インフィニット・ストラトス Strong・Summer 作:kue
試合が始まってから15分。
ビット内にいる箒とセシリアは一分一秒もモニターから目を離さずに一夏の戦いの様子をみている。
セシリアは自分が鍛えた生徒の成長結果を見るような目で、箒は自分が恋焦がれている男子の行く末を案じるような目で見ている。
「試合が始まってから15分ですか……拮抗してますね」
「拮抗ではない。ただ単にあいつが速度に頼って攻撃範囲から避けているだけだ」
「な、中々厳しいですね」
「弟といえど肩入れはせん」
「あぁもう! その速度鬱陶しいわね!」
「鬱陶しかったら止めてみろ!」
とにかく今は鈴の攻撃を受けない事と彼女の直線距離に1秒以上いないことを目標にしながらグルグルと周囲を旋回し、チャンスを伺ってはアタックを試みるが青竜刀に防がれるか衝撃砲が来るかもしれないという危機察知で離脱しているかだ。
あの衝撃砲、どうやら角度制限などないらしく、真上にいようが真下にいようが真後ろにいようが平気で衝撃砲を放って来る。
あれを使うと言ってもあれはまだ成功確率50%程度の業……失敗すればただ単にエネルギーを大幅に消費するだけじゃなくて隙もでかい! 今は……あの鬱陶しい肩の奴を潰す!
旋回しながら瞬時加速を発動する前準備を行う。
瞬時加速中に動けるといってもまだ慣れたわけじゃない……ただ使わない手はない!
旋回をやめ、鈴の直線距離に立ち、睨み付けるように鈴の顔を見る。
「観念……したわけじゃなさそうね。その顔……何企んでんの?」
「さあな…………」
「あっそ……」
ほんの一瞬、鈴の表情が変わった瞬間、俺は瞬時加速を発動させ、一気に鈴との距離を詰める!
が、その直後、鈴が腕をこちらへ向けるのがスローモーションのように見え、腕の装甲の一部が展開される。
瞬時加速を解除せずにそのまま跳躍する。
このままの速度を保って!
「ぶった斬る!」
瞬時加速のまま跳躍して鈴の頭上を通り過ぎると同時に雪片弐型で鈴の肩アーマーを切り裂くと青い放電が一瞬だけ見えた直後、爆発を起こした。
「うぉぉぉ!?」
爆風で体勢を崩し、どうにかして瞬時加速を停止させて体勢を整え、鈴の方を見ると切り裂かれた肩アーマーを抑えながら驚きの表情で俺の方を見てくる。
「今あんた瞬時加速の状態で方向転換したわよね」
「さあな……鈴。これが俺だ」
「今の明らかに瞬時加速の速度じゃないわよ。一瞬、ハイパーセンサーから消えたし……あんたの機体。速度の領域を特化させてんのね」
「まあな」
消費エネルギーは全体の10%……もう少し燃費よくしてくれよな。
「肩1個は潰した! このまま行くぜ!」
「甘い!」
「ぐぁ!?」
鈴に向かって行こうとしたその時、明らかに肩からの衝撃砲ではない方角から衝撃が俺に襲い掛かり、エネルギー残量がぐっと落ちた。
「衝撃砲はね、肩だけじゃないのよ!」
そう叫びながら鈴が俺に向かって腕を突き出した瞬間、俺は再び瞬時加速を発動させ、直線距離から離脱し、旋回をしつつ瞬時加速から通常のスラスターへと戻し、旋回する。
くそっ! セシリアに言われてたのにやっちまった! 詰めが甘かった!
―――破損率18%。
腕一本持っていかれたと思うべきか……でも不幸中の幸いはスラスター関連は無傷なことだ。腕さえ何とか守れば絶対防御が発動するほどの一撃は貰わない。
「これで破損状況は五分五分。あんたは腕一本、こっちは武装1個……中々やるじゃない」
「こっちだって毎日代表候補生と汗水たらして戦ってんだ……ただじゃ負けられるか」
「そんじゃ……続きと行くわよ!」
鈴が刃が両方についた異形の青竜刀をバトンの様に回しながら俺めがけて向かってきた。
――――新たな敵IS反応を感知。
「「っっ!?」」
それぞれのISからのそんな通達があった直後、アリーナの遮断シールドを突き破って極太のレーザーがフィールドに着弾し、凄まじい爆音と噴煙をまき散らした。
「な、なんだ? お前がやったのか?」
「なわけないでしょ……上から来たのよ」
見上げると天井の遮断シールドがものの見事に破れている。
遮断シールドはISの絶対防御と同じもので作られている。つまりさっきの一撃は絶対防御を貫いて本体にダメージを与えることが出来るという事だ。
――――警告・ロックされています。
「っ! 鈴!」
「ええ!」
警告に従い、その場から離れた瞬間、噴煙の中から再びレーザーが放たれ、観客席を護る遮断シールドに直撃して爆発を上げる。
直後、非常事態を告げるサイレンが鳴り響き、遮断シールドの上にさらにシャッターが下ろされる。
「……なんだあれ」
噴煙の中から出てきたのは地面に拳が着くほどの長さの両腕を持ち、所々にパーツを繋げているのか太いパイプのようなものが見え、人の姿は見られない全身装甲をしたIS。
全身装甲の物は僅かながらに存在する。教科書にそう書いてあったけど……あの腕の長さは不要だろ。
「IS……だけどおかしな点が多すぎるわね」
「だよな。腕長すぎるし」
「大きすぎるわ。あれじゃ姿勢制御だけで精一杯よ」
『鳳さん! 織斑君! すぐにそっちに教師部隊が行きますので二人も避難を!』
「鈴。お前どうする」
「このまま逃げるのが得策なんだろうけど……どう見てもあたしたちが逃げたらあいつ、観客席狙うわよね」
「よし決まりだな……先生! 教員部隊が来るまで俺達が時間を稼ぎます!」
『えぇ!? ちょっと2人とも!』
「行くぞ鈴!」
「ええ! 衝撃砲で援護するから突っ込みなさい!」
雪平弐型を握りしめ、こちらへ向かってくるISめがけて突撃していく。
「はぁ!」
全力で振り下ろすが相手の太くて長い腕に阻まれ、目の前で火花が散るが脚部のスラスターを全開、背部を0にすると凄まじい勢いで足が上がり、相手を蹴り飛ばすと同時にその場でバック転をするように1回転する。
「鈴!」
「行けぇぇ!」
鈴からの衝撃砲が複数、奴に直撃し、地面に叩き付けるがすぐにむくっと起き上がり、こちらに向けてレーザーを連射してくる。
おいおい! 今の連続で喰らってすぐに立ち上がれるかよ!
自慢の速度で奴の攻撃を避けながら瞬時加速の発動準備をしているとプライベート・チャネルが開く。
『一夏。とりあえずあいつの行動を見極めるわよ。何やってくるか分からないわ』
『そうだな……鈴。注意引きつけておいてくれ。俺が後ろに回って斬る!』
『ちょっと!』
瞬時加速を発動させて円を描くように高速で移動して相手の背後へと一瞬で回り、雪片弐型を振り上げる。
「っっ!」
だが俺の位置を予測していたかのようにこちらを見ずに砲門が設けられている腕をこちらへ向けてくる。
ちょっと待て! 鈴だって見切れなかった瞬時加速をこいつ初見で見切った!?
砲門が徐々に輝いていく。
「一夏!」
ドン! と結構強めの衝撃が俺の右側から走り、体勢を崩しながら飛んでいく最中、俺がいた場所に鈴の姿があったのが見えた。
「鈴!」
彼女の名前を叫びながら手を伸ばした瞬間、目の前を極太のレーザーが飛んでいき、一瞬で鈴が呑み込まれ、壁に叩き付けられた。
「鈴ー! お前えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
怒りのままに剣を振り上げるが後ろへと飛びのかれ、剣は空を切る。
「鈴! 大丈夫か!?」
壁にもたれ掛ったまま動かない鈴にオープン・チャネルを開いて問いかけるが反応がない。
お、おい……ウソだろ……。
「鈴! 鈴!」
相手が放って来る異様に長い腕でのパンチを雪片弐型でいなしながら鈴に何度も問いかけるがさっきと同じようにうんともすんとも反応しない。
なんでだよ…………俺の力は……俺が手に入れた力こんなもんだったのかよ!
「ふざけんなぁぁぁぁぁ!」
『怒りのまま振るうんじゃないわよバカ!』
「っ! 鈴!?」
突然、鈴の声が響き、振り下ろすのを辞めて大きく飛びのいて奴と距離を取る。
『今プライベート・チャネルで話しかけてんのよ。たっく……悪いけど、足やっちゃったみたいだからここから動けないの』
『折れたのか!?』
『というよりも脱臼ね。足首脱臼』
『早く治療しないと!』
『そうしたいのは山々だけどあいつがいちゃ無理でしょ……それに先生側も何かあったみたいだし』
……そうだ。いくらなんでも教師部隊が遅すぎる。
『悪い鈴……俺の所為で』
『……今はそんなこと良いから……早くあいつやっちゃいなさいよ』
「あぁ待ってろよ……すぐにあいつぶっ倒してくる」
剣を握りしめ、あいつを睨み付ける。
……あれで行くしかない…………でもあれだけでエネルギーを奪いきれるのか? それにまだあれは50%の確率でしか成功していない技だ……。でも行くしかない!
「行くぞ!」
瞬時加速を発動させ、奴との距離を一気に詰め、雪片弐型を大きく横に振るう!
「なっ!?」
だがそれすらも予測されていたのか相手が跳躍したことで俺が横に振るった雪片弐型が空を切り、さらにロックされている警告が表示される。
ヤ、ヤバい! 初撃目を避けられた!
奴の腕に設置されている銃口から光が漏れ出す。
こんなところで…………こんなところで俺は負けるのかよ! ふざけるな………ふざけるなふざけるな! これじゃ今までと全く同じじゃねえかよ!
――――刹那、視界の端で青い光が見えた。
――――新たなIS反応を検知。所属・イギリス。
「っっ!? セシリア!」
「何をしていますの織斑さん!? ファーストトライがだめならセカンドトライですわ!」
『一夏―――――!』
「ほ、箒!?」
アリーナに箒の怒鳴り声が響き渡る。
あ、あいつどこから叫んでんだ!?
『強くなりたいのなら……千冬さんよりも強くなりたいのならその程度の相手に勝ってみせろ!』
「時間は私が稼ぎます! ティアーズ!」
侵入者の周囲にセシリアのブルー・ティアーズ4基が置かれ、奴が俺に近づかない様に上空からレーザーを叩きこんでいく。
あぁ、そうだ。俺は…………強くなる…………千冬姉を超えるため…………でも……それだけじゃダメだ。千冬姉を超えるためだけの力に何の価値も意味もない! 俺は……俺はみんなを護りたい! 千冬姉を超えると同時にみんなを護ることが出来る力が欲しい!
―――――ワンオフアビリティー・零落白夜
そう思った瞬間、そんな文字列が表示されているウィンドウが出てきて白式が黄金の輝きを放ち始め、白式のパロメータの速度の部分が異常なまでに上がっていく。
…………あいつをぶっ倒す……反撃なんてさせない。反撃する前にぶっ潰す……行くぜ。
「セシリア。もう良いぞ……あとは俺がやる」
オープン・チャネルでそういうとビットがセシリアの元へと帰っていき、奴がこちらを向いた。
大きく息を吐き、目を閉じて雪片弐型を強く握りしめる。
…………今のエネルギー残量で持つのは10秒ほど……零落白夜を使えばもっと短いだろう……5秒……5秒であいつのエネルギーを全て消し去る!
「行くぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
瞬時加速を発動させ、一歩大きく踏み込んだ瞬間、景色が一瞬だけ歪んだかと思えばいつの間にか敵ISの懐に入り込んでいた。
すげえ速度だな……それで十分だ!
通り過ぎ様に相手を切り裂き、火花が散っている様をスローモーションのようにその目で見ながらターンして方向を転換させ、もう一度相手の脇腹を切り裂くとゆっくりと火花が散る様子が目に映る。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
何度も相手の周囲を瞬時加速で通り過ぎながら零落白夜を発動した状態で切り裂いていく。
俺は強くなる! 強くなって千冬姉を超え! みんなを護ってみせる! たとえ皆がどこにいようとも一瞬でその場に行って護れるくらいの速度共に!
「はぁ!」
相手の背後に回り込み、雪片弐型を大きく振り下ろして相手を切り裂くと火花が散るとともに相手のボディに深い傷が入り、さらにもう一度、通り過ぎ様に切り裂いて最初のスタート地点へと戻った。
「4.8秒……」
エネルギー残量は48……危なかった…………。
「敵ISのエネルギー残量0を確認……もう起動することはないでしょう」
「そうか……鈴!」
壁にもたれ掛っている鈴の元へ駆け寄ると小さく微笑まれた。
「大丈夫よ……たっく……ご飯奢りなさいよ」
「そっか……よかった……本当によかった」