モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第10話

 

 「会合空域にタッチダウン反応。白鳥号です」

 弁天丸の通信士がディスプレイに現れた船名を読み上げる。

 「よお、白鳥号。お帰り。動けないでいた様子だったが、大丈夫だったかい。それにしてもシラトリ船長よ。白鳥号が二隻に増えた魔法はいったいどうやったんだい。流石ウィザードの名を持つだけのことがあるなあ」

 加藤ちるそにあん文左衛門が、通常回線で呼びかけた。しかしモニターに現れたのは見慣れた船長の姿ではなく、一七歳くらいの女の子だった。

 「こちら白鳥号。ご心配をおかけしました。船長のキャプテン・シラトリは大怪我を負っていて、回線に出ることが出来ません。私は副長のシラトリ・スズカ。娘です」

 「おお、あん時のスズカちゃんか。お父さん、キャプテンは大丈夫なのか」

 「命に別状はありませんが、とても会議に出られる状態ではありません。海賊会議には私が名代で出ます」

 「そうか、じゃあまた後で。スズカちゃん」

 「ええ、また後で。それと、・・ちゃんじゃない!」

 

 海賊の巣。ガス星雲や暗黒物質に隠された海賊たちの隠れ家。

 初めての共同戦線で海賊たちの集合場所となった。それほど大規模なものではないが、船の修理や補給が出来、たまに親睦会という名目での情報交換も行われる。当然中での諍いごとは御法度。しかし血気盛んな一匹狼のことだ。些細なことから血腥い争い事が起きることもある。

 しかし、今回の海賊会議は、そんな荒くれ共の雰囲気はなく、誰も声を上げる者がいない。

 鍛えた体の海の漢たちが一様に押し黙り、俯き、まるでお通夜のようだった。

 

 実際、海賊艦隊にとってはお通夜だった。

 ステラ・スレイヤーの破壊は見事失敗、戦闘はボロ負け、初めての艦隊戦とはいえ一指も報いることが出来なかった。そして敵の殲滅兵器による植民星丸ごとの葬儀が迫っている。

 敵は圧倒的な戦力。しかも艦隊戦に慣れた軍隊。船の修理は出来る。しかしこのまま、再び戦いに向かっても勝てる見込みが全くない。

 「一度の失敗くらいで諦めちまうのか」

 若い村上丸のスリバチ船長が吠える。

 「諦めちゃあいねえ。だが、この戦力の差はどうしようもない。一対一なら負けない自信はある。けれど統率された戦術の前には、俺たちは歯が立たねえ。経験は、一朝一夕にはいかないんだよ」

 苦いものを飲み下すように言うエル・サントのダウジングロッド

 「認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものをってか」

 迦陵頻伽のカーン男爵。それにデスシャドウのクルップ子爵が続く。

 「若さゆえの過ちって言うなら、そもそもこの戦争を始めた植民星連合だよ。落としどころも決めず、勢いだけで始めたようなもんだからな」

 「資源も戦力も戦略も無しでな」  「行き当たりばったりで始めた私掠船」  「海賊始めた俺達もそんなもんだ」

 二日酔いが残るコジャ、スリーJ、ザ・ピース。

 だんだん会議は愚痴談議になっている。愚痴るばかりで次の策が立たない。いや方針は立っている。次も艦隊戦に臨むのだ。全滅しても戦う。――しかしその後には灼かれた故郷の星が残るだけ。

 

 「あれだけは、なんとかしてえな・・」

 「ああ、あいつを潰せれば、少なくとも灼かれねえで済む」

 しかし、全船玉砕覚悟で体当たりを仕掛けても、当然相手は予想しているだろう。海賊に残された指手は少ない。碌に艦隊戦が組めないなら特攻しかないことぐらい子供でも分かる。

 「でも、近付くことも出来ないんじゃないか」

 「編隊組まれて、各個撃破。で詰むな」

 「よしんば、数隻が肉薄できたとして、そこにはプラント要塞の集中砲火が待っている」

 「・・終わったな、俺達」

 「ああ、終わりだ」

 話がそこまで行って、再び沈黙が会議を支配する。

 

 「まだ終わりじゃない」

 沈んだ男たちの中で、最年少のスズカが立ち上がった。

 「まだ終わってない! 私たちはまだ白目をむいたわけじゃない。したたかにやられはしたけれど、まだ船を失った訳じゃない」

 一斉に海賊たちの目が十七歳の少女に向けられる。

 「勝てない戦はしないのが海賊。でもここで引くわけにはいかない。引けば海賊も私たちの星も、何もかもが未来ごと無くなっちゃうのよ」

 「お嬢ちゃんも、あの戦いを見ただろう。俄か集めの海賊艦隊では、軍隊に勝てねえ」

 今更判り切ったことをという顔で、男たちは若いスズカの言葉を受け流す。

 しかしスズカは、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

 

 「そりゃ、自分自分が見通しもなしに勝手に戦ってたんじゃ、勝てるものも勝てないわ」

 「何か、勝つ方策でもあるんかい」

 そんな闘志を捨てていない少女の瞳に注目する海賊たち。

 「――あの戦いを分析して、次の戦闘では相手がどんな動きをするかを予想したの」

 ディスプレイに第二次ガーネットA海戦の予想展開図が映し出される。オデットⅡ世の戦闘記録をもとに手を加えて展開予想図に書き換えたものだ。

 それを見た海賊たちは一様に驚いた。

 「おい、こりゃあ・・・、敵の展開される戦力はおろか、分刻みで敵の動きも表わされてる。とても未来予想図なんてレベルじゃないぞ。いったいどんな手を使ったんだ」

 茉莉香が渡した戦闘記録。それは分散させた敵をおびき寄せて集中砲火による各個撃破したものだが、いろいろ突っ込みたいところがあった。何もない空域に敵が引き寄せられているのだ。そして予め展開していた味方が攻撃し撃破している。まるで撃って下さいとでも言う様に。そこで敵を誘導する手を考えた。抜群のステルス性と戦艦並みの電子兵装を持つ白鳥号に出来ることを。それを思いついた時、パズルがぴたりと嵌ったのだ。ご都合主義満載の戦闘記録が俄然現実味を持った。

 それを作戦要綱として展開予想図にした。

 スズカが提示した展開予想図から、海賊会議の流れはがらりと変わった。

 それがどういう由来なのか、そもそも信用できるのか。そんな確証はなかったが他に策があるわけでもない。でもいまは一抹でも頼れるものが欲しい。海賊たちはその予想図に乗った。電子戦を得意とした白鳥号の、これまでの戦歴も後押ししていた。

 敵の動きに合わせて、各艦がどういう行動を執るか。その時の予想に応じて作戦行動が立てられる。その流れは、展開予想図の基となった戦闘記録にあるものと同じだった。謂わば後出しじゃんけんだ。

 「よし!乗った。だが、この作戦では足の遅い白鳥号が突っ込む訳だ。白鳥号の電子戦が優秀なのは判ってるが、電子妨害が作戦通りいかなかった場合、集中砲火を浴びるぞ」

 「うちのクルーは優秀なんです。あのとき弁天丸も迦陵頻伽も見たでしょう。白鳥号には、とびっきりの守護神がついてます!」

 絶句する男どもを尻目に、スズカは言った。

 「それに時間は、私たちの味方よ」

 

 

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