モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第1話

 一二〇年前の独立戦争で、自分の担当教授アテナ・サキュラーに出逢ってしまったジェニー・ドリトル。

 長命種である彼女が未来で自分のことを知っている事態とはどういうことなのか、は置いといて。

 問題はいまの彼女が単なる辺境星域の学術調査目的でここにいること。帝国軍による星域の監視でも併合目的のためでもない。なにより銀河帝国はこの星域に何の興味も知識も向けていない。

 

「歴史が変わっちゃうどころの話じゃないのよ」

 ジェニーの悲鳴に似た声にヨット部員たちも注目する。

 背後のスクリーンでは、アテナ・サキュラーが怪訝そうにブリッジの様子を見ている。

「すみません。少し待ってもらえますか」

「ええ、それは構わないけど」

 ジェニーはそう断ると、いったんメインスクリーンの通信を切った。

 

 ふう、と息を吐き、自分に注目するリンら部員たちの顔を見回した。茉莉香やリンを含め部員のほとんどがきょとんとした顔をしている。その中でグリューエルは真剣な表情をしていた。事態の深刻さに気付いているのは、最年少のグリューエルだけのようだった。

「状況を整理しましょう」

 ジェニーは事態を説明し始めた。

「帝国の監視艇か第三の勢力かと思っていた不審船は、じつは宇宙大学の学術調査船だった。目的は辺境星域の文明発達モデルについてのフィールドワーク。帝国はまだこの星域に対して何の興味も向けていない」

 判っている現状をひとつひとつ上げ、いったん言葉を止める。

「これは、私たちの知っている歴史とは根本から異なっています。あと一週間で独立戦争に介入してくるはずの帝国が、用意はおろか介入する意思すら持っていない。このままじゃ、独立戦争はまったく違った結果になる。おそらく植民星側のボロ負け、無条件降伏ってことになるでしょうね。・・・あの降伏文書が、署名入りで現実のものになる・・・・・・」

 銀九龍の調理場に掛けられていた、油煙で黒く何なのかもわからなくなった額縁をジェニーは思い出した。

「ステラ・スレイヤーは、私たちの歴史と同じくこの時間帯にも存在しています。このステラ・スレイヤーは歴史通り海賊たちによって破壊されるかも知れないけど、宗主星系の勝利によって、そのあとどうなるのかは判らない。歴史では星間大量殲滅兵器という都合の悪い事実は帝国による併合のドサクサに紛れて隠蔽されたようだけど、帝国による併合なく終戦を迎えたのなら、その技術も隠蔽する必要がないわ。当然、星系軍も海賊も解体。私掠船免状は無効になるでしょうね」

 つまりこのまま推移すれば、海賊のいない未来が待っている。

「私たちのセレニティー星系の歴史も変わってしまいます」

 うつむいてグリューエルは呟く。

「それだけじゃないわ。以前話したように、ステラ・スレイヤーが生きた技術として存在するのなら帝国も無関心ではいられない。宗主星系は段違いの軍事力で力押しすれば勝てるこの戦争に、わざわざあんな殲滅兵器を用意してきたのよ。植民星相手に実験する気満々だったのよ。じゃあ戦争の次の対象は? 自分の勢力範囲のすぐ隣に、そんな大量殲滅兵器を弄ぶ勢力が存在するのを、帝国が看過するとは思えない。最悪この星系ごと処分することを選ぶでしょうね。接触がまだない分、宗主星側も帝国の実力を過小評価している」

 ジェニーの言葉を追うにつれ、ブリッジ全体に沈黙が支配する。

 不審船を見つけ出す目的も、ステラ・スレイヤーの破壊が史実通りに行われ、帝国による併合が滞りなく進むためだったのだから。

 

「帝国は、まだこの事実を知らないんですよね。」

「知ってるのは、私たちと、あの調査船のみ」

 沈黙の中で、茉莉香がひとつひとつ事実を確認するように言った。

「戦争は植民星側の負けが濃厚。帝国も介入してこない。当然歴史も変わっちゃう」

「でも、私たちの知っている歴史ではそうならなかった」

 

 「しかし、あまりにも世界が違う。ここがあたしたちの時間軸とは別の可能性の方が大きくないか」

 じっとジェニーの話を聞いていたリンが、もう一つの可能性について発言する。

 その言葉に、グリューエルは通信記録の端末を操作しながら応えた。

 「パラレル・ワールドのことですか。先程オデットⅡ世から白鳥号名義で送った通信記録は弁天丸に記録されていました。茉莉香さんの曽祖父様が乗り込んでおられるこの世界の弁天丸と、私たちの世界の弁天丸とは同じ時間軸上の過去と未来に乗っています。この世界は、私たちの過去に当たる時間軸です」

 

 「それじゃあ事実を現実にしなくちゃいけない訳ね」

 チアキが茉莉香の言葉に目を剝く。

 「歴史に介入しようってつもり? どんな影響があるかも判らないで? 未来改変の危険性が判らないあなたじゃないでしょ」

 「未来を改変するんじゃない。補正するだけ。このまま事態が推移すれば、それこそ未来が改変されちゃう。それを知ってるのは、この世界で私たちしか居ない。私たちにしか出来ない」

 茉莉香はまっすぐな目をジェニーに向けた。ジェニーがニッコリと微笑む。

 「戦争の終らせ方への積極的介入って事ね。」

 「宇宙大学のゼミで歴史を選択した私に、歴史への介入をそそのかす。海賊らしい意見だわ。でも実際にはどうするつもり。この世界の帝国に御注進しても、ぶっ飛んだ時間旅行話す女子高生の言葉では説得力に乏しいわ。グリューエルの神通力にしても通用するか判らないし何より時間がない」

 

 「あれを使いましょう。いま現在この戦争で帝国側にラインのあるのは、唯一あの調査船のみです。」

 「ラインって言ったって只の大学の調査船よ。帝国艦隊をすぐ動かせるほどの力はないわ。」

 チアキが茉莉香に返した。

 「だから魔法を使うんです。歴史学者にとって、歴史の推移は何より興味があるはず」

 「大学って石頭の実証主義。それに接触禁止、未介入が研究の大原則なのよ」

 頭の固い大学の教授たちの顔を思いだして、ジェニーはげんなりする。とても現実的とは思えない。そんなジェニーの表情をよそに、茉莉香はにっこりと笑みを浮かべている。

 「何言ってるんですか先輩。担当教授との植民星独立戦争史レポート作成の実践ですよ。」

 「先輩が、石頭の歴史学者を焚き付けるんです」

 「ええええ・・・・・・!」

 アテナ・サキュラーの顔を見た時と同様の悲鳴が、再度ブリッジに響き渡った。

 

 

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