モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第11話

 スズカと別れた茉莉香たちは、進路をポルト・セルーナに向けた。

 この時代のポルト・セルーナは辺境との境界。そして帝国の動向にアクセスできる最も近い帝国基地なのだ。帝国銀行にあるセレニティーの口座からお金を引き出したのもこの港からだった。

 一二〇年後では軍港としてよりハブ空港として機能しているこのステーションも、いまは銀河帝国の最前線。未来と変わらず沢山の宇宙船が出入りしているが、民間船より軍艦の姿が目に付く。そして停泊する軍艦も帝国領内を受け持つ第五艦隊でなく敵対する辺境星域と直接渡り合う第七艦隊だ。帝国の実働部隊である第七艦隊が、ゆうに1千隻を超える規模で宙域に展開している。

 「ああっ、今すぐこの艦隊がたう星系に進出してくんないかな」

 近距離レーダーを埋め尽くす艦隊を見て茉莉香は呟いた。

 「船長、船はポルト・セルーナへの最終防空ラインに近付いている。トランスポンダーを出さないと色々ヤバイ。不審船扱いで撃沈されても文句は言えない」

 射撃管制のシュニッツア―から連絡が入る。

 ここは帝国の最前線基地。そこに国籍不明の不審船が侵入しようとしているのだ。超高速跳躍の亜空間から通常空間に復帰して、辺境の星間航路であるスカラールートに乗った途端、船を捕捉するレーダー波がばんばん当たってきている。

 「そうね、船籍と船名は『白鳳海賊団、オデット。サラスバティー。搭載艇サイレントウィスパー』でお願い」

 「おいおい、帝国に海賊って名乗るのかよ」

 通信担当百目が眼を剝く。この時代、銀河帝国が領内の海賊退治に乗り出し、公式上殲滅を表明してからまだ年月が経っていない。海賊とは反政府勢力、犯罪組織と同義語なのだ。

 「それは、帝国の海賊でしょ。私たちはそれには属さない星系の私掠船免状をいただく海賊。帝国は基本他星系の政策や文明には不干渉が原則だから、それに期待しましょ」

 民間船を装わなかったのは、海賊はあくまで戦力を有した独自の存在。軍隊に準じるからだ。これから帝国に乗り出してきてもらうには、自分たちが植民星連合でも宗主星でもない立場が重要だ。それからオデットⅡ世を名乗らなかったのは、白鳥号がオデットⅡ世になったのは独立戦争後。私掠船免状を与えられたのは白鳥号の船体だから元々白鳥号だったオデットⅡ世の船体でもこの時代なら免状は通る。弁天丸も同様。しかし二隻ともこの時代に存在しており、この時この宙域にいた記録はない。そこでオデットを旗艦とした白鳳海賊団所属サラスバティーとした。つまり三隻だけとはいえ海賊艦隊という訳だ。もし符牒を詳しく精査すれば同じ免状を持つ船が二隻という矛盾が出て来るが、免状を乱発していた当時の植民星連合政府では判らないだろう。ましてやオリオン腕に何の注意も向けていない銀河帝国は気付かない。むしろ気付いてくれる程こちらの文明に詳しかったらこんな苦労はせずに済む訳で。

 「艦隊である以上、提督が必要よね。私はオデットの船長をしなくちゃいけないし、ミーサはサラスバティーの船長、てことで・・・」

 茉莉香が部長であるリンに視線を向ける。

 「むりむり。せーったい無理。船長だって私には出来ないよ」

 視線を感じたリンが慌ててかぶりを振る。

 「ということでぇ、グリューエルお願い!」

 茉莉香がグリューエルに向かって手を合わせる。

 「ええ、私が提督ですか?」

 いきなり振られてびっくりするグリューエル。

 「グリューエル、海賊やりたがってたじゃない」

 「茉莉香さんを差し置いて、提督だなんて」

 「船を直接指揮する訳じゃないし、なによりこれから外交が必要になる。王女としての手腕が欲しいのよ」

 「私も決して外交に明るいわけではありません」

 「でも私や弁天丸より見識があるわ」

 「いよっ海賊王女!」

 セレニティー艦隊と対峙した時と同じように、三代目が声を上げる。それに合わせてヨット部員たちからも掛け声が上がった。

 茉莉香が指示した通りのトランスポンダーを発信しながら、白鳳海賊団はスカラールートをポルト・セルーナに接近する。

 最終防空ラインに入ったところでポルト・セルーナの管制局から通信が入った。

 「こちらはポルト・セルーナ管制局。そちらのトランスポンダーは銀河帝国台帳では認識されません。所属と目的をお知らせください」

 「そら、いきなり海賊って名乗りゃそうなるわな」

 リンが首をすくめる。

 「こちらは、くじら座たう星系海の明星の私掠船、白鳳海賊団所属のオデットです。白鳳海賊団はポルト・セルーナへの入港を希望します。目的は、銀河帝国との軍事同盟」

 茉莉香は管制局に伝える。賽は投げられた。

 

 船はポルト・セルーナの錨泊空域に停船した。指定された空域の近くに船影はない。大小さまざまな船がひしめき合う中で、ぽつんと三隻だけが浮かんでいる。しかし四方からアクティブな探査波や射撃管制用のレーダー波まで飛んできている。

 やがて一隻の連絡艇が近づいて来た。

 第七艦隊所属の船だった。連絡艇はオデットⅡ世に横付けし、ドッキングを要求する。

 「相手は、こちらが未確認の海賊船のつもりでやって来る。乗り込んでいるのは第七艦隊の精鋭部隊よ。用心して船長」

 インカムからミーサが話しかけた。帝国はこの通信も傍受を試みているに違いない。しかし、一二〇年も差がある技術力では足跡すら見つけることが出来ないだろう。

 「銀河帝国第七艦隊所属フェニックス号。艇長のコクレーン大尉です。接触を求めて来た貴艦とのドッキング、および臨検を要求します」

 「うわ、いい男」

 モニターに映った優男の顔を見てエイプリル・ランバートが声を上げた。

 「こちらに敵対の意思はありません。臨検の要求を受け入れます」

 ドッキングポートが伸ばされオデットⅡ世のハッチと繋がる。

 「化学組成確認のため、そちらのハッチを開けて船内空気を流してください。それと、あなた方の生体情報をお知らせください。こちらの生体情報も送ります」

 彼らとの接触に何の問題もないことは知っているが、あちらにすれば未知の生命体とのファーストコンタクトなのだ。もし炭素体生物が何の備えもなく砒素体生物と接触した場合、悲劇的な事態となる。同じ炭素体生物同士でも、進化の過程が違っていれば壊滅的なウイルス感染の危険性も高い。お互いにその危険を避けるため、帝国艦隊はファーストコンタクト時の手順を踏んでいた。

 「分析情報では、大気組成も生体組成もお互いに危険がないことが確認されました。これより、臨検を開始します」

 

 フェニックス号側のハッチが開き、三人が乗り込んでくる。

 緊張の面持ちで乗り込んできた帝国士官三人が見たものは、当然のことながら想像を超えた事態だった。

 「いらっしゃいませ。お役目ご苦労様です」

 三人を出迎えたのは、いかめしい海賊たちでなく、白鳳女学院の制服姿の女子高生たち。それがどこぞのメイド喫茶宜しく一斉に声をかける。

 「り、臨検に先立ち、確認させてください・・」

 目をぱちくりさせながら、士官の一人が言った。モニターに映っていたコクレーンと名乗る男だった。少し後ろに、がっしりとした体型の男と、眼鏡をかけた優男が控えている。

 「未知の星系から来た海賊船と聞いたのですが、あなたたちはいったい」

 茉莉香は、大柄な男の顔に、何となく見たことがあるような親近感を覚えた。しかし隣りの眼鏡は、体型こそコクレーンと似たり寄ったりだが、印象がまるで違う。底の知れない雰囲気があった。

 「コクレーン大尉さんですね、間違いありません。私たちは、オリオンの腕たう星系の海の明星から来た白鳳海賊団です。普段は学生やってますけど、私掠船免状を持つれっきとした海賊。私はオデットの船長をしている加藤茉莉香です」

 そう茉莉香は自己紹介しつつ白鳥号だった頃の私掠船免状をモニターに表示した。そして、茉莉香の傍らに立つグリューエルに手を伸ばし、士官三人に紹介した。

 「私たち白鳳海賊団の提督、プリンセス・グリューエルです」

 茉莉香と同じ海賊姿のグリューエルが、ちょこんとミニスカートの両裾を摘まんだ貴婦人の仕草で挨拶する。小柄なグリューエルの海賊帽には、茉莉香とは異なり大きな純白の羽根飾りがついている。それがふわりと揺れる。

 ますますあっけに囚われるコクレーン。立ん坊のコクレーンの前に、がっしりとした体格の男が進み出た。

 「自己紹介が遅れました。私は第七艦隊所属、第58突撃機動艦隊司令の銀九龍」

 げっ、と茉莉香はなった。知り合いも知り合い。海の明星中継ステーションの裏の元締め。自分が親父さんと呼ぶ、小さい頃から見知った相手だ。軍人さんだったことは聞いていたが、まさかここで邂逅しようとは思わなかった。勿論この時代の親父さんが自分を知る訳ないのだが。

 「そして、帝国情報部のジェームズ・ナッシュフォールです」

 紹介を受けた男が無言で挨拶する。ナッシュフォールと云えば、クーリエの幼馴染だった銀河帝国艦隊統合参謀司令部付き情報部員と同じ名前。彼の関係者なんだろうか。そんなことを茉莉香は思った。ジェームズ・ナッシュフォールは先程からじっとグリューエルを見ている。

 「あなた方は、くじら座宮たう星系からいらしたと仰っておられたが」

 「はい。まだ帝国とは接触関係のない文明圏ですが、そこの海賊として、銀河帝国と軍事同盟を結びたく参りました」

 「宇宙大学からの報告によると、たう星系は星間戦争の真っ最中とのことです。たう星系が属する植民星連合を代表しての交渉ですか」

 「銀河帝国が、原則内政干渉なことは存じております。私たちはどちらか一方に属する者ではなく、あくまで海賊としてです」

 「海賊、ですか」

 銀九龍の目がきらりと光る。がそんな視線に物怖じせずグリューエルは外交的笑顔を崩さない。

 「詳しい話は、臨検ののちポルト・セルーナで行いましょう。交渉の場所は艦隊司令部でよろしいか」

 「いえ外交となりますので、司令部ではなく別の場所で」

 「では、パレスホテルをご用意しましょう。迎賓館としての機能もあります」

 「お心遣い、感謝します」

 

 

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