インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
午前中の全ての授業が終了し、箒とセシリアと一緒に食堂へと向かい、食券を買おうと券売機へ伸びている列へ並ぼうとした時、そこに奴はいた。
奴はツインテールを振り回し、俺にズビシィっと指を突き立ててくる。
「見つけたわよ! 一夏!」
「おう。それは良いんだけど……後ろつっかえてるぞ」
「へ? あ」
俺に言われ、俺の後ろを見てみると空腹で怒り狂っている学園の連中の姿をマジマジト見てしまったのか慌てて財布を取り出し、食券を購入し、麺類コーナーへとダッシュで向かった。
空腹時の人間ほど怖いものはないからな。かといって俺も空腹時に邪魔をされたら相手が男子ならば問答無用でブチギレるだろう。
箒と俺は日替わり定食、セシリアは何故か単品でいくつか頼み、長い列に並んでいる。
セットで買えば安いし早く手元に来るのに……お金持ちなのだろうか。
「はい、日替わり定食」
「おっ。今日はサバの味噌煮か」
日替わり定食の楽しみはこれだよな。日によってメニューが変わるから注文して手元に来るまで何がメニューに入っているのかが分からないっていうあのドキドキ感。
ちょうど席が一つ空いたのでそこへ座ると同じように鈴が対面する形で座り、その隣にセシリアが座った。
「「「「いただきます」」」」
「そう言えばいつ帰ってきたんだよ」
「つい最近よ。あんたがIS操縦したっていうニュースが流れてすぐかな。元々こんな学園に入る気はなかったんだけどさ。ていうかなんであんた動かしてんの」
「さあ? 俺にもさっぱり」
「ところで一夏。こ奴はいったい何者なんだ。随分親しそうだが」
「あ、そっか。こいつは鳳 鈴音。俺の幼馴染の1人で箒と入れ替わりで転入してきたんだよ。んでこっちは篠ノ之 箒。俺の幼馴染で鈴が来る前に転校したんだ」
「ふ~ん。あんたが」
その瞬間、鈴と箒の視線がぶつかり合ったかと思えば二人の間に火花がバチバチと派手な音を立てて散っている風に見えた。
何初日からバトルを開始しようとしているんだこの2人は……。
「お話しは聞いていますわ。鳳さん」
「鈴でいいわよ……ていうかこいつ誰?」
「あ、貴方まで……私はイギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ! 名前くらいは聞いたことあるでしょうに。中国の代表候補生でそこそこ強いと噂がありましたもので」
「あたし他の国の奴とか興味ないし。ていうかそこそこ強いじゃなくて超強いの間違いよ」
そう言って2人は睨みあう。
いや、だから鈴よ。なんでお前は転入初日にして敵を作るのかね。
「あら。でしたら私はハイパー強いですわ」
「はぁ? こっちは超絶強いんですけど」
「でしたら私は超ウルトラ強いですわ」
その後も2人は自分で自分へのハードルを上げながら言い合っていくがまあとりあえず放置しておこう。無駄に仲裁に入って2人からボコボコにされたら俺のハートが持たん。というか専用機持ちの代表候補生にボコられたら俺、自信喪失してこの先やっていけない。
「そう言えば箒は放課後何してんだ?」
「もちろん鍛錬だ。真剣を使ってのな」
「すげえな。よく学園側も許してくれたな」
「うむ。いくつかの制限はあるがな」
昔は箒の家がやっていた剣道教室に通って一緒に剣道をしていたもんだな……あのころから箒は剣道強かったよな。まあその上を行く千冬姉の方がある意味怖かったんだけど……今、箒の親父さんは何をやってるんだろうか。
ふと二人を見るといまだに言い合っていた。
「おい二人とも。飯が冷めるぞ」
「それもそうね」
どうやら2人とも飯の方が優先順位が高いらしく、速攻で言い合いを辞めて食事を再開した。
「あ、そうだ。一夏、あんた放課後にISの特訓やってるんだってね」
「まあな」
「その特訓、あたしが見てあげようか?」
「何をおっしゃいますか。私が見ているので。そもそも貴方は2組。敵の施しなど受けませんわ」
「あんた遠距離型じゃない。一夏はバリバリの近距離タイプよ?」
そう言われ、セシリアは何も言い返せずにいた。
セシリアの武装に近接装備がないことはないらしいのだがずっと遠距離装備でやってきたので自然と近距離の武装は使わなくなってしまったらしい。
そもそも彼女が専用機を与えられたのはBT兵器との……相性だっけ? なんかそう言う数字が代表候補生の中でも高かったかららしく、BT装備の実験機という側面もあるらしい。
「それに比べてあたしも一夏と同じようにバリバリの近距離タイプ。基礎講座が終わればあんたなんてそこら辺の雑草みたいなもんよ。ぶち抜いてポイよ」
「ざ、雑草ですって!? こ、このイギリス代表候補生の私が雑草!? 大木の間違いじゃなくって!?」
「大木? あんたが? 仮にあんたが大木だったらこっちは屋久杉よ!」
「でしたらこっちはセンチュリープラントですわ!」
「100年に1回しか咲かないじゃない!」
「その100年に1回というのが私が生きている一生ですわ!」
「こじつけじゃない!」
「こじつけ上等ですわ!」
「あ~二人とも。言い争っているところ悪いんだが……周り見てみろよ」
俺の一言で我に返り、周囲を向くと食堂の全員の視線が自分たちに注がれているのにようやく気付いたのか2人とも顔を赤くして恥ずかしそうにしながら静かに座った。
鈴もセシリアも熱くなりやすい性格みたいだ。
「ていうか鈴、お前近接戦闘かもしれないけど剣使わないじゃん」
「うっ!」
「そこで私の出番だな。私は一夏と同じように近距離型、そのうえ剣を使うというところまで一緒だ。IS基礎講座はお前たちに任せるが剣の実演に関しては私に任せてもらおう」
箒の発言により、セシリアと鈴の目に炎が灯り、3人の視線が俺のすぐ目の前でぶつかり合い、火花が散っているように見える。
俺、疲れているんだろうか。
「ま、いいや。一夏、放課後、あんたの部屋に行くからね!」
「あ、おい」
放課後は鍛錬でいないと言おうとしたのだがそれよりも早くに鈴が食器をもってテーブルを立ち、そのまま食堂を出ていってしまった。
う~ん。これは中々にまずいことになりそうな予感がする。
「織斑さん! 貴方はまだ基礎がおろそかなのですから瞬時加速など以ての外ですわ!」
セシリアからのオープン・チャネルから甲高い声が響いてくる。
なんでもコア・ネットワークとか言うやつを利用しているらしく、本来の目的は広大な宇宙空間での相互位置確認・情報共有のために開発されたシステムらしいのだが今は搭乗者によるオープン・チャネルとプライベート・チャネルとして利用されているらしい。
「い、いやセシリアよ」
「なんですの!?」
「お前の4つのビットのレーザーを瞬時加速無しで避けろというのはちょっと」
「あら。1基ずつ撃っているではありませんか。ほら織斑さん!」
1基からレーザーが放たれ、瞬時加速を使わずにPICと背部・脚部のスラスターを利用して円を描くように移動して避け、そのままセシリアに向かって飛びあがる。
最近は俺の事情もとおしてくれたらしく、結構訓練機を借りることが出来ている。
「さあ今度は
「おし! 来い!」
4つのビットが俺の周囲を囲うようにして設置され、数秒経過した直後、それぞれから時間差で俺めがけて青色のレーザーが放たれてくる。
打鉄から送られてくるアラート情報とハイパーセンサーによる広域視覚を利用し、レーザーの居所を把握、そののちにPICを止め、脚部と背部のスラスターを交互に吹かせながらレーザーを避けていく。
何の役に立つんだと聞いてみたところPICが役に立たなくなった際の非常手段らしい。これで敵の攻撃を避けることが出来るらしく、実際にどっかの代表がこれを得意とする人がいるらしくモンドグロッソでも有名になった―――――セシリアより。
「これでラスト!」
脚部のスラスターを強めに吹かせ、最後のレーザーを避けた瞬間!
「どわぁ!?」
背中に衝撃が走り、そのまま地面に叩き付けられてしまった。
顔を上げてみるとライフルを俺に向けているセシリアがいた。
「お、おま! いきなり撃つことはないだろ!」
「詰めが甘いですわ! それではクラス対抗戦で勝つことなど不可能ですわよ! あの中国代表候補生にコケにされたままでは私の気が済みませんわ! もう一度行きますわよ!」
「ちょ、ちょっとタンマ!」
「問答無用!」
ライフルの銃口が光り輝いた瞬間、俺とセシリアの間を何かが通過していき、フィールドの地面が大爆発を起こして大きな穴をあけた。
「な、なんです……あ、貴方!」
「ちょっと熱くなり過ぎなんじゃないの? セシリア」
声が聞こえた方向を向いた瞬間、打鉄から自動検索により、一致したISの情報が送られてくる。
……第3世代型・中国所属・甲龍。
「り、鈴さん……貴方には関係ないことですわ」
「幼馴染だから関係あるっつうの。一夏に怪我負わせたらあんた責任取れる訳?」
「そ、それは……」
「熱が入るのは良いけど入り過ぎはよくないわよ」
「……申し訳ありません。織斑さん」
「あ、い、いや良いぞ。そんな凹まなくても」
セシリアと鈴はそれぞれ専用機を待機状態へと戻し、フィールドに降り立った。
「部屋にいないと思ったらこんなとこにいたのね……にしても随分な気合の入り方ね。セシリアもあんたも」
「ま、まああれだ……クラス代表として勝たなきゃいけないしな」
こんなところで負けていては千冬姉を超えることなんて無理だしな。
「たっく。あんた気をつけなさいよ……1回鍛えすぎでぶっ倒れてんだから」
「そ、そうなのですか?」
……2年前の話だ。俺が何者かに誘拐されて千冬姉の2連覇が消えてしまってから以降、俺は過剰に体を鍛えてしまい、その結果、疲労骨折と過労でぶっ倒れてしまったことがある。
「まあ、過去に1回だけな」
「そうでしたか…………今日はこの辺で終わりましょう。ちょうど夕飯の時間ですし」
「そうだな……鈴も来るか?」
「行く行く!」
「箒はどうする!?」
観客席にいる箒に向かって大きな声でそう叫ぶと箒も行くらしく、両手で丸を作った。
「じゃ、今日は解散」
そんなわけで10分後に食堂に集合し、夕飯を食べたのは良いんだが……。
「てことであたしと変わってよ」
「何故だ!?」
鈴が俺の部屋に突撃したのだ。
思い出せ。何故こうなったのか……確か夕飯の時に俺が箒に先にシャワーを浴びていいかと質問し、それを聞いた鈴が逆に俺に質問し、箒と同じ部屋だと説明したらこうなってしまった……そうだ。うん……何故か鈴が俺の部屋に突撃してくる理由が分からん。
「いやさ。篠ノ乃さんも男と一緒の部屋なんて落着けないじゃん?」
「わ、私は一夏とならば落ち着けるぞ!」
「だとしても教育上ダメじゃない? そこであたしの出番よ」
「貴様も女だろう!」
「そ、それはそうだけど……良いから変わりなさいよ!」
鈴の悪い癖だ。最初は理論ぶって説明するのは良いんだが最後の最後で墓穴を掘り、自爆して最終的に精神論で相手を丸め込めるという癖。
「ならんならん! 一夏の同室者はこの私なのだ! 変わりたければ千冬さんでも連れて来い!」
「うっ」
鈴は千冬姉が苦手だ。なんでだかは知らないけど……ただこの勝負はどうやら箒の勝利のようだ。一年生の寮長を務めているのが山田先生ならば本気で連れてきたかもしれないけど残念ながら寮長は千冬姉だ。
絶対にあの人が許可するはずがない。
「わ、分かったわよ……と、ところで一夏」
「ん?」
「そ、その…………や、約束覚えてる?」
「約束?」
「そう。小学校の頃の」
小学校の約束…………あっ。今なんとなく思い出したぞ……確か放課後の教室で帰ろうとしたら鈴に呼び止められてそれでその約束をしたんだ。えっと確か……酢豚……そう! 酢豚がキーワードにあったんだ! え、えっと……。
チラッと鈴の顔を見てみると今か今かと待っている表情をしている。
思い出せ……思い出すのだ俺! 女の子との約束を忘れるなど男にあっては…………思い出した!
「確かあれだよな。酢豚だよな」
「っっ! そうそう! 酢豚よ酢豚!」
流石俺だ。約束は中々忘れないぞ。
「酢豚を一緒に食べようってやつだよな。あれ? でも中学の時、お前の家で結構、頻繁に酢豚一緒に食べなかったか? 週に4,5回くらいで」
「おしい……惜しいんだけど少し違うのよバカ!」
「えぇ!? なんで!?」
「あぁもう! 期待させておいて!」
「ほ、箒もなんか言ってやってくれよ」
「ふん……女子との約束をはき違える男子など視界にも入らんわ」
「お、俺が悪いのか?」
「ええそうよ! あんたが悪いのよ! 良いわ! あんたが忘れているんだったらあたしが対抗戦でボッコボコにして思い出させてやるわよ!」
「まさかのショック療法!? そ、それだけは勘弁を」
「ふん! バーカ!」
そう言い、鈴は部屋から出ていってしまった。
「…………ふん」
どうやら今回は箒でさえで敵らしい。