は千冬姉と比べて何もできないっていうんだろ。
『何をやってるんだ君は。友達とはしゃいで窓を割るなど。君のお姉さんはね、清く正しくを突き通したそれは素晴らしい人だったんだけどね』
友達とはしゃいで何が悪いんだよ。ずっと1人でいろっていうのかよ。
『ん~。もうちょっと点取れなかった? せめて学年10位以内には入ってもらわないと困るかな』
なんで姉貴が優秀だったらその弟まで優秀じゃなきゃいけないんだ。
どいつもこいつも俺を見下しやがって…………見ていろ……俺はいつか必ずお前たちをひれ伏せさせてやる。
千冬姉を超えてだ!
『千冬さまのこと何か教えてくれたらヤラせてあげてもいいよ』
『いいよなお前は。男のくせに姉貴からISのこといろいろ教えてもらってさ』
うるさい。
『姉貴が出来るからって調子こいてんじゃねえよ!』
うるさいうるさい!
「うるさいっ!」
「っっ!? ど、どうした一夏!」
箒の心配そうな声が聞こえ、ようやく完全に目を覚ました俺は自分が何をやっていたのかを思い出した。
額からは嫌な汗がダラダラ出ているし、寝間着は汗を吸い過ぎて肌にピタッとくっついて不快感を俺に与えてくるし、何よりあんな嫌な夢を見た後の所為で寝起きが最悪だ。
千冬姉は俺の目標の人であり、越えたい存在だ……でもそれと同時に……。
「大丈夫か? 一夏」
「あ、あぁ…………」
こういう嫌な気分を弾き飛ばすのに最適なのは筋トレだ。
ベッドの近くに置いてあるカバンから筋トレ器具を取り出し、ベッドから起き上がり、筋トレを始める。
どうも元々女子高だったIS学園に転入した影響で昔のことが夢として出てきてしまったみたいだ……昔のことと割り切ったつもりだったんだけどな。
クラス代表は俺に勝ったオルコットさんがやるだろう……ただ負けっぱなしというのは俺の性分に合わない。専用機が届いてそれで訓練したらもう一度オルコットさんに模擬戦を申し込もう。
「一夏。朝からそんなに飛ばして大丈夫なのか?」
「おう。大丈夫だ……こうやって一日の目覚めをやってんだ」
「ふむ……ならいいが」
俺はもっと強くならなくちゃいけないんだ……もっと強く……これまでの弱い自分を捨て去るんだ。
筋トレを済ませ、箒と共に食堂で日替わり定食を食べ、教室に到着した俺を待っていたのは仁王立ちに腕組をした状態のオルコットさんだった。
女子が仁王立ちしたらそれ相応の大きさがあったら腕に乗るよな……あれ箒がしたらヤバいんじゃね?
だがここはあえて無視をしよう。
「箒。今日の日替わり定食美味かったな」
「そうだな。魚の塩味が効いていて美味しかった」
「ってちょっと何二人して無視してるのですか!? これじゃ私が恥ずかしい人みたいじゃないですの!」
「おぉ、キレのいいモーニングツッコミをなさるとは流石は金剛力士像ならぬ英国仁王像」
「英国仁王像って私は立志伝的人物じゃありませんわ! 突っ込ませているのは貴方の方でしょう!」
「Oh,Yes!」
「貴方の英語力が高いのか低いのか分かりませんわ……ってそんなことじゃなくてですね!」
オルコットさんが再び勢いを取り戻した瞬間、授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響き、悔しそうに唇の端を噛みしめながらオルコットさんは自分の座席へと戻った。
今度からオルコットさんに襲撃されたら長々と突っ込ませよう。
そんなことを思いながら座席に座ると同時にドアが開き、山田先生が入ってきた。
「皆さんおはようございます」
『おはようございまーす』
うんうん。やはり朝の始まりは挨拶から始まり、挨拶に終わる……。
「ではこれからSHRを始めますがその前にこの前、行われたクラス代表選抜戦ですがクラス代表が決まりました! これから一年間、皆さんも手伝ってあげてくださいね。一組クラス代表は織斑一夏君に決定しました!」
山田先生がそう言った瞬間、俺を含めたクラスのほとんどの連中が机の上でずっこけ、中には床に落ちている奴もいたが山田先生は突然のことに驚きの表情を隠せないでいた。
あ、あれなんで? 昨日勝ったのはオルコットさんじゃん。
「あ、あの皆さん?」
「先生~。昨日は確かオルコットさんが勝ったんじゃ」
「私が辞退しましたのよ!」
とある一人のクラスメイトの質問に答えたのは先生ではなく後ろの席のオルコットさんだった。
「昨日、皆さんも見たと思いますが確かに私が勝ちましたわ……ですが彼にとっては本来、専用機で戦うはずがアクシデントにより訓練機で行った結果です。初心者が訓練機で専用機持ちの代表候補生に勝てるはずもありませんの。故にあの試合の結果は必然。ですが!」
バン! と勢いよく机を叩き、オルコットさんは鼻息を荒くしながら話し続ける。
「彼はその訓練機で私に一撃を入れるだけでなく互角に戦いましたの。あれが専用機同士なら勝敗は分からなかったでしょう……ですから見込みありという事と経験を積んでもらうという事から彼にクラス代表の座をお譲りいたしましたの」
……えっと要するに俺はオルコットさんには負けたけど才能ありとみなされたからその才能を開花するための機会を多く得るためにクラス代表の座を貰うという事か?
「セッシ~カッコいい~」
「セ、セッシ~? 私はセシリア・オルコットですわ!」
「じゃあ、セット~さんね~」
「誰が泥棒ですの!?」
「あ、じゃあシットさんだ」
「何故座りますの!? そこは立ちましょうよってそういう問題じゃありませーん!」
布仏さんのボケと他のクラスメイトからのボケに全てツッコミを入れたせいかオルコットさんは息を荒くしながらも俺の方を見てきた。
「と、とにかく! これからは私が貴方のIS訓練をしてさしあげますわ! 代表が弱いままでは示しがつきませんもの!」
「いや、結構です」
「だからなんで断りますのー!」
「どうやら貴様らは死にたいようだな」
そんな冷たい声が響き、教室の温度がガクッと冷え込んだ。
だ、だからいつの間に千冬姉は教室に来たんだよ。
「山田先生。授業を」
「は、はいぃ! で、では今日はISの各種装備について授業をします!」
その日の放課後、ようやく訓練機の予約が取れたので空いているアリーナのビットへと向かい、打鉄を纏ってフィールド内へ出ると何故か既にブルー・ティアーズを展開し、纏っているオルコットさんがいた。
何故にオルコットさん? ていうか腕組はデフォなのね。
「待っていましたわ、織斑一夏さん」
「は、はぁ……で、なんでいるんだ?」
「それはもちろんあなたを鍛えるためですわ。来週にはクラス対抗戦がありますの。貴方には何としてでも勝ってもらわなくては困りますわ」
まあ確かにそれは一理ある。俺が無様に負けたらオルコットさんの見る目がなかったということになってしまって彼女に迷惑をかけてしまうからな。
「おう。では頼む。オルコットさん」
「セシリアで構いませんわ」
「ほ、ほぃ」
「ではまずは飛行を自在にできないようにしませんとね。では飛んでみてください」
そう言われ、先日の選抜戦で行ったような感覚を思い出し、頭の中で想像するとゆっくりと俺の体が浮かび、数メートルほどの高さで静止すると俺よりも早い速度でセシリアが俺と同じ高さまで上がってくる。
へぇ、流石は代表候補生だな。俺なんかよりも早い。
「今はそれでかまいませんが実践でそんなチンタラしていますと撃ち抜かれますわよ?」
「分かってるって。で、次は?」
「次は滞空した状態で後や前に移動してくださいな」
「おっし」
指示通りに体を後ろへと傾けるイメージを浮かべると打鉄が反応し、イメージ通りに体が後ろへと傾き、前へ向かうイメージへ変えると今度は前に傾く。
「足場がないので想像しづらいでしょうが地面に立っている状態を想像してくださいな。決して空中にいると想像してはなりませんわ」
「おう」
地上にいるのと同じように上へ飛び上がったり、後ろへ飛び退いたり、その場で軽く回転してみたりとするがやはりまだ空中にいるというのがぬぐい切れていないのかセシリアの様にスムーズにはいかない。
「ところでさ」
「はい?」
「瞬時加速中に動くのってそんなにすごいのか?」
「そうですわね。代表候補生でも少ないですわね。そもそも瞬時加速とはエネルギーを消費し、爆発的な速度を得る技術であり、その間は本来重力が何倍にもなってかかりますわ。まあISによってその重力もある程度は緩和されますが……加速中に動きを加えればその分、体にも負担がかかりますのよ。下手をすれば意識を失いますわ。ジェット機などがアクロバット飛行をする際、後ろに乗っている客が意識を失う映像がありますでしょ? それに似た感じですわ」
なるほど。流石は代表候補生だ。説明が超分かりやすい……でもなんで俺、瞬時加速中にターンなんかできたんだ? それにあんまり重みも感じなかったし。
「貴方の場合は体を鍛えているので重みにも耐えれたんでしょう。それが貴方の強みでもありますわ」
「強み?」
「ええ。男性は女性よりも筋肉量は多い。それを使えば瞬時加速中にモーションを加えることだって可能ですわ。
「なるほど」
「それらの技術を学ぶ前に貴方には基礎を叩きこみますわ。さあ次に行きますわよ!」
「あいさー。teacher・セッシー」
――――警告・ロック確認。
「すんません」
「よろしいですわ」